アネモネを君に

野部 悠愛

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気が付きたくなかった

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意外にも、目を閉じてしまえばすぐに意識は眠気にさらわれて深い闇に落ちた。

春の日差しの中をふわふわと漂う様な、暖かな心地がした。

純白のドレスがふんわりと揺れる。白いベールに包まれた顔は、よく知る友達のもので彼女の美しい顔を際立たせるように化粧が施されていた。そして、彼女の隣に並び立つのはタキシードを着た見知らぬ男だった。

私は夢の中で彼女らに拍手を贈り祝福している。彼女はとても幸せそうに、笑っていた。

ツキリと私の胸に痛みが走る。
でも、動けなかった。ただ彼女に祝福の言葉を贈るしかできなかった。

……

温かいものが頬を伝う。
柔らかな、暖かな、幸せな夢だったはずなのに、この頬を伝う液体は止まってなどくれず枕にシミを作っていく。
それと同時に私の胸の内にも黒いインクに水を垂らしたような黒々としたシミがついて行く。

こんな気持ちは知らない。

醜い心を隠すように深くフードを被って丸くなった。
私と彼女は親友だ。彼女の幸せを心の底から祝福することが出来ない自分は一体なんだと言うのだろうか。




何もすべきではないと、心が警鐘を鳴らす。
それでも、私は知りたかった。
これ以上、私の感情で彼女を縛ってはいけない。

インターネットの検索機能にキーワードを入れる。長いローディングを経て、いくつかの記事を読み漁ると、「恋愛」という単語が目に付いた。

その単語が染み付いて離れなかった私は、もやもやする気持ちと焦燥感に駆られてヤケになって人に聞くことにした。

『ねぇ、この気持ちは恋愛的な好きだと思う?それとも拗らせた友愛?』

今までのモヤモヤから先輩の恋話を聞いて抱いた違和感までの全てを話し問いかけた先は、友達の瑠唯(るい)くんだ。
彼は、世間一般で言う特殊な人種だ。

どちらでもなく、どちらでもある心の性に戸惑っているだけの心優しい人なのだけれど、世間はそうは見ないらしいということを瑠唯くんとの会話で知った。
私からすれば、性別「瑠唯」で良いでは無いかと思うのだけれど、そうもいかないから本人は悩んでいるのだろう。

でも、そんな瑠唯くんならこの気持ちの正確な答えをくれるような気がした。

返ってきた答えは、

『僕だったらそれは恋愛的な好きだと思うよ』
という、私からすれば驚くべきものだった。
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