アネモネを君に

野部 悠愛

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気が付きたくなかった

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先輩の恋話は好きという気持ちと、それを感じる瞬間のようなものが事細かに話された。
目が合うだけで嬉しかったとか、ずっと話していたいだとか、気が付けば見てしまっているだとか、そんなことを言ってた。

その話を聞いていて、私が頭に思い描いた人物がひとりだけいた。
その相手は勿論、彼氏である実くんであるべきだ。
……それなのに、私は実くんのまの字も浮かんじゃいなかった。
これはおかしい。
そう思ったけど、わからないことが怖くてみないふりをした。

先輩の恋話はまだまだ続く。
顔は少し不細工な方が好きだとか、最近たくさん通話をしてくれるのが嬉しいのだとか、その話を聞くごとに心に鉛が溜まっていくような気がした。

違和感という名の鉛はとても重くて、どうしようもなく苦しかった。



ほぼ一日中先輩の恋話を聞いていたその日は、とても疲れてしまって、何も手につかなかった。
何も手につかないのに思考だけは無駄に回って、同じ回答をずっと繰り返している。

フードを深く被ってぬいぐるみをいつもより強く抱きしめて目を閉じて無理矢理眠った。

………

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