PEACE KEEPER

狐目ねつき

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Youth with sword and armor

03話 「五星」と「騎士団長」

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 俺とスレイズとチャルドは宮殿へと辿り着いた。

 正門から入ってすぐの大広間。
 石造りの薄暗い空間の中、全身を甲冑に包んだ何百人もの騎士が宮殿内を行き来している。
 漂う汗と金属の匂いが嫌でも鼻孔に届き、気分が悪くなってしまう。まあ毎朝のことなのでだいぶ慣れてきてはいるのだが。
 
 宮殿へと着いた騎士が手始めに済まさなければいけないことは、出勤を記録する出欠簿への記入だ。
 出欠簿が置かれている場所は、大広間から2階へ昇るための正面階段、そのすぐ右隣にある木製の記帳台の上にある。
 記帳を済ませた騎士から順に正面階段へ昇り、“礼拝の間”で待つ騎士団長へ拝礼をする。
 それから騎士団長直々に指示を与えてもらい、各自の任務が開始するという仕組みだ。



「……相変わらず並んでるなあ。この出勤システムどうにかなんないのかな」

 愚痴が思わず俺の口から零れてしまう。
 記帳台の前には既に何十人もの騎士が行列を作り、その列の最後尾に俺達三人は身を置いていた。

「仕方ないじゃん。まあ、気長に待とうぜ」

 スレイズが俺に言って聞かせる。
 わかってはいるんだが、この効率の悪さだけは本当にどうにかしてもらいたい。

「えと……そういえば、二人とも今日は内務って言ってましたけど、どんな内容の任務なんすか?」

 気を使わせてしまったのか、チャルドが話題を提供してくれた。

「さあな。ゼレスティアの騎士団長的な役職の人がこっちに来てるみたいだから、それに関係してると俺達は踏んでるけど、どうだかなあ」

「やっぱりこのタイミングで来国するってことは、この頃ウワサに上がってた"大掃討作戦"について会談するって事なんすかね?」

 チャルドが声をひそめて俺に返す。
 別にやましい話でもないのに大袈裟なんだよ。

「そうだな、近頃は中位以上の魔神の出現情報もめっきり聞かなくなってきたし、ここいらで一網打尽にしようって考えが騎士団長にもあるっていうのなら、そのウワサもあながち間違いじゃないのかもな」

「うわー! マジっすか! 掃討作戦なんてオレ初めて経験しますよ! 緊張するなあ……」

 スレイズが噂の信憑性を高めてやると、今度は一転して声が大きくなるチャルド。相変わらず落ち着きがないなコイツは。


「静かにしろ」

 話が盛り上がりかけた所で、唐突に背後から注意の声。いち早く声の主に気付いたスレイズの表情が凍り付く。
 振り向くとそこには――。


「ア、アルネイラ様……!」

 スレイズがそう呼んだ騎士。
 眩いばかりの光沢を放つ白銀色の鎧で身を覆い、腰まで伸びた金色のサラサラな長い髪。
 紅蓮の炎を宿らせたかのように赤く輝く双眸を携えた、美しさと気高さを併せ持ったその容貌。
 男性ばかりが居並ぶこの宮殿内で、堂々と佇んだ女性騎士のその姿は、一際異彩を放っていた。

「任務前で気が立っている者もいる。騒ぐなら宮殿の外でやれ」

「申し訳ありませんっ!」

 スレイズとチャルドは即座に頭を下げ、謝罪する。
 面を上げたままだった俺に気付いたスレイズが、俺の後頭部を掴み無理矢理と下げさせる。
 俺、別に騒いでなかったんだけどなぁ……。

 ……まあ、頭を下げなきゃってなるのも仕方がないか。

 彼女の名はアルネイラ・ネーレス。
 数千人からなるガストニア騎士団の中で、数多の戦果と武勲を挙げた騎士達に送られる称号――“五星ペンタ”を授かった内の一人だ。
 五星ペンタを名乗る騎士は、全員が騎士団長に匹敵するほどの実力の持ち主で、慣例に倣えば次代の団長を担うとされている5人。
 中でもこのアルネイラは、女性騎士ながら史上初の五星ペンタ入りという快挙を成し遂げた、生ける伝説とも呼ばれる騎士なのだ。

 こんな話がある。
 何年か前まで、ガストニア騎士団には数名程しか女性騎士の存在が確認されていなかった。
 しかしこのアルネイラが頭角を現し始めてからは、彼女に憧れて『騎士』を将来の選択肢に加え始める女学生が劇的に増えたのだ。
 そして昨今では百人に一人程の割合で女性騎士が見受けられるくらいにまで、増加の傾向は勢いを見せている。
 『騎士は男性の職業』という概念を変えつつあるほど、彼女の五星ペンタ入りという事実は騎士界に衝撃を走らせたのだった――。


「…………」

 彼女の突き刺すような無言の圧力。
 それが後頭部越しに伝わる。
 耐え難い沈黙。
 たった数秒が、永遠とわに感じる程に続く。

 ――しかし彼女はそのまま何も言わず、正門の方へと去っていくのだった。
 

(……行ったぞ、スレイズ。手ぇ離してくれ)

(バカ、まだ下げとけ)

 小声でやり取りを交わす俺とスレイズ。
 頭を下げたままの体勢は、アルネイラの背中が見えなくなるまで続いた――。


「――いやぁ、緊張したっすね! まさかアルネイラ様にお声掛けされるなんて」

 アルネイラが去ってから、最初に言葉を発したのはチャルド。
 元はと言えばコイツの声が大きいお陰で注意されたっていうのに、今となっては呑気に目を輝かせてやがる。少しは反省してくれ。

「おい、チャルド。これからは気を付けてくれよ?」

 次いでスレイズ。甲手を脱いで冷や汗を拭いながら嗜める。

「へへへ、すいませぇん」

 チャルドの気持ちの悪い笑いを横目に、俺は行列へと視線を移す。

「……!」

 どうやら皮肉にも、チャルドコイツの話の種が時間を潰す結果をもたらしてくれていたようだ。
 前に並んでいた騎士達はいつの間にか全員記帳を済ませ、正面階段を昇っていたのだった。


◇◆◇◆


 記帳を済ませた俺達は、真っ白な石で造られた正面階段を昇る。
 昇ったすぐ先にある両開きの鉄扉を開き、礼拝の間へと足を踏み入れる。

 礼拝の間は、まだこの国に"王"が居た時代にガストニア王が玉座に腰掛けていた部屋らしいのだが、現在は騎士団長がそこに席を置いていた。


「「おはようございます! 騎士団長!」」

 拝礼の順番が回り、俺達三人を含んだ騎士十名が揃って挨拶。直後に横に並び、跪く。

 無駄にだだっ広いこの部屋は一階よりも更に薄暗く、壁に敷き詰める様に松明が並び、火が灯されていた。
 その空間の中央には高価そうな机と椅子が置かれ、そこに第69代目騎士団長――グレイム・セサエルがどっしりと構えるように座る。
 そしてその傍らには五星ペンタを授かった一人、セルヴス・エンケドゥが立つ。

「おはよう」

 威厳に満ち溢れた、低いが良く通る声。
 年季の入った雄々しさが空間を支配するかのように、適度な緊張感が場を包む。

 騎士団長のグレイムは在任20年目。
 今年でその齢は46歳を迎える。
 つまり26歳という若さで騎士団長に抜擢され、二代に渡って騎士団を率いてきたということになる。
 長期政権の理由は、在任中にも関わらず戦場の第一線で戦果を上げ続けた結果だとか。
 歴代の騎士団長の中でも最強との呼び声も高く、白髪はくはつを靡かせ戦場を雄々しく駆け回る様から、"白獅子しろじし"の異名を取る――。

 その横に立つ長身で色黒の騎士、セルヴス。
 彼は10年以上もグレイムの側近として仕えてきた歴戦の猛者だ。
 五星ペンタの中でも最強と名高く、グレイムと常に肩を並べて戦ってきた事もあって、異名はついを為すかのように“黒豹くろひょう”だという。

 ……白獅子だの黒豹だの、まあご大層なことだ。


「今日は晴れ晴れしい、良い天気だな。絶好の会談日和になりそうだ」

 世間話を交えがてらに、片膝をついた体勢で面を上げる俺達の顔を騎士団長が順に見やる。

「挨拶はここまでにして、今日の任務内容に入ろう。まずはウィルキン。君は昨日と同じく、上級騎士と共に討伐任務にあたってくれ。詳細は伝えてあるから指示を良く聞いておけ」

 まずチャルドに指示が与えられる。
 チャルドの表情からは、いつも見せているおちゃらけた様子が既に消え失せ、締まったものとなっていた。

「はっ! では、失礼致します!」

 隣に居る俺が耳を塞ぎたくなるほどの大きな声で返事をしたチャルド。
 直ぐ様立ち上がり、傍らに置いていた兜を抱えそのまま礼拝の間を後にした。
 その後も、俺達以外の騎士達へ次々と指令が下されていく。


 そして、とうとう最後に残された俺とスレイズ。
 改めて言うが、今日は内務だ。きっと他の騎士に内容を内密にしたいが為に、順番を最後にしたのだと思う。

 そう俺が推察をしていると、騎士団長は少しだけトーンを落とした声で改まるように口を開く。


「……さて、フォルデンとフーバー。今日は内務だが、二人とも内容は察しがついているのか?」

「いえ、存じておりません!」

 スレイズが真っ先に答える。
 なるほどね、知らぬ存ぜぬを決め込んだ方が面倒な質疑応答を避けれるってことかな。

「フォルデンはどうだ?」

「フーバーに同じく、自分も存じておりません!」

 スレイズに倣って、俺も答える。
 返答の後、数瞬の間を置いて騎士団長が再び口を開く。


「……そうか、では任務の内容を伝えよう」

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