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Climax show
63話 第12団士と影術
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――PM13:30。北門からすぐ傍、林道内にて。
「――“ハイドシェード・アイズ”」
太陽の光すら届かない程の、身の丈の何倍もある木々が鬱蒼と茂る林道の中。第12団士のシェイム・グリッドレスが片膝をつけ、片手を地へと翳しながら術を唱えた。
「どう、シェイム? 魔物は見付かった?」
その彼の後ろを歩いていた第11団士、カレリア・アネリカが背後から尋ねる。
「…………付近にはいないな。今範囲を拡げて探るから少し待っていろ」
赤色の長い前髪の奥にある目を閉じながら、シェイムが静かに応えた。
それに対しカレリアは小さく溜め息を漏らし、立ち止まる。
「……あの、カレリア様」
「ん、なあに?」
二人の更に後方を歩いていた、依頼主である業者の男が恐る恐ると口開き、カレリアが振り向く。
「シェイム様は一体何をしていらっしゃるのですか?」
「ああ、“アレ”ね。今アイツは影術を使って魔物が林の中に居ないか探ってるの」
カレリアは疑問に答えてくれたが、耳馴染みの無い単語の出現により、業者は更に首を傾げてしまう。
「影……術? そのような種類の術は聞き覚えがありませんが一体……」
「あはは、やっぱりそういう反応になるよね~。アイツしか影術使えないしね」
にぱっと愛想の良い笑顔を見せたカレリアは意味深にそう告げると、説明を始める。
「おじちゃん達はさ、私達が扱う魔術の“属性”――全部で何種類あるかわかるよね?」
カレリアにそう尋ねられると、業者の男と木材を積んだ荷馬車を引く男が一斉に考え込む。
「属性、ですか? ええと……火に……水に、風と、木……土、あとは光……でしたよね? もう30年以上も前に習ったきりですので、自身はありませんが……」
「そう、大正解♪ まあゼレスティア出身なら誰もが学士の頃習ってるし、常識よね」
にこやかに正解を告げ、カレリアは続ける。
「今おじちゃんが言ったその六つの属性がゼレスティア――というよりこの世界に於ける基本の六大属性ね。んで、その六大属性に属してはいるんだけど、全く別の系統の種類の術も実は存在しているの。私達はそれを“派生術”って呼んでるんだけどね」
「はぁ……。派生術、ですか」
反芻させるように口にする業者の男だが、いまいちピンと来ていない顔色だ。
「そう。例えば水属性の派生術に“氷術”があったり、地属性の派生に“雷術”があったりとか、全部でどれだけあるのか私も把握しきれてないし仕組みも詳しく解明されてないんだけど、様々な種類の術があるみたいなのよ」
「だとすると影術はどの……」
「影術は光術の派生ね。そして、シェイムはこの世で唯一その影術が使える術士ってこと!」
カレリアの口から出た『唯一無二』と同義の噛み砕きやすい言葉の出現により、業者の男がようやく理解を示す。
「なるほど、流石は団士様といったところでしょうか。ちなみにその派生術というのは、どのようにして会得するのでしょうか……?」
「うーん、生まれながらに持ち合わせた天賦の才なのか……本人のたゆまぬ努力の甲斐あってなのか、私自身扱えるワケじゃないから良くわからないけど……まあとにかく、そう簡単に覚える事が出来ないもの、ってのは確かね」
それだけを言い終えたカレリアが、履いてたショートパンツのベルトに括り付けていた水筒を取り出す。
中に入っていた水をごくりと喉に流し込み、一息をつき説明を再開させる。
「ふぅ、ちなみに今シェイムがやっているのはその影術を用いた索敵ね。アイツ、自分の影と繋がっている影の中限定で影と影の間を自由に行き来できるの。今は“視界”だけを移動させる術を発動して、この林全体を探っている最中、ってところね」
「それはまたすごい! あっ――」
更なる感嘆を見せる業者の男であるが、突如としてカレリアの背後へと視線が釘付けとなってしまう。
しかしカレリアは男の視線や表情の些細な変化に気付く事が出来ず、お構い無しに続ける。
「まあでも……“影を操る術”ってさ、陰気な性格のシェイムにピッタリ過ぎだと思わない? なんかアイツほら……色々こじらせちゃってるしね! あははははは――――」
「――おいアラサー女、なに余計なことをほざいてる。殺すぞ」
高らかに笑うカレリアの背後、その皮肉の相手となるシェイムが耳打ち気味に彼女の笑い声を遮る。
仰天のあまりカレリアは断末魔じみた叫び声を上げ、それによって驚いた鳥達が林の遥か上空へと一斉に羽ばたいていく――。
「――全く、こっちは索敵で神経を使ってる最中だというのに貴様ときたら呑気に談笑するばかりか、他人の能力の説明を勝手にべらべらと……しかも事実無根な注釈まで余計に加えやがって」
「なによ! 別にいいじゃん! 減るもんでも無いでしょ!? それにアンタの性格が陰気で色々こじらせてるのは事実じゃないの!」
呆れた口調で説教するシェイムに対し、カレリアが開き直ったかのように返す。
「なにを逆ギレしてるんだ。それにオレの術は“影”術じゃなく“闇”術だと何度も言ってるだろう。勝手に改変をするな」
「ほら出た! 闇! 闇! アンタだけよ自分の術を闇術とか名付けてんの! そんなことばっか言ってるから色々こじらせてる、って言われんのよ!」
「黙れ怪力貧乳アラサー三重苦。誰からも愛されることのないまま集合住宅の一角でひっそりと孤独死してろ」
「~~~~~~っ!!」
逆上の末、発狂じみた激昂を見せたカレリア。
文字に起こすことなど到底出来そうにない汚い言葉の羅列と共に、シェイムへ襲い掛からんとする。
それを見兼ねた業者の男二人が慌てて仲裁に入り、シェイムはそれを尻目に『付き合いきれるか』と吐き捨て、一足先に林道を進んで往く。
「あっ! アンタ待ちなさいよっ! 索敵はもう済んだの!?」
男達から取り押さえ気味に引き止められつつ、カレリアがシェイムの背中にそう訊いた。
「索敵はとっくに終わってる。影が届く範囲――少なくともこの林道に魔物の類いは存在しない。居るのは怯えた動物達だけだ」
「怯えた動物達……魔物が居ないっていうのに? 妙ね……」
いつの間にやら冷静さを取り戻したカレリアが、怪訝に思いながらシェイムの後を進む。
業者の男達も諍いが終わったことによりホッと胸を撫で下ろし、移動を再開させる。
「確かに妙だが、魔物がいないとなれば警戒しても仕方ないだろう。さっさと行くぞ」
「……そうね」
シェイムに諭され、違和感を胸に秘めたままカレリアは歩を進める。
そしてゆっくりとではあるが、四人と二頭と一台は無事、林を抜けることに成功する――。
◇◆◇◆
「ふぅ、やっと抜けたわね。う~ん、久々の日光気持ち良しぃ~!」
両腕を目いっぱい上に掲げ、伸びをしながら降り注ぐ
陽光を一身に浴びるカレリア。
業者の男達もやっとの思いで林道を抜けれたことに喜びを露わにしている。
暗い林道をなんとか抜けた彼女らの視界に広がる景色は、見渡す限りの果てしない平原と滑らかな岩肌のゲートに囲まれた城塞都市。
北門までは距離にして数百ヤールトと、既に目と鼻の先だ。
「さ、おじちゃん達! ゼレスティアまで後少しよ! 最後まで一緒にがんば――」
「おい、カレリア。あそこ見てみろ」
荷馬車の方へと振り向き、意気盛んと促そうとするカレリアの言葉を再び遮ったのは、隣に立つシェイムだった。
「シェイム? 一体どうしたのよ……?」
指先以外を覆った革のグローブを嵌めた手で、シェイムが差した方向をカレリアが窺う。
約50ヤールト右前方、彼女が目で追った先に広がる光景。そこには――。
「え? あれ、サクリウスよね……?」
口から出たその名。
第13団士のサクリウス・カラマイトが地に蹲り、微動だにしない。
そして傍らに立っているのは見知らぬ男性。
見た限りで得た情報のみで考えると、その謎の男が手元に握る何かをサクリウスに向けている、といった光景だ。
「ウソ……あいつが?」
握られた物の正体や、二人がどのようにしてそのような因果に至ったかなど、カレリアは勿論シェイムにも知る由は無かった。
しかしほぼ確実に言えるのは)『仲間であるサクリウスが窮地に陥っている』という事だ――。
「……? おい、貴様何を?」
カレリアが背中に括り付けていた大剣を急いで取り出そうとするのを見て、シェイムが訝しむ。
「なに、って……助けに行くに決まってるでしょ! サクリウス、どこからどう見てもピンチじゃない!」
『当然』と言わんばかりにカレリアが答えるが、シェイムは怪訝とした様相を崩さない。
「敵の実力も未知数なのに、か? 辞めておくことだな」
「ハァ!? あんたマジで言ってんの? 冗談でしょ!?」
「冗談なものか。それにあの敵、どう見ても人間にしか見えんぞ? そんな姿形で団士を圧倒できる相手なんて上位魔神くらいしか考えられん。それでも貴様は行く、と言うのか?」
「…………っ!」
“上位魔神”。その言葉が出たことによりカレリアが押し黙ってしまう。
彼女は中位団士。魔神族との戦闘経験は数多くこなしてきたが、上位魔神相手となると遭遇すらした事が無かったのが現状。自身にとって全くの未知の存在だったのだ。
しかしどういった相手なのかは、上位団士や団長などから聞き及んではいた。その戦力の強大さは充分に把握しているつもりでいたのだが――。
「…………っ」
剣を握る手にじっとりとした汗が浮き、心の臓でも鷲掴みにされているかのような息苦しさがカレリアを襲う。
――そう、単純に怖いのだ。
「…………っっ!」
到底適うはずはない。それは彼女も大いに理解をしていた。
しかしそれでも、仲間の危機を見過ごすことなどできない。
カレリアは恐怖心を押し殺し、勇気を振り絞り決意を口にする。
「……でも! それでも……サクリウスは見捨てられないよ……! 仲間だから!」
「そうか。では行ってこい。骨は拾ってやらんぞ」
「え、嘘でしょ!? ここはあんたも“そうか、じゃあオレも行くぜ”って感じで乗っかる流れじゃないのぉ!? そこはカッコつけなさいよ!」
「生憎だがオレは勝算の無い戦いはしない主義だ」
「なにカッコつけてチキン宣言してんのよ! いいから行くわよアンタも! ほら、早くしないとサクリウスが殺されちゃう!」
悠然と腕を組むシェイムの手首をカレリアが掴み、無理矢理と引き寄せる。
「おい、離せ! 上位魔神だぞ? オレ達なんかが馳せ参じたところで敵うワケがないだろう! それにオレはサクリウスの事が大嫌いなんだ! 勝手に一人で死んでくれた方がむしろありがた痛だだだだ――!」
口八丁を用いて文句を並べるシェイムであったが、カレリアに手首を思い切り握られてしまう。
「……シェイムぅ、私に殺されるより上位魔神に殺された、っていう方が名誉の戦死っぽくてまだ格好がつくと思うんだけど……どう思う?」
笑顔のカレリア。
あまりにも不条理な二択をシェイムへと強いる。
魔神族に引けを取らない殺気が、彼女から発せられる異様な気迫から察知することができた。
(コイツ……本気だ!)
冷や汗がたらりと、シェイムの長く伸ばした前髪の隙間から頬へと伝う。
「ねぇ、どう思う?」
念を押すように再度尋ねるカレリア。
拷問器具で少しずつ力を加えていくように、手首へと圧が込められていく。
(くっ……!)
戦慄するシェイム。
仲間と自分の命が懸かった選択。
判断は急を要する。
そして――。
「……どうなっても知らんぞ」
「――“ハイドシェード・アイズ”」
太陽の光すら届かない程の、身の丈の何倍もある木々が鬱蒼と茂る林道の中。第12団士のシェイム・グリッドレスが片膝をつけ、片手を地へと翳しながら術を唱えた。
「どう、シェイム? 魔物は見付かった?」
その彼の後ろを歩いていた第11団士、カレリア・アネリカが背後から尋ねる。
「…………付近にはいないな。今範囲を拡げて探るから少し待っていろ」
赤色の長い前髪の奥にある目を閉じながら、シェイムが静かに応えた。
それに対しカレリアは小さく溜め息を漏らし、立ち止まる。
「……あの、カレリア様」
「ん、なあに?」
二人の更に後方を歩いていた、依頼主である業者の男が恐る恐ると口開き、カレリアが振り向く。
「シェイム様は一体何をしていらっしゃるのですか?」
「ああ、“アレ”ね。今アイツは影術を使って魔物が林の中に居ないか探ってるの」
カレリアは疑問に答えてくれたが、耳馴染みの無い単語の出現により、業者は更に首を傾げてしまう。
「影……術? そのような種類の術は聞き覚えがありませんが一体……」
「あはは、やっぱりそういう反応になるよね~。アイツしか影術使えないしね」
にぱっと愛想の良い笑顔を見せたカレリアは意味深にそう告げると、説明を始める。
「おじちゃん達はさ、私達が扱う魔術の“属性”――全部で何種類あるかわかるよね?」
カレリアにそう尋ねられると、業者の男と木材を積んだ荷馬車を引く男が一斉に考え込む。
「属性、ですか? ええと……火に……水に、風と、木……土、あとは光……でしたよね? もう30年以上も前に習ったきりですので、自身はありませんが……」
「そう、大正解♪ まあゼレスティア出身なら誰もが学士の頃習ってるし、常識よね」
にこやかに正解を告げ、カレリアは続ける。
「今おじちゃんが言ったその六つの属性がゼレスティア――というよりこの世界に於ける基本の六大属性ね。んで、その六大属性に属してはいるんだけど、全く別の系統の種類の術も実は存在しているの。私達はそれを“派生術”って呼んでるんだけどね」
「はぁ……。派生術、ですか」
反芻させるように口にする業者の男だが、いまいちピンと来ていない顔色だ。
「そう。例えば水属性の派生術に“氷術”があったり、地属性の派生に“雷術”があったりとか、全部でどれだけあるのか私も把握しきれてないし仕組みも詳しく解明されてないんだけど、様々な種類の術があるみたいなのよ」
「だとすると影術はどの……」
「影術は光術の派生ね。そして、シェイムはこの世で唯一その影術が使える術士ってこと!」
カレリアの口から出た『唯一無二』と同義の噛み砕きやすい言葉の出現により、業者の男がようやく理解を示す。
「なるほど、流石は団士様といったところでしょうか。ちなみにその派生術というのは、どのようにして会得するのでしょうか……?」
「うーん、生まれながらに持ち合わせた天賦の才なのか……本人のたゆまぬ努力の甲斐あってなのか、私自身扱えるワケじゃないから良くわからないけど……まあとにかく、そう簡単に覚える事が出来ないもの、ってのは確かね」
それだけを言い終えたカレリアが、履いてたショートパンツのベルトに括り付けていた水筒を取り出す。
中に入っていた水をごくりと喉に流し込み、一息をつき説明を再開させる。
「ふぅ、ちなみに今シェイムがやっているのはその影術を用いた索敵ね。アイツ、自分の影と繋がっている影の中限定で影と影の間を自由に行き来できるの。今は“視界”だけを移動させる術を発動して、この林全体を探っている最中、ってところね」
「それはまたすごい! あっ――」
更なる感嘆を見せる業者の男であるが、突如としてカレリアの背後へと視線が釘付けとなってしまう。
しかしカレリアは男の視線や表情の些細な変化に気付く事が出来ず、お構い無しに続ける。
「まあでも……“影を操る術”ってさ、陰気な性格のシェイムにピッタリ過ぎだと思わない? なんかアイツほら……色々こじらせちゃってるしね! あははははは――――」
「――おいアラサー女、なに余計なことをほざいてる。殺すぞ」
高らかに笑うカレリアの背後、その皮肉の相手となるシェイムが耳打ち気味に彼女の笑い声を遮る。
仰天のあまりカレリアは断末魔じみた叫び声を上げ、それによって驚いた鳥達が林の遥か上空へと一斉に羽ばたいていく――。
「――全く、こっちは索敵で神経を使ってる最中だというのに貴様ときたら呑気に談笑するばかりか、他人の能力の説明を勝手にべらべらと……しかも事実無根な注釈まで余計に加えやがって」
「なによ! 別にいいじゃん! 減るもんでも無いでしょ!? それにアンタの性格が陰気で色々こじらせてるのは事実じゃないの!」
呆れた口調で説教するシェイムに対し、カレリアが開き直ったかのように返す。
「なにを逆ギレしてるんだ。それにオレの術は“影”術じゃなく“闇”術だと何度も言ってるだろう。勝手に改変をするな」
「ほら出た! 闇! 闇! アンタだけよ自分の術を闇術とか名付けてんの! そんなことばっか言ってるから色々こじらせてる、って言われんのよ!」
「黙れ怪力貧乳アラサー三重苦。誰からも愛されることのないまま集合住宅の一角でひっそりと孤独死してろ」
「~~~~~~っ!!」
逆上の末、発狂じみた激昂を見せたカレリア。
文字に起こすことなど到底出来そうにない汚い言葉の羅列と共に、シェイムへ襲い掛からんとする。
それを見兼ねた業者の男二人が慌てて仲裁に入り、シェイムはそれを尻目に『付き合いきれるか』と吐き捨て、一足先に林道を進んで往く。
「あっ! アンタ待ちなさいよっ! 索敵はもう済んだの!?」
男達から取り押さえ気味に引き止められつつ、カレリアがシェイムの背中にそう訊いた。
「索敵はとっくに終わってる。影が届く範囲――少なくともこの林道に魔物の類いは存在しない。居るのは怯えた動物達だけだ」
「怯えた動物達……魔物が居ないっていうのに? 妙ね……」
いつの間にやら冷静さを取り戻したカレリアが、怪訝に思いながらシェイムの後を進む。
業者の男達も諍いが終わったことによりホッと胸を撫で下ろし、移動を再開させる。
「確かに妙だが、魔物がいないとなれば警戒しても仕方ないだろう。さっさと行くぞ」
「……そうね」
シェイムに諭され、違和感を胸に秘めたままカレリアは歩を進める。
そしてゆっくりとではあるが、四人と二頭と一台は無事、林を抜けることに成功する――。
◇◆◇◆
「ふぅ、やっと抜けたわね。う~ん、久々の日光気持ち良しぃ~!」
両腕を目いっぱい上に掲げ、伸びをしながら降り注ぐ
陽光を一身に浴びるカレリア。
業者の男達もやっとの思いで林道を抜けれたことに喜びを露わにしている。
暗い林道をなんとか抜けた彼女らの視界に広がる景色は、見渡す限りの果てしない平原と滑らかな岩肌のゲートに囲まれた城塞都市。
北門までは距離にして数百ヤールトと、既に目と鼻の先だ。
「さ、おじちゃん達! ゼレスティアまで後少しよ! 最後まで一緒にがんば――」
「おい、カレリア。あそこ見てみろ」
荷馬車の方へと振り向き、意気盛んと促そうとするカレリアの言葉を再び遮ったのは、隣に立つシェイムだった。
「シェイム? 一体どうしたのよ……?」
指先以外を覆った革のグローブを嵌めた手で、シェイムが差した方向をカレリアが窺う。
約50ヤールト右前方、彼女が目で追った先に広がる光景。そこには――。
「え? あれ、サクリウスよね……?」
口から出たその名。
第13団士のサクリウス・カラマイトが地に蹲り、微動だにしない。
そして傍らに立っているのは見知らぬ男性。
見た限りで得た情報のみで考えると、その謎の男が手元に握る何かをサクリウスに向けている、といった光景だ。
「ウソ……あいつが?」
握られた物の正体や、二人がどのようにしてそのような因果に至ったかなど、カレリアは勿論シェイムにも知る由は無かった。
しかしほぼ確実に言えるのは)『仲間であるサクリウスが窮地に陥っている』という事だ――。
「……? おい、貴様何を?」
カレリアが背中に括り付けていた大剣を急いで取り出そうとするのを見て、シェイムが訝しむ。
「なに、って……助けに行くに決まってるでしょ! サクリウス、どこからどう見てもピンチじゃない!」
『当然』と言わんばかりにカレリアが答えるが、シェイムは怪訝とした様相を崩さない。
「敵の実力も未知数なのに、か? 辞めておくことだな」
「ハァ!? あんたマジで言ってんの? 冗談でしょ!?」
「冗談なものか。それにあの敵、どう見ても人間にしか見えんぞ? そんな姿形で団士を圧倒できる相手なんて上位魔神くらいしか考えられん。それでも貴様は行く、と言うのか?」
「…………っ!」
“上位魔神”。その言葉が出たことによりカレリアが押し黙ってしまう。
彼女は中位団士。魔神族との戦闘経験は数多くこなしてきたが、上位魔神相手となると遭遇すらした事が無かったのが現状。自身にとって全くの未知の存在だったのだ。
しかしどういった相手なのかは、上位団士や団長などから聞き及んではいた。その戦力の強大さは充分に把握しているつもりでいたのだが――。
「…………っ」
剣を握る手にじっとりとした汗が浮き、心の臓でも鷲掴みにされているかのような息苦しさがカレリアを襲う。
――そう、単純に怖いのだ。
「…………っっ!」
到底適うはずはない。それは彼女も大いに理解をしていた。
しかしそれでも、仲間の危機を見過ごすことなどできない。
カレリアは恐怖心を押し殺し、勇気を振り絞り決意を口にする。
「……でも! それでも……サクリウスは見捨てられないよ……! 仲間だから!」
「そうか。では行ってこい。骨は拾ってやらんぞ」
「え、嘘でしょ!? ここはあんたも“そうか、じゃあオレも行くぜ”って感じで乗っかる流れじゃないのぉ!? そこはカッコつけなさいよ!」
「生憎だがオレは勝算の無い戦いはしない主義だ」
「なにカッコつけてチキン宣言してんのよ! いいから行くわよアンタも! ほら、早くしないとサクリウスが殺されちゃう!」
悠然と腕を組むシェイムの手首をカレリアが掴み、無理矢理と引き寄せる。
「おい、離せ! 上位魔神だぞ? オレ達なんかが馳せ参じたところで敵うワケがないだろう! それにオレはサクリウスの事が大嫌いなんだ! 勝手に一人で死んでくれた方がむしろありがた痛だだだだ――!」
口八丁を用いて文句を並べるシェイムであったが、カレリアに手首を思い切り握られてしまう。
「……シェイムぅ、私に殺されるより上位魔神に殺された、っていう方が名誉の戦死っぽくてまだ格好がつくと思うんだけど……どう思う?」
笑顔のカレリア。
あまりにも不条理な二択をシェイムへと強いる。
魔神族に引けを取らない殺気が、彼女から発せられる異様な気迫から察知することができた。
(コイツ……本気だ!)
冷や汗がたらりと、シェイムの長く伸ばした前髪の隙間から頬へと伝う。
「ねぇ、どう思う?」
念を押すように再度尋ねるカレリア。
拷問器具で少しずつ力を加えていくように、手首へと圧が込められていく。
(くっ……!)
戦慄するシェイム。
仲間と自分の命が懸かった選択。
判断は急を要する。
そして――。
「……どうなっても知らんぞ」
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