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偽神編
閑話・あなたに恋をしてよかった 1
(アンティエーヌ視点)
今朝は夜も明けぬうちから侍女たちに磨かれた。卒業パーティーに着る綺麗なドレス。綺麗なアクセサリー。扇。靴。手袋。コルセットまで完璧だ。
……見てほしい人は居ないというのに。
もう最後だからとわたくしは好きにさせた。今まで華美な装いはやんわりと拒否してきたため、侍女たちの喜びは最高潮。卒業式が終わるや否や、学園が用意した更衣室に引き摺り込まれ、シンプルな卒業式用のドレスを脱がされ飾り付けられた。
もう……どうにでもな~ぁれ…。
わたくしの心は沈んだまま。だって失恋したんだもの。いいじゃない。こんな時くらい愛想笑いをやめたって。深く美しい青のドレスは変更できなかった。お父様が半年かけて注文したのだもの。そんなに親不孝ではないわ。けれど、アクセサリーは変更した。勝手にあの方の色を纏うほど厚顔無恥ではない。
誰にもエスコートされずに会場に入り、そのまま壁の花になった。……あら、わたくし、半年も学園に通ったのにお友達の一人もできなかったのね。己の愚かさにズブズブと沈んでいくようだ。給仕がおずおずと渡してきた泡の出る飲み物を飲む。
……あら?美味しい…!それに良い気持ちだわ?
ふわふわした心地が気持ちよくて、もう一杯。もう一杯と手を伸ばす。
わたくしは生まれた初めての恋をして、失った。
3ヶ月前。リオ様がお一人で徴兵された。わたくしは還俗していて戦場には行けなかったのでお手紙を書いた。何通も。何通も。
お返事は来なかった。
……お忙しいのかしら?
それでもわたくしは手紙を出した。けれど、返事は来ない。……おかしい。リオ様はそんなに不義理ではない。長いお手紙を頂いたことはなかったけれど、必ずお返事はくださっていた。それなのに…?
卒業式も間近になり、わたくしは焦っていた。エスコートのお願いのお返事が欲しかった。きっと「うん」と言ってくださる。そう信じて。
そんな時、わたくしの専属侍女が「手紙は全て旦那様の書斎に運ばれている」と言い出したのだ。
あらまあ?お父様ったら執務が滞っていらっしゃるのかしら?
軽い気持ちで専属侍女に「わたくし宛のお手紙だけ持ってきて」と言うと、侍女は一瞬顔を強張らせたけれど、すぐに持って来てくれた。
手紙は10通。
リオ様の文字での短い近況報告は9通。そして、最後の1通は。
ーーー 『ごめん。エスコートはできない。ティグレに誠実に向き合いたい。』
お断りの返事でした。
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