82 / 154
Eroded Life
22話 ガルドシュ
しおりを挟む
「もう……アイツったら一体どこにいるのよ」
「来た道を戻ってみようよ~」
密林の中、降雨を吸い重く泥濘んだ地面の上を駆け足で往くピリムとアイネ。
「おぉーい! ネスロイド、リフトレイ、待ってくれよ~」
その少し後をパシエンスが追い縋る。
現在三人は、もう一人の演習メンバーである少年を捜索中だ。
「待つわけないでしょ! 大体アンタ、アイツと一緒じゃなかったの? なんで一人で居るのよ?」
振り向き、走りながらピリムが訊く。
「お前らと別れた後も一緒だったんだけど……"ガルドシュ"に遭遇しちまってよ……」
問われた黒髪の少年が、目を泳がせ気味に答える。
その反応に対し、ピリムはジトっとした目付きでパシエンスを睨む。
「もしかして、アイツ一人置いて逃げてきたってワケ……?」
「ち、違げぇよ! その……なんだ、全員で戦った方が勝率が上がるだろ? だからアイツに時間稼ぎをさせて、お前ら二人をオレが呼びに行ったって寸法よ!」
どの角度から聞いても言い訳にしか聞こえないその苦し紛れな返答に、赤髪の少女は大きく溜め息をつく。
「信じらんない……。しかもガルドシュって言ったら、大人の兵士ですら苦戦するレベルの魔物よ? いくらアイツでも一人じゃ太刀打ちなんてできるわけないじゃない!」
心底呆れた、という様子をピリムが見せる。
「仕方ねぇだろ! オレが残ったところで到底敵う相手じゃねえし……それに、オレが来たお陰でお前らも助かっただろ?」
「それって結果論じゃない! 開き直るなんてほんと最低ね。アイネ? どう思う?」
「ん、元々私達は三人組だったじゃない。だから後一人の大事なメンバーをこれから迎えに行こ、ピリム。もちろん"二人"でね」
「んなっ――!」
最初から頭数に入れられてないアイネのその口振りに、パシエンスが絶句する。単に呆れられるより余程効果的な仕打ちだろう。
「あはは、さすがアイネ」
「ひでえ……」
今にも泣き出しそうな表情で悔しさを浮かべるパシエンスだが、見覚えのあるエリアへと足を踏み入れた途端に顔色が変わる。
「二人とも、待ってくれ! 確か、この辺で遭遇したハズだ……」
言葉で少女二人を制止する少年。
ピリムとアイネも、冗談を返す場合ではないことを語気から察する。
一瞬にして、緊張感が辺りを包んだ。
『ガルドシュ』とは、ゼレスティア領にのみ稀に出現する四足獣型魔物だ。
紫外線を嫌う習性な為、日中では殆どお目にかかる事がない魔物だが、ナザロでは度々目撃例が挙がる。
オットルと同様の型の魔物ではあるが、基本的に群れる事を嫌う。
見た目にも大きな差違があり、オットルよりも大きな体と、全身が灰色の体毛に覆われた巨大な狼の様な風貌を持つ。
移動時は四足歩行で駆けるが、戦闘時となると2本の後ろ足で人間のように直立するのが特徴。二足歩行時の全長は190~220アインクにも上る。
そして戦闘力に関しては、オットルとは更に水をあける事に――。
薄い鉄板をも軽々と貫く爪や、鰐と遜色のない程の顎の力を用いた咬撃と、熟練の戦士でも不覚を取りかねない攻撃力を誇る。
だがそれ以上に特筆するべき点が、知性の高さだ。
『闇に乗じて背後から攻撃』
『得物を持つ相手に対し間合いをはかって投石で応戦』など、魔物とは到底思えないほどの"戦略"を用いてくるのだ。
総合的な戦力は下位魔神を大きく上回るとされ、このナザロでのサバイバル演習に於いては"最も遭遇したくない魔物"として、兵達からは恐れられている。
――ここからは余談だ。
一説によれば、月の光を浴び続けた特殊なオットルが変異を引き起こし、ガルドシュへと変貌を遂げ知性を持ったと云われている。
しかし学説はなく、勿論科学的根拠もないため、お伽話の類いで済ませられているという。
当然肉は不味いが、脳は珍味と扱われマニアの間では高値で取り引きされているらしい。
「……二人共、気を付けろよ。ガルドシュはそれぞれ個体毎にテリトリーを構え、外敵に侵入を許したと知った途端、犬の何倍もの嗅覚で真っ先に察知してくるんだ。この雨の中でも嗅ぎ付けてくるぞ」
低く構えたパシエンスが、抜き身の鉄剣を手に少女二人へと注意を喚起する。
「それくらい知ってるわよ。で、どこに居るのよアイツは?」
演習メンバーの身を案じつつ、いつでも術を放てるようマナを手先に集中させながらピリムも身構える。
全方位に警戒のアンテナを張り巡らせた二人。
しかし、そんな中――。
「ちょっ、アイネ! どこ行くのよ――!」
ふと、二人から離れるようにアイネが身を乗り出したのだ。
「あっちから血のニオイがするよ~」
薄く笑んだ表情でそれだけを告げると、少女は急ぎ足で木々の隙間を縫っていく。
「と、とりあえず追おうぜ。一人にすんのは絶対危険だ! な、ネスロイド」
取り乱しながらも平静を装った風のパシエンスが、そう促す。
「……ああ、もう! みんな勝手な事ばっかするんだもん……ばか!」
癇癪を起こしそうになりながらも堪え、パシエンスと共にアイネの後を追う少女。
「……なんで女子に先を歩かせるのよ!」
「う、後ろの警戒は任せろ!」
◇◆◇◆
更に強まった雨足の中、警戒を怠ることなくアイネの後を追ったピリムとパシエンス。
しばらく歩くと、樹々が立ち並んでない少しだけ開けた場所へと辿り着いた。
「「――っ!」」
到着したと同時に息を呑む少年と少女。
"開けた場所"というのは、正しくは樹々が幹ごと何本も刻まれ倒された結果、開けてしまったという事だったのだ。
「これ、アイツがやったの……?」
この場へ先に到着し、佇んでいたアイネの背中へピリムが問い掛ける。
「そうみたいだね」
アイネが簡素に返す。
ピリムが驚いている理由とは、一度の剣撃で何本も幹を斬り倒した中に、胴体から真っ二つとなったガルドシュも含まれていたからであった。
白目を剥かせ、舌をだらりと垂らした魔物のその死に貌は、即死だということが容易に窺える。
切り口に目を向けてみると、断面は皮膚のささくれ一つ無いほど綺麗に裂かれていた。
その切れ味から察するに、魔金属であるスピルス製の刀剣での仕業だということは明白だったのだ。
「あいつ、一人でガルドシュを倒したって事か……」
味方ながら戦慄を覚えるパシエンス。
ぶるっと身震いをしてしまったのは雨で冷えたからか、畏怖からかは定かではなかった。
「でも、これで驚異は去った訳ね。さあ、さっさとアイツと合流するわよ――」
冷静に事象を整理したピリムが語尾を言い終えたその時、三人が居る場を取り囲むように周辺から足音が聴こえてきたのだった――。
「来た道を戻ってみようよ~」
密林の中、降雨を吸い重く泥濘んだ地面の上を駆け足で往くピリムとアイネ。
「おぉーい! ネスロイド、リフトレイ、待ってくれよ~」
その少し後をパシエンスが追い縋る。
現在三人は、もう一人の演習メンバーである少年を捜索中だ。
「待つわけないでしょ! 大体アンタ、アイツと一緒じゃなかったの? なんで一人で居るのよ?」
振り向き、走りながらピリムが訊く。
「お前らと別れた後も一緒だったんだけど……"ガルドシュ"に遭遇しちまってよ……」
問われた黒髪の少年が、目を泳がせ気味に答える。
その反応に対し、ピリムはジトっとした目付きでパシエンスを睨む。
「もしかして、アイツ一人置いて逃げてきたってワケ……?」
「ち、違げぇよ! その……なんだ、全員で戦った方が勝率が上がるだろ? だからアイツに時間稼ぎをさせて、お前ら二人をオレが呼びに行ったって寸法よ!」
どの角度から聞いても言い訳にしか聞こえないその苦し紛れな返答に、赤髪の少女は大きく溜め息をつく。
「信じらんない……。しかもガルドシュって言ったら、大人の兵士ですら苦戦するレベルの魔物よ? いくらアイツでも一人じゃ太刀打ちなんてできるわけないじゃない!」
心底呆れた、という様子をピリムが見せる。
「仕方ねぇだろ! オレが残ったところで到底敵う相手じゃねえし……それに、オレが来たお陰でお前らも助かっただろ?」
「それって結果論じゃない! 開き直るなんてほんと最低ね。アイネ? どう思う?」
「ん、元々私達は三人組だったじゃない。だから後一人の大事なメンバーをこれから迎えに行こ、ピリム。もちろん"二人"でね」
「んなっ――!」
最初から頭数に入れられてないアイネのその口振りに、パシエンスが絶句する。単に呆れられるより余程効果的な仕打ちだろう。
「あはは、さすがアイネ」
「ひでえ……」
今にも泣き出しそうな表情で悔しさを浮かべるパシエンスだが、見覚えのあるエリアへと足を踏み入れた途端に顔色が変わる。
「二人とも、待ってくれ! 確か、この辺で遭遇したハズだ……」
言葉で少女二人を制止する少年。
ピリムとアイネも、冗談を返す場合ではないことを語気から察する。
一瞬にして、緊張感が辺りを包んだ。
『ガルドシュ』とは、ゼレスティア領にのみ稀に出現する四足獣型魔物だ。
紫外線を嫌う習性な為、日中では殆どお目にかかる事がない魔物だが、ナザロでは度々目撃例が挙がる。
オットルと同様の型の魔物ではあるが、基本的に群れる事を嫌う。
見た目にも大きな差違があり、オットルよりも大きな体と、全身が灰色の体毛に覆われた巨大な狼の様な風貌を持つ。
移動時は四足歩行で駆けるが、戦闘時となると2本の後ろ足で人間のように直立するのが特徴。二足歩行時の全長は190~220アインクにも上る。
そして戦闘力に関しては、オットルとは更に水をあける事に――。
薄い鉄板をも軽々と貫く爪や、鰐と遜色のない程の顎の力を用いた咬撃と、熟練の戦士でも不覚を取りかねない攻撃力を誇る。
だがそれ以上に特筆するべき点が、知性の高さだ。
『闇に乗じて背後から攻撃』
『得物を持つ相手に対し間合いをはかって投石で応戦』など、魔物とは到底思えないほどの"戦略"を用いてくるのだ。
総合的な戦力は下位魔神を大きく上回るとされ、このナザロでのサバイバル演習に於いては"最も遭遇したくない魔物"として、兵達からは恐れられている。
――ここからは余談だ。
一説によれば、月の光を浴び続けた特殊なオットルが変異を引き起こし、ガルドシュへと変貌を遂げ知性を持ったと云われている。
しかし学説はなく、勿論科学的根拠もないため、お伽話の類いで済ませられているという。
当然肉は不味いが、脳は珍味と扱われマニアの間では高値で取り引きされているらしい。
「……二人共、気を付けろよ。ガルドシュはそれぞれ個体毎にテリトリーを構え、外敵に侵入を許したと知った途端、犬の何倍もの嗅覚で真っ先に察知してくるんだ。この雨の中でも嗅ぎ付けてくるぞ」
低く構えたパシエンスが、抜き身の鉄剣を手に少女二人へと注意を喚起する。
「それくらい知ってるわよ。で、どこに居るのよアイツは?」
演習メンバーの身を案じつつ、いつでも術を放てるようマナを手先に集中させながらピリムも身構える。
全方位に警戒のアンテナを張り巡らせた二人。
しかし、そんな中――。
「ちょっ、アイネ! どこ行くのよ――!」
ふと、二人から離れるようにアイネが身を乗り出したのだ。
「あっちから血のニオイがするよ~」
薄く笑んだ表情でそれだけを告げると、少女は急ぎ足で木々の隙間を縫っていく。
「と、とりあえず追おうぜ。一人にすんのは絶対危険だ! な、ネスロイド」
取り乱しながらも平静を装った風のパシエンスが、そう促す。
「……ああ、もう! みんな勝手な事ばっかするんだもん……ばか!」
癇癪を起こしそうになりながらも堪え、パシエンスと共にアイネの後を追う少女。
「……なんで女子に先を歩かせるのよ!」
「う、後ろの警戒は任せろ!」
◇◆◇◆
更に強まった雨足の中、警戒を怠ることなくアイネの後を追ったピリムとパシエンス。
しばらく歩くと、樹々が立ち並んでない少しだけ開けた場所へと辿り着いた。
「「――っ!」」
到着したと同時に息を呑む少年と少女。
"開けた場所"というのは、正しくは樹々が幹ごと何本も刻まれ倒された結果、開けてしまったという事だったのだ。
「これ、アイツがやったの……?」
この場へ先に到着し、佇んでいたアイネの背中へピリムが問い掛ける。
「そうみたいだね」
アイネが簡素に返す。
ピリムが驚いている理由とは、一度の剣撃で何本も幹を斬り倒した中に、胴体から真っ二つとなったガルドシュも含まれていたからであった。
白目を剥かせ、舌をだらりと垂らした魔物のその死に貌は、即死だということが容易に窺える。
切り口に目を向けてみると、断面は皮膚のささくれ一つ無いほど綺麗に裂かれていた。
その切れ味から察するに、魔金属であるスピルス製の刀剣での仕業だということは明白だったのだ。
「あいつ、一人でガルドシュを倒したって事か……」
味方ながら戦慄を覚えるパシエンス。
ぶるっと身震いをしてしまったのは雨で冷えたからか、畏怖からかは定かではなかった。
「でも、これで驚異は去った訳ね。さあ、さっさとアイツと合流するわよ――」
冷静に事象を整理したピリムが語尾を言い終えたその時、三人が居る場を取り囲むように周辺から足音が聴こえてきたのだった――。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
むっつり金持ち高校生、巨乳美少女たちに囲まれて学園ハーレム
ピコサイクス
青春
顔は普通、性格も地味。
けれど実は金持ちな高校一年生――俺、朝倉健斗。
学校では埋もれキャラのはずなのに、なぜか周りは巨乳美女ばかり!?
大学生の家庭教師、年上メイド、同級生ギャルに清楚系美少女……。
真面目な御曹司を演じつつ、内心はむっつりスケベ。
旧校舎の地下室
守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。
最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。
MP
ファンタジー
高校2年の夏。
高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。
地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。
しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる