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本編
【第十七話】今日、女獅子は吠える
しおりを挟む(ハンティントン前伯爵視点)
玉座の間に集められたのは高位貴族当主たちと私たちハンティントン伯爵家の者。そして『護衛』というには物々しい甲冑姿の騎士たちと魔術師塔の魔術師たち。何かの謁見、発表の際は貴族たちがひしめく玉座の間は、今日はとても伽藍堂の穴あきに感じた。
ギィ…と扉が開かれ、女王陛下と、それに付き従う宰相閣下が赤い絨毯の上を進む。
「面を上げよ」
ゆっくりと。高位貴族当主より先に顔を上げてはならない。そして、陛下をお待たせしてもいけない。その ── タイミングでさえ、息子は習得していなかった。
「……さて、ではハンティントン伯爵、並びに前伯爵夫妻、前へ」
「はっ!御前へ」
妻をエスコートするどころではない。動こうとしない息子の腕を掴み、引きずるようにして陛下の御前に跪く。ちらりと盗み見た妻は、今にも倒れそうなほど震えていた。
「此度はハンティントン伯爵夫人の不審な死について……なのだが、今現在、ハンティントン伯爵夫人の生家であるソーンヒル子爵家と連絡が取れぬ。子爵邸の門は固く閉ざされ魔術による結界まで施されておるらしい。いやはや……大事になったのぅ、ハンティントン前伯爵?」
「はっ……誠に…わたくしめが至らぬばかりに…」
「よい。其方は気付いた。それだけでも忠義に感謝しよう」
「はっ…!」
……ルルティアさんは陛下の友人であった。その中でも『特別』だった。きっと陛下の腑は煮えくり返っていることだろう。『女獅子』の異名をとる陛下だ。制止役がおらぬ陛下から、以前のように苛烈な沙汰が下されるだろうと身震いをした。
「陛下!ルルティアは自殺したのです!!不審な死など……!違います!私たちは殺してない!しょ…証人だって、います!!我が家の使用人たち、私の家族、ソーンヒル家の……」
「……私はまだ其方に発言を許可しておらぬのだが……まあよいわ。して伯爵?私はそれのすべてがあやしいと申しておるのだが?」
「なっ…!なぜ!?こんなにたくさんの証人がいるのですよ!?それなのに……」
「ハンティントン伯爵夫人が死んで得をする人間たちの証言など信じることはできぬ」
「そんな…!?得などしません!信じてください!ルルティアは、妻は…!!」
「貴様がハンティントン伯爵夫人を第二夫人とし、ソーンヒル子爵令嬢を……夫人の妹を正妻に据えようとしていたことは調べがついておるわ!しかもソーンヒル子爵令嬢の妊娠が虚偽だったと知った途端に関係を断ち、ハンティントン伯爵夫人の葬儀には涙も見せず、屋敷を抵当に入れ違法な賭博や高級娼館の酒と薬と女に溺れた。夫人が……ルルが!死んで一月も経っていないのだぞ!そんな貴様の何を信じろというのかッ!!」
「それ、は……私、は、妻を失った、悲しみで……」
「黙れ!見苦しい!!」
「………っ!」
陛下に一喝されて、息子は真っ青になって俯いた。
「悪意のない悪事ほど質の悪いものはない!夫人がいない今、侯爵へ叙爵どころか貴様に貴族として家を、領民を任せる気にもならぬわ!追って沙汰を申し付けよう!」
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