絶死の森で絶滅寸前の人外お姉さんと自由な異世界繁殖生活 転移後は自分のために生きるよ~【書籍化進行中】

萩原繁殖

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「ここまで話したなら、お分かりでしょう。私はアセンブラ教を許せません。しかし力なんて無い。だから大商会になって奴らを経済的に潰します。必ず。ブラス家にしたように」

 彼女の目が貪欲に光る。そうか、あれは金貨だけの光じゃなく、憎しみとかそれに至る想いとか、色んなものが混じり合った餓狼のギラつきだったんだね。

「だからお願いです。そのコスモジオ霊草を売ってください。貴重なのは分かっています。ほんの少しでいいんです。そこから着実に傷口を広げ、奴らの腹わたを食い破ります」

 ここでブラス家を終わらす訳にはいかないんです、と付け加える。

 静かな怒り。こえー。これは無理矢理コントロールされて発酵した怒りだ。あの満面の金貨フェイス、お金大好きオーラむんむんだったシルビアさんを返して。

「製造設備はあるんですか?」
「……ありません。が、このまま商売を続ければ揃えられます」

 続けられたら、ね。
 正直いつ、事態に気付いたアセンブラが手を打ってくるか分かったもんじゃない。

「一人で作れるものなんですか?」
「……やるしかありません」

 リディアさんが曲がりなりにも利権に食い込めたのは、それなりに生産力があったからだ。シルビアさんはちょっと焦っているな。

 僕が渋っているように見えたんだろう。(確認してただけなんだけどね)
 彼女は必死に僕にメリットを提示してきた。年率これくらいの利益を還元します、とか。何年後にこうなってその暁にはこういった権利を差し上げます、とか。

 なーんか、イヤな気持ちだった。なんて言えばいいんだろうね。お金は欲しいけど、なんか違う。はぁ、僕もだめだな。いい歳こいて、自分の考えをまとめられやしない。

 僕は別に、シルビアさんから必死にお願いされるような人間じゃないんだ。貴方より苦労してないし、志もない。だからそんな僕に卑屈にならないで欲しい。そんな遠ざけないで欲しい。僕の意志を聞いてくれよ。

 つまり組織が憎いんでしょ。
 人の悪逆が許せないんだよね。
 そして、どうしようもできない、ちっぽけな自分を変えたいんだ。分かるよ。どうにもできない仕組みやそれを牛耳っている奴らを、ぶっ飛ばしたいんだ。分かるよ。

「だめですね」
「そう……ですか」

 きっぱりと僕が断ると、シルビアさんは諦めたように笑った。

「貴重なお時間頂きありがとうございます。約束の品物は仕入れます。今日のお話はどうか忘れて下さい。今後とも宜しくお願い致します」

 忘れろって何を馬鹿なこと言っているんだろうね。

「シルビアさん、まだ僕の話を聞いてもらっていませんよ?」
「話……ですか? 話は、もう」
「今までのはシルビアさんの話、これからは僕の話です」

 席を立ってお辞儀をしているシルビアさんを、手で制してまた座ってもらう。
 僕は鞄からフレイムベアの素材を取り出して並べる。

「それは? 何かの素材に見えますが」

「フレイムベアです」

「は? フレイムベア? 何をバカな」

 シルビアさんが初めて見る表情をしている。そうそう。そんな感じでいてくれよ。でもバカは余計だ。いつか絶対からかってやるからな。

「本物ですよ。商業ギルドマスター、副ギルドマスター連名の証明書付きです、ほら」
 念の為に貰っておいてよかった証明書。


『商業ギルドマスター、アーサー・オルスフィン
 副ギルドマスター、アルフィン・オルスフィン
 以上、両名が証明す』


 よく見てなかったけどあの二人こういう名前だったのね。っていうかこれ親子じゃん。お父さん娘ぶっ飛ばすとかこええな。

「うそ……本物? なら、いったいどれほどの価値が」
  
 うわ言のようにつぶやくシルビアさん。

「そして、僕はフレイムベアの毛皮、素材を」

 まだ、こんなに持っています、と机に並べる。

 ドサドサドサドサッ!

 巨大な毛皮があっという間に部屋を埋め尽くした。ちょっとはチートっぽいことさせてくれ。

「あっあっ」

 処理能力が追いつかないのか、あわあわすることしかできていない。

 よし、これで説得力は出ただろう。

 部屋一杯の毛皮をあっという間に魔法の鞄に戻した。シルビアさんは、ぽかんと立ち尽くし、何が起きたのか分かっていない。

「シルビアさん?」

「……はっ! すみません。お金の計算をしていました」
 
 いいねー、それでこそシルビアさんだ。調子取り戻してきたのかな。よかった。

「僕は、証明書をお見せした通り、フレイムベアの毛皮について既に商業ギルドと話をつけてあります。
 最低でも一枚辺り金貨百枚の価値はあるそうで、基本的には専売するつもりです」

「それがいいでしょうね。フレイムベアの毛皮なんて大商会でも扱いに困ります。羨ましい限りです」

 苦笑するシルビアさん。まだ他人事だと思っているな。

「他人事じゃありませんよ? 僕はフレイムベアで得た資金を、シルビアさんのコスモジア製造事業に投資します」

「ふぁっ!」

 驚いて変な声を出した。相変わらず面白いな。

「シルビアさん、一緒に成り上がりましょう」

「えっえっ、でも私、上げるものなんて無い」
 
 混乱して素が出ているな。これがマネーパワーじゃあ! 大人汚えー。

「ありますよ。シルビアさん。これからいろいろお伝えしますが、手始めにジオス教徒になって下さい」

「はい?」

 何がなんやら、というシルビアさんになるべく分かりやすく要点を絞って僕の秘密とプランを話す。


………


……


「なるほど。つまりケイさんは私にジオス神の復活を手伝って欲しいと」
「簡単に言えばそうなりますね」

 僕が秘密を明かす度に、いちいちリアクションしてくれるシルビアさんが楽しくてつい話し込んでしまった。プテュエラもちょっと眠そうにしている。ごめんね。もうちょいだ。

「ケイさんがフレイムベアで得た資金を私、ブラス商会に投資する」

「シルビアさんはその資金でジオス印のコスモジアを製造する」

「ケイさんはポーション越しにジオス神の布教が行えて、お金を得られる」

「シルビアさんはアセンブラ教にダメージ与えられて、お金をたくさん得られる」

「ぐへへへ」

「うへへへ」


 僕たちはいつの間にか手を取り合い、お金に目を眩ませて笑っていた。これがウィンウィンってやつよ。

 ジオス印普及による布教については僕の推測だけどね。

 でも、コスモジオ霊草はジオス神が作ったみたいだし、排斥で少なくなっているジオス由来の品を世に広めるのは、布教活動する上で間違っていないはずだ。

 ただ、確認することもある。

「ちなみにジオス教徒になることに、抵抗はありますか?」

「無い、と言ったら嘘になります。私もあの『炎の日』を聞かされて育ってますし」

「炎の日?」

 なんだそりゃ。初めて聞いたぞ。

「あれ、ご存知ないですか? 亜人……さん? がフレイムベアをけしかけてデイライトが炎に包まれた、と言われている事件です。正式な調査なんて何一つされていない噂なんですけどね」

 それ……あれじゃん。ベステルタたちがラミアルカって亜人とデイライトに出たフレイムベア三頭をフルボッコにしたっていう。

 うわー、こっちではそんな風に伝わってるのか。

『ん? ケイ、どうした?』

 無邪気なプテュエラの笑顔が苦しい。

『ううん、また後で話すよ』

『うむ』

 これは森に帰ってから話そう。今はこの話をまとめるのが先だ。

 シルビアは炎の日を知っているけど、噂を積極的に流したのがアセンブラ教会ということで、かなり懐疑的だったから助かった。ちなみにデイライト伯は噂を否定しているらしい。ありがとうまだ見ぬデイライト伯。

 味方の敵は敵だな。当たり前だけど。

「では、条件を飲む、という認識で宜しいですか?」

 シルビアさんがジオス教徒になって、コスモジア製造を行う。僕はその支援をする。

 僕のメリットはジオス教の普及とお金。

 シルビアさんのメリットは復讐とお金。
 
「ええ、もちろん。これほどの条件は望むべくもありません。一蓮托生ですね」

 ニカッと笑うシルビアさん。

「そうですよ。だから徐々にフランクになっていきましょう。シルビアでいいかな?」

「私は敬語が癖なのでこのままで。でもケイって呼ばせてもらいますね」

 がっし、と握手を交わす。
 生まれて初めてビジネスパートナーができたよ。少しだけ、楽しいな、と思った。同じ方を向いて進める仲間って、いなかったしね。

 製造場所や人員、警備については後日相談すると言って別れた。なるべくアセンブラ教会に気付かれないように進める必要があるし。だけど、いずれ気付かれた時に対応する必要がある。今のうちにしっかり準備しないとね。

 別れ際の彼女は全身からエネルギーが迸っていて亜人かと思えるほどだった。金貨パワー恐るべし。


「ケイ、おかえり」

 リッカリンデン孤児院に戻ると、ベステルタが迎えてくれた。

「うー動かねえー」

「お、お姉様激しすぎます……」

「ひ、ひぃん」

 子供たちぼろぼろなんだが。地面に伸びて動かなくなっている。

「ちょっと、ちゃんと手加減したんだよね?」

「したわよ。でも手を抜いてもいないわ」

 ケロッとした顔で報告してくる。うーん、まあ命かかっているんだし、その方がいいか。

「それよりもほら、カリンに何か言ってあげなさいよ」

「あっ」

 ベステルタの後ろでもじもじする人影。歩き方が変だ。背中を押され僕の前に出てくる。

「け、ケイ様。その昨夜はどうも……」

「あ、うん。なんか、えっと。はは、ごめんなさい」

 カリンの歩き方を見るに、やっぱりやり過ぎたと分かる。

 気まずい。ベステルタ何ニヤニヤしてるんだよ。おっさんか。

「申し訳ございません、半刻も持たずに気を失ってしまい。体力の無さを思い知りました……」

 うーん、まあそれは仕方ない気もする。僕は普段から人外領域の亜人たち複数と繁っているし。むしろ気を失っていたのに、初号機みたいに暴走し続けた僕に非がある。

「こちらこそごめんね。我を失ってしまって」

「いえ、少しの間とはいえ幸福な時間でした。人生で最も尊い時を過ごさせて頂きました。感謝しております」

 うっ、カリンの瞳がヤバい。狂信者っぷりに拍車がかかっている。それでいて何か丸くなったというか余裕が生まれたというか……。きっかけは、言うまでもないか。責任取らなきゃなあ。

「あ、そうだ。明日布教について確認したいことがあるから、また来るね。
 ちなみにジオス神の紋章を普及させることでも、ジオス神の力って増すかな?」

「この教会とカリンはいつでもどこでも使徒様に開かれております。
 紋章の普及ですが、もちろん増大します。紋章や銅像はいわばジオス様とこの世を繋げる道ですから」

 開かれているって……。

 ただ、紋章普及については、なるほどね。道が増えて、そこから信仰心が流れ込めば力も増すか。間違ってなかった。

「もしや、ケイ様。布教の見込みが?」

「うん。まだ計画段階だけどね。もしかしたら明日、それ関連で人を連れてくるかもしれない」

「ジオス教徒ですか?」

 カリンの瞳が警戒するように細められる。ここら辺はしっかり確認しないとね。

「ジオス教徒じゃないけど、ジオス教徒に入教するってさ」

「素晴らしい! この世界にまた一人神の子が増えるのですね! 機を見るに敏な布教活動、カリン、益々感服致しました!」

 ざっ、と跪くカリン。これ速すぎて止められない。いったい何度繰り返したんだよ。

「ま、まあ、そういうことだから。

 あと、今日は僕たち遠吠え亭に泊まるよ。じゃまたね。ザルドたちはしっかり食べてよく休むように!」

「はっ!」

「ひん、師匠! ベステルタ様! ありがとうございました!」

「「「ありがとうございました!!!」」」

 畏まるカリンと元気な子供たちに見送られた。

 ふーっ。とりあえずやることはやったな。僕、すごい頑張ったんじゃないかな。やったこともない交渉なんかして、事業まとめて。そりゃ、毛が生えたようなものだけどさ。

 ……あれ、これってもしかして仕事か? 僕は仕事しているのか? ヤバい考えないようにしよう。

『ケイ、お疲れ様』
『よく頑張ったな。偉いぞ』

 二人に褒められる。うへへ。あとはご褒美タイムだ。今日は久しぶりに目一杯繁るぞー。
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