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Brotherhood
29話 元17団士と16団士②
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広場を囲うように燃え広がる炎。
揺らめく紅炎が激しさを増し、熱波が額に汗を滲ませる。
そんな中、互いの息遣いが聴こえる程の距離で相対をしていた元17団士と現16団士――。
父を殺害された娘を守る形での登場になったクルーイル。
僚友であったビスタの普段の性格を知り尽くしていた彼の脳内では、たった今行われていた蛮行について解せない点が幾つも存在していたのだった。
「――俺を、誰だ? だと……?」
相手の腕を掴んだままクルーイルが問い返す。
対するビスタは、腕を掴まれながらも不気味な笑みを絶やさない。
「ははっ、冗談だよ。冗談! えーっと、クルーイルだっけ? とりあえずさ、そんなに強く掴まないでよ。痛いじゃんっ」
言動の端々に違和感が散りばめられ、今すぐ問い質したい。しかしこの至近距離での均衡が続くのは好ましくないと判断した彼は、掴んでいた腕を素直に離す。
「く……クルーイル様……」
ビスタの足元にいるのは脳天を貫かれずに済んだ娘。
父の亡骸を抱えたまま、目を赤く腫らせていた。
喉元から今も溢れ出ている父親の大量の血液が、彼女の白い服を真っ赤に染める。
それでも気に留めることなく悲嘆に暮れている娘に、クルーイルは声を掛ける。
「大丈夫か?」
「はい。でも、お父さんが……お父さんが……」
その返答と共に、枯れかけていた涙腺に再び水分が集まり娘は嗚咽する。
クルーイルはしゃがみ込み咽び泣く娘の肩に手を置き、優しく、力強い口調で言う。
「君のお父さんは君を守って死んだんだ。だから君は、救われたその命を無駄にしてはいけない。生きるんだ……!」
「…………はい」
その激励の後、クルーイルは娘に避難を促す。
娘もそれに従い、フラフラとした足取りで燃え盛る炎を避けつつ、その場を後にした。
広場を出るか出ないかの辺りで振り返り、感謝の意を表す会釈をする。
だがそれには気付く事ができなかったクルーイル。
既に意識を目の前の相手へと集中させていたのだ。
「……大人しく、見逃してくれたんだな」
「順序の問題だね。先にキミを殺って後からゆっくりあの娘をいたぶれば良いと思っただけさ」
やはりおかしい、とクルーイルは思慮。
動機は不明だが、ゼレスティアへの反逆的行為をとる目の前の彼。
その豹変ぶりは、人格その物が改変されてるとしか思えなかった。
――まるで"何か"に操られているような。
――っ!!
ふと、クルーイルはある一つの仮説に心当たる――が。
心の中を見透かしたかの如く、ビスタ。
脳内で検証しようとするクルーイルに暇を与えず、刃を見せた。
「――っっ!」
逆袈裟の方向に放たれた剣閃。速く、鋭い。
クルーイルは『リーベ・グアルド』を咄嗟に駆使し、回避。
しかし不意を衝かれたせいか、避けきることは敵わなかった。
着ていた黒い皮のジャケットを僅かに刻み、左肩口を血で滲ませてしまう結果となる。
突然の開戦と負傷。
そのまま後ろに飛び退き、追撃を逃れたクルーイル。
すると先刻見繕った長剣を鞘から抜き、受けの姿勢で構える。
だが一方のビスタは深追いをせず、その場から動こうとはしなかった。
(くっ、いきなりか……! しかし、剣の腕は紛うことなくビスタ本人の物だった。それを確認出来たってことは……!)
立てた仮説が、クルーイルの脳内で徐々に信憑性を帯びていく。
しかし、またもその思考を邪魔するかのように、ビスタが今度は左手をやや上方向へ翳し――。
(あの手の向きは……マズい――!)
「――"プロミネート"」
詠唱の直後、クルーイルの頭上に赤い光輪が出現。
数秒のタイムラグ。
本日三本目の火柱が猛スピードで直下。
「――っっ!」
咄嗟に大きく横へ転がり、難を逃れた。
飛び火した炎が石畳から跳ね返り、着ていたジャケットに触れ大きく焦がす。
「くそっ……!」
焦げたジャケットを脱ぎ捨て、上半身が薄手のシャツ一枚になったクルーイルは逡巡とする。
(躊躇いもなく上級火術を放つのは普段のビスタの戦法では有り得ない。そして、やはりこのまま一人で戦うのは流石に厳しいか……!)
錯綜する思考。
やや気乗りはしなかったが、次の一手に懸けることにした。
プロミネートを放ったビスタよりも、右手を真上に翳し――。
「"信号光術"!!」
上空へ向けた掌から、眩い光を放つ光弾が幾つも夜空へ放たれる。
ビスタが、その信号を呆気にとられながら見上げる。
(これで、団士の内の誰かが直ぐに来てくれると良いんだがな……)
淡い期待を抱くクルーイル。
対し、ビスタは構えを解く。
「ねえ、今の術ってどういう意味なの?」
キョトンとした彼の表情からは『本当に知らない』といった様子が窺えた。
「さあ……なんだろうな」
若干の息切れを混じらせ、素知らぬ態度を見せたクルーイル。
しかし――。
「ああ、うんうん、成る程ね。わかったよ」
「…………?」
突然、独り言のような会話。
一人で頷き、返事をするという奇妙な行動。
てっきり自分に向けての質問とばかり思っていたクルーイルはたじろぐ。
そして会話らしきものを終えた彼は、先程のクルーイルと同様に左手を頭上へと高く掲げ、唱える。
「――"ハイリフト"」
(なんだと――!?)
耳を疑うクルーイルを余所に、彼が発射したものと全く同じ色の光弾を上空へと放ってみせたビスタ。
ただ、クルーイルのものと一つだけ決定的に違うのは撃った回数であった。
(……二発だと!?)
二発の光弾は『敵の駆逐の完了』を表す合図。
このサインは団員全てが周知し、ついこの間まで所属していたクルーイルも当然知っていた。
現在こちらに向かっているサクリウス率いる3人の団士は、先程クルーイルが放った『一人では手に負えない相手との遭遇』を意味するサインを便りに、西門広場へと急行をしていたのだ。
しかし今しがたビスタが撃ったサインのお陰で、駆逐が完了したと勝手に判断をされ到着が遅れてしまう可能性が危惧される――。
結果、しばらくは単独でビスタの相手をしなければならない状況に、クルーイルは陥ってしまったのだ。
だが、突如とした奇妙な行動。意味を理解した信号発射。
その事象がもたらした結果によって、絶体絶命である彼の導き出した仮説が完全に確信へと変化することになるのだった。
「ビスタ、お前――」
ゆっくりと、恐る恐ると、まるで自分自身で確認をするかの如く問い掛ける。
「――奪われたな?」
揺らめく紅炎が激しさを増し、熱波が額に汗を滲ませる。
そんな中、互いの息遣いが聴こえる程の距離で相対をしていた元17団士と現16団士――。
父を殺害された娘を守る形での登場になったクルーイル。
僚友であったビスタの普段の性格を知り尽くしていた彼の脳内では、たった今行われていた蛮行について解せない点が幾つも存在していたのだった。
「――俺を、誰だ? だと……?」
相手の腕を掴んだままクルーイルが問い返す。
対するビスタは、腕を掴まれながらも不気味な笑みを絶やさない。
「ははっ、冗談だよ。冗談! えーっと、クルーイルだっけ? とりあえずさ、そんなに強く掴まないでよ。痛いじゃんっ」
言動の端々に違和感が散りばめられ、今すぐ問い質したい。しかしこの至近距離での均衡が続くのは好ましくないと判断した彼は、掴んでいた腕を素直に離す。
「く……クルーイル様……」
ビスタの足元にいるのは脳天を貫かれずに済んだ娘。
父の亡骸を抱えたまま、目を赤く腫らせていた。
喉元から今も溢れ出ている父親の大量の血液が、彼女の白い服を真っ赤に染める。
それでも気に留めることなく悲嘆に暮れている娘に、クルーイルは声を掛ける。
「大丈夫か?」
「はい。でも、お父さんが……お父さんが……」
その返答と共に、枯れかけていた涙腺に再び水分が集まり娘は嗚咽する。
クルーイルはしゃがみ込み咽び泣く娘の肩に手を置き、優しく、力強い口調で言う。
「君のお父さんは君を守って死んだんだ。だから君は、救われたその命を無駄にしてはいけない。生きるんだ……!」
「…………はい」
その激励の後、クルーイルは娘に避難を促す。
娘もそれに従い、フラフラとした足取りで燃え盛る炎を避けつつ、その場を後にした。
広場を出るか出ないかの辺りで振り返り、感謝の意を表す会釈をする。
だがそれには気付く事ができなかったクルーイル。
既に意識を目の前の相手へと集中させていたのだ。
「……大人しく、見逃してくれたんだな」
「順序の問題だね。先にキミを殺って後からゆっくりあの娘をいたぶれば良いと思っただけさ」
やはりおかしい、とクルーイルは思慮。
動機は不明だが、ゼレスティアへの反逆的行為をとる目の前の彼。
その豹変ぶりは、人格その物が改変されてるとしか思えなかった。
――まるで"何か"に操られているような。
――っ!!
ふと、クルーイルはある一つの仮説に心当たる――が。
心の中を見透かしたかの如く、ビスタ。
脳内で検証しようとするクルーイルに暇を与えず、刃を見せた。
「――っっ!」
逆袈裟の方向に放たれた剣閃。速く、鋭い。
クルーイルは『リーベ・グアルド』を咄嗟に駆使し、回避。
しかし不意を衝かれたせいか、避けきることは敵わなかった。
着ていた黒い皮のジャケットを僅かに刻み、左肩口を血で滲ませてしまう結果となる。
突然の開戦と負傷。
そのまま後ろに飛び退き、追撃を逃れたクルーイル。
すると先刻見繕った長剣を鞘から抜き、受けの姿勢で構える。
だが一方のビスタは深追いをせず、その場から動こうとはしなかった。
(くっ、いきなりか……! しかし、剣の腕は紛うことなくビスタ本人の物だった。それを確認出来たってことは……!)
立てた仮説が、クルーイルの脳内で徐々に信憑性を帯びていく。
しかし、またもその思考を邪魔するかのように、ビスタが今度は左手をやや上方向へ翳し――。
(あの手の向きは……マズい――!)
「――"プロミネート"」
詠唱の直後、クルーイルの頭上に赤い光輪が出現。
数秒のタイムラグ。
本日三本目の火柱が猛スピードで直下。
「――っっ!」
咄嗟に大きく横へ転がり、難を逃れた。
飛び火した炎が石畳から跳ね返り、着ていたジャケットに触れ大きく焦がす。
「くそっ……!」
焦げたジャケットを脱ぎ捨て、上半身が薄手のシャツ一枚になったクルーイルは逡巡とする。
(躊躇いもなく上級火術を放つのは普段のビスタの戦法では有り得ない。そして、やはりこのまま一人で戦うのは流石に厳しいか……!)
錯綜する思考。
やや気乗りはしなかったが、次の一手に懸けることにした。
プロミネートを放ったビスタよりも、右手を真上に翳し――。
「"信号光術"!!」
上空へ向けた掌から、眩い光を放つ光弾が幾つも夜空へ放たれる。
ビスタが、その信号を呆気にとられながら見上げる。
(これで、団士の内の誰かが直ぐに来てくれると良いんだがな……)
淡い期待を抱くクルーイル。
対し、ビスタは構えを解く。
「ねえ、今の術ってどういう意味なの?」
キョトンとした彼の表情からは『本当に知らない』といった様子が窺えた。
「さあ……なんだろうな」
若干の息切れを混じらせ、素知らぬ態度を見せたクルーイル。
しかし――。
「ああ、うんうん、成る程ね。わかったよ」
「…………?」
突然、独り言のような会話。
一人で頷き、返事をするという奇妙な行動。
てっきり自分に向けての質問とばかり思っていたクルーイルはたじろぐ。
そして会話らしきものを終えた彼は、先程のクルーイルと同様に左手を頭上へと高く掲げ、唱える。
「――"ハイリフト"」
(なんだと――!?)
耳を疑うクルーイルを余所に、彼が発射したものと全く同じ色の光弾を上空へと放ってみせたビスタ。
ただ、クルーイルのものと一つだけ決定的に違うのは撃った回数であった。
(……二発だと!?)
二発の光弾は『敵の駆逐の完了』を表す合図。
このサインは団員全てが周知し、ついこの間まで所属していたクルーイルも当然知っていた。
現在こちらに向かっているサクリウス率いる3人の団士は、先程クルーイルが放った『一人では手に負えない相手との遭遇』を意味するサインを便りに、西門広場へと急行をしていたのだ。
しかし今しがたビスタが撃ったサインのお陰で、駆逐が完了したと勝手に判断をされ到着が遅れてしまう可能性が危惧される――。
結果、しばらくは単独でビスタの相手をしなければならない状況に、クルーイルは陥ってしまったのだ。
だが、突如とした奇妙な行動。意味を理解した信号発射。
その事象がもたらした結果によって、絶体絶命である彼の導き出した仮説が完全に確信へと変化することになるのだった。
「ビスタ、お前――」
ゆっくりと、恐る恐ると、まるで自分自身で確認をするかの如く問い掛ける。
「――奪われたな?」
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