PEACE KEEPER

狐目ねつき

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Climax show

61話 自分勝手で幼稚な絵空事

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「どちらの味方か……だって?」


 ワインロックが怪訝をこぼした通り、エルミからの質問は些か不自然な内容のもの。
 それもそのはず、つい先程に外敵――駆除の対象だと告げられたからだ。

「貴方の行動には幾つもの矛盾点があります」

 聞き返されたエルミが返答する。
 彼の胸中にはどうしても拭い去る事の出来ぬ違和感が、水底に沈殿した泥かの如く残っていたのだ。

「まず、上位魔神が国内へと転送できるのなら、なぜゲートの内側からゼレスティアに攻撃を加えないんです?」

「…………」

 ワインロックはここに来て初めての沈黙。
 返答を待たず、お構い無しにとエルミは続ける。

「転送先の座標特定ロケーションは先程名前が出てきた“トリー”という上位魔神へ、貴方が伝えているのでしょう? それが可能でしたなら今日に限らず以前からこの国を壊滅させることなど容易ですよね? 何故そうしなかったのです?」

「…………」

 ワインロックは顎に人差し指をあてる仕草をしながら考えを巡らせている様子。
 しかし相手は尋問士エルミ。出任せを用いた口八丁で切り通すのは厳しいだろう。

 ――両者の間に数瞬の沈黙と緊張が流れたのち、ワインロックがようやく開口する。


「……そうだね。確かにキミの言う通り、僕がその気になれば魔神族をたくさん国内へと転送させて、内部からあっという間にゼレスティアを陥落させることができただろうね」

「…………」

 今度はエルミが口を開かず。
 発言に虚偽が含んで居ないかと、ワインロックの目線や口の動きなど、所作全てに細心の注意を払い集中していたのだ。

「でも僕はさ、別にこの国を壊滅させるつもりはないし、引いて言えば人間を絶滅させたいわけでもないんだよ」

 そう言うと彼は立ち上がり、やや目線を上に向け、まるで全世界へとでも発信するかのように声高に言う。

「僕にとってキミ達人間は共に肩を並べ合った兄弟のような関係であり、狂おしいほどに尊いかけがえのない存在なんだ。そんなキミ達が限られた力と叡智によって築き上げてきた文明を、内側から崩す真似なんてしたくないというのが僕の本音なのさ」

「……でしたら、なぜ魔神族へ協力するのです?」

 少しだけ間を置き、エルミが返す。

「キミ達側にばかり付いていたら不公平だと思ったからさ。だから僕はどちら側にも協力は惜しまないつもりでいたんだよ? 天使言語アンゲントリックについての記述がされた書類も、キミが拠点ココに潜入してくると踏んで、残しておいたのさ」

(…………っ!)

 以前に潜入した時の事を思い出し、エルミが静かに悔しさを滲ませる。
 ワインロック自身が内通者について疑いをかけられるのを以前から予見していた、という事に対してだ。

 そんな彼の胸中などいざ知らず、ワインロックは座り込んだままのエルミの肩に手を置き、諭すような口調で語り掛ける。

「ねえエルミ、わかるだろう? 人間と魔神……僕は両方大好きなんだ。だから――」
「――共生の道を歩めと? それは無理でしょう」

 エルミが遮り代わりに紡いだが、ワインロックは首を横に振る。

「違うね、だよ。僕は人間と魔神――お互いが全てを尽くして争い合った果ての、どちらかの種族の終焉をこの目で見届けたいだけなんだ」

「…………」

 当然、エルミには納得などできる筈がないだろう。
 馬鹿馬鹿しいと思うことすら馬鹿馬鹿しい程の自分勝手で幼稚な絵空事。
 こんな男の手の平の上で人間は一千年以上も踊らされていたのか、と思うと吐き気すら催してくるほどだ。


「……あまりにも下らない願望ですね。反吐が出そうになりましたよ」

 肩に置かれた手を埃でも払うかのように弾き、エルミが本心をありのまま零した。

「あははは、そうだろうねえ。でもさ、キミ達はこれからも僕が描いたその下らない“シナリオ”の上をなぞり、再来月に控えた“決戦”の日まで歩んでいくしかない――これは変えられない事実だよ」

「貴方から聞き出した情報をゼレスティアやガストニアへ共有されるのも、貴方のシナリオの内――という事ですか?」

「……うん、そうだね」

 頷くワインロック。
 するとエルミは、今まで以上に語気を強め――。

「――ここの外でフェリィを孤立させたのも貴方の計算内、なんですか……?」

「もちろん。彼女は僕のシナリオにはいらない。ここで死んでもらう」

「…………」

 即答するワインロック。
 対してエルミは無言で俯き、小刻みに肩を震わせる。

「あはは……怒っているのかい? さっきの攻撃の時もそうだったけど、キミは随分と彼女を買っていたからね。あんな姿のエルミを見れるなんて……情報を提供してもお釣りがくる程に僕は満足したよ」

 神経を逆撫でるような声色で、意地の悪い笑みを浮かべるワインロック。

「キミが“逃げろ”と言ったのに指示も聞かずに牢を破壊しようとするなんて……本当に愚かで哀れだよねえ、彼女。そういえば随分と外が静かになったね。音がしなくなったってことは……もうクィンに食べられてしまったのかな? あははは」

「…………」

 俯いたままのエルミの肩の震えは、治まるどころか更に大きく。
 その様を見て楽しむワインロックは、得意の長話癖を遺憾なく発揮した上で挑発を続ける。

「安心してよ、エルミ。クィンの食欲は凄くてね、骨の一本や血の一滴すら残さずにキレイに食べてくれるんだ。だからここを出ても彼女の無惨な姿を見る心配はないよ」

 その挑発に対しエルミは我慢を堪え切れず、遂に感情が臨界点に達する。
 しかし――。






「…………ククク」

 耳にした相手へ、嫌悪感を抱かせる笑い声。
 石牢ここに閉じ込めてから初めて聴こえた、エルミのいつもの薄ら笑いだ。

「……?」

 当然、ワインロックは怪訝に捉える。
 エルミの肩の震えが、怒りの感情に依るものとばかり思っていたからだ。

 そしてエルミは顔色を窺うワインロックに向けて晒すように面を上げ、八重歯を覗かせる――。


「ククク……あまり私を笑わせないでくださいよ、ワインロック」

「何が可笑しいんだい?」

 目を細めて笑むエルミに対し、相反するかのように今度はワインロックの表情が無となる。

「いやぁ……貴方のその、筋書き通りに事が運んでいるのを確信し嬉々としている姿を見ていると……どうも笑いが止まらなくなってしまって……すみません、クククク」

 エルミは黒いグローブを嵌めた手を口元に当て、噴き出しそうになるのを堪える。

「……気でも触れたのかな? 僕、何か変なことでも言ったかい?」

 再度尋ねるワインロック。
 彼は平静を装ってはいたが、声色や眉の僅かな動きからエルミに感情を読み取られてしまう。

 そしてその感情を弄ぶように、尋問士は嘲笑う。


「ククク……私は至って平常ですよ? どうやら貴方は何も理解していないようですねぇ。私の事も――フェリィ・マーテルスという人間の事も」

「何だって……?」

「私が“逃げてください”と言って、彼女が大人しく従うとでもお思いでしたか?」

「……っ?」

 ますますと、ワインロックが訝しむ。

「彼女が私の身を案じ、助け出そうと必死に尽力することくらい、私は最初からお見通しでしたよ。あの指示は私に対しての油断を誘い出すために言ったものなんです」

「――っ!」

 しれっと言って退けたエルミ。
 ここでワインロックは初めて全てを理解する。
 手の平の上で踊らせていたつもりが、全くの逆だったという事に。

「まあ、流石に貴方が魔神ではなく、アルセアと名乗った事に関しては想定外でしたが――」
「そんな事は今いいよ。今すぐ答えるんだ、エルミ。彼女は……」

 要領を得ないと思ったワインロックは逸り気味に口を挟み、手っ取り早く聞く。



「……まだ生きている、っていうのかい?」


 エルミは再び八重歯を見せると、普段の調子で答える。

「ええ。私の計算が合っていれば、ですが」

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