PEACE KEEPER

狐目ねつき

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Climax show

60話 質疑応答

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 その頃、石牢内では――。


 エルミの魔術で発生させた光球によって照らされた内部。
 白色の光に包まれた空間の中、ワインロックが片膝を立てた体勢で地べたに座り込み、エルミは石の壁へと背中を預けた状態で話をしていた。

「つまりワインロック……いやアルセア、貴方が人間と魔神族の永きに渡る争いを仕組んだということですね?」

 腕を組んだ姿勢で尋ねるエルミ。

「人聞き悪いこと言うねえ。僕はあくまで魔神族を生み出した存在なだけであって、争いに発展したのは他の大陸から来た人間が先に魔神族を攻撃したのがきっかけなんだよ?」

「貴方が魔神族を生み出さなければそもそも争い自体起きなかったでしょうに。なんて事をしてくれたんですか」

「あははは、随分な言い掛かりだなあ」

 問い詰めるが、ワインロックは飄々ひょうひょうとした様相を崩さない。

 先刻、自ら正体を明かしたワインロックに対し、エルミはにわかに信じる事がどうしても出来なかった。
 真偽の程を確かめるため、大陸全土に巣食う魔神と人間との過去に起きた争いの詳細について、彼は数々の質問をぶつけていた。

『――では、次に参りましょう。1346年、ゼレスティアの南に位置する“商業都市コメルシア”の領土内に魔神が出現した際、当時から同盟国にあったゼレスティアからは何名が出兵され、何名が帰還しました?』

 使い古された革製のカバーが掛かったメモ帳片手に万年筆を握りながら、エルミ。

「帰還したのは80人中、58人だね。ちなみに1346年時点ではまだコメルシアとは同盟を結んではいないよ? その事件をきっかけに締結されたのさ。それと当時はまだ魔神の種別が定められていなかったよね。今で言う中位魔神が5体現れ、ゼレスティアからはピースキーパー家4代目当主、ドゥリース・ピースキーパーも派兵されていたっけなあ。ちなみにその時の僕はコメルシアで“エミルオ”という名で傭兵をやっていたよ」

 悩む素振りすら見せずに即答するワインロック。
 彼はエルミが違和感なく巧妙に凝らした“引っ掛け”に訂正を加えるばかりか、問われてもいない情報まで惜しげもなくべらべらと語り明かす始末。

(…………!)

 更には国立図書館に保管されている1600年に及ぶ歴史が事細かに記された、限りない数の手記全てを把握しているエルミですら知り得ない情報が、次々と彼の口から発せられたのだ。


「……ふう、そろそろクイズは終わりにしないかい? 僕、いい加減喉が乾いてきたよ」

「そうですね、では質問の主旨を変えましょうか」

「あ、質問自体を止めてくれるわけじゃないんだね」

「この教会で私とフェリィの前へ最初に現れた信者。彼のあの身体能力は魔神の力ですか?」

「……まあいいや、答えてあげるよ。そうだね、信者達に与えたのはクィンの血と向精神薬を僕独自のブレンドで調合したものさ。キミも流石にあれには驚いたかい? あの薬はね、一粒飲むだけで脳波と血流に刺激を与え、身体能力を飛躍的に向上させる事が出来るんだよ。他にもマナの容量キャパシティとか~~~~」

 ワインロックが語る一方で、エルミはその類稀なる観察眼を駆使し、発せられる言葉一つ一つに対し虚偽ではないかと見定めていた。
 だが、どの発言にも虚偽を口にした際に出る僅かな機微の変化すら現れず。
 目の前のアルセアと名乗る男は、既に数十分は繰り広げられているこの詰問じみた質疑応答をあっさりと看過してみせたのだった。


「……わかりました、もう結構です。ひとまずは貴方の言っている事を信じるとしましょう」

 ワインロックの口から湯水の如く溢れ出る言葉を遮ったエルミ。
 本心ではやはり信じたくはなかったが、“信じない”となると最も信頼に足る自身の観察眼を否定するのと同義だという事にも気付いていた。

尋問士キミ相手だからこそ、ここまで真実を語ったんだ。光栄に思ってよ」

 エルミの尋問士としての実力を認めていたワインロックが、にこりと笑む。

「では……信じた上で、最後に二つ質問をします」

「ええ~? そこ無視しちゃうの? 僕一応、大陸中に信者を抱えるアルセア教のシンボルなんだよ? そんな僕からの敬意なんだから光栄に思わなきゃダメだよ?」

「私が尋問をする際には、たとえ相手が国王であろうと誰もが等しく“ただの人”です。例外はありません」

 エルミがそう冷たく言い放つと、ワインロックは両手を広げて『残念』と言ったようなジェスチャーを見せる。

「……ま、いいや。で、質問の内容はなんだい?」

「まず一つ目、これは“質問”というより“確認”ですね」

 先にそう付け加えたエルミは、後を紡ぐ。



「――今後、ゼレスティア軍は貴方を“外敵”と見做みなしますが、構いませんね?」



 外敵――つまり、ワインロック・フォーバイトは国内に於ける“駆除”の対象となるという事だ。

 この処遇は今までの質疑応答によって、たった今エルミが独断で決めたものとなる。

 彼がヴェルスミスから指示されていたのは『魔神族との内通者を発見』という主旨での尋問を用いた調査。

 任を受けたエルミは現在に至るまでの約三ヶ月間、全団士及び『リーベ・グアルドを扱える』限られた兵士のみを一人一人呼び、尋問にかけた。

 そして本来であれば、それによって炙り出された内通者を拘束し『魔神との連絡手段』や『どこまで軍の機密を洩らしたか』など、“拷問”も辞さない程に情報を洗いざらい吐かせるつもりであった。

『……そうだねえ、まあ、ここまで話しておいて今更言い逃れするつもりも無いし、構わないよ』

 しかし、この男は悪びれる様子すら一切見せずに情報を自ら打ち明け、たった今罪を受け入れたのだ。
 更には『軍に籍を置きながらの異教団への加担』や『違法薬物の製造』など、軍規や法律に背いた彼の罪状は他にも多々ある。
 拷問で聞き出す必要もなく、現時点で判明している罪状だけでも充分だとエルミは判断し、彼を外敵と見做す判決を下したのであった。

「で、僕はこれからどうなるのかな?」

「外敵なんですから勿論、駆除の対象になるでしょうね」

 ワインロックからの問い返しに、エルミが淡々と告げる。

「駆除だなんてひどいなあ、僕一応人間のていは為しているんだよ? そんな害虫みたいな扱いはしないで欲しいなあ」

「まだ害虫でいてくれた方がありがたいですけどね」

「あはははは」

 腹を抱えて笑うワインロック。
 死刑宣告とほぼ同義な判決を下されたというのに、彼の様相は微塵も恐れ慄いているようには見えず。


「……でも、さっきもそうだったけど僕、ちょっとやそっとじゃ死なない身体だよ? どうやって駆除するのかな?」

「その問題に関しては既に私の管轄外です。戦闘担当ではありませんので。ただまあ……“頭と胴を切り離しても平気”という貴方の言葉を信じるのでしたら、それ相応の対策が練られるでしょうね」

 あっさりと言い退けたエルミ。
 彼の性格は基本的には非感情的ドライで『無理と諭られる前に無理を悟れ』を信条に、日々任務に従事していた。

「キミはもう、僕を殺そうとしないのかい?」

「ええ。貴方は私が困っている所を見たいのでしょうけれど、無駄ですよ」

「……残念」
 
 袖にされ、薄く笑うワインロック。


「では、残り一つの質問ですね」

 そう端を発すと、エルミはおもむろに背中を預けていた石壁から離れ、ワインロックの真正面に尻餅を置く。

「これまでの質疑応答で“ワインロック・フォーバイト”への尋問は終わりです。この質問は、私個人から“アルセア”に向けた興味本位での問いです」

「……? なんだい?」

 突如として改まったエルミ。
 ワインロックは意外だったのか、少しだけ驚く。
 そして――。



「アルセア、貴方は人間と魔神、どちらに味方するんですか?」
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