アネモネを君に

野部 悠愛

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プロローグ

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真っ青な空に柔らかな風が吹いている。
その風が彼女の柔らかな髪をなびかせる。

春の日差しのような暖かな優しさで、周りを包み込むような顔で笑う君に

「卒業おめでとう。」

そう言って花束を手渡した。
色とりどりのアネモネが揺れる。

この花の花言葉を、
そしてこの花を君に送る理由も、
知らなくて良いよ。

きっとその方が君は幸せになれる。

……それなのに、君は目を見開いて、
後ろ手に隠していたものを差し出してくる。

それは、自分が彼女に手渡そうとしていたのと同じアネモネの花束だった。

「卒業おめでとう。」

一見すると苦笑いのようにも見える、世界一可愛いはにかみ笑いで彼女が私に言った。

そんなわけないってわかってる。

それでも期待をしてしまう愚かな心を止めるすべがなかった。

「あのね……」
彼女が言葉を紡ごうと口を開く……





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