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第31話
しおりを挟むミカさんの元彼、リクさん。
彼は彼女の心を限界まで追い詰め、それでも罪悪感という物を感じて居ない人だった。
確かミカさんは表と裏の顔の使い分けが上手いと言っていたが、、、
「ーーーミカさんの言っていた『表と裏の使い分け』はこうゆう事だったんですね。
本当に気付きませんでした。」
そう述べるとリクさんは先程までの教師の姿とは違い、嘲笑するかのように唇を歪ませた。
「くっくっくっ、爽やかで優しい良い男だっただろ?好青年は評判が良いんだよ。
まぁお前は俺に気付かなかったが、俺は一目見てお前があの時の暴力女だと気付いたがな。」
そう言って腕を掴もうとしてきたので、外側に弾き飛ばす。
「つっ、イッテー。
おいおいっ、そんな態度していいのかよ!こっちは教師だぞ?」
リクさんは手首を摩りながら顔を歪ませた。
「教師なら尚更生徒に掴み掛かるのは如何かと。」
「じゃあ素直に携帯をよこしな。
また録音されちゃ堪らないからな。」
なるほど。手の内はバレている。
携帯を渡し冷静に対応しながらこの先の事を考える。
リクさんはミカさんの時の事で多分私に恨みを持っているだろう。そんな人がはじめさんとの動画をどう使って来るかだ。
単純にこのまま周りに晒して退学に追い込むのだろうか。
もしくはこれを金品等の脅しのネタとして使うか。
リクさんを見つめながらあらゆる可能性を模索した。
「ひひっ、熱い眼差しで見つめられると照れちゃうな~。
あの時録音を残すってお前が教えてくれたんだよ、本当に感謝だわ。
ーーーさて、動画どうしよっか?
あの後、ミカの両親の所為で学校を追われた憐れな俺はどうすればその憂いを取り除く事ができるでしょうか~?」
そうしおらしく言ってはいるがその顔にはニヤニヤしており、いっそ楽しんでいるようだった。
「ーーー貴方の自業自得ですよね。」
自分の行動を顧みず被害者ぶっている発言に我慢が出来ず煽るような事を言ってしまった。
そんな私にリクさんは嘲笑う。
「はっはっはっ、酷いこと言うなぁ。傷ついちゃうよ~。
でもそんな口きいちゃって良いのかな?
俺はいつでもお前を破滅させるネタ掴んでいるんだよ?」
手元の携帯をヒラヒラさせている。
動画がリクさんの手元にある限り、どうにも動きようが無いだろう。
はぁ、と肩を落とした後、勢いよく頭を下げ謝罪する。
「、、、すみません。
まだ高校でやりたい事があったんですが、、、私が悪いですもんね。抵抗は辞めます。
貴方の憂いを取り除く為、潔く退学致します。
粋がっていた暴力女があなたに屈して惨めに学校を辞める図は爽快ではないですか?
ですから代わりにデータを渡して頂きたいです。両親の心労を軽減させたいんです。
データさえ渡して頂ければ今からでも両親に承諾を貰い退学届を作成します。」
謝罪後、自首退学の提案をした。下を向き、如何にも苦渋の決断と取れるような態度を演じる。
正直退学となってもそこまでダメージは無い。たかが退学。卒業の認定が欲しければどうとでも取りようがある。
私だけの退学で済めばこれで僥倖だと思ったのだ。
ーーーただ不安要素が有る。
もし、私が避けようとしている事に気付かれたら、、、。
顔を下げたまま祈る様にリクさんの返事を待つ。
「あれ~おかしいなぁ。
そんな事言っておいてその実退学なんて全然平気って奴だろ??
数週間前の出来事、そしてこの一週間じっくり観察もしたんだ。性格は大体把握したつもりさ。
お前はそんな風に屈服する様なタマじゃない。
つまりは何か他に気を向けたくないって事。
ーーーふーん、山田の醜聞を晒して辞めた方がお前にダメージ有りそうだな。」
ビクッと身体が反応してしまった。
それを目敏く見られたのだろう、より一層口の端が吊り上がり楽しそうな口調で続ける。
「ふっ、分かり易いなぁ。
お前は自分より相手が大事と言うことだ。まさに愛だね~。
じゃあまずは動画をばら撒くかなぁ。
うまく編集すりゃあ山田が脅している様に見えるんじゃないか?くっくっくっ、、。」
リクさんを甘く見ていたようだ。私を試すような素振りで話し、反応を見ていたんだ。
そしてとうとう触れて欲しく無かったはじめさんの事に切り込んでくる。
だが、まだ余地がありそうな口調だ。
多分、私から何か条件を引っ張り出そうとしているのだと感じた。
これは乗るしか道は無さそうだ。
「ーーーどんな条件を飲めばそれを回避できますか?」
私がそう言えば待っていましたとばかりに条件を提示して来た。
一つ、今話した内容を誰にも話さない事。
一つ、記録媒体は持たない事。
一つ、リクさんと毎朝化学準備室で会う事。
一つ、はじめさんと連絡を取り合わない事。
一つ、はじめさんと別れない事。
以上五つ。
内容を聞く限り、はじめさんを人質に私を苦しめたいだけのようだ。
はじめさんに害が無いのであれば受ける他ない。
「その条件お受けします。期限はいつまでですか?」
そう問えば
「素直に飲むとはな。ーーーまあ良い、こちらが有利なのは変わらない。
期限は明日からお前が学校から居なくなるまで、つまり卒業までだ。
そうしたらデータを消してやるよ。」
疑いの眼差しを向けつつも納得したようだ。
期限も決まり明日から開始となる。
私が勝手に話をまとめてしまったことがはじめさんに伝われば、長い長い説教をされ、そして、、、なんで頼らなかったんだと泣きそうな顔をするんだろうな。
その事に心が痛い、苦しいと悲鳴をあげるが私が決めた事だ。
気持ちを持ち直しリクさんと向かい合う。
「貴方の熱心な視線について山田先生と足立さん両名に相談していたのですが、それは実は知り合いだったからと伝えても宜しいですか?」
最後に今までの視線の辻褄合わせを申し出ると、教師の顔に戻った金森先生が
「うん、いいですね。事実ですからそう伝えて彼らの不安を取り除いてあげてください。なんなら幼い頃の″憧れの人″と追加して構いませんよ。
ーーーくっくっ、金森先生は好青年だからな。」
言葉の最後にはリクさんが顔を出し嘲笑していた。
その後不本意ながら携帯の番号を交換し、リクさんは花壇から去って行った。
項垂れるようにベンチに座り大きく息を吐く。
一気に疲労を感じ視界が覚束ない。
何度か瞬きを繰り返し前を向く。
明日から一ヶ月が勝負だとバチーンと頬を両手で打ち気合いを入れる。
すると夕子が用事を済ませ花壇にやってきたみたいだ。
「ーーー何で自分の頬を思いっきり叩いてんの?
なんか危ない扉開いちゃって無いでしょうね~?M的な?」
微妙に引き攣った顔でからかってくる夕子に冗談で返す。
「分かっちゃった?
いたぶられると更に気持ちが昂っちゃって、もっともっと、、、逆にいたぶりたくなるーーーような?」
「いやっ!それはMじゃなく。。。
ゆづ葉のはエs、、、」
顔を青褪めさせ言葉尻を濁した夕子はなぜか口を抑えていたが、私が笑顔を見せると一人何かに納得してぎこちない笑顔でコクリと頷きその後何も言わなかった。
静かな帰宅時間中、先程のリクさんの言葉を思い出し、ふっと息が漏れた。
《リクさんが思っている以上に″屈するようなタマ″ではないんですよ。》
そう胸の内に言葉を吐きつつ自宅に入る。
まずは机に向かいコレらを書かないとね。
こうして勝負の一ヶ月が始まった。
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