PEACE KEEPER

狐目ねつき

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Eroded Life

22話 ガルドシュ

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「もう……アイツったら一体どこにいるのよ」

「来た道を戻ってみようよ~」

 密林の中、降雨を吸い重く泥濘ぬかるんだ地面の上を駆け足で往くピリムとアイネ。

「おぉーい! ネスロイド、リフトレイ、待ってくれよ~」

 その少し後をパシエンスが追い縋る。
 現在三人は、もう一人の演習メンバーである少年を捜索中だ。

「待つわけないでしょ! 大体アンタ、アイツと一緒じゃなかったの? なんで一人で居るのよ?」

 振り向き、走りながらピリムが訊く。

「お前らと別れた後も一緒だったんだけど……"ガルドシュ"に遭遇しちまってよ……」

 問われた黒髪の少年が、目を泳がせ気味に答える。
 その反応に対し、ピリムはジトっとした目付きでパシエンスを睨む。

「もしかして、アイツ一人置いて逃げてきたってワケ……?」

「ち、違げぇよ! その……なんだ、全員で戦った方が勝率が上がるだろ? だからアイツに時間稼ぎをさせて、お前ら二人をオレが呼びに行ったって寸法よ!」

 どの角度から聞いても言い訳にしか聞こえないその苦し紛れな返答に、赤髪の少女は大きく溜め息をつく。

「信じらんない……。しかもガルドシュって言ったら、大人の兵士ですら苦戦するレベルの魔物よ? いくらアイツでも一人じゃ太刀打ちなんてできるわけないじゃない!」

 心底呆れた、という様子をピリムが見せる。

「仕方ねぇだろ! オレが残ったところで到底敵う相手じゃねえし……それに、オレが来たお陰でお前らも助かっただろ?」

「それって結果論じゃない! 開き直るなんてほんと最低ね。アイネ? どう思う?」

「ん、元々私達はだったじゃない。だから後一人の大事なメンバーをこれから迎えに行こ、ピリム。もちろん"二人"でね」

「んなっ――!」

 最初から頭数に入れられてないアイネのその口振りに、パシエンスが絶句する。単に呆れられるより余程効果的な仕打ちだろう。

「あはは、さすがアイネ」

「ひでえ……」

 今にも泣き出しそうな表情で悔しさを浮かべるパシエンスだが、見覚えのあるエリアへと足を踏み入れた途端に顔色が変わる。

「二人とも、待ってくれ! 確か、この辺で遭遇したハズだ……」

 言葉で少女二人を制止する少年。
 ピリムとアイネも、冗談を返す場合ではないことを語気から察する。

 一瞬にして、緊張感が辺りを包んだ。

『ガルドシュ』とは、ゼレスティア領にのみ稀に出現する四足獣型魔物だ。
 紫外線を嫌う習性な為、日中では殆どお目にかかる事がない魔物だが、ナザロでは度々目撃例が挙がる。
 オットルと同様のタイプの魔物ではあるが、基本的に群れる事を嫌う。 

 見た目にも大きな差違があり、オットルよりも大きな体と、全身が灰色の体毛に覆われた巨大な狼の様な風貌を持つ。
 移動時は四足歩行で駆けるが、戦闘時となると2本の後ろ足で人間のように直立するのが特徴。二足歩行時の全長は190~220アインクにも上る。

 そして戦闘力に関しては、オットルとは更に水をあける事に――。

 薄い鉄板をも軽々と貫く爪や、鰐と遜色のない程の顎の力を用いた咬撃と、熟練の戦士でも不覚を取りかねない攻撃力を誇る。
 だがそれ以上に特筆するべき点が、知性の高さだ。

『闇に乗じて背後から攻撃』
『得物を持つ相手に対し間合いをはかって投石で応戦』など、魔物とは到底思えないほどの"戦略"を用いてくるのだ。

 総合的な戦力は下位魔神を大きく上回るとされ、このナザロでのサバイバル演習に於いては"最も遭遇したくない魔物"として、兵達からは恐れられている。

 ――ここからは余談だ。

 一説によれば、月の光を浴び続けた特殊なオットルが変異を引き起こし、ガルドシュへと変貌を遂げ知性を持ったと云われている。
 しかし学説はなく、勿論科学的根拠もないため、お伽話の類いで済ませられているという。
 当然肉は不味いが、脳は珍味と扱われマニアの間では高値で取り引きされているらしい。



「……二人共、気を付けろよ。ガルドシュはそれぞれ個体毎にテリトリーを構え、外敵に侵入を許したと知った途端、犬の何倍もの嗅覚で真っ先に察知してくるんだ。この雨の中でも嗅ぎ付けてくるぞ」

 低く構えたパシエンスが、抜き身の鉄剣を手に少女二人へと注意を喚起する。

「それくらい知ってるわよ。で、どこに居るのよアイツは?」

 演習メンバーの身を案じつつ、いつでも術を放てるようマナを手先に集中させながらピリムも身構える。

 全方位に警戒のアンテナを張り巡らせた二人。
 しかし、そんな中――。



「ちょっ、アイネ! どこ行くのよ――!」

 ふと、二人から離れるようにアイネが身を乗り出したのだ。

「あっちから血のニオイがするよ~」

 薄く笑んだ表情でそれだけを告げると、少女は急ぎ足で木々の隙間を縫っていく。

「と、とりあえず追おうぜ。一人にすんのは絶対危険だ! な、ネスロイド」

 取り乱しながらも平静を装った風のパシエンスが、そう促す。

「……ああ、もう! みんな勝手な事ばっかするんだもん……ばか!」

 癇癪を起こしそうになりながらも堪え、パシエンスと共にアイネの後を追う少女。


「……なんで女子に先を歩かせるのよ!」

「う、後ろの警戒は任せろ!」


◇◆◇◆
 

 更に強まった雨足の中、警戒を怠ることなくアイネの後を追ったピリムとパシエンス。
 しばらく歩くと、樹々が立ち並んでない少しだけひらけた場所へと辿り着いた。

「「――っ!」」

 到着したと同時に息を呑む少年と少女。
 "開けた場所"というのは、正しくは樹々が幹ごと何本も刻まれ倒された結果、開けてしまったという事だったのだ。

「これ、アイツがやったの……?」

 この場へ先に到着し、佇んでいたアイネの背中へピリムが問い掛ける。

「そうみたいだね」

 アイネが簡素に返す。

 ピリムが驚いている理由とは、一度の剣撃で何本も幹を斬り倒した中に、胴体から真っ二つとなったガルドシュも含まれていたからであった。
 白目を剥かせ、舌をだらりと垂らした魔物のその死にがおは、即死だということが容易に窺える。
 切り口に目を向けてみると、断面は皮膚のささくれ一つ無いほど綺麗に裂かれていた。
 その切れ味から察するに、魔金属であるスピルス製の刀剣での仕業だということは明白だったのだ。

「あいつ、一人でガルドシュを倒したって事か……」

 味方ながら戦慄を覚えるパシエンス。
 ぶるっと身震いをしてしまったのは雨で冷えたからか、畏怖からかは定かではなかった。


「でも、これで驚異は去った訳ね。さあ、さっさとアイツと合流するわよ――」

 冷静に事象を整理したピリムが語尾を言い終えたその時、三人が居る場を取り囲むように周辺から足音が聴こえてきたのだった――。
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