PEACE KEEPER

狐目ねつき

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Liebe guard

12話 弱点

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「……というのが、リーベ・グアルドの由来だ。もしかして知らなかったのかー?」

 長々とした説明を終えたサクリウスが、アウルに言い放つ。
 アウルはと言うと、自身の扱っていた技術は兄であるクルーイルの見様見真似でしかないため、由来など知る由も無かったのだ。

 真実を伝えられたことにより、胸中では感心と動揺が渦巻く。


「ちなみに言うとこの技術な、親衛士団は全員使えるんだわ。お前の親でオレ達の団長であるヴェルスミスが士団創立と共に直々に指南してくれたってーワケよ」


(やっぱりか……)

 説明の途中から、もしやと思っていた。
 改めて事実を聞かされたことにより、アウルは歯噛みをする。

「まー、この技術、昔はゼレスティア兵ほぼ全員が使えたみたいだけど、今は武器の数も整ってるし、魔術が使える人間も増えてきてるから、訓練の中ではあまり重視しない方針らしーんだけどなー」

 彼が言った通り、現代の魔術はゼレスティアが開国した時代に比べれば技術が確立され、少量のマナしか持たない者でも訓練次第では扱えるようになっていたのだ。

「それともうひとつ。そもそもリーベ・グアルドは対人を想定して編み出された技術だ。上位の魔物や魔神族が繰り出す不規則かつ広範囲な攻撃には殆ど通用しないからな。あまりこの技術に過信してっと痛い目見るから気ぃつけろよー」


(――あれ? もしかして……この人)

 戦闘の合間とはいえ長々と講釈を垂れるサクリウスに、ライカや他の学士と共に観戦をしていたピリムは若干の違和感を覚えた。
 ただ、相対をする二人にはピリムの考えてる事などいざ知らず。会話は続いていく。

「ちなみに聞くが、リーベ・グアルドは親父から習ったのかー?」

「……兄貴が親父から受けてた特訓を見て、盗んだ」

 問いに対し、嘘を答えても仕方がないと判断したアウルが正直に答える。
 その返答に、サクリウスの眉根がぴくりと持ち上がった。

「親父からは教わってないのか? もしくは、これから教わるとか……」

「それはないと思う。親父は……俺に少しも構っちゃくれないから」

 若干の寂しそうな表情を窺わせ、否定をする少年。
 しかしサクリウスにとってピースキーパー家の複雑な事情などどうでも良く、ただただアウルの能力だけを冷静に分析していたのだった。


(なるほどなー。ヴェルスミス自ら指南したワケじゃなく、クルーイルのを見様見真似で会得したのか。直接教わってもいないのにあそこまでリーベ・グアルドを使いこなせるなんてコイツ、ひょっとすると……)

「そーかそーか、習ってないか。んじゃ、長々と続けた歴史の授業は終わりだなー。そろそろ、実戦に戻ろーか」

 そう告げた彼は、アウルが先程落とした剣を芝生から拾い上げ、持ち主に剣を放る。

「そうだね……!」

 投げられた剣を受け取ったアウルは、既にショックから立ち直りを見せていた。

 そして返事と共に跳躍し、サクリウスに飛び掛かる。

「―――ん?」

 しかし斬りかかる事をせず、アウルはそのままサクリウスを飛び越え、背後へと着地した。
 背後から攻撃が来ると判断したサクリウスは、翻り回避の態勢を整えようと少年の姿を捉えようとするが、既にアウルは背後からも姿を消していた。


「アウリストの野郎……。なんつー、身のこなしだよ」

 座りながらレスレイと戦いを眺めていたパシエンスが驚嘆とする。
 アウルはサクリウスを取り囲むように、持ち前の敏捷性を活かしながら滅茶苦茶に動き回り、撹乱させようとする作戦に出ていたのだ。

(この動きに惑わされ、出来た隙を……狙ってやる!)

 動きつつも機を窺うアウル――。


(ふーん……。良い動きだなー。スピードはクルーイル以上はあるかもな)

 動きに翻弄されること無く、サクリウスは攻撃を静かに待った。

 一見、無茶苦茶に動いてるように見えるが、動きのクセとも言うべきか、一定の法則性をこの短時間で見付けることが出来たサクリウス。
 狙いとした地点におびき寄せると同時に、敢えて隙を作ることにした。


(今だ――!)

 そして背後に隙を発見したアウルは、サクリウスの背中目掛けて剣撃を放つ――。

(ほーら、釣れた……!)

 読みが当たったと思ったサクリウスは振り向き、剣撃を止めようと剣を構える。
 しかし相手の攻撃の手応えはなく――。


「残念、後ろだよ……!」

 更に裏をかき、アウルは瞬く間に背後へと身を移していたのだ。
 そして今度こそ、攻撃が当たる確信を持って、剣を振るう――。


「なんだと……? とでも言うと思ったかー?」


「え?」

 アウルが振った剣は、彼の後頭部には届かなかった。

 動きにわざと法則性を持たせることによって、サクリウスを逆に誘い込む作戦は成功したかに思われた。
 だが、後頭部を狙った一撃は彼の左手によって、敢えなく受け止められてしまったのだ。

「オレに手を使わせるなんて誇っていいぞ。明日から自慢のタネに使うことを許してやるよ。でも結局裏の裏までは読めなかったみたいだなー。ま、イイ線いってたとは思うけどな」

「くそ……!」

 落胆し、目を伏せる少年。




「……だーから、目ぇ逸らすなって」

「っ!?」





 何も見えない。
 視界がブラックアウトした。
 しかし、意識はある。

(なんだよ……これ!)


 突如訪れた暗転。時間にするとコンマ数秒だっただろう。
 それでも瞬時に状況を把握しようと集中をするアウル。

 ――しかし、直後に衝撃が襲いかかり、意識が遠のきかける。

 視界からは漆黒が過ぎ去り、光が差し込む。
 だが少年の目に映ったのは目の前に立つサクリウスの姿――だけではなく、輪郭のぼやけた景色が広がるのであった。

「こ、れは一体……? どんな魔術……?」

 朦朧とする意識の中、正体不明の攻撃の謎を暴こうとするアウル。だが足腰はガクガクと震え、立っているのもやっとの状態だった。


「バーカ、魔術なんかじゃねーよ。ただ、お前の両目を掌で隠して、下顎にビンタかましただけだってーの」

(そ、それだけ……!?)

 驚愕するアウルだったが、声も出せずにいるほど脳は揺れていた。


「ほいっ、これで元通り~」

 その言葉と共に、サクリウスは先程当てた方向とは全く逆の方向に同程度の勢いの張り手を当てる。

「……っっ!?」

「目覚めたかー? まだ耳がキンキンすると思うけど脳にはもう異常はねーから安心しとけ」

 ハッキリと聴こえる声。鮮明に映る視界。
 アウルは感覚が正常に戻ったとようやく確信できた。
 そんな少年の目の色を見て感覚を取り戻したと判断したサクリウスは、少しだけ表情を強張らせて口を開く。


「……結局な、こういうところなんだよ。リーベ・グアルドの弱点は」

「弱点……?」

 この技術にそんなものがあるのか、と思いもよらなかったサクリウスのその言葉。
 アウルはきょとんとした表情を浮かべ、その反応を窺ったサクリウスが説明を続ける。

「この技術はな、今まで味わったことのない不可解な攻撃に対しての対処法が、全くぇんだよ」

「――っ!」

 アウルは反論できず、茫然と聞き入ることしか出来なかった。

「まー、使いようによってはまだまだ実戦向きでもあるんだが、お前みたいな実戦経験がほぼゼロな奴ほど、今オレが使ったような手は面白いくらいに効果的なんだわ。あ、これで死亡2回目なー」

 その説明を聞き、自身がずっと信じて疑わなかった力に、身を以て弱点が有ると気付かされたアウル。
 少年の人生史上で初めて『悔しい』という感情が、心を苛む。



「どうすれば……俺は強くなれるのかな?」

 本心から思わず零してしまったアウルのその問いに、サクリウスは答える。

「そんなの俺が知るわけねーっての。ただ、一つ言えるのはお前くらい実力が既に備わってるヤツは、なんかのきっかけや意識を改めるだけで飛躍的に強くなれる。それだけは俺が保証してやるよ」

「…………っ!」

 与えられたアドバイスに、アウルは純粋に喜んだ。
 その理由は、強くなれる為のヒントを示してくれた事も一因してるが、一番の理由は自分が今まで陰ながら特訓を続けてきた力を認められた事に対してであった。
 そしてこの瞬間をもって、少年のサクリウスへの認識は敵意から尊敬へと変化し、そうなると次に少年の口から零れ出た言葉は意外なものとなる――。



「あの、サクリウス……さん」

「は?」

「これから俺に……もっと戦いを教えて……くれませんか?」

「はぁー?」

 いきなりの懇願に、思わず間の抜けた声を上げてしまうサクリウス。

「いや、ちょっと待て。お前急にどーした? さっきまでただのクソ生意気なガキだっただろーに……」

「さっきは自分の実力も省みずに好き放題言っちゃってごめんなさい……。 サクリウスさん……いや、師匠の言われた通りに、なんでもするんで俺に戦いを教えて下さい! お願いします! 師匠!」

 愚直なまでに、深々と頭を垂れたアウル。
 サクリウスが本日一番の困惑を見せる。

「お、オレは弟子なんてとる主義じゃねーからお前の師匠にはなんねーぞ! あと師匠って呼ぶのやめやがれっ!」






「ええ~、そんなオチなん?」

 事の顛末を見届けたライカはそう言い、肩の力が一気に抜ける。
 見物していた他の学士の反応も概ね似たようなものだった。

(……やっぱりね。あんなに喋るサクリウス様なんて見たことないもの。きっと挑発に乗ってる内に楽しくなってきちゃったんだろうね)

 ピリムの推測は当たっていた。
 サクリウスは団士である自身に対しあらゆる工夫を凝らし、ひたむきに立ち向かってくるアウルを相手取ったことで、本来の目的であった『逸材』の発見を無意識の内に達成し、あのような楽しそうな姿を見せていたのだった。

「まあ、結果的にこれでアウルに自信がついてくれたんなら、当初の目的は達成だな」

 ピリムの隣に立っていたライカはそう言うと、アウルの方へ走っていった。

(そっか、放課後にクルーイルさんと会うんだっけ。大丈夫なのかな? アウル……)

 心配をするピリムだが、家族の問題に首を突っ込む義理も道理も無い事は、まだ幼い心ながらも理解はしていた。
 これ以上深く考えないようにした上で、少女もアウルの元へと向かった。


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