PEACE KEEPER

狐目ねつき

文字の大きさ
125 / 154
Climax show

65話 二転三転

しおりを挟む
 ――シェイムが放った二つの刃は異なる方向から水平に交差させ、逃げ場を無くす事を目的とした剣撃。
 対して魔神トリーは背を向け、地に尻餅を付けた体勢。
 大腿部から下の修復は未だ済んでおらず、身動きは殆ど取れないと言っていい。
 上位魔神にいくら“リーベ・グアルド”の心得があると言っても、この状態では回避もままならないだろう。更には千切れた身体の修復中ということもあって、マナを集中させての防御も不可であった。
 となれば、残された選択はあと一つ――。


(間に合うか……!)

 咄嗟の判断。
 トリーが取った行動は――。

(――――転送テレンス――――)


 念じる事だった。


「――なっ?」

 双刃が手応えを感じさせることなく空を切り、シェイムが驚きを声に出す。

「首が……!」

 唖然とするシェイム。
 彼の目に映るは、首から上部分が綺麗さっぱりと消え去った魔神の身体。

「自害……か? 天晴あっぱれなヤツめ……」

 剣を腰に構えた鞘へと収めながら、やれやれと一息をつくシェイム。
 彼はトリーの特性が転送術だという事を知らない。
 まさか回避の為に空間の捻れへと頭部を隠したなどと、つゆほどにも思っていなかったのだろう。

 ――その情報の不明確さが、彼に油断をもたらす。


 未だ首が無いままのトリーの身体。
 右手で握っていたサクリウスに向けていた銃を、背後で佇むシェイムの方へと不意に――。

(――ッ!? ……銃だと?)

「シェイムっ! ッ!」

 地へと這いつくばるサクリウスからの、怒号じみた指示。
 その指示の要訳は『影術を詠唱し、再び影の中へと隠れろ』といったもの。
 しかし影への潜行は、先程カレリアが投擲した剣から作り出された影に潜んだ際と同様『潜む影へと実際に手を触れながら』でなければ発動しないのであった。


「“シアン・シェ――――」

 慌てて唱えつつ、影に触れようとしゃがみ込もうとしたところで、時は既に遅きに失し。



「――が、はっ……!」

 耳をつんざくほどの銃声の後、脇腹を抑えて膝をつくシェイムの姿が、そこにはあった。



「……いやー、危なかった。流石に焦ったぞ」

 咄嗟に隠した首から上が、溜め息混じりの声を漏らしつつ空間の歪みからずるりと。
 既に修復を終えていた下半身。局部が露わとなったあられも無い姿でようやく起き上がるトリー。
 脇腹を銃で撃ち貫かれ、激痛に震え悶えるシェイムへとそのまま身体を向ける。


「……あれ? 死んでなかったのか? 急所外したか」

 容態を覗き、怪訝気味になると再び銃を構えた。

 今度は脳天へと狙いを定めて――。


「…………“シア、ン・シェッ……ェド”……」

 痛みを堪え、気力を振り絞り、力無い声でシェイムは何とか影術を詠唱。
 すると底無し沼にでも呑まれるが如く、瞬く間に彼の身体は沈んでいく。

「…………!」

 トリーが指に力を込め始めるや否やのタイミングで、大剣が作り出す影の中へと、命からがら逃げおおせたのだった。

「チッ……隠れたか。にしてもムカつく術だなあ。俺っちの能力とちょっとだけ似てるってのも気に食わないねえ」

 舌打ちと共に苛立ちを口にするトリー。
 と、その瞬間。彼の側頭部目掛けて今度は短剣が――。


「――っとぉ。やっぱり容赦ないなあ…………

 飛来してきた短剣の刃を片手で鷲掴みに受け止めたトリーが、名を呼んだ相手へと向き直る。

「はぁっ……はぁっ……はぁっ……!」

 トリーが向いた先には、苦痛に顔を歪ませながら息を切らしたサクリウスが、左脚を引きずらせるように何とか立っていた。
 しかし顔色とダメージから察するに、容態は深刻。
 満身創痍ながら放った投擲スローイングナイフも、悪足掻きに近いものだった。

「……いい加減諦めろよ、オマエも」

 肩と胸のみを覆い隠していた、中途半端に残っていたスーツの切れ端。それをトリーが剥がすように脱ぎ捨てる。

「ヒト族ってのはホント、どいつもこいつも往生際が悪いよなぁ――」

 そう苦言を発した彼の横顔に突如――。

「うりゃああーーっっ!」

 ――走りながらのカレリアからの力任せの剛拳が、ピンポイントに左頬を捉えたのだ。

(――――おもっ!?)

 歯が砕けるどころか、頬骨すらをも陥没させる程の渾身の一撃。
 その想定外の威力に驚愕を言葉には出さなかった、というより出せなかったトリー。
 殴られた衝撃によって勢い良く地面を跳ね、転がる。

 彼はカレリアの接近には気付いていた。そして殴られるであろう左頬へとマナを集中させ、敢えて無防備を晒していた。
 実力差を手っ取り早く解らせるには『攻撃が通じない』という前提を相手の深層心理へと植え付けるのが最も効果的だという事を、彼は心得ていたのだった。
 しかし、その目論見は顔面への手痛いダメージと共に失敗を突き付けられてしまう――。


「サクリウス……だいじょうぶっ!?」

 殴られ飛んでいくトリーの身体を傍目に残しつつ、カレリアがサクリウスの元へと駆け寄る。

「ぐっ……!」

 サクリウスは気力のみで立っていたのだろう。魔神との距離が離れ、僅かな時間が稼げた事に安堵したのか、絶えず血を流し続けていた膝が力を失い崩れ落ちる。

「ちょ、あんた脚どうしたのよ?」

 肩を貸すように身体を支え、カレリアは心配を送る。

「俺の事はいい! 大したケガじゃねー! それよりシェイムのヤローだ……!」

 カレリアを振り払い、再び膝に無理を利かせ、覚束ない足取りで刺さったままの大剣の方へと向かうサクリウス。

「シェイム! まだに居んだろ! 出てこい!」

 剣が作り出す影に向かって呼び掛けると、影術を解除したシェイムが影からずぶずぶと浮き上がるように姿を現す。

五月蝿うるさいぞ……なんか……用か」

 片膝を立てて座った姿勢で脇腹を抑え、歯を食い縛りながらのシェイム。
 真っ黒な革のジャケットを着ているため出血量の如何が外見上では解らないが、抑えている箇所から察するにどうやら内臓への損傷は免れていたようだ。
 だが、それでも腹部を貫かれたのだ。サクリウスよりも酷い相当な重傷であることは充分に窺えた。


「“なんか用か”じゃねーだろタコっ! テメーなに考えてやがる!? !? ふざけてんじゃねーぞっ!」

 シェイムは見るからに深刻な容態。にも関わらず、サクリウスはその彼の胸ぐらをお構い無しに思い切り掴み、怒声を浴びせる。

「…………っ」

 掴まれ、押し黙ったまま、前髪の奥から反抗を示す鋭い目付きを覗かせるシェイム。

「あと何だよあの攻撃! ダッセー技名付けてんじゃねーよ! せっかくの不意打ちがバレバレじゃねーか!」

「…………“二刀影牙斬”だ、覚えておけ」

「誰が覚えっかボケッ!」



「――サクリウス! こんな時にケンカはヤメて! シェイムは私が無理言ってあんたを助けに向かわせたのよ!」

 見兼ねたカレリアが、今にも殴ろうと気概を見せるサクリウスの手を掴む。

「…………っ!」

 シェイムが彼を助けた理由はともかく、カレリアの言う事はもっともだ。
 この状況はどう考えても仲違いを起こしている場合ではない。

「クソっ……帰還したら真っ先に殴ってやっからな。この根暗ヤロー」

「……フン」

 投げるように胸ぐらから手を離したサクリウスが毒づき、シェイムもそれに呼応するかのように鼻を鳴らした。



 そして三人は、魔神が転がっていった方向へと視線を戻す。
 
「……ほんとあんた達ったら、昔から仲悪すぎよね」

「あ? うるせーよ。コイツが俺を一方的に嫌って――」

 カレリアへと言葉を返したサクリウスの語尾が失われる。
 目の前に立つカレリアの顔の真横――そこに位置する何もない空間が突如として裂け、銃を握ったトリーの右手が顔を出していたのだ。

「カレリ――」

 彼女の身に降りかかる危機へといち早く察し、名を呼ぼうとしたサクリウス。

「――っ!?」

 しかし一瞬にして、カレリアが手の甲で掬いあげるように銃を払い飛ばしてみせたのだ。

 何事も無かったかのよう、一瞥もせずに。

「サクリウス、呼んだ? ほら、ちゃんと敵の方を向いてよー?」

 払い飛ばされた銃が、彼女の後方へと寂しく、無機質に落下する。

「……マジかよ」

 目にも止まらぬ早業を披露したカレリアに対し、唖然とするしかないサクリウス。目を丸くし、あんぐりと口が開いたままだ。

(…………やっぱ強えーんだな、コイツ。普段はアホだけど)


◇◆◇◆


「……あぁもう、なんだよあの女。あの中で一番強いんじゃねえか」

 サクリウス達から十数ヤールト程まで殴り飛ばされたトリー。
 全裸で大の字に草原へと寝転びながら、嫌々と愚痴をこぼす。

(本当なら今の内にさっさと転送してゼレスティアの中に行きたいところなんだけど……)

 胸中でふと漏れ出た本音。
 しかし殴られたことによって腫れ上がり、熱を含んだ重く残るような痛みを発する頬。
 そこに触れながら、彼は起き上がると――。



「ヒト族相手にやられっ放しっていうのはやっぱり癪だよなぁ……」

 ――改めて殺意を携え、集った三人の団士へゆっくりと歩んでいくのであった。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

むっつり金持ち高校生、巨乳美少女たちに囲まれて学園ハーレム

ピコサイクス
青春
顔は普通、性格も地味。 けれど実は金持ちな高校一年生――俺、朝倉健斗。 学校では埋もれキャラのはずなのに、なぜか周りは巨乳美女ばかり!? 大学生の家庭教師、年上メイド、同級生ギャルに清楚系美少女……。 真面目な御曹司を演じつつ、内心はむっつりスケベ。

旧校舎の地下室

守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。

彼の言いなりになってしまう私

守 秀斗
恋愛
マンションで同棲している山野井恭子(26才)と辻村弘(26才)。でも、最近、恭子は弘がやたら過激な行為をしてくると感じているのだが……。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

MP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

断罪まであと10分、私は処刑台の上で「ライブ配信」を開始した〜前世インフルエンサーの悪役令嬢、支持率100%でクズ王子を逆処刑する〜

深渡 ケイ
ファンタジー
断罪まで、あと10分。 処刑台の上で跪く悪役令嬢スカーレットは、笑っていた。 なぜなら彼女は―― 前世で“トップインフルエンサー”だったから。 処刑の瞬間、彼女が起動したのは禁忌の精霊石。 空に展開された巨大モニターが、全世界同時ライブ配信を開始する。 タイトルは―― 『断罪なう』。 王子の不貞、聖女の偽善、王家の腐敗。 すべてを“証拠付き・リアルタイム”で暴露する配信に、 国民の「いいね(=精霊力)」が集まり始める。 そして宣言される、前代未聞のルール。 支持率が上がるほど、処刑は不可能になる。 処刑台は舞台へ。 断罪はエンタメへ。 悪役令嬢は、世界をひっくり返す配信者となった。 これは、 処刑されるはずだった悪役令嬢が、 “ライブ配信”で王子と王国を公開処刑する物語。 支持率100%の先に待つのは、復讐か、革命か、 それとも――自由か。

処理中です...