153 / 179
閑話:ヴィットーリオとモブ1
しおりを挟む私はなにをしているのだろう…。
ざわざわ、がやがや。
喧騒が遠い。
ここはどこだろう…。
私は……私は…………
ああ、そうだ。確か、フェルディナンドに相談されて、それで………母上、が………………………ははうえ、が、……く、く、、も、、、、、くも、くも、くもくもくもくもくもくもくも…、蜘蛛……に……………………………………
ふに。
……………う……?
う……………………………………………
「……ぅ、うぁっ、ちいいいいいいいいいいい!!??」
「あ、熱かった?すみません」
目の前に。
目の前には、オズワルド・ヴァッサロがいた。手にした丸い食べ物を私の口元に差し出しながら。
「オ…オズワルド………?」
「はい?……ええ、はい」
オズワルド・ヴァッサロ。
私の、初恋の ーーー 叔父上の、妻、だ。
美しい男だ。美しい ーーー 存在、だ。
初めて逢ったのは、聖女と思しき者たちを集めた時だ。
《預言者》である叔父の妻 ーーー オズワルドが国中の『夜の色の髪の娘』を集めた。
私は当時15歳という反抗期真っ盛りで、でも自身が死ななくていい《特効薬》の聖女を選ぶのならば……と、父上 ーーー 陛下の命で顔だけは見せた。
その時だ。
彼と出会ったのは。
一般的に言うならば、地味な薄茶の髪に、目立たない暗くて深い緑の目。
けれど、私には彼が得難い宝石のように見えた。
彼がその場にいるだけで、生まれてからずっと感じてきた不安が和らいだ気がした。
車椅子に乗って幼い少女に付き添われ、叔父上の妻だと牽制されなければ、きっと ーーー 囲っていた。
結構きつい事も言えるんだな、と思ったのはヴァッサロ邸に先触れ無しで乗り込んで行った時だ。
兄上が、あの女に入れ込んで「ルクレツィアに会いたい!一緒に学園に通いたい!」という頭の悪い願いをきいてしまった時だ。
一目見ただけの言葉も交わしていない大公家令嬢を呼び捨てにし、共に学園に通いたい?馬鹿も休み休み言え。少し調べればわかるだろう。ルクレツィア嬢が学園に通わないのはその必要がないからだ。滅多に顔を見ることの叶わない深窓の令嬢だが、家庭教師として通った者たちからは最高級の評価だ。美しく、教養があり、他国の王妃にもなれるだろう淑女教育を受けた少女。今更『学園』などに通って派閥に参加し、結婚相手を探す必要もない。
一緒に行きましょう!とあの女から誘われた時は鼻で笑った。どうしてこの女は、兄上たちも、こうも頭が悪いのか!?と。耳触りの良い言葉で兄上も未来の側近たちも、留学してきたカガンの皇子さえ陥落された。花の香りをさせながら、妙に甘ったるい声で囁かれる言葉は限りなく軽い。鳥肌が立つほど。
いや、この女が他国の者だとしたら非常に優秀な間諜だ。
そう思って渋々付いて行ったヴァッサロ邸。多少はあの美しい叔父の妻に会えるという下心はあったが。
そして叔父上の妻や義理の娘の口から出たのは、 ーーー 鉛のような言葉だった。
応援ありがとうございます!
5
お気に入りに追加
9,067
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる