アネモネを君に

野部 悠愛

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目を背けて

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気持ちは伝えないと決めたのは、優翔ちゃんに言った通り困らせたくないというのもある。

でも、一番大きいのは気持ちを伝えて、彼女に軽蔑の眼差しを向けられて友達ですらいられなくなることだ。

そうでなかったとしても、私は実くんにもそばにいて欲しい。
だからと言って、彼女に気持ちを伝えてしまえば浮気をした最低野郎に成り下がって実くんも彼女も離れていくだろう。

それが怖かった。

なんて我儘な理由だろう。
最低すぎる自分の考えに吐き気がする。


本来ならば、実くんに心から謝罪をして別れてもらって、彼女に気持ちを伝えるべきだ。
でも、それをするには私の心はあまりにも臆病だった。

どうしようもなく臆病で、私には何も出来なかった。

だから、あんな夢を見たのだ。
彼女が私でない人と結ばれて、それを心から祝えず、気持ちすら伝えられず、ただ形だけの祝福の言葉を贈る。

祝福の笑顔の裏には、彼女を他の男に奪われたくないと泣き、彼女の隣に立つ男に憎悪する醜い心しかないのだ。

こんな醜い心は絶対に彼女に知られてはならない。それだけは、どうしてもダメだ。

彼女の幸せを心から祈るなら、この気持ちは捨てなければいけない。
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