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第5話
しおりを挟む山田先生と話す様になってから朝は中庭へ行くのが私の日課となった。
元々早めに登校し教室で読書をしていたが場所を中庭に移したのだ。
理由は単純。
古ぼけたベンチに座って読書をしていた私は視線を本から少し上げる。そこには花の水遣りをしている山田先生の姿がある。
校舎の影になり誰も通らない一角に小さな花壇と古ぼけたベンチ。
そこは山田先生が憩いとする場所だった。
数年前校舎増設に伴い日陰となり使われなくなった花壇だったらしいのだがそれを個人的に花を植え世話をしているそうだ。
山田先生は水遣りを終え花壇の縁に腰を掛け口を開いた。
「毎朝、良く飽き無いな。」
呆れた様な口調で話す先生は視線を花壇にやっているが、多分私に話しかけているのだろう。
「読書は趣味ですから。先生こそ毎朝花のお世話お疲れ様です。花を見つめる姿本当に素敵ですよ。いつも見ていたい程に。」
そう言って本にしおりを挟み前を向く。
視線の先には一筋の光が差し込んだ美しい花壇と眉間にシワを寄せた耳が真っ赤な先生。
昼間は校舎の陰になるが早朝の数時間だけは光が差し込む。
一見アンバランスなこの光景を見る為に私はここにいる。
「本の事じゃない。、、その、お前の言葉の後半のやつだ。」
「あぁ、『いつも見ていたい』ですか?本心ですから飽きる事はないと思いますよ。私は可愛いと感じたらとことん愛でる性分なんです。私、先生から勝手にする許可貰いましたよね?」
私はそう返しながら山田先生の隣に座り顔を覗き込む。
すると今度は先生がスッと立ち上がりベンチの方へ歩いていった。
《警戒心の強いニャンコだな》と思ってニヤニヤしていると
「こうなるとは、、、やはり早まったかもしれんな。ウワサの本郷を甘く見ていた。聴くと見るとでは大違いだ。直ぐ懐に入って来やがる。
はぁ、頼むから常識として適切な距離を取ってくれ。教師としてやり辛い。」
先生は頭を掻きながらそう言った。
正直”ウワサの本郷”も”適切な距離”もイマイチ分から無かったが先生を困らせたくはない為、その言葉に頷いた。
ホッと息を吐いた先生に安堵し、私は先生に見せる為持ってきたある物の存在を思い出した。
「私ばかり楽しんではいけないので今日はこれを持ってきました。ーーーじゃーん!!」
鞄から取り出したのは、
『集合、アニマルズ』というゲームのマグカップだ。
持ち手が葉っぱの形をしており可愛いキャラクターが描かれている。
「これコンビニのくじ引いて当たったんですけどダブっちゃったんです。貰って頂けませんか?
先生好みだと思うんですけど。」
そう言って先生に手渡した。
するとじーーっとマグカップを凝視している。
目は爛々と輝いていて頬が若干赤い。確実に先生の好みだと分かる。
しかしハッと息を飲み次の瞬間眉間に深いシワを寄せ難しい顔を作っている。
「教師として生徒との受け渡しは許容出来ない。」
と先生は語った。(でも視線はマグカップから全く離さない。)
真面目な先生の事だからそうなると思っていたので、私は用意していたセリフを言うことにした。
「じゃあそれ預かって貰っていいですか?学校に勉学とは関係ない不用品を持ってきたので没収と言う事で。
反省文書かないと返却されないですよね?私が反省するまでお願いします。でも大事なものなので大切に扱って欲しいなーー。」
若干棒読みだったが良いだろう。
すると山田先生は口をポカンと開け視線を私に戻した。そして深い溜息を吐きつつ
「、、、わかった、大事に保管して置く。」
そう言ってくれた。
やはり先生は良い教師ながらも生徒の我が儘を聞いてしまうお人好しのようだ。
「先生お人好しって言われませんか?
駄目なことは駄目ってキッパリ言わないと相手を付け上がらせますよ。」
「お前が言うか!」
「まあまあ。言質取ったからこそ言ってます。いやぁ庇護欲誘いますよねー。
心配しないで下さい。ちゃんと私がそう言うモノから守りますからね、一先生!」
「、、、苗字で呼べ。、、、普段は。」
「おっ、じゃあ二人の時は下の名前呼びOKなんですね!やったー親密度上がったー。
じゃあ私も名前呼びが良いなぁ。特別感ありません??」
「ありえん。」
そう言ってそっぽを向くはじめ先生。
名前呼びなんて学校内でも案外普通のことなのに生徒と教師という枠をきっちり分けようとしている先生は真面目だと感じた。もちろんそんな所も気に入っているポイントだ。
「あっ、そうそう言い忘れてましたけど学校に置きっぱなしだと大事なマグカップが心配なのでちゃんと自宅に持ち帰って下さいね!
そしたら私反省文書くかも知れませんよ。はじめさん⭐︎」
付け足してそう言うと
「っお前!!、、分かった、ちゃんと持ち帰る。だから頼むから先生と呼べっ!!」
と慌てる先生。
あぁ可愛いですね~。
「えぇー、さっき名前呼び許可してくれたのに。
ーーーーー
仕方がないですね、ではカップの方は宜しくお願いしますね、山田先生」
そう言ってお辞儀をし私は校舎に向かって歩き出した。
「はっ?!、、あ、あぁ分かった。」
先生は一瞬ポカンとしていたが私が踵を返した先から校長先生が現れたのを見て意味を察してくれたようだ。ついでにマグカップの了承もしてくれた。
《なかなか上手く渡せたんじゃないかな。》
と私は鼻歌混じりに歩いていた。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
校長が去って行ったあと。
「はぁ~。あいつ抜け目無いな」
と呟いている姿がひとつ。
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