捨てる王子あれば拾う皇子あり?

ねこたまりん

文字の大きさ
11 / 11

(11)

しおりを挟む
 それから数年がたった。

 色欲と無能だけで名を馳せていたヘンリー王子は、ある日を境に聡明な青年に生まれ変わり、次期国王となることが正式に決まった。

 王子妃であるルーシーは、美しく思いやりのある女性として、民に広く愛されている。

 彼女の父であるムーア卿は、重い病から奇跡的に回復し、宰相として辣腕を奮っている。

 彼の後妻は、早世した前夫との間に生まれた乳飲子ルーシーとともにムーア家に迎えられた女性だが、夫をよく支える賢夫人として、領民に慕われているという。


 王国と、長く敵対関係にあった帝国とは、和睦のための使者を送り合い、誠実な交流を積み重ねていって、いまでは確固たる同盟関係が結ばれている。



 ローザの存在しなくなった世界は、どこまでも優しく穏やかで、さまざまな形の幸福に満ち溢れていた。


 そんな世界の片隅で、自ら廃皇子となったアレクシスは、手のひらに載せた小さな石に向かって、静かに語りかけていた。


「君は、満足しているのかな」

(……)

 石は微かに光るけれども、言葉を返すことはない。

「このあいだ、ヘンリー王太子が妻と二人で訪ねてきたよ。どうしてか分からないけど、君がここにいることが、彼らには分かるらしい」

(……)

「おかしいんだよ。あの異母妹。あんなに頑張って君をいじめて生かしたんだから、次に生まれてきたら、たっぷりお返ししてちょうだい、なんて言うんだよ。それもボロボロ泣きながら。ほんとは大好きだったんだってさ、君が」

(…………)

「あの王太子もね、次に君に会ったなら、王国を挙げて君を守るんだってさ。君が命を捨てて国を守ったから、だって。本当はまともな子だったんだね、彼」


(………………)


「ねえ、君に『次』はあるのかな。僕は、待っていてもいいのだろうか」


(…)

「君の許しはいらないかな。僕は、待つよ。君と会える日まで、このまま生き続けることくらいなら、今の僕にも出来るからね」


(…)

「君は無意識に、全ての人を愛していたんだ。失う悲しみに耐えられないほどにね。そしてその愛は、余すところなく全ての人に伝わっていた。すごいね、君は」

(…)

「少し、妬けるよ。僕のことも愛してくれていたのは知ってるけどね」

(………)

「もし『次』があるのなら、僕への愛は、他よりも多めにしてほしいな。何なら僕だけでもいいよ」


(……)


「ねえ。いつ会えるかな」

(………………………!)


 独白もできないことに業を煮やし切ったローザが、アレクシスの腕の中で怒号とともに爆誕するのは、まもなくのことである。





しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

婚約破棄してたった今処刑した悪役令嬢が前世の幼馴染兼恋人だと気づいてしまった。

風和ふわ
恋愛
タイトル通り。連載の気分転換に執筆しました。 ※なろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ、pixivに投稿しています。

婚約破棄してくださって結構です

二位関りをん
恋愛
伯爵家の令嬢イヴには同じく伯爵家令息のバトラーという婚約者がいる。しかしバトラーにはユミアという子爵令嬢がいつもべったりくっついており、イヴよりもユミアを優先している。そんなイヴを公爵家次期当主のコーディが優しく包み込む……。 ※表紙にはAIピクターズで生成した画像を使用しています

逆行した悪女は婚約破棄を待ち望む~他の令嬢に夢中だったはずの婚約者の距離感がおかしいのですか!?

魚谷
恋愛
目が覚めると公爵令嬢オリヴィエは学生時代に逆行していた。 彼女は婚約者である王太子カリストに近づく伯爵令嬢ミリエルを妬み、毒殺を図るも失敗。 国外追放の系に処された。 そこで老商人に拾われ、世界中を見て回り、いかにそれまで自分の世界が狭かったのかを痛感する。 新しい人生がこのまま謳歌しようと思いきや、偶然滞在していた某国の動乱に巻き込まれて命を落としてしまう。 しかし次の瞬間、まるで夢から目覚めるように、オリヴィエは5年前──ミリエルの毒殺を図った学生時代まで時を遡っていた。 夢ではないことを確信したオリヴィエはやり直しを決意する。 ミリエルはもちろん、王太子カリストとも距離を取り、静かに生きる。 そして学校を卒業したら大陸中を巡る! そう胸に誓ったのも束の間、次々と押し寄せる問題に回帰前に習得した知識で対応していたら、 鬼のように恐ろしかったはずの王妃に気に入られ、回帰前はオリヴィエを疎ましく思っていたはずのカリストが少しずつ距離をつめてきて……? 「君を愛している」 一体なにがどうなってるの!?

私を選ばなかったくせに~推しの悪役令嬢になってしまったので、本物以上に悪役らしい振る舞いをして婚約破棄してやりますわ、ザマア~

あさぎかな@コミカライズ決定
恋愛
乙女ゲーム《時の思い出(クロノス・メモリー)》の世界、しかも推しである悪役令嬢ルーシャに転生してしまったクレハ。 「貴方は一度だって私の話に耳を傾けたことがなかった。誤魔化して、逃げて、時より甘い言葉や、贈り物を贈れば満足だと思っていたのでしょう。――どんな時だって、私を選ばなかったくせに」と言って化物になる悪役令嬢ルーシャの未来を変えるため、いちルーシャファンとして、婚約者であり全ての元凶とである第五王子ベルンハルト(放蕩者)に婚約破棄を求めるのだが――?

ある日、悪役令嬢の私の前にヒロインが落ちてきました

結城芙由奈@コミカライズ3巻7/30発売
恋愛
【どうやら私はこの世界では悪役令嬢と呼ばれる存在だったらしい】 以前から自分を取り巻く環境に違和感を覚えていた私はどうしても馴染めることが出来ずにいた。周囲とのぎこちない生活、婚約者として紹介された相手からは逃げ回り、友達もいない学園生活を送っていた私の前に、ある日自称ヒロインを名乗る人物が上から落ちてきて、私のことを悪役令嬢呼ばわりしてきた――。 ※短めで終わる予定です ※他サイトでも投稿中

悪役令嬢の大きな勘違い

神々廻
恋愛
この手紙を読んでらっしゃるという事は私は処刑されたと言う事でしょう。 もし......処刑されて居ないのなら、今はまだ見ないで下さいまし 封筒にそう書かれていた手紙は先日、処刑された悪女が書いたものだった。 お気に入り、感想お願いします!

罠に嵌められたのは一体誰?

チカフジ ユキ
恋愛
卒業前夜祭とも言われる盛大なパーティーで、王太子の婚約者が多くの人の前で婚約破棄された。   誰もが冤罪だと思いながらも、破棄された令嬢は背筋を伸ばし、それを認め国を去ることを誓った。 そして、その一部始終すべてを見ていた僕もまた、その日に婚約が白紙になり、仕方がないかぁと思いながら、実家のある隣国へと帰って行った。 しかし帰宅した家で、なんと婚約破棄された元王太子殿下の婚約者様が僕を出迎えてた。

悪役令嬢は断罪の舞台で笑う

由香
恋愛
婚約破棄の夜、「悪女」と断罪された侯爵令嬢セレーナ。 しかし涙を流す代わりに、彼女は微笑んだ――「舞台は整いましたわ」と。 聖女と呼ばれる平民の少女ミリア。 だがその奇跡は偽りに満ち、王国全体が虚構に踊らされていた。 追放されたセレーナは、裏社会を動かす商会と密偵網を解放。 冷徹な頭脳で王国を裏から掌握し、真実の舞台へと誘う。 そして戴冠式の夜、黒衣の令嬢が玉座の前に現れる――。 暴かれる真実。崩壊する虚構。 “悪女”の微笑が、すべての終幕を告げる。

処理中です...