災禍の令嬢ヴィヴィアンは、普通に無難に暮らしたい

ねこたまりん

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ヴィヴィアンの婚約

ヴィヴィアンは秘密を知った

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 アーチバル・グリッドには、三人の息子がいた。

 学業にも武術にも優れ、呪術の才能にも恵まれていて、後継者として非の打ち所がないと言われていた長男。

 身体はあまり丈夫ではないけれども、家族思いの優しい心を持ち、呪術の修行には人一倍熱心な次男。

 二人の兄より凡庸ではあっても、明るく真面目な気質を家族に愛され、大切にされていた三男。


 早くに母親を失っていた三兄弟は、幼い頃から仲が良く、尊敬する父のような呪術師になって、三人で家門を支えていこうと誓い合っていた。


 当主のアーチバル・グリッドは、そんな息子たちを、等しく、深く愛していた。



 けれども、ある日突然、長男が姿を消した。

 グリッドの家門の者たちは、警察部隊の力も借りて懸命に捜索したけれども、長男の足跡すら見つからない。

 数年後、アーチバル・グリッドは、長男の死亡届を王城の都民課に提出した。


 長男を失ったグリッド家は、少しづつ、おかしくなっていった。
 
 愛情深い父親だったアーチバル・グリッドは、いつしか息子たちを視野にも入れず、顧みることがなくなった。


 家族思いだった次男は、利己的で傲慢な人間になった。

 陽気で人好きのする性格だった三男は、疑い深く、攻撃的で陰険な少年になった。

 仲の良かった兄弟は、顔を見れば罵り合い、攻撃魔術の応酬で傷つけ合うことすらあった。

 父アーチバルは、後継を決めないまま、息子二人を屋敷から出し、『学院』の寮に入れた。

 次男のセイモア・グリッドは、自分を後継者にせずに追い出した父親を、深く恨んだ。

 彼は家宝の薬壺やっこを密かに持ち出し、自分で開発した禁術を仕込んで、周囲の人間から魔力や生命力を盗み取り、自分のものにする計画を立てた。


…………


 元々グリッド家の薬壺は、他者のエネルギーを魂ごと奪い取ることで、所有者の呪力を高めるという、危険な古代呪具だった。

 グリッド家の当主は先祖代々、その薬壺を所持することで、高い呪力を維持して、家門を栄えさせてきた。

 けれども、そのことを是とする当主など、一人もいなかった。


 なぜなら薬壺は、代々の当主の妻の命を取り込むことで、力を保ってきた物だからだ。

 妻が子を産み、後継の心配がなくなると、薬壺は呪いを発動し、妻の命を奪う。それがグリッド家にとって、どうしても逃れることのできない呪いだった。

 薬壺を破壊しようとすれば、精神の自由を薬壺に奪われて、呪いに従順な者へと作り替えられてしまう。

 当主になる者が、結婚や子作りを避けようとしても、自殺をしようとしても、同じことが起こった。

 

 代々の当主のなかでも、飛び抜けて高い呪力を持っていたアーチバル・グリッドは、薬壺の精神支配を受けないように細心の注意を払いながら、妻を救う方法を必死で探し求め、恐るべき執念でそれを発見した。


 グリッド家の妻の命を奪うのは、肉蠅ニクバエと呼ばれる魔導生物だった。

 肉蠅は、グリッド家の者たちに知られることのないように巧妙に隠れ住み、薬壺に魂を送り込む役割を果たしていた。

 その見返りに、薬壺は肉蠅に呪力を分け与えていた。

 グリッド家に寄生して、妻の生を奪うかわりに、家門の呪力を高める効果を提供する薬壺。

 その薬壺に寄生し、呪力を与えられるかわりに、グリッド家の妻の命を薬壺に引き渡す、肉蠅。


 このおぞましい関係に気づいたアーチバル・グリッドは、妻を狙って接近する肉蠅を倒そうとした。

 けれども、肉蠅に殺意を向けた途端、薬壺の精神支配がアーチバル・グリッドに襲いかかってきた。


 自分の身を短刀で切り刻みながら、薬壺に飲まれそうになる意識を保ち、肉蠅の最後の一匹を見つけ出して粉砕したのは、最愛の妻の命が消えた直後のことだった。

 勝利するのが、ほんの一瞬、遅かったのだ。

 アーチバルは慟哭した。

 けれどもこれで、息子たちは大切な伴侶を奪われずに生きられるのだとアーチバルは信じ、そのことに安堵した。

 肉蠅がいなくなっても、薬壺自体は存在し続けているという重大な事実から、目を逸らしたまま、アーチバルは、やがて、薬壺の存在自体を忘却してしまう。

 おそらくはそれも、薬壺の精神支配によるものだったのだろう。




 ターゲットを肉蠅で即死させることが出来なくなった薬壺は、遅効性の呪いによって、グリッド家の人間をゆっくりと洗脳しながら呪殺する方法に切り替えた。

 アーチバルの妻が死に、他に妻の立場の者がいなかったから、無差別に狙うようになったのかもしれない。



 



 そうして、アーチバルの長男である、ギル・グリッドは消失した。





************



「ふーん、そんなことがあったんだ」

 ヴィヴィアンは、語り終えたギル・グリッドに謎肉ガムを一個あげて、ねぎらった。





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