PEACE KEEPER

狐目ねつき

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Beauty fool monster

80話 無性愛ゆえの試行錯誤

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 待ち合わせの場にて合流を果たしたジェセルとカレリアを加えた一行。
 男女合わせて六人の彼女らが向かった先は、この日の会のために予約をしていた『レト・ロマンス』という名の店だ。

 店内はそこまで広くなく、40~50人の客数を収容できる程度の完全個室制の店だった。
 内観は、テーブルや照明などにアンティーク家具を用いるなど落ち着いたコンセプトを採用という、若者が集う街に構えられた店にしてはどこか静かな雰囲気が漂っていた。
 そんな場だからこその人気なのだろう。店内はどの時間帯もほぼ満員御礼を誇り、予約無しに入店できるのは本当に稀だという。



 数十分ほど歩き、レト・ロマンスへと辿り着いたカレリア達は早速入店し、やや広めな個室へと案内された。
 
 十八歳になる誕生日をまだ迎えていないジェセル以外が酒を注文し、頼んだグラスやジョッキが全員へ行き渡ると、“合コン”とやらは乾杯を迎える。
 そして直後に、お待ちかねとでも言うべきか、それぞれの“自己紹介タイム”が順々に開始された――。



『――えっとぉ、カレリア・アネリカっていいまぁす。こう見えて一応国軍所属でぇす。気安くカレリア“ちゃん”って呼んでほしいかなぁ。よろしくね♪』

 順番が回ってくるや否や立ち上がると、絶妙な力加減で喉をしぼり、わざとらしさが過ぎるほどの甘えたような声色で自己紹介をするカレリア。

『へー! 軍人ちゃんかー、まだ若いのにすごいねえ。大変でしょ?』

 そんな彼女へ興味を示したかのように声を発したのは、トゥライプツリー製の大きな長方形のテーブルを挟んで、正面に居並び座る男達の内の一人だった。
 その反応に対しカレリアは、撒き餌に引き寄せられるが如き食い付きぶりを見せる。

『そうなんですよぉ~。だから私ぃ、早く好きな人作って結婚してぇ、いずれは除隊したいなぁ、なんて。えへへ』

 精一杯の猫なで声を巧みに操り、上目遣いでアピール。
 彼女は早速と、媚薬をたっぷりと塗り込んだ見えない歯牙を剥かせる。

 ――要するに、“落とし”にかかっているのだ。


『……そっかぁ、でもなんか遊び慣れてそうだし、俺の好みではないかなあ』

『……ですよねえ、あはは』

 が、その牙はひらりと躱されてしまった。
 カレリアは一転して愛想笑いへと切り替え、肩の力が抜けたかのよう静かに着席をする。
 座った後もにこやかな顔を浮かべてはいた彼女だが、その胸中は既に穏やかさとは無縁で、断末魔じみた悲鳴をたけらせていた。


(――ぐわあああああああああっっ! 早とちりすぎたああああああ! なんでいっつもこうなっちゃうかなあ!? てかさ、良く言われるんだけど“遊び慣れてそう”ってなに!? 私はただ可愛くあろうとしてるだけなのに……どうしてそんなこと言われなきゃいけないのよおおお)

 絶叫とともに、自身の課題について嘆く。
 ちなみに『遊び慣れてそう』と当時カレリアが良く言われていたのは、服装や髪型などを加味した表面上の雰囲気と、自分を安売りでもするかのようにあっさりと媚びる態度を見せていたからに他ならなかった。
 彼女がその事実に自らで気付き、悔い改めるようになるのはもう少し先の事となる――。


(はぁ……この調子だと今日も収穫はなさそうねえ……。ジェスを使ってまでせっかく開催に漕ぎつけたっていうのになぁ……。あ、このピクルス美味しい)

 嘆きつつ、前菜の前のつまみとして用意された、色とりどりの野菜の酢漬けをポリポリと咀嚼するカレリア。
 そうこうしている内に各自の自己紹介は次々とテンポよく進んでいき、最後となるジェセルの順番へと辿り着く。

(……あ、ジェスの番だ。やっぱりジェスってこういう場でもモテるんだろうなぁ……。せっかく参加させたんだからちゃんとイイ人見付けて今日は帰りなさいよー?)

 若干の恩着せがましさとともに、カレリアが声には出さず声援を送る。
 そのカレリアを含んだ、他の五名からの注目を一身に浴びたジェセルは、酒を飲み交う場には相応しくない神妙な面持ちを浮かべたままスッと立ち上がる。

(表情かったいなぁジェス……緊張してるのかな? まあこういう場は初めてだし、お酒も入ってないなら仕方ないのかもね。がんばれ~)

 初陣へ背中を押す、さながら親心のような感情でカレリアが見守る中、ジェセルは静かに口を開く――。


『私はジェセル・ザビッツァ。カレリアと同様ゼレスティア国軍に所属をしているわ。今日この会に参加したのは、私のとなる相手を探しに来たからよ』

 堅い表情を一切崩さず、淡々と告げるジェセル。

(あはは、パートナーだってさ! ジェスったらだいたーん!)

 控えめな自己紹介を想定していたカレリアは、彼女の思わぬ大胆さに喜ぶ。
 男達もその発言に対し、意気盛んと鼻息を荒くしていた。
 ターゲットを定めでもしたのだろう。

 だが――。



『……アナタ達の中に、私と愛し合えるヒト、いるかしら?』


 冷や水どころか液化した窒素でも注いだかのように、一瞬にして場が凍り付く。
 彼女のその誘いは、言葉尻だけをとると、一生を誓い合う相手を募集している結婚願望の表明のように受け取れる。
 だが、問題は彼女のその表情。まるでこれから戦地にでも赴くような、一般人にはおよそ測り知れない覚悟を携えた意志めいた何かが、エメラルドグリーンに輝く双眸を中心に浮かんでいたのだった。

『…………』

 当然、その募集へ迂闊に立候補など出来るはずもなく、彼女と目を合わせないよう男達一同は一様に俯く。
 しかしそれだけならまだしも、その後の楽しくあるべきだった時間はどこか狂ったままで、言い様のない何とも微妙な空気感が終始続いた。
 店を出た後も、二次会への移行など一切期待が持てず、会はそのまま解散を迎えてしまったのだ――。



『――合コン、ってこんな感じなのね。もっと緩い雰囲気で進行していくものだと思っていたわ』

『あんたがソレ言っちゃう……?』

 台無しにした張本人であるジェセルからの拍子抜けするような発言に対し、カレリアは苦い表情を浮かべ意気消沈としている。

 二人は今、同じドメイル市にあるそれぞれの自宅へと帰ろうと街を歩く。
 時刻はまだ21時を回った頃。夜の繁華街はまだまだ活気が衰えておらず。
 人々で溢れかえるその賑わう様を羨ましそうに横目へと映しつつ、ジェセルと肩を並べてトボトボと、力ない足取りで歩くカレリア。

『……大体さぁ、ジェス。ムリヤリ誘った私が聞くのもおかしい話だけど……何で急に参加する気になったの?』

 二人きりとなったことで、カレリアは単純な疑問を改めて尋ねることにした。

『……私と、死ぬまで愛し合ってくれる人が欲しいと思ったからよ』

 親友といえども胸の内を曝け出さず、飽くまでその曖昧な目的だけをジェセルは主張する。

『いや、だからさぁ、そもそもその目的に対するジェスの行動が意味不明なのよ』

『私、変かな?』

 キョトンとした顔つきで、ジェセルが問い返す。
 彼女の目的が他に隠されているというのを、この時の反応でカレリアは既に勘付いていた。
 今まで色恋沙汰とは無縁の人生を歩んできた友人の突然の心変わりに加え、学士の頃からの長い付き合いだ。詳細はわからずとも何かを察したのだろう。

『変、っていうか……おかしいんじゃない? だって愛し合う相手ってさ、好きな人って事でしょ?』

 それでもカレリアは、目的が別であるにせよ、友人が恋愛というものに対して一歩を踏み出してくれた点に関して素直に感心をしていた。
 純粋な親切心で助言を送ろうと、彼女は否定を述べる。

『だったら、自分が好きになれる人を選ばなきゃ。あんな形で募集するのは絶対おかしいって!』

『……じゃあ、どうしたらいいの?』

『どうしたら……って、うーん』

 言葉に詰まるカレリア。
 自分から押し付けるように相談に乗ったはいいが、そもそもが相手は先天的な無性愛者エイセクシュアリストだ。
 そのような相手にどのような助言が適切なのか、判断に頭を悩ませる。

『んーと、私の場合は単純にイケメンが好き、っていうだけなんだけど、ジェセルもそんな感じで好きになれる人見付ければいいのよ。ほら、“強い人が好き”とか、色々あるじゃない? 自分の好みに忠実に従うのが一番……いいんじゃないかなあ?』

『…………』

 当たり前の内容ではあるのだが、当たり前ではない感覚の持ち主を相手に、カレリアは言葉を探り探りで選んで力説を続ける。
 だがカレリアが一つの例として挙げた、“強い人”という単語。
 何の気も無しに最初に挙げられたその例が、ジェセルに固定観念として刷り込まれ、彼女の行動指針となってしまったのだ。

『他にもね。お金持ちな人だったり、とか魅力は人それぞれあるわけじゃん? ジェセルなんて見た目カワイイんだからよりどりみど――』
『――強い人……なるほど、わかったわ。ありがと、カレリア』

『え? もうわかったの!?』

 カレリアはのちにアダマスとジェセルが結ばれたことを知った際、この時の会話をふと思い出したという――。


◇◆◇◆


『……そもそもお前はなんなんだ、ああ』

 暗い房内にて鉄格子を挟み、看守が見張りに付く中、アダマスとジェセルの二人が言葉を交わす。

『……ごめんなさい、話の順序を間違えたわね。私は軍に所属しているただの光術士よ。それよりも時間がないから率直に聞くわよ。イエスかノーで答えてね?』

 自身に関しての情報は名と所属だけに留め、彼女は本題に入る。


『――アナタ、牢内ココから出たい?』

『……っ!』

 無表情を一貫とさせていたアダマスの眉がぴくりと動く。
 欲や感情といった、己の全てを滅し続けていた彼の心がこの瞬間に僅かにだが、揺れ動いたのだ。


 ――本当は罪など犯していない。


 これこそが、胸の奥底に閉じ込めていた彼の本心であった。
 だが、事件当時彼がどれだけ弁解をしようと、疑いが晴れる事など無かった。
 これから先の長く続くであろう余生。残り全てをこの狭い牢の中で終えるのだろうと、彼は既に諦めていたのだ。

『…………』

『はぁ……答えてくれないのね』

 数十秒ほど待った挙げ句に、残念そうに溜め息をついたジェセル。
 面会時間が五分しか与えられていないため、簡潔且つ率直に本題へ入ろうとしたのだが、流石に不意打ちが過ぎたかと彼女は省みる。

『信用はまだ得られないみたいね……いいわ。じゃあ少しお話をさせてもらうわね。刑務所ココにくるまでアナタのことは勝手に色々と調べたの。これからアナタについての、私が知る限りの情報を話すわ。訂正する箇所があれば遠慮なく言ってくれていいわよ』

『…………』

 仕方ない、とでも言わんばかりに言葉を紡ぎ始めたジェセルに対し、黙殺に徹するアダマス。
『こんなまだ幼い小娘に何ができよう』と、不信感しか抱いておらず、この時点では決して心を開くことはなかった。


『……“戦闘狂アダマス”、二十五歳。本名も出身も不詳。身長215アインク。血液型はC。七年前にゼレスティア軍へ入隊。以後、与えられた任務を忠実に遂行し、若いながらも目覚ましい活躍を見せる。先の戦乱に於いても常に第一線で戦い続け、誰よりも多くの戦果を上げていた――』

 ジェセルは彼の個人情報についてすらすらと並べ、物語の粗筋をなぞっていくかのように、経歴について淡々と語り始める。

『――およそ半年に渡って続いた長い戦争は、突然変異とも言えるほどの急激な魔神族の増加によって、やむを得ず終結を迎えた。そしてアルセア歴1592年、2月23日――ガストニアとの和平条約が結ばれる直前、アナタは戦地である“ピスキン山脈”のエリア15にて、数人の味方兵と野営を張っていた……ここまでは合っているわよね?』

『……エリア15じゃあない。16だ、ああ』

『あら、そうなの? 王宮の書庫にあった報告書からの情報だったんだけど……案外適当ね。というか、覚えてたアナタも意外と几帳面な性格してるのね』

『…………』

 コミュニケーションでもはかろうとしているのか、やや砕けた声色と口調で接しようとするジェセル。
 が、アダマスは必要最低限に訂正を加えたのち、再び口をつぐんでしまう。

『……では、続きね。エリア16での野営中、アナタを含んだ六名のゼレスティア兵達は突如出現した魔神五体と交戦。魔神のランクの内訳は、四体が中位魔神。そしてもう一体が……上位魔神だった』

『…………』

 目を堅く瞑り、話を聞き入るアダマス。
 瞼裏にて当時を思い起こしてでもいるのだろうか。

『突然の事態にもアナタは怯まず、それどころか魔神との戦闘を心待ちにでもしていたかのように悦び、味方の兵の尽力もあり、中位魔神四体を見事仕留めてみせた。救援を要請するために他の兵の指示で退却をさせた一人の兵、彼からの報告書の通りだとそう書かれていたわ。流石は戦闘狂といったところかしらね?』

『…………』

 称賛に対しても、アダマスは沈黙を一貫。
 それに構わず、ジェセルは声のトーンを少しだけ落とす。

『……その後、向かわせた兵はおよそ数十分ほどで、他のエリアにて陣を構えていた兵達を引き連れてアナタの元へと戻ってきたわ。けど――』

 そう、この先が事件として扱われた場面だったのだ。
 彼が咎められた罪というのは――。


『上位魔神は既にその場には居なく……残されていたのは、自軍の兵の死骸が四つと生き延びたアナタ一人。兵達の死因は全て一人の手による撲殺。アナタが手にかけたのよね……アダマス?』

『……ああ、違う』


 戦闘狂は、ここで初めて感情を露わにした。
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