PEACE KEEPER

狐目ねつき

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Youth with sword and armor

02話 退屈な一日②

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 ガストニアの街並みは、お世辞にも綺麗とは言えない。
 中心街以外は雑草と小石を排しただけの簡素な道ばかりが多く、市民が住まう家は共同平屋やバラック(※鉄板や木板をつぎはぎにした様な家)など、時代錯誤な家屋が未だに建っているというひどい有り様だ。
 弱小騎士一家だと、武力至上主義の社会の中ではああいった住まいになってしまうのだ。
 それを踏まえると俺の家は平屋ではあるが木造一戸建てと、この地区ではそこそこまともな家なのだろう。
 死んだ父さんがそれなりに優秀な騎士だったというのがわかる――。


◇◆◇◆


 家を出てから数十分ほど歩き、俺は中心街にまで来た。
 このエリアまで来ると往来はだいぶ整備された物になっていき、行き交う人々や建ち並ぶ商店の数も増え、賑わいを見せ始める。

 んで、俺が現在向かっている場所――というか職場なんだが、それは中心街のど真ん中に建つ"ガストニア宮殿"だ。

 数千人もの国民が騎士として仕えるこの宮殿。
 出勤した騎士は毎朝、"騎士団長"に拝礼という名の挨拶を済ませた後、各々に割り当てられた任務に取り掛かるのが基本となっている。

 ……そういえば、この国で俺が変だと思う部分はもう一つだけある。

 それは、"国"なのに『国王』が居ないということだ。

 ガストニア国が誕生した何百年も昔には居たらしいんだが、戦争ばかりをするようになってから『実力の無い王は必要ない』と騎士達が謀反を起こし、王を殺したらしい。

 なんつー国だよ。

 それ以来この国の舵は騎士団の中でも最高となる権力を誇る、"騎士団長"が取っている。
 騎士団長の任期は10年で、任期を満了すると後進に席を譲るのがもっぱらだ。
 んで、次代の騎士団長を決める際のルールはこうだ。

『10年間で最も武勲を挙げ、功績を残した者が、次の騎士団長を担う』

 つまりより多くの敵を討ち払うだけで、老若男女誰でも最高権力を手中にできるっていうこと。

『"強さ"こそが権力』

 この至ってシンプルな格言があるほど、武力至上主義が浸透し徹底したガストニアらしいっちゃらしいが――。

 もう一回言わせて。
 なんつー国だよ。



 全高が"ゲート"の高さとそんなに変わらない、鈍色にびいろの石造りの宮殿は、荘厳な雰囲気が漂う。
 その周りをぐるりと囲んでいるのはキオングで造られた歴代騎士団長の彫像。宮殿を守護でもするかのように並べられている。
 俺は今その宮殿へ一直線に繋がる、並木道となった大通りを歩いていた。

 一年中、亜熱帯気候が続くガストニアだが今日は特に陽射しが強い。鋼鉄製の鎧が太陽光を集め、熱を逃がしてくれない。
 重たい甲冑の中に着込んだシャツは既に汗でびしょびしょだ。
 そもそもこんな暑い地域の国なのに、なんで甲冑を着込んで戦うのを好む文化が染み付いているんだ……。

 暑さでボーッとする頭の中で、俺は愚痴を垂れ流す。
 と、そこで俺は前方を歩く騎士の後ろ姿を注視する。
 その背中が見知った人物のものと気付き、駆け足で追う事にした。

「よっ、スレイズ」

「おお、レノか。おはよう」

 若草色の短髪の男がこちらを振り向き、挨拶を俺に返す。

 コイツの名前はスレイズ・フーバー。
 俺と同い年の騎士だ。

「兜を持ってきてないってことは、今日はスレイズも内務か?」

「当たり。レノもだったんだな。仲良い同僚ヤツが居なかったらどうしようかと思ってたから心強いわ」

 スレイズは学生時代からの友人。
 俺と同じく自己主張がそんなに強くない性格で、任務実績もほぼ同等くらいだ。
 いつも俺と行動を共にしているのは、似た者同士ウマが合うからなのだろう。
 ただコイツは女にすごくモテる。そこが俺との決定的な違いだ。

「スレイズ、今日の内務ってどんな内容かわかる?」

「いや、さっぱりだよ。今日の朝刊見た?」

「見た見た。ゼレスティアのお偉いさんが来国するってヤツだろ?」

「多分だけど、その件に関係してるんじゃないかな」

 二人で内容について推測をしながら、宮殿へと向かう。
 すると後方から、鉄靴が石畳を蹴るガチャガチャとした騒がしい足音が聞こえる。
 俺とスレイズが同時に振り向くと、兜を抱えた茶髪の青年がこちらに向かってくるのが窺えた。

「二人とも~! 待ってくださいよ~」

「遅いぞ、チャルド」

 スレイズがやや呆れた様子で名前を呼ぶ。

「いやー、寝坊しちゃって。へへへ……」

 恥ずかしそうに後頭部を掻く姿を見せるコイツの名前は、チャルドレート・ウィルキン。
 年は俺とスレイズの一個下の16歳。身長は俺とスレイズの頭一個分くらい小さい。
 学生時代から何故か金魚のフンのように俺達に付きまとい、卒業して騎士になってもその関係は続いている。

「なんだチャルド。お前は外務なんだな」

 右腕で抱えてる兜を見やりながら、俺は言った。

「当たり前じゃないっすかぁ……って、えぇ!? まさかスレイズくんもレノさんも内務っすか……?」

 話し途中でチャルドは俺とスレイズが兜を持ってない事に気付き、オーバーなリアクションを見せる。

「うぇ~、マジすかぁ? ずるいっすよぉ」

 残念そうに肩を落とすチャルド。
 そういえば、何故コイツはスレイズを"くん"で呼び、俺に"さん"を付けるんだ?
 なんだか距離を感じるぞ。


「……まあ、いいじゃんか。俺とレノは大した実績じゃないし、内務インドアがお似合いって事だ。それに比べてチャルドは、何たって期待のホープだもんな」

「そんな事ないっすよ~。へへへ……」

 満更でも無さそうに気持ち悪い笑いを見せるチャルドコイツ
 スレイズの言った通り、チャルドは俺達若手騎士の中じゃ期待のホープとして扱われている有望株。
 俺達よりも年下なのに、既に魔神討伐任務にも駆り出されてるのが実力の証明だ。
 まあそんな学生の頃から将来有望だった奴がなんで俺達とつるむのか、って話なんだが。それは積年の謎である。


「先輩騎士からこの間も聞いたよ。なんでも下位魔神2体をお前が倒したんだって?」

「やめてくださいよレノさん。あんなの周りの先輩方が弱らせてくれたおかげでオレがトドメを刺せたようなもんですからね~?」

「あくまでも先輩を立てますか~。いやぁ流石"期待のホープ様"は違いますなぁ。お心が深いっ」

「ちょっ、スレイズくん! 勘弁してくださいよ~」

 俺とスレイズが腹を抱えて笑う。
 チャルドは恥ずかしそうに否定するが、やっぱり満更でもない様子。

 出勤の際は俺を含めたこの三人で、いつもこういった談笑をしながら宮殿へ向かうのが日課だ。

 多分、嫌々ながらも俺が『退屈な一日』を過ごし続ける事が出来てるのは、スレイズとチャルドこの二人の存在が大きいのだろう。
 コイツらと居ると、少しだけ退屈が和らぐ。

 胸中で二人の存在の有り難みに感謝をした俺は、二人と共に宮殿へと向かった。
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