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Birth of evil spirit
17話 中位魔神
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魔神族とは――。
“原初のヒト“と呼ばれた『アルセア』が定めたとされる、アルセア暦1600年の歴史以前から、この大陸に存在していたと言われている種族。
発生起源は不明。ゼレスティア中の聡明な学術士達が頭を捻って導き出した仮説は『この星ではない別の惑星から来た異星人』という信憑性に欠けるもの。
種族の特徴としては、人間以上に多種多様な姿形を個体毎に持ち、魔物とは比べ物にならないほどの戦力を持つという。
そして解りやすい目安として、上位・中位・下位魔神と便宜上、人間達がランク付けをしていた。
下位魔神は、魔物とほぼ遜色が無いような見た目を持つが、魔物には無い高い知性を備え、群れのリーダーとして魔物と共に現れる事が多い。
中位魔神に関しては、下位魔神よりも更に高い知性。
個体の殆どが人間の言語を理解し、二足歩行も出来る。
更に厄介な事に個体毎に特性という名の能力を持ち、戦闘手段も異なる。
そのため対策が想定しづらく、単体でも桁外れの戦闘能力を誇るという。
上位魔神に関しての説明はここでは割愛するが、現在ビスタ達の前に現れたのは紛れもなく中位魔神。
下位魔神との戦闘しか経験したことがないビスタにとっては、眼前の敵から放たれる言葉では言い表せられない程の不気味な雰囲気は、初めて味わうものだったのだ。
◇◆◇◆
(僅かながら人間の言語を扱う……。ということは、コイツは間違いなく中位魔神だ。俺一人でやれるものなのか……?)
魔神から充分な間合いをとり、相対するビスタ。
この窮地にどう対応するか頭を悩ませている。
「うっ、馬う、まっUま……馬う、うまっ、美味う……ま……」
そんなビスタの苦悩とは裏腹に、魔神は赤黒い山羊の頭の方で、既に馭者が死亡している馬車へと繋がれたままの馬を頭部から食す。
頭骨ごと丸齧りしているため、バリバリと不快な咀嚼音が嫌でも耳に届く。
「お、いっ……しい? SOれ、おっイシ……い? キャハっキャハハハハ」
馬をひたすら食し続ける山羊頭の方を向きながら、面を被る頭は相変わらず笑い続けている。
「なんなんだよコイツ……。中位魔神ってこんなんばっかなのか……?」
不愉快極まりないその光景に嘔吐してしまう兵士がいる中、ケルーンは初めて遭遇する中位魔神に狼狽える。
マックルもケルーン同様、中位魔神は初めて遭遇する相手だった。
どう対処すれば良いのか分からず、ただその光景を眺めることしか出来ない。
ただ、いつまでも躊躇していては駄目だ。
そう判断したマックルは、ビスタに向けて声を張り上げる。
「……ビスタ様! 俺達も戦わせてください! 全員でかかれば中位魔神相手にだって、勝てる筈です!」
「―――!!」
後方から聞こえたマックルの声。
ビスタはハッとし、思慮に思慮を重ねていた思考回路を正常に正す。
彼の考えは一人で戦闘を行い、その間に他の兵士達をゼレスティアへと退避。そして他の団士を増援として呼んできてもらう、といった選択しかなかった。
“共闘”という考えは最初から選択肢に含まれていなかったのだ。
(……でも、ダメだ。仮に全員で戦ったとしても、コイツには勝てる気がしない。それに……もう)
チラッと横目で見やった先。
5人の亡骸。5つの生首―――。
団士として部下の命を守ると約束したにも関わらず、既に5人が絶命してしまった事実に、ビスタのプライドはひどく傷付けられたのだ。
「――キミ達は今すぐにゼレスティアへ退避しろ! それから他の団士を大至急呼んできてくれ!」
マックルの意見を汲まず、自身の判断を頼りにしたビスタが退却を促す。
「それなら……全員で退却しましょう! 俺の風術を使えばそれも可能です!」
「……ダメだ!」
提示された妥協案にも頑として譲ろうとしない彼には、2つの退けない理由があった。
1つ目の理由は、どんな相手に対しても敵前逃亡は団士として御法度な為。
そして、2つ目の理由は――。
「部下の命を預かってた俺が逃げたら、死んだ5人が浮かばれないだろ? 死ぬまで足掻いてやるからキミ達は今すぐ逃げるんだ!」
――ビスタ・サムエレスとしてのプライドであった。
「――っ! ……了解っ!」
どんな説得を以てしても、ビスタの判断を覆すのは無理だと悟ったマックル。
それ以上何も論せず、大人しく従う。
「おいおい! 素直に言うことを聞いちゃうのかよマックル! 俺は残るぞ!」
「ビスタ様のご覚悟あっての判断だ。貴様も従え」
「…………っくそ!」
残ろうとするケルーンだったがマックルの語気から発せられる気迫の前に、渋々と了承をする。
他の兵士にも同様に促し、離脱の準備をするマックルとケルーン。
去り際に再びビスタの背中を見やり――。
「ビスタ様! ご武運を――!」
「ビスタ様! 死んじゃあいけませんよ! 約束ですからね!」
激励を送る。
他の兵士もそれに続き、ビスタに対して各々述べ、その場から退散した。
「任せろっ!」
10人余りから送られた声援に鼓舞されたビスタ。
腰に差していた鞘から、白銀色に煌めく長剣を抜き、構えた――。
食事の途中であった魔神だが、退却する兵士達の後ろ姿を目の端で捉える。
すると、咀嚼を中断し――。
「にっ、に二に……逃っげ、ちゃっ……だメっ……」
そう声を発し先程5人を一瞬で絶命させた時と同様、針金のような左腕を横に薙ぎ、斬撃を一閃させる。
が、その腕は振り終える前に両断されてしまった。
「……っ……っっ!?」
何故腕が途切れているのか。
理解が出来ずにいた魔神。
半分ほどの長さになった左腕を見て首を傾げる。
「……もう誰も殺させるものか。そして、これから死ぬのはお前だっ!」
魔神の左腕を斬ったのはビスタ。
余りにもハイスピードな斬撃だったおかげか、左腕の切り口からは摩擦熱によって煙が出ていた。
「うふっ……ふふFUふふっフ腐ふ……」
「きっ、きき鬼……きキきKIヒィ……」
左腕が両断された原因が、目の前に立つ男の仕業だとようやく理解することが出来た魔神。
異なる不気味な笑い声を双頭から発し、同時に聴こえるそれは最早、不協和音に近いものだった。
「―――来い!」
額に巻く赤いバンドを靡かせ、ビスタは再び剣を構える。
“原初のヒト“と呼ばれた『アルセア』が定めたとされる、アルセア暦1600年の歴史以前から、この大陸に存在していたと言われている種族。
発生起源は不明。ゼレスティア中の聡明な学術士達が頭を捻って導き出した仮説は『この星ではない別の惑星から来た異星人』という信憑性に欠けるもの。
種族の特徴としては、人間以上に多種多様な姿形を個体毎に持ち、魔物とは比べ物にならないほどの戦力を持つという。
そして解りやすい目安として、上位・中位・下位魔神と便宜上、人間達がランク付けをしていた。
下位魔神は、魔物とほぼ遜色が無いような見た目を持つが、魔物には無い高い知性を備え、群れのリーダーとして魔物と共に現れる事が多い。
中位魔神に関しては、下位魔神よりも更に高い知性。
個体の殆どが人間の言語を理解し、二足歩行も出来る。
更に厄介な事に個体毎に特性という名の能力を持ち、戦闘手段も異なる。
そのため対策が想定しづらく、単体でも桁外れの戦闘能力を誇るという。
上位魔神に関しての説明はここでは割愛するが、現在ビスタ達の前に現れたのは紛れもなく中位魔神。
下位魔神との戦闘しか経験したことがないビスタにとっては、眼前の敵から放たれる言葉では言い表せられない程の不気味な雰囲気は、初めて味わうものだったのだ。
◇◆◇◆
(僅かながら人間の言語を扱う……。ということは、コイツは間違いなく中位魔神だ。俺一人でやれるものなのか……?)
魔神から充分な間合いをとり、相対するビスタ。
この窮地にどう対応するか頭を悩ませている。
「うっ、馬う、まっUま……馬う、うまっ、美味う……ま……」
そんなビスタの苦悩とは裏腹に、魔神は赤黒い山羊の頭の方で、既に馭者が死亡している馬車へと繋がれたままの馬を頭部から食す。
頭骨ごと丸齧りしているため、バリバリと不快な咀嚼音が嫌でも耳に届く。
「お、いっ……しい? SOれ、おっイシ……い? キャハっキャハハハハ」
馬をひたすら食し続ける山羊頭の方を向きながら、面を被る頭は相変わらず笑い続けている。
「なんなんだよコイツ……。中位魔神ってこんなんばっかなのか……?」
不愉快極まりないその光景に嘔吐してしまう兵士がいる中、ケルーンは初めて遭遇する中位魔神に狼狽える。
マックルもケルーン同様、中位魔神は初めて遭遇する相手だった。
どう対処すれば良いのか分からず、ただその光景を眺めることしか出来ない。
ただ、いつまでも躊躇していては駄目だ。
そう判断したマックルは、ビスタに向けて声を張り上げる。
「……ビスタ様! 俺達も戦わせてください! 全員でかかれば中位魔神相手にだって、勝てる筈です!」
「―――!!」
後方から聞こえたマックルの声。
ビスタはハッとし、思慮に思慮を重ねていた思考回路を正常に正す。
彼の考えは一人で戦闘を行い、その間に他の兵士達をゼレスティアへと退避。そして他の団士を増援として呼んできてもらう、といった選択しかなかった。
“共闘”という考えは最初から選択肢に含まれていなかったのだ。
(……でも、ダメだ。仮に全員で戦ったとしても、コイツには勝てる気がしない。それに……もう)
チラッと横目で見やった先。
5人の亡骸。5つの生首―――。
団士として部下の命を守ると約束したにも関わらず、既に5人が絶命してしまった事実に、ビスタのプライドはひどく傷付けられたのだ。
「――キミ達は今すぐにゼレスティアへ退避しろ! それから他の団士を大至急呼んできてくれ!」
マックルの意見を汲まず、自身の判断を頼りにしたビスタが退却を促す。
「それなら……全員で退却しましょう! 俺の風術を使えばそれも可能です!」
「……ダメだ!」
提示された妥協案にも頑として譲ろうとしない彼には、2つの退けない理由があった。
1つ目の理由は、どんな相手に対しても敵前逃亡は団士として御法度な為。
そして、2つ目の理由は――。
「部下の命を預かってた俺が逃げたら、死んだ5人が浮かばれないだろ? 死ぬまで足掻いてやるからキミ達は今すぐ逃げるんだ!」
――ビスタ・サムエレスとしてのプライドであった。
「――っ! ……了解っ!」
どんな説得を以てしても、ビスタの判断を覆すのは無理だと悟ったマックル。
それ以上何も論せず、大人しく従う。
「おいおい! 素直に言うことを聞いちゃうのかよマックル! 俺は残るぞ!」
「ビスタ様のご覚悟あっての判断だ。貴様も従え」
「…………っくそ!」
残ろうとするケルーンだったがマックルの語気から発せられる気迫の前に、渋々と了承をする。
他の兵士にも同様に促し、離脱の準備をするマックルとケルーン。
去り際に再びビスタの背中を見やり――。
「ビスタ様! ご武運を――!」
「ビスタ様! 死んじゃあいけませんよ! 約束ですからね!」
激励を送る。
他の兵士もそれに続き、ビスタに対して各々述べ、その場から退散した。
「任せろっ!」
10人余りから送られた声援に鼓舞されたビスタ。
腰に差していた鞘から、白銀色に煌めく長剣を抜き、構えた――。
食事の途中であった魔神だが、退却する兵士達の後ろ姿を目の端で捉える。
すると、咀嚼を中断し――。
「にっ、に二に……逃っげ、ちゃっ……だメっ……」
そう声を発し先程5人を一瞬で絶命させた時と同様、針金のような左腕を横に薙ぎ、斬撃を一閃させる。
が、その腕は振り終える前に両断されてしまった。
「……っ……っっ!?」
何故腕が途切れているのか。
理解が出来ずにいた魔神。
半分ほどの長さになった左腕を見て首を傾げる。
「……もう誰も殺させるものか。そして、これから死ぬのはお前だっ!」
魔神の左腕を斬ったのはビスタ。
余りにもハイスピードな斬撃だったおかげか、左腕の切り口からは摩擦熱によって煙が出ていた。
「うふっ……ふふFUふふっフ腐ふ……」
「きっ、きき鬼……きキきKIヒィ……」
左腕が両断された原因が、目の前に立つ男の仕業だとようやく理解することが出来た魔神。
異なる不気味な笑い声を双頭から発し、同時に聴こえるそれは最早、不協和音に近いものだった。
「―――来い!」
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