PEACE KEEPER

狐目ねつき

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Brotherhood

40話 一件落着?

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「おい……マジかよ? オリネイ……やめろ!」

 土術による拘束によってその場を動けずにいたサクリウス。
 彼の叫ぶ声も虚しく、第15団士オリネイの手による少年への処刑がたった今行われようとしていた。

「サクリウス、悪く思わないでよ……。アンタの為でもあるんだからね……!」

 とどめを刺すよう命じられたオリネイ。
 蛇剣シャルロアを握る手に力を込め、後ろ手に思い切りつかを引く。

 彼女の装備である蛇剣は、内刃が巻き付いた相手の身体に掛かり柄を引いて力を調節することで締め付け、刃が深く食い込んでいくという設計が施されている。
 その為、荒縄を引っ張るかの如く急激に引き寄せると、対象の肉体を一気に締め上げ“切り潰す”事が出来る代物なのだ。


 たわみを見せていた巻き付く部位が、アウルの身体へと食い込み始める。
 しかし、その刹那――。


「「――っ!」」


 ――降り注ぐ隕石が如く、上空から何者かが急降下。
 アウルとオリネイの間へと、両の足で同時に着地。
 ズン、という重たい轟音を着地と共に響かせ、土埃が煙幕のように舞い上がる。
 一体何が起きたのか、三人の団士はすぐに判断出来ずにいた。

「……えっ? 嘘でしょ!? ア、アタシのシャルロアたんがぁっ!」

 オリネイが悲鳴を混じらせ驚く。
 言い終えたと同時、蛇剣の刃は意思を失ったかのように、ガシャンと無機質な音をたて石畳へ落下を見せる。

 そして土埃は徐々に晴れ、空から落下してきた人物の正体が露わとなっていく。

 その人物は、小柄で華奢な身体には似つかわしくない身の丈以上の長さを持つ大剣を、兜を叩き割るように上空から振り下ろし、蛇剣シャルロアの芯となる鋼線を断ち切って見せたのだ。

 サクリウスはその姿を確認し、大きな溜め息をつく。
 そして、"彼女"の名を呼んだ。

「ふー、助かったわ。カレリア」


◇◆◇◆


 再び時間は数刻ほど巻き戻り、ラオッサ街道にて――。

 アムール鉱山で採掘した鉱物や鉄鉱石を運搬し、護衛する任務を行っていたビスタの部隊。
 彼らと中位魔神との戦闘の形跡が色濃く残る現場に、ジェセルとカレリアが足を踏み入れる。

 二人はここで何が起こったのか、詳細をすぐに把握することは出来なかった。
 ただ兵士達の死体が彼方此方あちらこちらと散乱している為、運搬中に敵と遭遇し襲撃を受けたという図だけは容易に想像することが出来たのだ。

「うわぁ……ひどいね」

 カレリアが思わずそう漏らしてしまう程に、現場の凄惨さは残虐を極めていた。
 鋭利な刃物のような物で斬殺されている死体。
 首と胴体が離れてしまっている死体。
 白骨を覗かせる程に体の一部が溶解している死体。
 その数々の遺体は、団士として歴戦を潜り抜けた彼女らですら目を覆いたくなるような有り様のものばかりだった。

「…………」

 まだ敵が潜んでいないか警戒をしつつ、死体一つ一つの身元を探る二人。
 するとジェセルの先を歩いていたカレリアが、とある一人の亡骸を確認しその場へとしゃがみ込む。

「カレリア、どうしたの……っ!?」

 突如としてしゃがみ込んだ彼女に向けて尋ねたジェセルだったが、死体を見下ろす形で覗き込み言葉を失う。


「このオヤジ、いつも私にセクハラまがいの発言ばっかしてて大ッ嫌いだったんだけどさ……。面倒見は良かったし、良い腕してたのに……なんで死んじゃうのよ」

 眠るように横たわるそれは、片足と下腹部が溶解し、臓物が零れ出ていたケルーン・ノーエストの遺体であった。

「彼がやられるなんて……」

 兵士の中でも指折りの実力者として鳴らしていたケルーンが死亡した事実に、ジェセルは驚愕を見せるに留まる。
 しかしカレリアにとっては同じ大剣士として一目置いていた存在だったため、ジェセルに比べて特に彼の死を悼んだのだ。

「カレリア、悲しむ気持ちはわかるけど今は調査を優先させなきゃダメよ。さあ、立って」

「……うん」

 肩をポンと叩き、慰めるように専心を促すジェセル。
 カレリアが力ない返答と共に立ち上がる。


「――死因がバラバラな所を見るに、どうやらビスタ達は魔神族に出くわしたようね」

 全ての死体の確認がまだ済んではいないが、ジェセルはそう推測した。
 魔物だと攻撃手段が限られてくるため、ここまで多様な殺害方法は無理だろうと踏んだのだ。
 カレリアもそれに同調し、推測を続けた。

「そうかもね……。ただ、魔神の姿が無いってことはビスタがもう倒しちゃったのかも」

 ビスタ達によって撃退された中位魔神の屍がこの場に無い理由。それは、魔神族とは高密度のマナによって形成されたガス状のエネルギー体であり、生命機能が停止すると共に肉体が跡形も無くこの世から消え去るのが性質となっていたからである。

「あの子は元々中位魔神を倒せるほどの潜在能力はあった。大方、ケルーンを含んだ兵士達の犠牲は避けれなかったけど、なんとか倒し……ゼレスティアに帰還したってところかしら」

 ジェセル達がそう推測を終え、残っていた兵士の亡骸を確認しようとしたその時だった――。



「――ジェ……セル、さ、ま……」

「「――!?」」

 今にも消え入りそうな程の微かな声が、二人の耳に届いたのだ。

「今のは……?」

「ジェス、あそこ!」

 声の主を特定しようとキョロキョロと辺りを見回すジェセルに、先に発見したカレリアが指を差して伝える。
 そしてその指の先に居たのは――。

「マックル!?」

 血溜まりへと沈むように横たわる、マックル・ワレリオの姿がそこにあった。


◇◆◇◆


「……成る程な。"サイケデリック・アカルト"にかかってたのはビスタの方だったんだなー」

 土術による拘束が続いたままのサクリウスが、頷きながら納得を見せる。
 西門を開き、傷付いたマックルに肩を貸しながら入ってきたジェセルから全ての経緯を説明された団士三人。
 現在は広場でジェセル達を含ませ、気を失ったままのアウルを囲うように事件の辻褄を合わせる為の情報交換をしていた。


「おーい、ワイン。いい加減コレ解いてくれよ」

「……そうだね。すまなかった、サクリウス」

 要求を受けたワインロック。
 パチンと指を鳴らし術を解除させ、サクリウスの両大腿を抑えていた石をサラサラとした砂に変えて見せた。
 だが彼は素直に解除はしてみせたが、一段落したにも関わらず笑顔は零さない。心なしか、不満気な表情を覗かせていた。

「不服そうね。ワインロック?」

 その僅かな機微を唯一感じ取ったジェセル。
 機先を制すように問い掛ける。

「魔神族であるその子を生かそうって言うんだ。僕にはその結論が少し理解出来なくてね」

 薄笑みを浮かべ、悪びれもせずに率直な意見をワインロックが述べる。

「"魔神族の殲滅"は私達、親衛士団にとっての至上命題。貴方のその考えは確かに正しい。でも、このコは魔神族である前に人間でもあるの。正体が不明瞭なままそれを無闇に殺めるのは道理に反しているわ」

「そう……だね。キミの方が正しいよ」

 正論を上回る正論で説き伏せられてしまったワインロックは、アウルの拘束も同様に解除した。
 するとそのまま、団士達の輪から離れ王宮方面へと歩を進め始める。

「よっ……と! おいワイン、どこへ行くんだ?」

 捕縛から解かれバランスを失いその場で倒れそうになるアウルを受け止めたサクリウスが、場を後にしようとする男の背中に問う。

「なんか疲れちゃったから先に王宮に戻らせてよ。バズムントには先に報告を済ませておくからさ、いいでしょ? ジェセル」

 そう返し、この場では最高序列となるジェセルの許可を仰ぐ。

「いいわ。ただくれぐれも――」

「虚偽の報告はしないように、でしょ? 安心してよ。僕がウソを嫌うのはみんな知ってるよね。それじゃ、おやすみ」

 甲を見せながらヒラヒラと手を振り、一足先に彼は帰還した。

「ジェス、先に行かせていいの?」

 隣にいたカレリアが耳元で囁き。

「いいのよ。彼にも信念って物があるし気持ちはわからないでもないわ」

 ジェセルが小声でそう返した。


「そんなことより! アタシのシャルロアたん壊した落とし前はどうやってつけんのよ!」

 二人に割って入ったのはオリネイ。キツめの化粧が更にキツく見える程に不機嫌な面持ちだ。
 愛"剣"を壊した張本人であるカレリアの背後に立ち、ヒステリックに喚き散らす。

「いやぁ、オリネイちゃんゴメンねぇ。でもあれだけ切羽詰まった状態だとああやって止めるしかなかったのよぉ」

 振り向きオレンジカラーの髪をポリポリと指で掻きながら、年下のオリネイの機嫌をとるが――。

「はんっ、そんなガサツなやり方しか出来ないからいつまで経っても男ができないんだよ! その学士みたいな貧相なカラダのように節度ってものを覚えなさいよ!」

「な、なによその言い草は! 人が優しく謝ってやってるってのに! それに、私はアンタみたいに男にだらしなくないからちゃんとした相手を探してるんですー!」

「ぷぷぷ……そう言ってますけどカレリアちゃんこの前マルロスローニ家との懇親会で一緒にお酒飲んだ時、王子達に気に入られようと陰で必死に媚売って甘えてたの忘れちゃったのー?」

「な、なんでアンタがそれ知ってんのよ!? それ誰かに言ったらタダじゃおかないんだからね!」

「タダじゃおかなかったらなんだっていうのよ、アラサーのくせに!」

「年齢は関係ないでしょ!? それにアラサーちゃうわ! ジャストクォーター(※25歳の意)って呼びなさいよ!」

「何ソレ? 往生際が悪いんだよ! 貧乳!」

「言ったわねー!? クソビ◯チ!」



「な、なんて醜い争いだ……! 止めなくていいのだろうか……」

 ジェセルの治癒術のお陰でなんとか一命を取り留めたマックル。
 目の前で繰り広げられている女団士二人の口論を遠巻きに眺め、思わず言葉を漏らしてしまう。

「あー、もうああなっちまったらオレらには止めらんねーよ。つーかマックル。その身体、傷は塞いだだけで完治じゃねーんだろ? あんま無理すんなよ」

「サクリウス様……」

 アウルを抱えながら、逸るマックルをサクリウスが諭す。
 彼が言ったように、確かにマックルの傷はジェセルの高度な治癒術によって完全に塞がれてはいた。
 しかし流れた血が戻ってくることは敵わないので、実際は上等な応急処置程度のものだったのだ。

「しっかし、オマエよく生き延びれたなー? 何ヵ所も切られたり貫かれたりした状態でどうやって何十分も助けを待つことが出来たんだよ?」

 純粋な疑問を投げ掛けられ、マックルは答える。


「……風術ですよ。空気の栓で傷を塞ぎ、出血を最小限に抑えました。助けが来るまでマナが持つかどうかの瀬戸際でしたけど、何とか助かりましたよ」

「なーるほど……ってマジかよ。オマエも魔神に劣らず中々に反則なのな」

 想像以上の荒業にサクリウスはたじろぐ。
 そんな彼を横目に、マックルは続けた。

「ただ、そんな風術を持ってしてもビスタ様は救えませんでした……」

「マックル……」

「俺は、一人で戦おうとするビスタ様の命令に素直に従ってしまい、戦場から退却してしまったんです。最初から全員で共に戦っていれば……ビスタ様はもちろん、ケルーン達も生き残れたかもしれなかった……! こんな俺だけが……生き残ってしまって、ケルーンアイツとビスタ様に向ける顔がありません……!」

 静かに涙を流し、自身の未熟さをマックルが悔いる。
 それに対し、サクリウスは。

「オマエは思い上がり過ぎだっつーの。"責任感"っていう言葉が実体化したよーなビスタの事だ。どーせ“一緒に戦おう”って提案しても却下されたんだろ?」

「まあ……そうなんですが」

「だったらそれはビスタのミスだ。オマエが思い詰める事じゃねー。オレ達団員は任務の成功が最優先でなきゃダメなんだ。部下の命なんて二の次、って思う程にな。それをアイツは一人で抱え込んじまって一人で戦うことを選んだんだ。死んだヤツに対して冷たい事言っちまうかもしれねーが、アイツには団士としての心構えがなっちゃいねーって事だったんだよ」

「…………」

 ビスタと同じ団士からの冷酷な物言いに、マックルの精神は沈んだままだったが――。

「……でもよ。結果はどーであれ、オマエだけが生き延びたんだ。だったらアイツの意志を生き残ったオマエが継ぎ、アイツが成し遂げられなかった"部下の命を守る"っていう役目をマックル……オマエがこれから担えば良い。それが一番、死んじまったビスタが喜ぶ事なんじゃねーのか?」

「……っ!」

 サクリウスの言葉は、マックルの鬱屈した精神を払い除けてみせた。
 その様子を窺いサクリウスが、今度は笑顔で一言だけ告げる。

「――な、マックル?」

「はい……!」

 その瞳からは既に涙は流れていなかった。

(……なーんか、今日はこーやって宥める役回りばっかやってる気ぃすんなー。ま、いっか)



 その後、カレリアとオリネイの喧嘩の仲裁を終えたジェセルの指示のもと、5人は作戦室へと帰還しバズムントに報告を終えた。
 クルーイルとビスタの亡骸は報告の後、戦死した兵士や被害に遭った市民と同時に直ぐ様回収が為され、2日後に合同葬儀が執り行われた。

 アウルの処遇についてはバズムントを含んだ団士6人で決めることは敵わず、外交任務に出払っているヴェルスミスの帰還を待ち、方針を仰ぐことに決定した――。




 ――運命の二日間を乗り越えたアウル。
 現在は気を失っているため、思い巡らす事も、葬儀に参列することすら叶わない。

 兄との再開に始まり、和解を経て、約束が果たされぬまま迎えた兄の死――。
 心に一生消えぬ傷を刻んだその出来事は、少年を取り巻く環境にも多大に影響を与えるだろう。

 そして、平凡に暮らしていた筈の少年の運命は、この二日間を境にして劇的に揺れ動く事になるのであった。

 転ぶ先は希望か、絶望か――それはまだ誰にもわからない。
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