PEACE KEEPER

狐目ねつき

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Climax show

64話 不意に次ぐ不意の後の不意

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 ――PM13:40、北門ゲート付近。

「じゃあな」

 足元でうずくまるサクリウスへの別れの言葉。
 冷たく言い放ったトリーが直後に、銃の引き金へと指をかける。

(くっ……ここまでか……)

 サクリウスが自身の死を受け入れ、脳内で諦めをこぼした――その時だった。


「――っな!?」


 なんと、トリーの胴体へとのだった。

(なに……っ?)

 突き刺さった巨大な剣は、硬質な重金属で拵えた約150アインクの刃渡り。その長く重い剣身には禍々しいデザインの剣飾が施され、更には人間の腹周りウエストほどの幅を誇っていた。

 そんな代物が高速で飛来し、マナを集中させての身体強化もままならない状態で直撃したのだ。当たり前にひとたまりもなく、着ていたスーツごとトリーの身体は穿たれ、貫通。無残にも胴体から上下へと裂けてしまうのであった。
 
(あぁ痛ってえ……。ったく、一体なんだってんだ)

 胸から上部分だけの姿となってしまったトリーが、切り口から多量の青い血と臓物を撒き散らしながら宙を舞う。
 しかしそのような痛ましい状態になっているにも関わらず、トリーは攻撃の正体を冷静に探る。
 人間であれば即死必至の一撃ですら、魔神族である彼にとっては致命傷には成り得ないのだった。

(なんだぁこのでっかい剣は……?)

 彼の元々立っていた位置。
 その少し背後へ位置する、草が生い茂った大地へ深々と刺さっていた大剣には、自身の青い血液がべっとりと付着していた。それによってトリーは攻撃の正体を察する。

(まさかコイツが飛んできて俺っちの身体を貫いた、ってのか……? マジかよ?)

 胸から下が切り離された状態のまま背中から地べたへと倒れると、トリーはすぐさま剣が刺さった角度から敵の位置を瞬時に割り出す。

(……!)

 すると遠目に見えてではあるが、こちらへと向かってくる人影が窺えたのだった。

(あいつの仕業か……って随分華奢な身体だな……もしかして女か? あんな遠くからこんな重たそうなモン投げたってのか……ウチのクィンじゃあるまいし……)

 飛来してきた剣と全長がさほど変わらない体躯の女性の姿を見て、トリーは思わず目を疑ってしまった。


(この剣は……!)

 そして芝上に倒れたトリーがその人影を捉えたところで、蹲ったままのサクリウスは大剣を一目見ただけで持ち主を特定する――。

(……カレリアか?)


◆◇◆◇


「カレリア、その剣を敵に向かって思いきり投げろ」

 大剣がトリーの身体へと刺さる数十秒前。
 カレリアからの脅迫じみた共闘の要請に嫌々と付き合わされる羽目となったシェイム。
 サクリウスの元へ今にも馳せ参じようと逸るカレリアの背中へ、そう言葉をぶつけたのであった。

「ええ……? 届くかなあ?」

 振り向き、苦い表情を見せるカレリア。

「貴様の怪力なら容易いだろうに。今さら可愛いこぶるなよ」

「ぶ、ぶ……ぶっとらんわ!」

「いいから早くしろ。今更駆け付けたところで間に合わん。この手しか残されていないんだ」

「……わかったわよ。もう……行くと決まったら急に気が大きくなるんだもんなあ」

 断固としたシェイムの口調に、カレリアが渋々と了解を示す。
 すると彼女は手首や肩を捻るように軽くストレッチを開始し、大きく深呼吸をする。
 そして準備が整ったのか、右手で剣の柄を強く握ったまま大きく振りかぶる――。


 ――彼女の武器である大剣バスクアル
 “剣”とは最早名ばかりで、切り裂くことより叩き潰すことに特化をさせたその一振りの重量は、装備者である彼女の体重を優に超す。
 カレリアがなぜそんな扱い難いであろう代物を軽々と手に持ち、自在に操ることが出来るのか。その秘密は彼女の身体に隠されていた。


 人間の体内に流れるマナというのは本来、微量ではあるが血液の流れや呼吸によって、無意識の内に体外へと流れ出ているのが常である。
 魔術を扱う際には、呼気を抑えて集中し、一定量のマナを溜めてから術名の発声と共に体外へ放出するのが基本だ。
 しかし千人に一人という僅かな確率ではあるが、稀にそのマナを体外へ漏らすことの出来ないという特殊な体質の持ち主が、ワンダルシアには存在する。
 その体質の持ち主は体外へのマナの放出が不可能であるため、当然魔術は扱えない。だが、マナは絶えず体内を駆け巡っているのだ。
 そうなってしまうとマナは体内で増加を続け、いずれは許容量キャパシティを超過してしまう量にまで膨らんでしまうだろう。
 だがマナが意思を持ったのか、そのメカニズムは未だ解明されてはいないが、増え過ぎたマナは次第に骨や皮膚、筋肉へと還元されていくのであった。
 結果として、肉体には常人とはかけ離れた頑強さと筋量が宿り、驚異の身体能力を誇ることができるという――。



「うーん……あそこまで届くとは思うけど、当てる自身が無いなあ……」

 ――カレリアもその身体能力を備える内の一人で、マナを肉体の一部へと還元できる特異体質の持ち主だったのだ。

「最悪外れてもいい。だが出来るだけ敵の近くに刺さるようにはしてくれ」

 片目を閉じて狙いを定めるカレリアへ、シェイムが指示を送る。
 すると彼は、投げようと構えるカレリアのやや前方に、片膝をつけてしゃがみ込む。

「……え? アンタこんな時になんでしゃがんでんの?」

「いいから早く投げろ! こっちの準備は気にするな!」

「……わかったわよ」

「あと投げる時、声に出して合図をしてくれ。その方がオレもタイミングが図りやすい。そして投げた後、貴様もへ来い」

「んん? 注文が多いわね……。じゃあ、もう投げるわよ?」

「ああ」


 シェイムの策が読めないカレリアが怪訝とするが、大人しく指示に従う。そして目線を改めて、サクリウスの傍らに立つ敵の方へと向けると――。


「――っっっっぅぅうおりゃーーーっっ!!」

 かけ声と共に勢い良く、切っ先が風を切るように、剣を投げた。

「”シアン・シェード“――!」

 その剣がカレリアの手から離れなたと同時、シェイムは影術を唱えたのであった――。


◇◆◇◆


 そして時は再び現在へと――。


(チャンスだっ…………!)

 上半身が千切れ、地面に転ぶトリーの姿を見てサクリウスが脳内で叫ぶ。
 好機を表すその言葉通り、現在トリーは身体を修復中。完治までには概算ではあるが十数秒はかかるだろう。
 更にはこちらへと向かってくるカレリアを注視しているため、自身への警戒は薄れている。
 トドメを刺すにあたり、これほどの千載一遇の場面はこの先訪れない、と彼は確信したのであった。

(今度こそ……ヤツに“ハイ・ヴァルテックス”を――!)

 先程未遂に終わった雷術での攻撃の敢行を試みるため、サクリウスは地を這って進む。

(もう少しだ……もう少しでヤツまで……!)

 貫かれた左脚は既に用を為さない。両腕の力のみでゆっくりとではあるが、徐々に距離を詰めていくサクリウス。
 魔神の視界に映らない角度から細心の注意を払いつつ近づき、遂には手を伸ばして触れる距離にまで辿り着く。

 そしてサクリウスの土に汚れた顔が確信の笑みを綻ばせた、その瞬間。


(よし! これで――――っ!?)

 こちらへ後頭部を向けていたトリーの首がぐるりと半円の軌道に回転し、視線がぶつかったのだ。
 更に、向けられていたのは視線だけでなく――。

「……甘ぇよ、サクリウス。俺っちは決してオマエを舐めてはいない。来ることは予想済みだよ」

 ――笑顔と共に、銃口が額に向けて構えられていたのだった。

「…………っ!」

 本日何度目かの奇襲は、またもや失敗。
 千載一遇の好機が瞬く間に窮地へと変貌を遂げ、サクリウスの胸中では後悔の念が渦巻いていた。

(クソ……やっちまった。カレリアアイツからのせっかくの援護も無駄に……!)

 そうこう悔いている間にも、トリーの身体はたちまちと修復が成されていく。
 内臓、骨、筋肉、脂肪、皮膚と順々に形成。被服以外をそっくりそのまま再生させたその修復は腰回りにまで達していた。
 そして背中をむくりと起こしたトリーが銃口を向けたまま――。

「今度こそさよならだ、サクリウス」

 改めての言葉。
 引き金に指の力を込め始める。
 しかしその刹那。


「――さよならは貴様の方だ……上位魔神!」

 トリーの背後にある刺さった剣の位置から、唐突に聞き慣れぬ声が聴こえたのだ。

「「なっ……!」」

 驚いた声を同時に発したトリーとサクリウス。
 慌てて声が聞こえた方向へと振り向くが、そこには深々と刺さった大剣のみ。

「……あれ? 空耳なワケ……ないよな」

 剣以外何もない空間に対し疑問を持つが、即座に否定をしたトリー。
 しかし直後、西へと傾き始めていた太陽を背にしたその剣から作り出された影が、まるで隆起でもしていくかのように膨らみ始める。

 だがそれは影ではない、人だ。
 二振りの鉄剣を構えた全身黒ずくめの赤髪の男が、トリーの背後となる位置から音も無く姿を現したのであった。

(新手か……! やばい、修復中この状態じゃ防御が――!)

 ここまで余裕を漂わせていたトリーの表情がここで始めて焦りの色へと変化。
 対し、影の中から現れた男はニヤリと微笑を浮かばせ、無防備な魔神の首へとすかさず剣を振るう。

「――喰らうがいい! “二刀影牙斬”ッッ!」

「うわ、技名だっっさ――!」

 咄嗟に発してしまったトリーの指摘も虚しく、二つの刃は交差をするように首元へと放たれた――。


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