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The 3 days
43話 決意と出迎え
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――本当は、すぐにでも『人間だ』って答えたかった。
――けどそう答える事を、きっとこの人……というより"この国"は許しちゃくれないだろう。
――正直なところ……魔神かそうじゃないかなんて、俺にもわからない。
――どうして兄貴や親父には魔神の血が流れてないのに、俺だけが。
――けど、もう考えたって無駄だしどうだっていい。
――兄貴はもう戻ってこない……どうだっていいんだ。
その時だった。
絶望の深淵と呼ぶべき状況に瀕していた少年の思考回路に、突如として兄の一言が過る――。
『――お前が、ピースキーパー家だからだよ』
――え?
――そっか、そういうことだったんだ。
――そうだよね、兄貴。わかった。
俺は――。
◇◆◇◆
真っ白な天井に真っ白な壁と床、真っ白なベッド。
白色に囲まれた少年だったが、断ぜられたのは"黒"。
たった今、目の前にいる美女から迫られた選択に対し、静かに答えた。
「俺は……"アウリスト・ピースキーパー"だ。魔神族かもしれないし、この先魔神族として成長していくのかもしれない」
自身の名を強調し、少年は更に続ける。
「……でも、ピースキーパー家として、この国の平和を守ってきた一族の人間として、兄貴の意志を継いで戦っていきたい。そしてその意志は、魔神の血には屈しない。絶対に」
その金色の瞳は、闇の中で静かに揺らめく炎のような煌めきを帯びる。
そしてその顔つきは、ジェセルがこれまでに抱いていた『どこか頼りなさげな少年』という印象を一蹴するように、凛としていた。
(クルーイル……?)
顔こそ似てないが、強い覚悟と意志が備わった少年のその様は、ジェセルの脳裏にクルーイルの姿をちらつかせた。
しかし、いくら詭弁を用いたところで少年の置かれた状況が一変することはない。
ジェセルもそれに絆されるような人物ではなかった。
「そうね……。言いたいことは伝わったわ。ただ、それだけであなたが魔神族なのかもしれないという疑いが晴れるわけではないわ。わかるでしょ?」
「……うん、わかってるよ」
「わかってないから言ってるのよ!」
ジェセルが声を荒げ、否定する。
しかし少年は動じる事なく、彼女の目を片時も離さず見ていた。
「…………」
均衡とも言えるその状態が数分続く。
無言の圧に耐え切れない、というよりは埒があかないと判断したジェセルが、根負けしたように開口する。
「……わかったわ。この話は一旦終わりにしましょう。あなたのお父さんが帰ってこない限りは処遇について私がどうこう言っても仕方がないもの」
彼女の諦めたような表情を確認したアウルも、緊張を解く。
「親父は……いつ帰ってくるの?」
「3日後よ。お父さんが帰ってくるまでの3日間、アウルくんは自宅から一歩も出ないで。それとその間中は団士を監視役として置くから。いいわよね?」
"監視"という単語を聞いたアウルが、露骨に顔をしかめる。
「窮屈かもしれないけど……仕方の無いことだから我慢して。明日の朝、アウルくんが退院する時間を見計らって出迎えに来てくれる筈だから」
「誰が監視に来るの?」
「それはわからないわ。ただ、私じゃあないということだけは確かだけど」
ただでさえ嫌である監視に、誰が来るのか解らないという不安がアウルの気分をやや重くさせた。
「……じゃあ、私はもう帰らせてもらうわね。入院中なのに色々と話しちゃってごめんなさい。でも嘘に聞こえるかもしれないけど、私もサクリウスと一緒であなたが生きててくれて良かったと思っているわ。これは本音よ」
「ジェセルさん……」
「それじゃまたね、アウルくん」
そう言い残し、ジェセルは病室を後にした。
ポツンと、部屋に一人残されたアウル。
訪れた静寂に淋しさを感じる事はなかった。
ベッドに座ったまま、少年は思いに耽る。
「兄貴、俺……戦うから。もう泣いたり、逃げたりもしないよ。だから……見てて」
まるで目の前にクルーイル本人がいるかの如く、虚空に向けて決意を口ずさむ。
そして、その決意をドア越しに聞いていた女団士――。
(はぁ……ホント嫌な役回りをさせてくれるわね。恨むわよ……バズムント)
怨みの言葉を胸中で発した彼女は、そのまま静かに廊下を往き、病院を後にした。
◇◆◇◆
翌朝、病院の正面玄関前――。
燦々と優しく降り注ぐ日差し。
何処からともなく聞こえてくる雀の囀り。
気持ちの良い朝だった。
「お世話になりました」
「退院おめでとうピースキーパー君。お大事に!」
ガラス張りの正面玄関を出たアウル。
振り返り、見送りに来ていた白衣を着込む担当医士と看護士達に簡素な会釈をしてから、出口である門へと続く道を歩く。
一歩進む毎に身体が軋むように痛み、覚束ない足取りになる。
しかし、一刻も早く自宅に帰りたいという一心で歩みを続ける。
病院の正門までの道中には、緑の樹々が囲むように立ち並ぶ庭が続く。
庭の中央には噴水が設置された小さな人工池を、白の塗装が施してあるベンチが四つ囲んでいた。
(……ん?)
そしてそのベンチの一つに座りながら読書をしている女性。
アウルはすれ違い様、横目に映す。
女性の身なりは、ゼレスティアに住む若者の間で流行となっているパステルカラーの可憐な服に身を包み、オレンジ色の髪が鎖骨まで伸びた毛先にはふわりとしたパーマがかかっていた。
ただ、顔自体は医療用の黒いマスクを下半分に掛けていたおかげで、確認することが出来なかった。
長閑で趣がある場とは言え、わざわざ病院の敷地内で読書をしているという事は誰かを待っているのだろう、とアウルは勝手に解釈をした。
歩みを止めることなくそのまま通り過ぎていこうとした――が。
(あ、そういえば出迎えが――)
診療時間内であるため、鉄柵が開きっ放しの門。
そこに差し掛かろうとしたアウルはようやくジェセルから言われた事を思い出し、先程すれ違った女性が座るベンチへと振り向く。
振り向いた先に立っていたのは、先程ベンチで読書をしていた女性。
マスクのお陰で確認はしづらいが、怒りで肩を震わせた姿を見せていた。
「ねえ、もしかして、ジェスから何も聞いてない……?」
女性のその問いに、アウルは苦笑いを含ませながら答える。
「いや、聞いてたんだけど……すっかり忘れちゃってて……ごめんなさい」
「もぉー! 有り得ないんですけど! なんで素通りすんのよ! 私、こんな朝早くに起きたのに馬っ鹿みたいじゃん!」
マスクのせいかくぐもった声で憤慨する彼女。
その姿にアウルは見覚えはなく、初対面の団士だと認識をしていた。
「そもそも、えーと……どちら様……ですか?」
「え? ウソでしょ? カレリアよ?」
第11団士である彼女の姿を見てその名を聞いたところで、アウルには知る由が無いのも当然だ。
マックルの風術によってグラウト市の西門を飛翔して乗り越え、オリネイによる処刑から颯爽と救った彼女。
しかし、当のアウルは気を失っていたのだから見覚えが無いのも当然と言えよう。
ただ、この時のアウルは呆気にとられていて気付けなかったが、今日からの三日間――十も年齢が上のこの女性と同じ屋根の下で生活をするのだ。
勿論、少年にとって親以外の女性との生活は初めての事だった。
この先に待ち受けるは安息か、それとも波乱か――。
――けどそう答える事を、きっとこの人……というより"この国"は許しちゃくれないだろう。
――正直なところ……魔神かそうじゃないかなんて、俺にもわからない。
――どうして兄貴や親父には魔神の血が流れてないのに、俺だけが。
――けど、もう考えたって無駄だしどうだっていい。
――兄貴はもう戻ってこない……どうだっていいんだ。
その時だった。
絶望の深淵と呼ぶべき状況に瀕していた少年の思考回路に、突如として兄の一言が過る――。
『――お前が、ピースキーパー家だからだよ』
――え?
――そっか、そういうことだったんだ。
――そうだよね、兄貴。わかった。
俺は――。
◇◆◇◆
真っ白な天井に真っ白な壁と床、真っ白なベッド。
白色に囲まれた少年だったが、断ぜられたのは"黒"。
たった今、目の前にいる美女から迫られた選択に対し、静かに答えた。
「俺は……"アウリスト・ピースキーパー"だ。魔神族かもしれないし、この先魔神族として成長していくのかもしれない」
自身の名を強調し、少年は更に続ける。
「……でも、ピースキーパー家として、この国の平和を守ってきた一族の人間として、兄貴の意志を継いで戦っていきたい。そしてその意志は、魔神の血には屈しない。絶対に」
その金色の瞳は、闇の中で静かに揺らめく炎のような煌めきを帯びる。
そしてその顔つきは、ジェセルがこれまでに抱いていた『どこか頼りなさげな少年』という印象を一蹴するように、凛としていた。
(クルーイル……?)
顔こそ似てないが、強い覚悟と意志が備わった少年のその様は、ジェセルの脳裏にクルーイルの姿をちらつかせた。
しかし、いくら詭弁を用いたところで少年の置かれた状況が一変することはない。
ジェセルもそれに絆されるような人物ではなかった。
「そうね……。言いたいことは伝わったわ。ただ、それだけであなたが魔神族なのかもしれないという疑いが晴れるわけではないわ。わかるでしょ?」
「……うん、わかってるよ」
「わかってないから言ってるのよ!」
ジェセルが声を荒げ、否定する。
しかし少年は動じる事なく、彼女の目を片時も離さず見ていた。
「…………」
均衡とも言えるその状態が数分続く。
無言の圧に耐え切れない、というよりは埒があかないと判断したジェセルが、根負けしたように開口する。
「……わかったわ。この話は一旦終わりにしましょう。あなたのお父さんが帰ってこない限りは処遇について私がどうこう言っても仕方がないもの」
彼女の諦めたような表情を確認したアウルも、緊張を解く。
「親父は……いつ帰ってくるの?」
「3日後よ。お父さんが帰ってくるまでの3日間、アウルくんは自宅から一歩も出ないで。それとその間中は団士を監視役として置くから。いいわよね?」
"監視"という単語を聞いたアウルが、露骨に顔をしかめる。
「窮屈かもしれないけど……仕方の無いことだから我慢して。明日の朝、アウルくんが退院する時間を見計らって出迎えに来てくれる筈だから」
「誰が監視に来るの?」
「それはわからないわ。ただ、私じゃあないということだけは確かだけど」
ただでさえ嫌である監視に、誰が来るのか解らないという不安がアウルの気分をやや重くさせた。
「……じゃあ、私はもう帰らせてもらうわね。入院中なのに色々と話しちゃってごめんなさい。でも嘘に聞こえるかもしれないけど、私もサクリウスと一緒であなたが生きててくれて良かったと思っているわ。これは本音よ」
「ジェセルさん……」
「それじゃまたね、アウルくん」
そう言い残し、ジェセルは病室を後にした。
ポツンと、部屋に一人残されたアウル。
訪れた静寂に淋しさを感じる事はなかった。
ベッドに座ったまま、少年は思いに耽る。
「兄貴、俺……戦うから。もう泣いたり、逃げたりもしないよ。だから……見てて」
まるで目の前にクルーイル本人がいるかの如く、虚空に向けて決意を口ずさむ。
そして、その決意をドア越しに聞いていた女団士――。
(はぁ……ホント嫌な役回りをさせてくれるわね。恨むわよ……バズムント)
怨みの言葉を胸中で発した彼女は、そのまま静かに廊下を往き、病院を後にした。
◇◆◇◆
翌朝、病院の正面玄関前――。
燦々と優しく降り注ぐ日差し。
何処からともなく聞こえてくる雀の囀り。
気持ちの良い朝だった。
「お世話になりました」
「退院おめでとうピースキーパー君。お大事に!」
ガラス張りの正面玄関を出たアウル。
振り返り、見送りに来ていた白衣を着込む担当医士と看護士達に簡素な会釈をしてから、出口である門へと続く道を歩く。
一歩進む毎に身体が軋むように痛み、覚束ない足取りになる。
しかし、一刻も早く自宅に帰りたいという一心で歩みを続ける。
病院の正門までの道中には、緑の樹々が囲むように立ち並ぶ庭が続く。
庭の中央には噴水が設置された小さな人工池を、白の塗装が施してあるベンチが四つ囲んでいた。
(……ん?)
そしてそのベンチの一つに座りながら読書をしている女性。
アウルはすれ違い様、横目に映す。
女性の身なりは、ゼレスティアに住む若者の間で流行となっているパステルカラーの可憐な服に身を包み、オレンジ色の髪が鎖骨まで伸びた毛先にはふわりとしたパーマがかかっていた。
ただ、顔自体は医療用の黒いマスクを下半分に掛けていたおかげで、確認することが出来なかった。
長閑で趣がある場とは言え、わざわざ病院の敷地内で読書をしているという事は誰かを待っているのだろう、とアウルは勝手に解釈をした。
歩みを止めることなくそのまま通り過ぎていこうとした――が。
(あ、そういえば出迎えが――)
診療時間内であるため、鉄柵が開きっ放しの門。
そこに差し掛かろうとしたアウルはようやくジェセルから言われた事を思い出し、先程すれ違った女性が座るベンチへと振り向く。
振り向いた先に立っていたのは、先程ベンチで読書をしていた女性。
マスクのお陰で確認はしづらいが、怒りで肩を震わせた姿を見せていた。
「ねえ、もしかして、ジェスから何も聞いてない……?」
女性のその問いに、アウルは苦笑いを含ませながら答える。
「いや、聞いてたんだけど……すっかり忘れちゃってて……ごめんなさい」
「もぉー! 有り得ないんですけど! なんで素通りすんのよ! 私、こんな朝早くに起きたのに馬っ鹿みたいじゃん!」
マスクのせいかくぐもった声で憤慨する彼女。
その姿にアウルは見覚えはなく、初対面の団士だと認識をしていた。
「そもそも、えーと……どちら様……ですか?」
「え? ウソでしょ? カレリアよ?」
第11団士である彼女の姿を見てその名を聞いたところで、アウルには知る由が無いのも当然だ。
マックルの風術によってグラウト市の西門を飛翔して乗り越え、オリネイによる処刑から颯爽と救った彼女。
しかし、当のアウルは気を失っていたのだから見覚えが無いのも当然と言えよう。
ただ、この時のアウルは呆気にとられていて気付けなかったが、今日からの三日間――十も年齢が上のこの女性と同じ屋根の下で生活をするのだ。
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