PEACE KEEPER

狐目ねつき

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Hello Lucifer

07話 会談開始

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 結局、俺とスレイズは"警備騎士"の一員として騎士団長から会談への参加を許可された。

 まだ気が引けていたのでおそるおそる礼拝の間に足を踏み入れると、内側の扉の両隣にも警備の騎士が配置されている事に俺は気付く。

「なっ、お前ら! なんで会談に……!」   

 なんと、ディデイロがいた。
 ああ、後で絶対なんか言われるだろうな。本当に面倒だ。

「お、お疲れ様……です」

 したくもない会釈を軽くしておきながら、そそくさと俺はヤツの隣へと身を移す。

「どういうことか後でキッチリと説明してもらうぞ……」

 同じ警備騎士として立った俺に対し、ディデイロが小声でそう言い放つ。
 俺達が会談の場にいるのが気に食わないのか、明らかに不機嫌そうな様子だ。
 さっきビナルファさんに勇気付けられてからは少しだけ気が楽になったけど、やっぱり嫌なものは嫌だ。会談が終わったら顔を合わせないようにさっさと帰ろう。

 俺がそう決意したと同時。
 ピースキーパーさん達は騎士団長の前に3つ並べられたイスにそれぞれ座り、会談が開始された。


◇◆◇◆


「……しかし、この国は相変わらず暑いな。少しは装備を軽くしてはどうだ?」

「ははは……。そう言ってこちらの戦力を下げようってはらか? ガストニアで生まれた者は生来的に暑さに対して強い。心配は無用だよ」

 世間話でもするかのように談笑するヴェルスミスとグレイム。

「そういえば、数年見ない間に五星ペンタの顔触れも随分と変わったな。見知らぬ顔が何人かいるぞ」

 騎士団長の背後に並ぶ五人の顔を見やりながら、ヴェルスミスが言う。

「そうだな、まずは紹介からしておくとするか」

 そう返したと同時にグレイムは、一番端に立っていた女性騎士に対し視線で命令を送る。 


「……まずは左から、"閃光"のアルネイラ・ネーレス」

 二つ名と共にグレイムが名を呼ぶと、アルネイラは一歩前に出る。

「どうも」

 会釈と共に簡素な挨拶だけをした紅一点の女性騎士。
 無表情のままそのまま一歩下がり、定位置に戻る。
 
「ここに入って真っ先に目を疑ったが、まさか女が五星入りとはな」

「男女関係なく、コイツは別格だ」

 ヴェルスミスに対しグレイムは微笑みを浮かべて返す。

「さて、次だが……。ピースキーパー、俺が言わなくても貴様は見知った顔だったよな?」

 二人目を紹介する前に、グレイムが逆に問う。

「ああ。"双龍"のジョルジオス、だろう?」

「げっ、あれもしかしてジョル爺なの……? 俺、初めて素顔見たよ」

 ヴェルスミスがその名を呼ぶと、その右隣に座っていたビナルファが途端に苦虫を噛み潰したかのような顔を見せる。
 すると、アルネイラの隣に立っていた男が一歩前に出る。

 水分不足で乾ききった白髪混じりの毛髪と口周りの長い白髭。年輪のように幾重にも刻まれた顔の皺。
 その容貌から、明らかに高齢である事が窺える騎士。
 皺だらけの顔を更にしわくちゃにさせてヴェルスミスの方を向き、ニンマリと嗤う。
 

「久しいねえ、ピースキーパーの。達者だったかいな?」

「こちらの台詞だよジョルジオス。まだ現役だったとはな」


 ――老騎士。双龍のジョルジオス。

 本来、ガストニアの騎士は齢が50を満たすと戦闘関連の任務からは外される。
 戦闘に必要とされる筋力、判断力が衰えてくる年齢だからだ。
 任を外された高齢騎士はセカンドキャリアとして農作業や大工作業など、男手が必要な市民の仕事を任務として各地に派遣され、携わるのが常とされているのだ。
 これが騎士の間では隠居仕事と喩えられ、通称"隠務"と呼ばれる。

 しかし、この老人――ジョルジオス・コレイロブは、65を迎えた齢になった今でも、未だ隠務に携わった経験はない。
 それどころか、息子や孫でもおかしくない年齢の騎士達と共に戦線の最前線で勇ましく剣を振るい、戦果を挙げ続けているという。

 隣に立つアルネイラとは別の理由で"生ける伝説"と呼ばれる由縁が、それだったのだ。



「ひゃっひゃ……ピースキーパーの。お主の姿を見てるとなぁ、まだ若かったお主と切り結んだ時の古傷が疼いてしゃあないんだわな」

 ジョルジオスがそう言いながら、深々と刻まれた右眼の大きな切創を指でさする。

「おいおい爺さん、逆恨みはやめてくれよ? それにこれから戦う相手は俺達じゃなくて魔神族だっての」

 ビナルファが口を挟み諫める。
 老騎士はその諫言かんげんを聞き一瞬の硬直。
 途端、ぐるりと無機的な動きで首をビナルファの方へ傾ける。

「な、なんだよ……?」

「お主のその空色の髪、わしゃ見覚えがあるぞ。確かビナルファとか呼ばれてたような……」

「――っ!」

 まだ名乗っていないにも関わらず、名を言い当てられてしまったビナルファが顔をひきつらせる。

「十年前だったかいな。まだ小僧っ子だったお主とその仲間とで儂に剣を向け、返り討ちにしてやったところで一人生き残ったお主は小便を垂らし泣き叫びながら儂から逃げ――」
「わああああああああやめろおおおおお!!」

 精神的外傷にして末代までの恥を晒されかけたビナルファが、咽を枯らすかの如く叫び、遮る。

「ははははは、ビナルファ。お前にもそんな過去があったとはなあ。どうして話してくれなかったんだ? んん?」

 ビナルファが座る位置から見てヴェルスミスを挟んで奥に座っていたシングラルが、意地悪く笑い飛ばす。

「話せるわけねえだろ! ……新兵だった頃の話だよ。もう訊いてくんなよ、旦那」

 顔を林檎のように赤面させ、追及を閉ざしたビナルファ。シングラルは依然としてニヤニヤしたままだ。


(ビナルファさん……マジか)

 聞き耳を立てていたレノが、畏敬の念を抱きかけていた相手の醜聞に目を覆う。



「儂は一度剣を交えた相手は絶対に忘れんのよ。なんなら今まで斬ったゼレスティアの者全員の――」

「ああ、っと。ジョルジオス。そろそろ黙っててもらえないか。話が先に進まん」

 堰を切ったかのように今度はグレイムが遮り、諭す。

「……すまんのうグレイム。年を取るとどうもお喋りが過ぎてしまってなぁ」

 落ち込み、反省する老騎士。
 そのまま一歩下がり定位置へ。


「紹介を続けよう。お次はセルヴス・エンケドゥだが、当然見知っているだろう?」

「ああ、そいつには一番手酷く殺られた・・・・からな」

 ヴェルスミスの強調させたその返しに、グレイムが笑む。
 ジョルジオスの時とは一転して緊張感が場を包む――。


「よう"黒豹"。あれからどれくらい腕を上げた? またり合いたいもんだなぁ?」

「…………」

 一歩前に出たセルヴス。
 シングラルが好戦的に声を掛けるが、黒肌の騎士は無視を突き通す。
 ヴェルスミスとグレイムがかつてのライバル関係だったように、彼とシングラルも似たような間柄なのだろうと、やり取りを見ていたレノが推測する。
 

「……4人目は、"重爆"のヴァシル・マイランダ」

 一言も発することなく下がったセルヴスを見届けたグレイムが、今度は左後方に立つ男の名を呼ぶ。

「…………」

 フルフェイスの兜を被ったままのヴァシルと呼ばれた男。
 顔面が鋼鉄に覆われているため相貌の確認は不可能だったが、2ヤールトを大きく超える巨躯に熊のような体格を誇るその姿は、"重爆"という二つ名が何となく理解出来るものだった。

「うちの副団長バズムントより大きいな」

 座ったままその巨躯を見上げ、ヴェルスミスは率直な感想を口にする。

「は、初めまして。よろしく……」

 姿形に似合わない澄んだトーンの声で、不器用な挨拶をするヴァシル。

「兜を脱げない理由でも?」

 グレイムに向き直り、疑問を口にするヴェルスミス。

「……シャイなんだ。勘弁してやってくれ」

 その理由だけで納得したヴェルスミスは『そうか』とだけ、返す。



「最後だな。5人目は――」

「5人目はこの私っ! “アビアーノ・フランチェスク”です! 以後お見知りおきを!」

 グレイムの紹介を自ら遮ったのは、アルネイラと対極の位置に立っていた赤髪の美形な男。
 待ってました、と言わんばかりに声を張り上げて自己紹介を開始したのだった。

「二つ名は"剣舞けんまい"! その響きの通り、舞うように戦うのが特徴の騎士です! 年齢は28になります! 家族構成は家内と娘が二人! それとフランチェスク家は代々舞踊一家となっておりまして! それが二つ名の由来にもなっているのではないかと~~~~」

「なんだコイツ、うっざ……」

 聞いてもいないパーソナルな情報をべらべらと喋り散らすアビアーノに、ビナルファが顔をしかめる。

「……まあ、騎士らしからぬ"こんな"奴なんだが、腕は確かだ」

 眉間に手を当て、頭痛を堪えるような素振りを見せながらグレイムがフォローを入れる。



「……うちの第14団士ワインロックより五月蝿いな」

 ヴェルスミスがボソッと洩らす。

 その後、セルヴスがアビアーノを力ずくで黙らせ、本題となる会談がようやく開始された――。

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