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The 3 days
42話 疑惑
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魔神化による暴走の反動を経て訪れた長い眠りから、アウルは目を覚ました。
ジェセルが呼んできた医士からの軽い触診と問診を受けた結果、疲労感による全身に残った筋肉痛以外は身体と精神に異常は見当たらないと診断をされる。明日には退院が可能だとも告げられた。
保護者として医士の傍らで診察を見聞きしていたジェセルはホッと胸を撫で下ろし、安堵する。
そして医士が病室から去ると、ベッドの側にある椅子に彼女が腰を下ろす。
寝具の上に座るアウルへ『あの日』起きた出来事について全てを伝えたのであった。
生き延びたマックルやサクリウスから得た証言を元に、彼女がアウルに伝えた情報。
魔神族の出現。
ビスタの精神が乗っ取られゼレスティアを襲撃。
更には自らが暴走してその魔神を宿主のビスタごと殺害。
そして、兄が死んだという事実――。
クルーイルの死が当初は弟のアウルに依るものだと推測されていた件については、ジェセルは説明を省いた。
検証した結果、死因はビスタの装備である長剣による心臓への刺傷だと判明し、アウルに向けられた疑いは晴れていた。よって、アウルにこれ以上の余分な心的負担を与えたくないとジェセルが判断し、説明を伏せたのだった。
ビスタを殴殺した罪に於いては、"サイケデリック・アカルト"下に置かれた人間を殺めるのは(どの道助からないので)已む無し、とゼレスティアの法律では定められていたので、これも不問とされた。
知らず知らずの内に嫌疑と罪が晴れていたアウル。
しかしジェセルから改めて聞かされた兄の死に再び涙を流し、これでもかという程に悼んだ姿を見せる。
小一時間はベッドの上で嗚咽し、悲嘆に暮れるアウルだった。
やがて平静を取り戻すと、水分を出し尽くした目を赤く腫らしたまま、ジェセルの話に耳を傾ける意思を示した。
アウルが悲しみ悶えていた間中。その場を離れたり無闇な慰めの言葉をかけることもせず、辛抱強く黙って待ち続けていてくれた彼女。次に少年のこれからの処遇について、説明を開始する。
前述したクルーイル殺害の嫌疑は潔白が証明された。
だが、現在アウルにはもう一つの疑いが残っていたのだ。
それは――。
「――アウルくんが、魔神族であるかどうかよ」
「俺が……魔神族」
告げられたその言葉に対し、アウルは鸚鵡が返すが如く、口から零した。
自覚の無いアウルだが、構うことなくジェセルは話を続ける。
「4日前に初めて会ったとき、怪我をしていたアウルくんは私の治癒術を受けたでしょう? その時のあなたは人間では有り得ないほどの自然治癒力の高さを見せていた」
ジェセルの説明を聞きながら、彼女との邂逅を思い出すアウル。
「その様を見てから私はアウルくんが魔神族なんじゃないかと思い、ずっと疑っていたわ。その上、直に交えたサクリウスの話によると、暴走中のあなたは骨折も瞬時に治ってしまうほどの桁外れな治癒力を見せていたそうよ」
それを聞いたアウルは、目を瞑り暴走中の出来事を思い出そうと頭を捻る。
だが、靄のようなフィルターがかった映像が瞼に浮かぶだけで、ハッキリと記憶が再生できない。
ただ、夢にまで出てきたビスタの"無惨"な死に顔ばかりがどうしても脳裏を過ってしまい、出来ることならば思い出したくないというのが少年の本音だった。
「……無理に思い出さなくていいわ。その時のアウルくんは無意識下での暴走だったとの報告も受けているから」
考え悩むアウルを見兼ねたジェセルは、話を続けた。
「じゃあ、本題に入るわね。さっきも言ったサクリウスからの報告を受けて私や他の団員のあなたに対する疑念は深まるばかり……。だから、アウルくん。これから私がする質問に、正直に答えて欲しいんだけど……大丈夫かな?」
「――っ!」
透き通る様な声を持つ彼女の話は、アウルに不安というものを一切抱かせなかった。しかし突如として強まった語気が、少年の精神に緊張感を走らせた。
「うん……」
生唾をごくりと飲み干し、ジェセルの口から放たれる言葉を待つ――。
「アウルくん、あなたは……」
少しの沈黙が流れ、意を決した彼女。
「魔神族なの?」
「それともこれから魔神族になっていく最中なの?」
「どちらかで答えて」
普段の心優しい彼女からは想像もつかないような、余りにも理不尽な二択を強いられたアウル。
「それって……答えたらどうなるの?」
その問い返しに対し、ジェセルは小さく溜め息。
そして答える。
「あなたのお父さんのヴェルスミスの判断次第だけど、恐らくは王宮に住まいを移し、いつ暴走しても良いように軍の監視下に置かれたままの生活を余儀なくされるでしょうね。学園にももう通えなくなると思う。そして、魔神化の兆候が収まらないと判断された場合は――」
「……場合は?」
「……ごめんなさい。私に言わせないで」
ジェセルが目を伏せたことで、アウルは全てを悟ることができた。
――ゼレスティアは既に自分を人間として扱ってくれないと。
ジェセルが呼んできた医士からの軽い触診と問診を受けた結果、疲労感による全身に残った筋肉痛以外は身体と精神に異常は見当たらないと診断をされる。明日には退院が可能だとも告げられた。
保護者として医士の傍らで診察を見聞きしていたジェセルはホッと胸を撫で下ろし、安堵する。
そして医士が病室から去ると、ベッドの側にある椅子に彼女が腰を下ろす。
寝具の上に座るアウルへ『あの日』起きた出来事について全てを伝えたのであった。
生き延びたマックルやサクリウスから得た証言を元に、彼女がアウルに伝えた情報。
魔神族の出現。
ビスタの精神が乗っ取られゼレスティアを襲撃。
更には自らが暴走してその魔神を宿主のビスタごと殺害。
そして、兄が死んだという事実――。
クルーイルの死が当初は弟のアウルに依るものだと推測されていた件については、ジェセルは説明を省いた。
検証した結果、死因はビスタの装備である長剣による心臓への刺傷だと判明し、アウルに向けられた疑いは晴れていた。よって、アウルにこれ以上の余分な心的負担を与えたくないとジェセルが判断し、説明を伏せたのだった。
ビスタを殴殺した罪に於いては、"サイケデリック・アカルト"下に置かれた人間を殺めるのは(どの道助からないので)已む無し、とゼレスティアの法律では定められていたので、これも不問とされた。
知らず知らずの内に嫌疑と罪が晴れていたアウル。
しかしジェセルから改めて聞かされた兄の死に再び涙を流し、これでもかという程に悼んだ姿を見せる。
小一時間はベッドの上で嗚咽し、悲嘆に暮れるアウルだった。
やがて平静を取り戻すと、水分を出し尽くした目を赤く腫らしたまま、ジェセルの話に耳を傾ける意思を示した。
アウルが悲しみ悶えていた間中。その場を離れたり無闇な慰めの言葉をかけることもせず、辛抱強く黙って待ち続けていてくれた彼女。次に少年のこれからの処遇について、説明を開始する。
前述したクルーイル殺害の嫌疑は潔白が証明された。
だが、現在アウルにはもう一つの疑いが残っていたのだ。
それは――。
「――アウルくんが、魔神族であるかどうかよ」
「俺が……魔神族」
告げられたその言葉に対し、アウルは鸚鵡が返すが如く、口から零した。
自覚の無いアウルだが、構うことなくジェセルは話を続ける。
「4日前に初めて会ったとき、怪我をしていたアウルくんは私の治癒術を受けたでしょう? その時のあなたは人間では有り得ないほどの自然治癒力の高さを見せていた」
ジェセルの説明を聞きながら、彼女との邂逅を思い出すアウル。
「その様を見てから私はアウルくんが魔神族なんじゃないかと思い、ずっと疑っていたわ。その上、直に交えたサクリウスの話によると、暴走中のあなたは骨折も瞬時に治ってしまうほどの桁外れな治癒力を見せていたそうよ」
それを聞いたアウルは、目を瞑り暴走中の出来事を思い出そうと頭を捻る。
だが、靄のようなフィルターがかった映像が瞼に浮かぶだけで、ハッキリと記憶が再生できない。
ただ、夢にまで出てきたビスタの"無惨"な死に顔ばかりがどうしても脳裏を過ってしまい、出来ることならば思い出したくないというのが少年の本音だった。
「……無理に思い出さなくていいわ。その時のアウルくんは無意識下での暴走だったとの報告も受けているから」
考え悩むアウルを見兼ねたジェセルは、話を続けた。
「じゃあ、本題に入るわね。さっきも言ったサクリウスからの報告を受けて私や他の団員のあなたに対する疑念は深まるばかり……。だから、アウルくん。これから私がする質問に、正直に答えて欲しいんだけど……大丈夫かな?」
「――っ!」
透き通る様な声を持つ彼女の話は、アウルに不安というものを一切抱かせなかった。しかし突如として強まった語気が、少年の精神に緊張感を走らせた。
「うん……」
生唾をごくりと飲み干し、ジェセルの口から放たれる言葉を待つ――。
「アウルくん、あなたは……」
少しの沈黙が流れ、意を決した彼女。
「魔神族なの?」
「それともこれから魔神族になっていく最中なの?」
「どちらかで答えて」
普段の心優しい彼女からは想像もつかないような、余りにも理不尽な二択を強いられたアウル。
「それって……答えたらどうなるの?」
その問い返しに対し、ジェセルは小さく溜め息。
そして答える。
「あなたのお父さんのヴェルスミスの判断次第だけど、恐らくは王宮に住まいを移し、いつ暴走しても良いように軍の監視下に置かれたままの生活を余儀なくされるでしょうね。学園にももう通えなくなると思う。そして、魔神化の兆候が収まらないと判断された場合は――」
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