PEACE KEEPER

狐目ねつき

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Hello Lucifer

08話 憧憬

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 五星の紹介が終わると、今度はゼレスティア側の三人の紹介が始まった。
 そっちの方は滞りなくスムーズに事が済み、これで改めて"魔神掃討作戦"についての会談が開始されることとなった。
 俺の立ち位置は変わらずディデイロの隣。
 傍聴しながらも横目でチラチラ睨んで来るのが鬱陶しくてたまらないが、我慢我慢――。





「ではまず、ウェリーム大森林に巣食う魔神の掃討作戦の概要についてだが、一月前にゼレスティアそちらに送った書簡に記載した内容に異論はあるか? ピースキーパー」

「大まかな流れとしては問題ない。ただ、最初の先発隊となる三百名の部隊編成にウチの兵や団士を組み込まないのは何故だ?」

「戦場が森だからだ。ウェリーム大森林は亜熱帯気候のお陰で年がら年中深い緑に覆われている。奴らが何処に潜んでいるか見当もつくまいし、この気候だ。不意打ちを食らっても問題のないほどに、耐久力に優れ、暑さにも強いガストニアの騎士達で先陣を切るのが最善策なんだ」


 ――書簡の内容なんて俺には知る由もない。
 でも、二人の遣り取りからなんとなく最初の作戦の推察はできた。

 恐らく手始めとして先発隊なる部隊が先導して森へと進軍し、大森林にある大量のマナが溢れ返る場所――通称"マナポイント"へと向かうのだろう。
 魔神の血肉はほとんどがマナで形成されていて、定期的にマナを摂取しなければ身が持たないのが生態的特徴。
 となると、単純に考えればそのマナポイントの付近に魔神の群れが潜んでいるのは明白なのだ。


「……なるほどな。ウチの兵達を慮っての部隊編成なんだろうが、聞こえによってはゼレスティア軍を見くびっているようにも受け取れるな。どうなんだセサエル?」

 ピースキーパーさんの左隣に座るシングラルさんが、そう発した。

「シングラル。余計な事は言わなくていい」

 ピースキーパーさんが嗜める。
 シングラルさんは両腕を軽く広げ、首を傾げるジェスチャーを見せた。
 でも確かに、そういう受け取り方もできるよなあ。


 ……あれ? そういえば、ゼレスティアの人達って何でこんなに軽装なんだ?

 今思えば、応接間にあった彼等の荷物に鎧などの防具関連の類いの物は一切置かれていなかった。今着ている装備だって、三人ともどう見たって私服だよな。

 ゼレスティアからここガストニアまで1000ミーレ近くあるんだ。道中で魔物、最悪魔神とだって遭遇する可能性は決して低くない筈。
 それなのに、あんな軽装のままここまでどうやって来れたんだ……?


 疑問が俺の脳内を占める。
 しかしそれを余所に、会談は続く。


「……マルロスローニ。俺達は貴様らと直接剣を交えたんだ。ゼレスティア兵を過小評価するつもりなど毛頭ないよ。それともうひとつだけ説明を付け加えると、ガストニア騎士だけで編成した方が統率や現場での指示も容易に行えるっていう点も考慮させてほしい。先発隊を急造の部隊に任せれないだろう?」

「まあ、確かにそれは一理あるな」

 騎士団長が論理的に諭し、ピースキーパーさんが一応の納得を示す。だが、まだ何か物言いたげなようだ。
 少しの考える素振りを見せた後、彼は口を開く。

「……セサエル。魔神は個体毎に能力がバラバラで未知数だ。不意打ちが一撃必殺になるほどの殺傷能力に優れた魔神との遭遇も十分に考えられる。耐久力も確かに大事だが、危機察知能力に長けた者達で部隊を編成する事を提案する」

「もちろん、貴様が言った点も考慮して部隊を編成するつもりだ」

 ピースキーパーさんが提案するのをまるで予測でもしていたかのように、グレイムは即答してみせた。

「……編成の内訳は?」

「三つの百名ずつの部隊に分け、東・西・正面から攻め入る。それぞれ上級騎士だけで編成し、各部隊に一人ずつ五星を配する考えだ」

「わかった。ではもう一つ提案させてくれ。その3つの部隊に親衛士団ウチの団員を一人ずつ配置してほしい。一人増える程度なら、統率系統に乱れが生じる事は無い筈だ」

 今度の提案は想定していなかったようで、騎士団長は少しだけ思考をする。

「……いいだろう。ちなみにその3名の顔触れはもう決めてあるのか?」

「ああ、一人はここに居るビナルファ・ヴァイルスで考えている」

「えっ!? 俺!?」

 ここまでの会談中、終始退屈そうに欠伸をかいていたビナルファさんが、唐突に名前を呼ばれた事に仰天としている。

「いやいやヴェルスミス待ってよ。そんな話聞いてないって俺……」

「……だろうな。今決めたからな」

「ぶはっ! ってマジかよ! 流石に笑えねえよ!」

「無理なら他の奴に代えるが」

「……ったくもう、しゃあねえなあ」

 ビナルファさんはやれやれといった様子で後頭部を掻く。
 彼の扱い方をピースキーパーさんは完璧に心得ているようだった。


「今決めたというのは本当か? ピースキーパー」

「ああ。何か問題でも?」

「……いや、特にない。それで、残りの二人は誰にするつもりなんだ?」

「残る二人は、"アダマス・ザビッツァ"と"サクリウス・カラマイト"を推したい」

 推挙された二人の名前を聞き、騎士団長の眉が吊り上がる。

「アダマス・ザビッツァ……。"戦闘狂"か。実力的には申し分ないな。もう一人の名前には聞き覚えが無いが、序列は?」

「サクリウスはまだ第13団士と序列は低いが、機動力に優れ、近接戦闘に長けた戦士だ。魔術を扱わない騎士達との連携もスムーズに行えると踏んでるんだが、どうだ?」

「貴様が推した者だ。異論はない。では次に第二陣の編成。待機場所についての取り決めを行うとしよう」

「そうだな。だがその前にセサエル。俺から一つ言わせてくれ」

「なんだ?」

 騎士団長がそう返すと、ピースキーパーさんは改まり、言葉を発した。

「俺も騎士達の実力を過小評価するつもりなど無いが、これだけは騎士全員に心掛けさせておいてほしい。魔神の攻撃を絶対に侮るな、と」

「普段から騎士達には言い聞かせているつもりだが……まあ、わかった。念頭に置かせるとしよう」

 騎士団長はそれだけを返して応じる。
 そして、話を次に移行させようとしたところで――。



「……おい、あんた! そろそろいい加減にしろよ!」

 ――俺の隣に立つディデイロが、突如激昂したのだ。
 広い空間に反響して聴こえる怒声。
 当然、会談中だった9人は一斉にこちらを向く。
 おいおい、揉め事は勘弁してくれよな。


「さっきから黙って聞いてれば、あんた……ピースキーパーさん。騎士達オレらのこと舐めすぎじゃねえっすか!? 俺達は普段からあんた達より魔神と戦闘をこなしてんだ! それなのに何で今さらそんな助言をする必要あるんすか!?」

 うわぁ、この人マジかよ?
 空気読めなさすぎだろ。
 その自信が過信にならないように心掛けさせておけ、って事で改めてピースキーパーさんも言ったんじゃないの?
 俺でさえ意図が汲み取れたのにこの人と来たら……。


「ランパルド、やめろ。落ち着け」

 呆れながらも宥める騎士団長。
 しかし、彼の怒りが収まる事は無かった。

「騎士団長! こんな人達に舐められたままで良いんですか!? 大体、重要な部隊編成を"今決めた"とか言ってる時点でおかしいんですよ!」

 文句を垂れ流し続けるディデイロ。
 一方では、シングラルさんがジョルジオスさんと声を潜めて何やら話しているようだ。

「じーさん。アイツの歳はいくつなんだ?」

「んん、24、5くらいだったかいな」

「……成る程な。"戦争"を知らん訳だ」


 それを横目に、ビナルファさんが嫌々とした表情で席を立つ。

「うっせーんだよ、ハゲ! 会談の邪魔すんな! 黙ってそこで立っとけ!」

 野次に対して注意をするビナルファさん。
 でも、言葉は選んで欲しかった。
 その結果としてほら――。

「ハゲ、だとぉ……? てめえ、ブッ殺してやるっ!」

 浮き出た青筋が、今にも破裂するんじゃないかという程にディデイロが激怒する。
 そして直ぐ様剣を鞘から抜き、ビナルファさんへと襲い掛かった。


「……間違っても怪我をさせるなよ、ビナルファ。彼も作戦に参加するであろう大事な戦力だ」

「ヴェルスミスは優しいねえ。まあ、任せておきなよ」


 そう言うとビナルファさんは、着ていたパーカーのポケットに手を突っ込んだままその場に立ち尽くす。

「ナメてんのかてめえ! おらああっ!」

 袈裟斬りの方向に振り下ろした力任せの剛剣。
 それを寸でのところでヒラリと避けたビナルファさん。
 避けられた直後、前のめりにバランスを崩しそうになるディデイロ。
 彼の脳内では確実に当たると認識していたのだろう。それほどギリギリの位置で回避したということだ。

「おい、どうしたハゲ? 当ててみろよ」

 挑発を続けるビナルファさん。
 その後も、ディデイロの怒り任せの剣撃を全て紙一重で躱し続ける。両手はずっとポケットに入ったままで。


 ――あ。そういうことか。

 避け続けるビナルファさんを見て、さっきまでの疑問の答えに、ようやく俺は気付いた。

 この人達は……装備を増やさない事が"装備"なんだ。

 回避を行いやすくするために敢えて身軽な格好で戦闘に臨むのが、この人達のスタイル。

「すげぇ……」

 感嘆の声が思わず口から溢れ出る。
 その戦闘スタイルは、17年間鎧を着込んで戦う事を骨の髄まで叩き込まれた俺の人生にとって衝撃となり、全身を迸った――。



「……もういいか?」

 避けながら、ビナルファさんがそう洩らす。

「――なっ!?」

 直後、払うように軸足を足蹴にされたディデイロ。
 宙に浮いた体は背甲から石畳に叩き付けられ、ガシャンと大きな音をたてる。

「ぐはっ……!」

 そして仰向けで倒れた彼の胸当てに、ビナルファさんは足を乗せ、起き上がりを封じる。
 彼は見下ろす形で、ディデイロに告げた。

「脳にまで鉄が詰まってそうなお前にひとつ教えてやるよ。俺達は決してお前らを舐めちゃいねえ。"魔神と戦闘を多くこなしてる?" 知ってるよ。じゃあ現存する上位や中位魔神の攻撃手段をお前は全て把握しているのか? 知らねえだろ? お前みたいなのが力を過信してあっさり殺られんだよ。精々気ぃ付けることだな、ハゲ」


 実力でも、弁論でも圧倒してみせたビナルファさん。
 俺がどういう眼差しで彼を見ていたのかはわからないが、ふと目が合ってしまった。
 すると、他の者に気付かれないようウインクで俺に向かってアピールをしてくれた。
 俺がディデイロを嫌っている事を知っていたから、相手取ってくれたのだろうか。

「…………」

 それはともかくとして、この瞬間――俺の心に一つの憧れの感情が芽生えたのだ。


『ゼレスティアに行きたい』、と。
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