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The 3 days
44話 カレリア・アネリカ
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「え? カレリア……さんが俺のこと助けてくれたの?」
「そうだよー? 感謝してよねぇ? もう少し遅かったらアウルくんの身体はズタズタに引き裂かれて、二度と目覚める事は無かったんだから。あとそれとっ、"さん"付けはしなくていいって。気安くカレリア“ちゃん”って呼んでよ」
「わかったよ……って、ちゃん!?」
病院の入り口となる門を出たアウルとカレリア。
二人は肩を並べ、北地区であるドメイル市内を歩いていた。
アウルが入院していた病院は、ゼレスティア軍の兵が負傷した際、真っ先に運ばれる軍御用達の総合病院。
腕の良い医士と設備が、国内で一番揃っている医療施設だったのだ。
その病院があるドメイル市は、国内でも比較的治安が良く、貴族階級や資産家達が住まうハイソサエティーな街として知られている。
建ち並ぶ家々も未だブロック造・木造建築が多いゼレスティアでは珍しい、鉄骨を用いた建築スタイルが主で、家というよりは"屋敷"と呼ぶに相応しい大きな住まいが多く建つ。
中心街となる第2地区は、20代の若者に大変人気な繁華街となっていて、高級なバル(※料理店や酒場の総称を指す)や美術館、劇場などが建ち並び、国内で最も栄えていると言っても過言では無い。
全身を襲う筋肉痛のおかげで、老人のようにゆっくりと歩くことしかできないアウル。そのペースに合わせるよう、カレリアも隣を歩く。
現在二人は前述したドメイル市の第2地区を通り掛かっていたところだ。
グラウト市以上に人で溢れ、街中に紅茶の様な華やかな匂いが微かに香り、赤茶色のレンガ模様の石畳が印象的な街並みはアウルの目へと新鮮に写った。
「へえ、カレリア……ちゃんはドメイルの生まれなんだ?」
「そうよ。私のお父さんはね、ここ“ミレイノ”でとっても人気な劇場の座長さんなんだよ。あ、ミレイノって言うのは第2地区の通称で、若い子達はみーんなそう呼ぶしここで遊ぶのよ。アウルくんも覚えとかないと将来女の子にモテないぞー?」
楽し気に話す彼女はからかうようにアウルの頬をつんつんと突く。
服と同じパステルカラーに染まった爪が刺さり、地味に痛い。
噴水前で損ねていた彼女の機嫌は、いつの間にか直っていたようだ。
「んで、お母さんはね。もう引退しちゃってるんだけどその劇場でいっちばん人気があった女優さんだったんだ。でね、二人が付き合った当時はまだお父さんが駆け出しの舞台演出家で、お母さんの方は新人女優だったの。ねえ、スゴくない? お父さんは優れた脚本でカノジョを引き立たせて、お母さんは美貌と名演技で客を集めてカレシを売れっ子脚本家にしたのよ! そういうロマン溢れる恋愛、私あこがれちゃうなぁ」
(よ、良く喋る人だなぁ……)
自分の両親の恋愛談を語りながら目を輝かせる彼女。
アウルは特に不快感を覚える事は無かったが、同じく多弁であるワインロックとは似ているようで別種な面倒臭さを覚えてしまう。
「お父さんとお母さんのこと、好きなんだね」
「んー? 当ったり前でしょ。アウルくんもお父さんとお母さん、好きでしょ?」
それは彼女にとって何気ない質問だった。
しかし少年の足が止まり、表情が重く変化をしていく瞬間を見たところで、カレリアは即座に後悔を覚える。
「母さんは……俺が5歳の頃に死んで、よく覚えてないし、親父は……ほとんど会話もしてなかったから、好きか嫌いかも――」
「ゴメン! 忘れて、今の質問! ほ、ほら早くアウルくんのお家行こ! ね?」
言葉を遮り両の手をパンッ、と合わせ頭を下げるカレリア。
ただアウルの面持ちは重たいままで、和やかだった散歩のムードはたった一つの質問によって脆くも崩れ去ってしまったのだった。
(くっそぉ……私のバカぁ! せっかく気まずくならない様に気ぃ遣って明るく振る舞ってたのに……! こんなことになるんだったらヴェルスミスのパーソナルな面を予め探っとくんだったわ……)
脳内でカレリアが失敗を嘆く。
重たくなってしまった雰囲気は、その後も好転の兆しすら見せる事はなかった。
◇◆◇◆
二人はそれから4時間程歩いたところでアーカム市に入り、アウルの自宅前まで着いた。
(ふー、ヒールでこんなに歩いたの初めてよ……。仲良くなるために歩きながら向かった方が良いって判断は完全に失敗だわ……。素直に馬車呼んどくんだった)
やる事為す事全てが裏目に出てしまっているカレリアは、本日何度目かの後悔。
落ち込んだまま、アウルの後に続き家の門に入る。
「こんなに広いお庭があるなんて、アウルくんは結構良い家に一人で住んでるんだね。でもどうしてアーカム市に住んでるの? ヴェルスミスくらいの戦士なら稼いでる額も法外でしょうに」
庭に足を踏み入れ、キョロキョロ見回しカレリアは率直な感想を述べた。
一足先に玄関前へ足を運んでいたアウルは、振り向いて答える。
「どうしてかは俺には分かんないよ。親父に聞いてみたら?」
機嫌が悪い訳では無いのだろうが、明らかに冷めた態度のアウル。
謝罪をしたとは言え、先刻の質問から完全に会話は弾まなくなってしまっていた。
(素っ気なぁーい! でも諦めちゃダメよカレリア! 間を……間を持たせなきゃ……)
話のネタになる何かが無いか、とカレリアは注意深く敷地内を観察。すると――。
「……アウルくん? あそこの端っこにある、あれは何?」
何かを見付ける事に成功したカレリア。
緑の芝が生い茂る庭の端。そこにポツンと立つ、杭の如く地面に刺さったままの、1ヤールト程の長さの白い木で造られた十字架へと指を差して尋ねる。
「ああ、あれね。母さんの墓だよ」
(――やっちまった!)
「ピースキーパー家は昔からの風習で、家族の墓を庭にも建てるって倣わしが――」
「うん、わかった! ゴメンナサイ!」
先程の謝罪よりも素早く遮り、素早く謝罪をする。
ものの数時間でここまで頭を下げる団士は他に居ないだろう。
「別に良いんだけどね。家に墓なんて普通誰もが珍しいって思うだろうし」
「そういうことじゃなくて! その……私が軽率過ぎたわ。さっきの質問もそうだけど……何か話題を拡げればアウルくんの気も紛れるんじゃないかって思って咄嗟に……」
しおらしい表情を浮かべ、反省の弁を述べる彼女。
「なに、カレリアちゃん。そんな事気にしてたの?」
カレリアの意図とは別に、アウルは笑みを零す。
「そんな事って……! アウルくんのお兄さん……クルーイルが亡くなったんでしょ? 悲しくな――」
気遣いを袖にされた気がした彼女が声を荒げる。
しかし少年の表情に現れた変化に、言葉を詰まらせてしまう。
「……俺なら大丈夫だよ。兄貴と約束したんだ。もう泣かないって」
病室でジェセルに見せた時と同様、覚悟と決意に満ちた眼を覗かせるアウル。
カレリアは敢えなく気圧されてしまう。
(この子まだ15歳でしょ……? なんて気迫なの……!)
彼女は狼狽えるが、アウルは一転して普段の表情へと立ち戻る。
「それとさ、カレリアちゃん。俺の機嫌が悪く見えるんだったらそれは他に原因があると思うよ?」
「え? どういうこと?」
気を悪くさせた要因が、先程の質問以外に心当たりがないカレリア。素直に疑問を唱える。
「わかんない? それだよ――」
そう言いアウルは、カレリアの顔面に向けて指を差す。
「……え? 私の顔?」
女性にとっての尊厳その物である顔を指された事により、多大なショックをカレリアが覚えたかけるが――。
「違うよ! そのマスクだよ!」
「マス、ク……?」
アウルが指していたのはカレリアの顔ではなく、掛けていた黒いマスクの方だった。
「そう、それ。もしかしてさ、魔神族の住んでる家の空気なんて吸いたくないって思って付けてるの?」
「ちがっ、これは――」
即座に否定をしようと思ったが、押し黙ってしまう。
(んん……ホントは、10個も年下の子供と歩いてて知り合いにばったり出くわしちゃったら何言われるかわかったもんじゃないから……っていう理由で付けてたんだけど……。それに今日、なんか肌の調子もあんまり良くないし……出来ることなら見られたくないんだよなぁ……)
「もしかして図星? わかったよ、じゃあ窓開けて風通しは良くしとくし俺は二階から出来るだけ降りないようにするからさ、それでいいよね?」
「……っ!」
説明を躊躇するカレリアに対し、アウルはからかうように問い詰めた。
しかしそれが、気を使っていた事へのストレスとその態度に苛々とし始めていた彼女の逆鱗に触れてしまう。
「……あーもーうっさいわねぇ! 大人舐めてんじゃないわよっ! ガキのクセにっ!」
「……へ?」
掛けていたマスクを正面から無理矢理引っ張って外す。
そのままずかずかとアウルとの間合いを詰、目の前に立つ彼女。
アウルよりも10アインク程も身長が小さいため、下手から見上げる形で睨みを利かせる彼女。少年は動揺を見せ、態度を改める。
「ご……ゴメン。ちょっと調子に乗っちゃった。マスク取ってくれたんだ、ありがとう……」
「……目、閉じなさいよ」
「えっ?」
「閉じなさいよ」
言い様のない迫力に圧されてしまったアウルは、言われるがままに両目を閉じる。
(なんだ……何をするつもりだ……!?)
視界に拡がる闇の中、アウルは怯えながらも警戒をする。
当然殴られても良いように、歯も食い縛っておく。
(……っ?)
右頬に何かが当たる感触がした。
しかしそれは、固い拳の感触ではなくもっと柔らかくて小さい何かが――。
「……これで納得できた?」
「えっ?」
右方向から唐突に聞こえたカレリアのその言葉によって、いつの間にか事が済んでいたとアウルは判断する。
目を開くと視界が鮮明に映り、いつの間にか自身の右隣に立っていた彼女。アウルは柔らかな感触があった右頬をさすりながら問う。
「今、何を……?」
「はぁ? なにシラ切ってんの? それとも口にじゃないと納得できないってワケ?」
それだけを聞くことで、アウルは充分に理解してしまった。
(今のってもしかして……。き、キ……!)
「最近の子はマセてんのね。ま、口になんてしてやらないけど。私もさ、仕事で3日間一緒に居なきゃだしアウルくんが魔神だろうがそうじゃなかろうが仲良くするつもりでここに来てるの。だからさ、アウルくんも仕事だと思って仲良くしてよね! いい?」
「う、うん……わかったよ」
説教混じりに諭すカレリア。
アウルは動揺をまだ隠しきれずにいた。
しかし――。
「あ、カレリアちゃん」
「なによ……?」
「ニキビ……あるよ」
「~~~~~~っっ!!」
再入院にはならずに済んだ。
「そうだよー? 感謝してよねぇ? もう少し遅かったらアウルくんの身体はズタズタに引き裂かれて、二度と目覚める事は無かったんだから。あとそれとっ、"さん"付けはしなくていいって。気安くカレリア“ちゃん”って呼んでよ」
「わかったよ……って、ちゃん!?」
病院の入り口となる門を出たアウルとカレリア。
二人は肩を並べ、北地区であるドメイル市内を歩いていた。
アウルが入院していた病院は、ゼレスティア軍の兵が負傷した際、真っ先に運ばれる軍御用達の総合病院。
腕の良い医士と設備が、国内で一番揃っている医療施設だったのだ。
その病院があるドメイル市は、国内でも比較的治安が良く、貴族階級や資産家達が住まうハイソサエティーな街として知られている。
建ち並ぶ家々も未だブロック造・木造建築が多いゼレスティアでは珍しい、鉄骨を用いた建築スタイルが主で、家というよりは"屋敷"と呼ぶに相応しい大きな住まいが多く建つ。
中心街となる第2地区は、20代の若者に大変人気な繁華街となっていて、高級なバル(※料理店や酒場の総称を指す)や美術館、劇場などが建ち並び、国内で最も栄えていると言っても過言では無い。
全身を襲う筋肉痛のおかげで、老人のようにゆっくりと歩くことしかできないアウル。そのペースに合わせるよう、カレリアも隣を歩く。
現在二人は前述したドメイル市の第2地区を通り掛かっていたところだ。
グラウト市以上に人で溢れ、街中に紅茶の様な華やかな匂いが微かに香り、赤茶色のレンガ模様の石畳が印象的な街並みはアウルの目へと新鮮に写った。
「へえ、カレリア……ちゃんはドメイルの生まれなんだ?」
「そうよ。私のお父さんはね、ここ“ミレイノ”でとっても人気な劇場の座長さんなんだよ。あ、ミレイノって言うのは第2地区の通称で、若い子達はみーんなそう呼ぶしここで遊ぶのよ。アウルくんも覚えとかないと将来女の子にモテないぞー?」
楽し気に話す彼女はからかうようにアウルの頬をつんつんと突く。
服と同じパステルカラーに染まった爪が刺さり、地味に痛い。
噴水前で損ねていた彼女の機嫌は、いつの間にか直っていたようだ。
「んで、お母さんはね。もう引退しちゃってるんだけどその劇場でいっちばん人気があった女優さんだったんだ。でね、二人が付き合った当時はまだお父さんが駆け出しの舞台演出家で、お母さんの方は新人女優だったの。ねえ、スゴくない? お父さんは優れた脚本でカノジョを引き立たせて、お母さんは美貌と名演技で客を集めてカレシを売れっ子脚本家にしたのよ! そういうロマン溢れる恋愛、私あこがれちゃうなぁ」
(よ、良く喋る人だなぁ……)
自分の両親の恋愛談を語りながら目を輝かせる彼女。
アウルは特に不快感を覚える事は無かったが、同じく多弁であるワインロックとは似ているようで別種な面倒臭さを覚えてしまう。
「お父さんとお母さんのこと、好きなんだね」
「んー? 当ったり前でしょ。アウルくんもお父さんとお母さん、好きでしょ?」
それは彼女にとって何気ない質問だった。
しかし少年の足が止まり、表情が重く変化をしていく瞬間を見たところで、カレリアは即座に後悔を覚える。
「母さんは……俺が5歳の頃に死んで、よく覚えてないし、親父は……ほとんど会話もしてなかったから、好きか嫌いかも――」
「ゴメン! 忘れて、今の質問! ほ、ほら早くアウルくんのお家行こ! ね?」
言葉を遮り両の手をパンッ、と合わせ頭を下げるカレリア。
ただアウルの面持ちは重たいままで、和やかだった散歩のムードはたった一つの質問によって脆くも崩れ去ってしまったのだった。
(くっそぉ……私のバカぁ! せっかく気まずくならない様に気ぃ遣って明るく振る舞ってたのに……! こんなことになるんだったらヴェルスミスのパーソナルな面を予め探っとくんだったわ……)
脳内でカレリアが失敗を嘆く。
重たくなってしまった雰囲気は、その後も好転の兆しすら見せる事はなかった。
◇◆◇◆
二人はそれから4時間程歩いたところでアーカム市に入り、アウルの自宅前まで着いた。
(ふー、ヒールでこんなに歩いたの初めてよ……。仲良くなるために歩きながら向かった方が良いって判断は完全に失敗だわ……。素直に馬車呼んどくんだった)
やる事為す事全てが裏目に出てしまっているカレリアは、本日何度目かの後悔。
落ち込んだまま、アウルの後に続き家の門に入る。
「こんなに広いお庭があるなんて、アウルくんは結構良い家に一人で住んでるんだね。でもどうしてアーカム市に住んでるの? ヴェルスミスくらいの戦士なら稼いでる額も法外でしょうに」
庭に足を踏み入れ、キョロキョロ見回しカレリアは率直な感想を述べた。
一足先に玄関前へ足を運んでいたアウルは、振り向いて答える。
「どうしてかは俺には分かんないよ。親父に聞いてみたら?」
機嫌が悪い訳では無いのだろうが、明らかに冷めた態度のアウル。
謝罪をしたとは言え、先刻の質問から完全に会話は弾まなくなってしまっていた。
(素っ気なぁーい! でも諦めちゃダメよカレリア! 間を……間を持たせなきゃ……)
話のネタになる何かが無いか、とカレリアは注意深く敷地内を観察。すると――。
「……アウルくん? あそこの端っこにある、あれは何?」
何かを見付ける事に成功したカレリア。
緑の芝が生い茂る庭の端。そこにポツンと立つ、杭の如く地面に刺さったままの、1ヤールト程の長さの白い木で造られた十字架へと指を差して尋ねる。
「ああ、あれね。母さんの墓だよ」
(――やっちまった!)
「ピースキーパー家は昔からの風習で、家族の墓を庭にも建てるって倣わしが――」
「うん、わかった! ゴメンナサイ!」
先程の謝罪よりも素早く遮り、素早く謝罪をする。
ものの数時間でここまで頭を下げる団士は他に居ないだろう。
「別に良いんだけどね。家に墓なんて普通誰もが珍しいって思うだろうし」
「そういうことじゃなくて! その……私が軽率過ぎたわ。さっきの質問もそうだけど……何か話題を拡げればアウルくんの気も紛れるんじゃないかって思って咄嗟に……」
しおらしい表情を浮かべ、反省の弁を述べる彼女。
「なに、カレリアちゃん。そんな事気にしてたの?」
カレリアの意図とは別に、アウルは笑みを零す。
「そんな事って……! アウルくんのお兄さん……クルーイルが亡くなったんでしょ? 悲しくな――」
気遣いを袖にされた気がした彼女が声を荒げる。
しかし少年の表情に現れた変化に、言葉を詰まらせてしまう。
「……俺なら大丈夫だよ。兄貴と約束したんだ。もう泣かないって」
病室でジェセルに見せた時と同様、覚悟と決意に満ちた眼を覗かせるアウル。
カレリアは敢えなく気圧されてしまう。
(この子まだ15歳でしょ……? なんて気迫なの……!)
彼女は狼狽えるが、アウルは一転して普段の表情へと立ち戻る。
「それとさ、カレリアちゃん。俺の機嫌が悪く見えるんだったらそれは他に原因があると思うよ?」
「え? どういうこと?」
気を悪くさせた要因が、先程の質問以外に心当たりがないカレリア。素直に疑問を唱える。
「わかんない? それだよ――」
そう言いアウルは、カレリアの顔面に向けて指を差す。
「……え? 私の顔?」
女性にとっての尊厳その物である顔を指された事により、多大なショックをカレリアが覚えたかけるが――。
「違うよ! そのマスクだよ!」
「マス、ク……?」
アウルが指していたのはカレリアの顔ではなく、掛けていた黒いマスクの方だった。
「そう、それ。もしかしてさ、魔神族の住んでる家の空気なんて吸いたくないって思って付けてるの?」
「ちがっ、これは――」
即座に否定をしようと思ったが、押し黙ってしまう。
(んん……ホントは、10個も年下の子供と歩いてて知り合いにばったり出くわしちゃったら何言われるかわかったもんじゃないから……っていう理由で付けてたんだけど……。それに今日、なんか肌の調子もあんまり良くないし……出来ることなら見られたくないんだよなぁ……)
「もしかして図星? わかったよ、じゃあ窓開けて風通しは良くしとくし俺は二階から出来るだけ降りないようにするからさ、それでいいよね?」
「……っ!」
説明を躊躇するカレリアに対し、アウルはからかうように問い詰めた。
しかしそれが、気を使っていた事へのストレスとその態度に苛々とし始めていた彼女の逆鱗に触れてしまう。
「……あーもーうっさいわねぇ! 大人舐めてんじゃないわよっ! ガキのクセにっ!」
「……へ?」
掛けていたマスクを正面から無理矢理引っ張って外す。
そのままずかずかとアウルとの間合いを詰、目の前に立つ彼女。
アウルよりも10アインク程も身長が小さいため、下手から見上げる形で睨みを利かせる彼女。少年は動揺を見せ、態度を改める。
「ご……ゴメン。ちょっと調子に乗っちゃった。マスク取ってくれたんだ、ありがとう……」
「……目、閉じなさいよ」
「えっ?」
「閉じなさいよ」
言い様のない迫力に圧されてしまったアウルは、言われるがままに両目を閉じる。
(なんだ……何をするつもりだ……!?)
視界に拡がる闇の中、アウルは怯えながらも警戒をする。
当然殴られても良いように、歯も食い縛っておく。
(……っ?)
右頬に何かが当たる感触がした。
しかしそれは、固い拳の感触ではなくもっと柔らかくて小さい何かが――。
「……これで納得できた?」
「えっ?」
右方向から唐突に聞こえたカレリアのその言葉によって、いつの間にか事が済んでいたとアウルは判断する。
目を開くと視界が鮮明に映り、いつの間にか自身の右隣に立っていた彼女。アウルは柔らかな感触があった右頬をさすりながら問う。
「今、何を……?」
「はぁ? なにシラ切ってんの? それとも口にじゃないと納得できないってワケ?」
それだけを聞くことで、アウルは充分に理解してしまった。
(今のってもしかして……。き、キ……!)
「最近の子はマセてんのね。ま、口になんてしてやらないけど。私もさ、仕事で3日間一緒に居なきゃだしアウルくんが魔神だろうがそうじゃなかろうが仲良くするつもりでここに来てるの。だからさ、アウルくんも仕事だと思って仲良くしてよね! いい?」
「う、うん……わかったよ」
説教混じりに諭すカレリア。
アウルは動揺をまだ隠しきれずにいた。
しかし――。
「あ、カレリアちゃん」
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