悪役令嬢は、昨日隣国へ出荷されました。

ねこたまりん

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業務日誌(一冊目)

(4)契約

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 魔導ギルドでは、滞りなく話が進んだ。

 ローザの液体魔力は、質の高さと安定した供給量によって、既にブランド力が確立していたため、ギルドの担当者は、相場より高い買い取り価格で契約してくれた。

 契約には、ギルド長も顔を出した。

「ブラックデル嬢、よくぞ我がギルドに来てくれた! して、いつまでこちらに滞在の予定だろうか」

「仕事場と兼用の住まいを入手して、長く腰を据えたいと思っています」

「それは願ってもないことだ。購入する家はもう決まっているのかな」

「いえ、これからです。急ぎたいのですが、まだこちらの街をよく知らないので、どうしようかと」

「そういうことであれば、ぜひ紹介したい家……というか、ほぼ城と言っていいような物件がある。広さは十分で、このギルドからも遠くない。よければ、この後案内するが」

「ぜひお願いします!」


 ギルドとの諸々の手続きを済ませてから、ローザはマーサと一緒に、魔術ギルド長の案内を受けて、売りに出ているという城(?)に向かった。


 リビーはネイトに差し入れる夕食などを購入するとのことで、別行動となった。


 案内された物件は、地上五階、地下一階、別棟まである大豪邸だった。

 内見して、養父母の家に残してきた使用人たち全員を引き取っても、余裕で暮らせると確信したローザは、迷うことなく、この家を買おうと決めた。

「ぜひこちらのお城に住みたいです」
「おお、それはよかった! では明日にでも、売り主の皇子殿下に面会を申し込むとしよう」

「え?」

 皇子って何、と叫びそうになるのを、ローザはギリギリで堪えた。


「ああ、説明が遅れたな。ここは我が帝国の皇子殿下が所有される城なのだが、なぜだか急に手放されることになってな。できるだけ早い時期に、魔術ギルドに貢献している者に譲りたいとのことで、数日前に相談を受けたのだ」

 ローザは背筋に寒気を感じながら、おそるおそる、尋ねた。

「あ、あの、その皇子様は、どなたで…?」
「第三皇子のアレクシス殿下だ。魔術ギルドの最高顧問でもあり……」

 ギルド長の話は続いていたが、頭の中で絶叫しているローザの耳にはら全く入ってこなかった。




(大丈夫! 『レ』で始まる名前じゃないから、絶対に大丈夫!! 邪神のローザとは無関係!!!)




「というわけで、格安の値段でお譲りいただけるとのことだ。皇子殿下との面会時間が分かり次第、宿に連絡を入れるということで、良いかな」

「ひっ、えっ、あっ、ははいっ!」

「はははは。緊張する必要はないぞ。アレクシス皇子殿下は気さくな方だ。年頃もお近いことだし、魔術に長けているブラックデル嬢であれば、きっと話も弾むだろう」

「うえっ、そ、そうでふよねっ」

 突然、挙動不審になったローザに、マーサは小声で喝を入れた。

「ローザ様! しっかりなさいませ!」
「あ、うん、ごめん。失礼しました、ギルド長」

 生暖かい目でローザを見ていたギルド長は、気遣うように言葉を続けた。

「うむ。明日は私も同席しよう。侍女のマーサ殿だったかな。貴女も一緒に来るとよい」
「不敬でなければ、そうさせていたきたく」
「問題ない。貴族でないギルド員とも、分け隔てなく仕事をされている方だからな」

 内見を済ませ、城の前でギルド長と別れたローザたちは、宿に戻ることにした。

「ローザ様、やはりお疲れだったのではないですか」
「いや、そんなことはないんだけど…」
「今日は色々あったんですから、身体のお疲れを感じなくても、お心にはいろいろ溜まっておられると思いますよ」
「そうかな…そうかも」
「そうですとも。リバーズ家の馬鹿者とやり合ったのですからね。今夜はゆっくりいたしましょう」
「うん…」



 実のところ、ゲブリル・リバーズとの婚約破棄のことなど、頭からすっかり吹き飛んでいたローザだったが、邪神云々についてマーサに説明するわけにもいかないので、挙動不審の原因をそのままゲブリルに押し付けておくことにした。


(アレクシス皇子…か。邪神の関係者じゃないとしても、このタイミングで、狙ったように城を手放すって、なんか不自然な気がする。何があるのか見当がつかないけど、気をつけたほうがいいのかも)


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