PEACE KEEPER

狐目ねつき

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Brotherhood

38話 説得

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 双剣アルヘンブランを抜き本気を出すと意気込んだサクリウスの本来の実力というのは、生前のビスタやクルーイルのそれとは比べ物にならない程強い。
 雷術を駆使した近接特化型の戦闘スタイルは、白兵戦に於いて下位団士(※序列が12~17の団士を指す)で右に出る者は居ないとさえ言われていた。

 ビスタ一人では倒す事が出来なかった中位魔神。
 それをサクリウスは単独でこれまで何体も撃破をしてきたという実績が、実力を裏付ける要因として最も分かりやすい例だろう。
 まだ24歳と、伸び盛りの彼のポテンシャルを疑う声は未だ挙がったことがない。

 そんな彼が親衛士団に入団してから早二年。
 四半世紀も生きていない彼の人生史上で最も死の淵に瀕した状況が、たった今訪れていたのだ――。


◇◆◇◆


 頭一つ分以上も身長が低い少年に蹂躙され、石床に倒れる第13団士――。
 
 少年は右の足をサクリウスの腹部に乗せ、そのまま足裏に力を込める。

「――ぐっ、痛っでっ……!」

 踏み抜こうとする足を両手で押さえ付け、必死に退かそうと試みるサクリウス。
 万力で少しずつ力を加えるように肋骨が軋んだ音を響かせ、その顔を苦痛に歪ませる。
 脚部の筋量は単純に見積もっても腕の4、5倍はある上に、重力に抗う形での力関係となったこの状態。
 当然の如く、その抵抗は悪あがきにしかならなかった。


(くそっ……ホント今日はなんて日だよ……。任務で変なガキになつかれるわ。その任務が終わったと思ったら今度はクソッタレビ○チのオリネイのせいでバズムントには叱られるわ。説教の後には慣れねー作戦指揮まで任されるわで……。終いにゃその作戦では昼間なつかれたガキにこーやって殺されかけるわ、ってどんな短いサイクルでの因果なんだっつーの……!)

 踏みつけられながら、まるで走馬灯のように物凄い早さでの思考を紡ぐサクリウス。

(あー痛てーな畜生っ! ……こーなったら作戦変更するしかねー。気は進まねーがもうこれしか今できることはねーしな)

 そう判断した、というよりは"せざる"を得なかった彼がとった策とは――。



「……よう、アウリスト、だったっけか?」

 初めて少年の名を呼んだサクリウス。
 呼ばれた少年は聞こえてないかのように無表情を絶やさず、踏む力を毛程も緩めてくれない。
 しかし彼は諦めず言葉を続ける。

「オレは別にな、ビスタを殺した事やクルーイルをオマエが殺したかどーかで、オマエをツメるつもりはぇ」

 "クルーイル"という固有名詞に、再び少年の目付きが変化を見せる。
 怒りにより力が上乗せされるが、サクリウスは更に続けた。

「ぐっ……。だけどな……オマエが今やっている行いは、あそこでくたばってるオマエの兄貴が……果たして望んだ、行動なのか……ってオレは言いてーんだよ……!」

「――っ!」

 何かに気付いたように目を見開き、表情にも変化を見せた少年。
 踏みつける力も僅かに弱まり、明らかにサクリウスの言葉が影響しているのが窺えた。
 サクリウスはチャンスだと言わんばかりに畳み"訴え"掛ける。


「オレはな、クルーイルアイツの事は元々好きでもなんでも無かったし、どちらかと言えば嫌いなヤツだったよ。でもな、二年一緒に仕事してアイツという人間の性格っていうのがどんなモンかを、オマエと同じくらい解ってるつもりなんだ、よ……」

 言葉を紡げば紡ぐほど、それに比例して力が緩んでいく。

「堅物で、チキン野郎で、クソが付くほど真面目で、えークセにいつも偉そーなヤツだったけどよ……。この国を守りたいって気持ちだけは誰よりも強かったんだ。そんなアイツが今のオマエを見たら何て言うか、オレが言わなくても分かるだろ――アウル?」

 
 最後に愛称で名を呼ぶ頃には少年が踏みつけていた足には完全に力が働いていなく、ただ乗せているだけの状態となっていた。
 そしてこれが意味するのはサクリウスの作戦が見事、成功したということだったのだ――。


「あ……あ、あああぁあぁああぁあああぁぁっっ――っ!」

「!?」

 込み上げる感情。抑制もままならず。
 アウルは叫び声と共に、頭を抱えながら狼狽する。
 その狼狽はやがて発狂へと変化。頭を無茶苦茶に掻き回し、両手で顔面を思い切り掻きむしり始める――。
  


「……おいおい、これってやべーんじゃ」

 この容態へ導いた張本人のサクリウスでさえ、ここまでの精神的ダメージを与えられるとは露ほども思ってはいなかった。
 拘束から解かれて立ち上がることはできたが、どう対処すればいいかわからず。

 爪で引っ掻き回した事によって出来た切創が瞬時に癒えていく様や、顔面に現れ出ていた黒線がまだ消えてないことから、魔神としての人格は残っているというのが窺えた。
 少年の精神は現在、人間と魔神の人格の間のジレンマによってパニックを引き起こしていたのだ。


 ――そして、発狂から数十秒が経過したところで、少年は徐々に大人しくなっていく。
 やがて糸が切れた操り人形のようにピタッとその場で静止し、沈黙に至る。

(止まった……!)

 少年から距離を置き、負傷しながらも警戒を怠っていなかったサクリウス。
 その硬直を好機と捉えるや否や――。


「ワインっ! オリネイっ! やれっっ!」

 その指示と共に、アウルとサクリウスを挟むように広場へと潜んでいた二人が、物陰から姿を現した。


「"スレーべ・ペトラン"!」

 初めにそう発したのはワインロック。
 地面に片手を置き唱えた直後、アウルの立っていた石畳があっという間に形状変化。少年の膝から下をみるみる内に覆い、石床と一体化させるように拘束をしてみせた――。


「シャルロアたん、行って!」

 続いて自身の得物に向けて名を呼んだオリネイ。
 その手に握るのは、黄金色の煌めきと所々にスパンコールを輝かせた蛇剣シャルロア
 剣を振ると同時に腕の長さ程の細身の刀身が、鋼線の様な芯で繋がれたまま、生の魚を切り分けたかの如く六枚に分裂。
 5ヤールトは離れていたアウルを鞭に似た動きで襲いかかる――。

 その不規則な軌道の剣撃は、足場を固定されたアウルの服の袖に引っ掛かりを見せる。
 刃先が腕や胸に食い込み、大蛇に巻き付かれたような図で、少年の上半身を捕らえたのだった。

 この広場に到着する前から、予め示し合わせたかのように鮮やかな拘束を見せた男女二人。
 サクリウスは冷や汗を拭き取ると共に、前髪をかき上げて大きく溜め息をつく――。


「ふーーー、拘束完了……ってとこか」


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