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Eroded Life
28話 エリス④
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「キャー! これが巷でウワサのタピオカミルクティーなのね。このモチモチ食感堪らないわ! うまし! うまし!」
アウル達とは別のテーブルに着いたカレリアが、悲鳴に似た歓喜の言葉を上げている。
「母ちゃん、あのでっかい蛙の卵みたいな物体……なに?」
そのカレリアが口にしている、食に携わるライカでさえも知らない未知の食材。
当然、アウルにも知る由は無かった。
「タピオカ……南のとある地方の木から採れるデンプンのカタマリのことよ」
「デンプン!? ほえー、あの黒いのがねえ」
息子のライカが驚く一方で、ナタールは続ける。
「ええそうよ。この間フルコタ市で開催された"闇バザー"で売りに出されているのをたまたま見付けたの」
闇バザーとは、フルコタ市で月に一度大々的に開催されているフリーマーケット・オークションの総称を指す。
ゼレスティア国で最も治安が悪いと言われている、南地区のフルコタ市。
建国当初からのスラム街の名残が未だに色濃く出ているこの街は、マフィアが市全体を取り仕切っている。
ゼレスティアのマフィアの殆どは、反社会的行動を信条とするような愚連隊被れとは毛色が異なり、治安の悪さを武力で取り締まるといった"自警団"に近い集団だ。
勿論裏では、違法薬物や賭博場の経営をシノギにもしている。
しかし税金もしっかりと納め、治安維持の役目も買って出てることから、国軍も存在を黙認済みとしているのが現状だ。
そんなマフィア達が旗手となって開く、町興しの意味合いの強い催しの一つが、闇バザーなのだ。
ここでは古今東西、他国から輸入した稀少な武具や、食料、宝石類、家具などが売られている。
国軍からの厳正な審査の上『売っても良い』と認可が下りた範囲内での商品を、マフィアの傘下にある商人達が売り捌いているのだ。
「――その時ちょうど視察に訪れてたカレリアちゃんが、私がタピオカを購入している現場を見ていたのよ」
「へえー、って母ちゃん闇バザーなんて行くのか……」
いくら大っぴらに開催しているとは言え、気軽に足を運べる街では無い。
それがフルコタ市に対する、ゼレスティア国民の認識となっていた。
「ひやあ、まひゃかフルほタでナはールさんに会えうとは思わなくてね」
口に含んだ大量のタピオカを咀嚼しながら、カレリアが当時を語る。
「ナタールさんがゼレスティアで滅多にお目にかかることのできないタピオカを買っててね、私が無理言って"今度食べに行かせてください"って頼んだら約束をしてくれて、オフの日を利用して足を運んだっていういきさつよ」
「"そんな"格好してまで?」
アウルが指を差しながら言う。
「し、仕方ないでしょ! また前みたいに一般客に囲まれるのが嫌だったのよ!」
食べ飲み終えたカレリアが、マスクを口元へと戻す。ニット帽とサングラスも身に付けたままだ。
「本当は店で出すつもりもなく私一人で楽しもうとしてたんだけど、カレリアちゃんが来てくれるって言うから残しておいたのよ」
「私のためにありがとうございますー! マジで美味しかったっす!」
満足げな笑みを浮かべながら礼を言うカレリアに対し、ナタールはニコっと微笑む。
「さて……と、用事は済んだことだし、私は帰りますかな! アウルくん、また明日王宮でね! ライカくんもお店頑張って――ん、あれ?」
お代をテーブルの上に置き、帰りの支度を済ませようとしたカレリアの手が不意に止まる。
「アウルくんの隣に座ってるその子……だあれ?」
ようやくエリスの存在に気付いたカレリアが、サングラスとマスクの奥から訝しむ。
「あ、この子はね――」
"付き合っている"という設定を、再び認識させられるのを危惧したアウル。
慌てて自分から説明をしようとするが――。
「私、エリス。アナタのことはアウルから話を聞いているわ。よろしくね、カレリアちゃん」
「――っ!?」
アウルは絶句。
なぜ少女は、自ら名乗ったのか。
バズムントにも、ライカにも、特性を使って認識を刷り込ませていたというのに――。
「よろしく……ね。初めて見る顔だけど、アウルくんのお友達かな?」
カレリアのその様子と口振りから、アウルは悟った。
(特性を使っていない……? どうして……)
アウルは、エリスへと目を配る。
すると少女は表情を緩ませ平静を装ってはいるものの、明らかにその目は笑っていない。それどころか、どこか焦っているようにも窺えたのだ。
「ええ、お友達よ」
「そっか! よろしくね、エリスちゃん」
(カレリアちゃんには特性を使えない理由でもあるのか……? 女性だから? いや、ナタールさんにも認識はさせてたし……じゃあどうして)
アウルは考える。
エリスを攻略するヒントがどこかにある筈だ、と希望を携えて。
「エリスちゃんは学園時代からのアウルの友達だよ」
ライカが付け加える。しかし、その説明はどこかおかしい。
(――っ! 友達……? さっきは俺と"付き合ってる"ってライカは言ってたよな……。もしかして、"設定"を上書きしたのか?)
アウルの推測は当たっていた。
少女がライカへ認識させていた設定は『アウルとエリスは恋人関係を結んでいる』というもの。
しかしカレリアに特性が通じないと見るや、エリスはアウルの人間関係をよく知る彼女の認識に矛盾が巻き起こると判断し、そこで仕方なくライカの認識を即座に書き換えていたのだった。
「へえー、そうなんだ。でもこんなカワイイ子初めて見るなあ。エリスちゃんは、どこに住んでいるの?」
「私は……ドメイル市に住んでいる、よ」
歯切れが悪そうに答えたエリス。
アウルの目から見て、明らかに動揺をしているのが窺える。
「へえ~! ドメイルかぁ、私と一緒だね! なんか身なりも良いし、どこかの貴族一家の子なのかな?」
「ええ、そうよ……」
(まだカレリアちゃんには特性を使えていない……。考えろ、考えろ俺――!)
脳を限りなく回転させ、アウルは理由を探る。
カレリアが店を後にする前に、どうにか攻略法を見付け出さなければ――。
アウル達とは別のテーブルに着いたカレリアが、悲鳴に似た歓喜の言葉を上げている。
「母ちゃん、あのでっかい蛙の卵みたいな物体……なに?」
そのカレリアが口にしている、食に携わるライカでさえも知らない未知の食材。
当然、アウルにも知る由は無かった。
「タピオカ……南のとある地方の木から採れるデンプンのカタマリのことよ」
「デンプン!? ほえー、あの黒いのがねえ」
息子のライカが驚く一方で、ナタールは続ける。
「ええそうよ。この間フルコタ市で開催された"闇バザー"で売りに出されているのをたまたま見付けたの」
闇バザーとは、フルコタ市で月に一度大々的に開催されているフリーマーケット・オークションの総称を指す。
ゼレスティア国で最も治安が悪いと言われている、南地区のフルコタ市。
建国当初からのスラム街の名残が未だに色濃く出ているこの街は、マフィアが市全体を取り仕切っている。
ゼレスティアのマフィアの殆どは、反社会的行動を信条とするような愚連隊被れとは毛色が異なり、治安の悪さを武力で取り締まるといった"自警団"に近い集団だ。
勿論裏では、違法薬物や賭博場の経営をシノギにもしている。
しかし税金もしっかりと納め、治安維持の役目も買って出てることから、国軍も存在を黙認済みとしているのが現状だ。
そんなマフィア達が旗手となって開く、町興しの意味合いの強い催しの一つが、闇バザーなのだ。
ここでは古今東西、他国から輸入した稀少な武具や、食料、宝石類、家具などが売られている。
国軍からの厳正な審査の上『売っても良い』と認可が下りた範囲内での商品を、マフィアの傘下にある商人達が売り捌いているのだ。
「――その時ちょうど視察に訪れてたカレリアちゃんが、私がタピオカを購入している現場を見ていたのよ」
「へえー、って母ちゃん闇バザーなんて行くのか……」
いくら大っぴらに開催しているとは言え、気軽に足を運べる街では無い。
それがフルコタ市に対する、ゼレスティア国民の認識となっていた。
「ひやあ、まひゃかフルほタでナはールさんに会えうとは思わなくてね」
口に含んだ大量のタピオカを咀嚼しながら、カレリアが当時を語る。
「ナタールさんがゼレスティアで滅多にお目にかかることのできないタピオカを買っててね、私が無理言って"今度食べに行かせてください"って頼んだら約束をしてくれて、オフの日を利用して足を運んだっていういきさつよ」
「"そんな"格好してまで?」
アウルが指を差しながら言う。
「し、仕方ないでしょ! また前みたいに一般客に囲まれるのが嫌だったのよ!」
食べ飲み終えたカレリアが、マスクを口元へと戻す。ニット帽とサングラスも身に付けたままだ。
「本当は店で出すつもりもなく私一人で楽しもうとしてたんだけど、カレリアちゃんが来てくれるって言うから残しておいたのよ」
「私のためにありがとうございますー! マジで美味しかったっす!」
満足げな笑みを浮かべながら礼を言うカレリアに対し、ナタールはニコっと微笑む。
「さて……と、用事は済んだことだし、私は帰りますかな! アウルくん、また明日王宮でね! ライカくんもお店頑張って――ん、あれ?」
お代をテーブルの上に置き、帰りの支度を済ませようとしたカレリアの手が不意に止まる。
「アウルくんの隣に座ってるその子……だあれ?」
ようやくエリスの存在に気付いたカレリアが、サングラスとマスクの奥から訝しむ。
「あ、この子はね――」
"付き合っている"という設定を、再び認識させられるのを危惧したアウル。
慌てて自分から説明をしようとするが――。
「私、エリス。アナタのことはアウルから話を聞いているわ。よろしくね、カレリアちゃん」
「――っ!?」
アウルは絶句。
なぜ少女は、自ら名乗ったのか。
バズムントにも、ライカにも、特性を使って認識を刷り込ませていたというのに――。
「よろしく……ね。初めて見る顔だけど、アウルくんのお友達かな?」
カレリアのその様子と口振りから、アウルは悟った。
(特性を使っていない……? どうして……)
アウルは、エリスへと目を配る。
すると少女は表情を緩ませ平静を装ってはいるものの、明らかにその目は笑っていない。それどころか、どこか焦っているようにも窺えたのだ。
「ええ、お友達よ」
「そっか! よろしくね、エリスちゃん」
(カレリアちゃんには特性を使えない理由でもあるのか……? 女性だから? いや、ナタールさんにも認識はさせてたし……じゃあどうして)
アウルは考える。
エリスを攻略するヒントがどこかにある筈だ、と希望を携えて。
「エリスちゃんは学園時代からのアウルの友達だよ」
ライカが付け加える。しかし、その説明はどこかおかしい。
(――っ! 友達……? さっきは俺と"付き合ってる"ってライカは言ってたよな……。もしかして、"設定"を上書きしたのか?)
アウルの推測は当たっていた。
少女がライカへ認識させていた設定は『アウルとエリスは恋人関係を結んでいる』というもの。
しかしカレリアに特性が通じないと見るや、エリスはアウルの人間関係をよく知る彼女の認識に矛盾が巻き起こると判断し、そこで仕方なくライカの認識を即座に書き換えていたのだった。
「へえー、そうなんだ。でもこんなカワイイ子初めて見るなあ。エリスちゃんは、どこに住んでいるの?」
「私は……ドメイル市に住んでいる、よ」
歯切れが悪そうに答えたエリス。
アウルの目から見て、明らかに動揺をしているのが窺える。
「へえ~! ドメイルかぁ、私と一緒だね! なんか身なりも良いし、どこかの貴族一家の子なのかな?」
「ええ、そうよ……」
(まだカレリアちゃんには特性を使えていない……。考えろ、考えろ俺――!)
脳を限りなく回転させ、アウルは理由を探る。
カレリアが店を後にする前に、どうにか攻略法を見付け出さなければ――。
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