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「……はあ、面倒になってきたな」
しおりを挟む抜刀している俺にぎゅうぎゅう抱きついてくる碧海に脱力した。ああ…そうか。真祖になったのをすっかり忘れてた。
俺よりずっと格下の神ごときに祝福された人間など、何を恐れることがあるか。
こいつらじゃあ碧海に傷ひとつ付けられない。例えば刃を振りかざしたとしても体に、服に到達することは不可能だ。ぐるりと勇者とかいう男や硬直して動けない元師匠、その他の人間たちを見る。
ひどい有り様だ。失禁に嘔吐。はっきりいうと臭え。
「《洗浄》《浄化》《消臭》」
漏らしたズボンまで綺麗にしてやるのはオマケだ。臭いしな?
「……はあ、面倒になってきたな。帰ろうか碧海」
「うん!帰ろうねリアム」
ぺったりと俺に張り付いていて顔は見えないが、碧海は非常に嬉しそうだ。まあ多分、庇われたのが嬉しいとか俺が碧海のことを「俺のもん」扱いしたのが嬉しいとかそういうのだろう。うちの旦那はちょっと……いや、かなり変わっている。
「おっちゃ……父上、今日は帰ります」
「わかった。次はこちらから行こう。招待頂ければ…だが」
流石のハルフォードのおっちゃんは普通。伊達に長年父ちゃんのお友達はやってない。
「ねえリアム、僕ねえ、今日パスタが食べたいな♪前に作ってくれたアサリと白ワインのやつ!」
「ああ…わかった。パスタの乾麺を厨房から分けてもらって帰ろう。今から麺を打つのは面倒だ」
「やったあ!あとね、あとねリアム。甘い玉子のパイも食べたい」
「わかったわかった」
珍しく碧海からのメニューのリクエストだ。これは気合を入れよう。
「お兄ちゃーん?終わったあ?」
ノックもなしに妹がひょっこりやってくる。おい妹、礼儀作法どうした。まあ、ずっとあの島で暮らすつもりみたいだからもう要らないんだろうけど。
「あれっ?ウリエラ?ウリエラ、久しぶりね!元気だった?」
「……まあ、シャーロット。貴女も元気そうね」
ぎこちなくウリエラ嬢が笑う。あー、彼女は巻き込んだのは悪かったな…。顔色の悪いウリエラ嬢を見て、妹がキッとこっち見た。うん、正しいんだけど。正しいんだけど解せぬ…。
「やだもお!ひっどい!!お兄ちゃん、なにしたの!?ウリエラ真っ青だよ!ね、ウリエラ、私の部屋で休もう?あったかいお茶飲んで、少し横になったらいいよ。あっ、側近の人とか公爵令嬢さんは来ないでね!友達じゃない人と知らない男の人を私の部屋に入れるとか冗談じゃないわ!」
おっふ…。妹、当たり前なんだけど辛辣だな。
妹はいそいそとウリエラ嬢を部屋に連れて行く。……嬉しそうだな。友達少なかったもんなお前。っていうかちゃんと『お友達』だったのはウリエラ嬢だけだったもんな。
さて帰るか。
碧海を背後から剥がすと不満そうに唇を尖らせた。
「ほら、帰るぞ碧海」
手を差し出すと蕩けるような笑顔で繋いできた。ま、いつものことか。
メイドや執事たちに手を振って転移陣を発動……
「リアム!!私の話はまだ終わっていないぞ!!」
ああ…めんどくさいから見ないふりしたかったなあ……。
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