上 下
15 / 15

第15話

しおりを挟む

明日、金曜日は早苗の家でお家デート(二人のデート+俺?)をするらしい。

これが今朝決まった事。
わざわざ俺が了承したとされる録音を添付したことから断れないのだろう。
まぁ金曜日はバイトも無くなんの予定も無い。だから問題は無いのだが、、、どんどん包囲網を敷かれている気がするのは考え過ぎだろうか。

そんな事を考えながら食堂のスペシャルランチの列に並ぶ。毎週この日だけは生徒会室には行かずランチを堪能する。
本日のメニューは鰹のタタキ定食。
高校の食堂に似つかわしくないメニューの列に並んでいるのは教師ばかりだ。校長までウキウキで並んでいた。
校長曰く食育の為にも週に一度は旬の物を提供するようにしていると公表しているが、あの様子から自分が食べたいだけな気がする。
その姿を後ろから眺めていると肩を叩かれ声が掛かった。


「ハル、お待たせー。俺はパン買ってきたぜー。スッゲー人いっぱいだけどハル目立つからすぐ見つかって探す手間省けるわー。」


今日のカズは持参した弁当じゃなくパンを買ってきたみたいだ。


「おう。こういう人混みではこの無駄にある身長も少しは役に立つだろ?」

「無駄って、、、それ嫌味ー??」


カズを見ると少し頬が膨らんでいる。
なぜ拗ねるんだか。確かにカズは俺より低くはあるが170センチ程で平均はあるし何より手足の長さのバランスが良いから余計イケメン度が増していると言うのに。


「いや嫌味じゃなく率直な意見だって。クラブ活動をやっていない動けない無駄ノッポは人から残念な目で見られるんだよ。」


そう、身長が高いとバスケやってるの?やバレーボール選手?とキラキラした目で声をかけられる。だが『スポーツができないので帰宅部です。』と事実を伝えれば一気に白けた空気になるのだ。


「いや、ハルは何でもスポーツやれるじゃん。」

「メンタルとフィジカルの不一致によりスポーツは不可だ。」

「つまりやる気が無いから出来ないってことねー。勉強も人付き合いも以下同文だよなハルは。はいはい了解、もう何も言わねー。
自称平々凡々さんは爪を隠すんじゃなく深爪なんだよねーー。」


カズが呆れた様に言っているが平々凡々は本当なんだから友人ポジからの色めがねはよして欲しい所だ。

そんな会話をしてる間に順番が来て無事定食をゲットできた。
ホクホク顔で空いてる席に着く。


「毎回思うけどその渋いランチの何が魅力なわけ?」

渋いと言われるのは特別メニューのラインナップにある。刺身や煮魚、茶碗蒸しといった和風なチョイスばかりだからだろう。


「ひとり暮らしでは味わえないからな。
俺が作るのは炒め物くらいだし。あとはレトルトや惣菜だからこの家庭の味ってやつを学食価格で食べられるならそりゃこれ一択だろ。」


「なるほど。それがハルの家庭の味なのかー。なら納得、ハルん家は純和風な物が多かったんだなー。そりゃ恋しくなるわー。
うちは基本マナーが必要なものばっかで食べる物は全て専属コック作。家庭の味とは到底思えなかったけど、お手伝いさんがこっそり作ってくれたオムライスは別だったな。だから俺にとっての家庭の味はそれだなー。」


カズの力の入っていない柔らかい笑顔を見るとその手料理が本当に美味嬉しかったのだと分かる。


「良いお手伝いさんなんだな。」

「おう、俺の唯一の家族的なー。」


カズはこう見えて良い所のお坊ちゃんだったりするのだが、その事で今でも色々と気苦労が絶えないと言う。

っとそれは気にしないで欲しいと言われている手前置いておくとして。
ふむ、なるほど。
家庭の味ってのは和食全般の事じゃ無く、食べた当人が思入れを持った食べ物の事だったのか。それは知らなかった。

じゃあ俺にとっての家庭の味はなんだろうか?
ーーー今までを振り返ってみたが全く思いつかなかった。


そうこうしているうちに食べ終え、食器を片付けにカウンターへと向かう。
食堂で食べた日は昼寝の時間は残されていないのでそのまま教室へ戻りカズと駄弁ることにしている。


「最近マジ顔色いいなー。生活見直したん?」

「まぁ、な。」

「何何ー?気になるー。なぁ明日祝日じゃん?遊び行っていいー?」

「だーめ。」

「えー、明日バイトないっしょ?なら良くない?ハルん家でダラダラ過ごしたーい。」

「用事あるから却下。」

「ウソだー、ハルはいつもバイト以外で用事ないじゃん。あっ、また彼女できた?」

「彼女は居ない。今自重中だ。」

「とか言ってすぐできるしー。何が目立たない男子だよー。モテ男なくせにー。」

「いやモテてないから。たまたま俺に声を掛けてくれた女性がその優しさからお情けでお付き合いをしてくれてるだけだから。もちろん、そんな流れでの付き合いだが、その誰もを俺は本気で好きだったぞ。」

「へーへーそうですかー。(まず声を掛けられてる時点でモテてるってわかるじゃん。で会話のみでほぼ百発百中ーーー完全に人タラシ野郎じゃんか。けっ)ボソッ」

「聞こえてるからなっ!はいっ、この話はお終い。とにかく明日はだめ。」

「へーへー、分かりましたー。ちぇっ、土日はそれぞれバイトで合わないから明日こそはって思ってたのになぁー。ぴえん。。」


嘘泣きをしているが若干拗ねているのは本当っぽい。ったく。俺に構わず他を気にすりゃ良いのに。
昔っからそうだ。いつもぼっちの俺を気にかけてくれている。こいつだって色々あって気を抜けない生活だろうに、本当ーーー優しい奴だ。
つい乱暴にカズの頭をワシャワシャとかき混ぜる。


「悪いな。次の祝日は必ずカズを優先するから家に来い。んで朝からダラダラ過ごそうぜ。お前もたまには気を抜けよ?」


目をしっかり見て言えば、カズはそっぽを向きブツブツ小声で呟いている。


「髪、崩れたし。もう少し優しく撫でろや。
けっ、そんな風に媚び売ったって最近構ってくれないの許さんしー。」


もちろんその呟きはちゃんと聞こえている。


「はいはい。じゃあカズが家に来る時までにオムライスでもマスターして振る舞ってやる。どうだ?」


そう提案するとカズの口角がピクピクしだした。きっと機嫌が回復したのだろう。
好物であろうオムライスの効果は絶大のようだ。


「ふーん、ハルがオムライスをねー、食べれるもんが出来ればいいけどなー。まぁ、、それなら許してやってもーいいけどー?」


「ふっ、現金なヤツだ。」


まぁこんな感じに憎まれ口を叩いたり叩かれたりしているがやっぱりカズは親友だ。
だからカズにはいつか由紀と早苗の話を聞いてもらいたい。
彼女達にはカズの事を知ってもらいたい。
それにはもちろんお互いの了承を得てからだし、どこまで話すかはそれぞれ要相談ではあるのだけれど、、、。
どんな話になったってカズなら、彼女達なら大丈夫だろう。



「ーーー約束だかんな。もし破ったり嘘ついたりしたら、、、俺、コワイヨ?」




多分、、、きっと、、大丈夫、だよな?









しおりを挟む

この作品の感想を投稿する


処理中です...