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第二十七話 硝子をつくりたい③
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翌朝、俺は早々に作業を開始した。
硝子の完成までもう一歩であったので、少しでも早く形にしたかったのだ。
と言っても、最後の作業はいたってシンプルなものだ。
ただ均しただけでは、硝子の端部は真っすぐにはならず、使いづらい。そのため、硝子の端部を切り落とし、硝子の形を整えていくのだ。
作業としてはそんなに難しいものでもない。
硝子が四角形になるように、線を引いていけばいいのだ。
ただ、この時に使うのは先を尖らせた鉄平石だ。硝子の表面を傷つけるように線を引いていく。
そして線を引いた場所に沿って、硝子を折るようにして割っていく。すると線通りに綺麗に割れるのだ。
結果、一回り小さい40センチメートル大の板硝子が出来上がった。
手始めとしては十分な出来であろう。
これを数枚合わせれば窓としても十分な大きさになるだろう。
そうして俺が久しぶりに見た硝子に感動していると、誰かがこちらへ向かって歩いてくるのがみえた。
あのキツネ顔は......間違いない。クウネルだ。
「カズトさん、おはようございますぅ」
「クウネルさん、随分と早いですね。どうしましたか?」
「何やらぁ、面白いことをしていると聞きましてぇ」
さすがクウネルだ。どこかから硝子の話を聞いたのであろう、本当に鼻のきく男だ。
「硝子のことですか? 今日、最後の仕上げをするのでみていきますか?」
仕方なく俺はクウネルに提案した。
「もちろんですぅ」
そのために来たのだ。当然の返答であった。
話はそこそこに、俺は最後の仕上げに取り掛かった。
「これが硝子です」
まずはクウネルに硝子をみせた。
「ほほぉ、これはなんとも珍しいぃ」
そう話すクウネルの顔は獲物を見つけたかのようにニヤリと笑っていた。
「それでぇ、これはどのように使うものなんですかぁ?」
「これは家の窓に取り付けるんです」
この世界の住居の窓は、硝子などついているはずもなく、イメージとしては雨戸のような板を脱着することで窓を開放していた。
つまり、板を取り外してしまうと、遮るものが何もなくなり、雨風がそのまま侵入してしまうのだ。
晴れており、風も穏やかな日であれば何の問題もないが、そうでない場合は中々に使いづらい。
雨は入るは、風で室内は荒れるはで大変なことになる。かと言って板を閉じてしまうと真っ暗になり、生活に支障が生じてしまう。
今回の硝子作成の経緯は、そういった生活の不便さを解消しようという試みであった。
「ほほぉ、なるほどぉ」
クウネルには多くを話さずともこちらの意図が伝わったようだ。
「こちら、いくらで売っていただけますかぁ?」
クウネルはすかさず畳みかけてきた。独占販売の権利が欲しいということなのだろう。
俺は考えた末に、こう答えた。
「うーん......。それじゃあ、今後一年間の生活費を補助していただくのはどうでしょうか?」
この世界に来てから、いや、来る前からそうであったが、俺には物欲があまりなかった。
しかも今は念願の我が家も手にしている。
ここでのんびりと生活をしながら、家や庭をいじっていければ、それだけで俺は満足であったのだ。
「それだけでぇ、いいんですかぁ?」
クウネルは怪訝そうな顔をしている。
それもそのはずだ。この世界にとって硝子は、瀝青防水と並んで大発明と言えるものなのだから。
「ただし、販売価格はその分抑えてくださいね」
俺は例のごとく、クウネルに釘をさす。
「もちろんですぅ。前回同様、薄利でやらせていただきますぅ」
クウネルは満面の笑みでこう答えた。
これは俺の推測なのであるが、クウネルが薄利で受けているのは今後の展開を見越してのことなのだと思う。
まずはミズイガハラで実績を残し、ゆくゆくは国内全体への波及を目論んでいるのであろう。もしそれが成功したのであれば、莫大な益を上げることが出来る。目先の利益よりもさらに先を見越したクウネルの商才は称賛に値するほどのものだ。
結果として、誰も不幸にならない取引であるのだから、俺に断る理由などない。しかし、一点だけ気がかりなことがあった。
「ですが、あの領主が何と言うか......」
ミズイガハラの建物の多くは領主の所有物だ。前回同様に勝手に改造する訳にもいかない。
また、瀝青防水の件でこちらに対してはさらに警戒を強めていることだろう。こちらが下手に動いて刺激をすると大事になりかねない。
しかも今回は硝子の生産に時間がかかるため、一夜で終わらせるなんてとも不可能であった。
「そうですねぇ。さすがに前回からそう日も経っていませんからぁ、まだ難しいかもしれないですねぇ。何かボロを出してくれればいいのですがぁ」
さすがのクウネルも妙案は浮かんでこないらしい。
「ですがぁ、とりあえずは硝子の権利はぁ、買わせていただきますぅ。他の方に取られたら大変ですからぁ」
「そうですか。わかりました。ではとりあえずは交渉成立ということですね」
「はいぃ、毎度ありがとうございますぅ」
そう話すクウネルの顔は、多分に漏れず、ねっとりとした笑みを浮かべていた。
硝子の完成までもう一歩であったので、少しでも早く形にしたかったのだ。
と言っても、最後の作業はいたってシンプルなものだ。
ただ均しただけでは、硝子の端部は真っすぐにはならず、使いづらい。そのため、硝子の端部を切り落とし、硝子の形を整えていくのだ。
作業としてはそんなに難しいものでもない。
硝子が四角形になるように、線を引いていけばいいのだ。
ただ、この時に使うのは先を尖らせた鉄平石だ。硝子の表面を傷つけるように線を引いていく。
そして線を引いた場所に沿って、硝子を折るようにして割っていく。すると線通りに綺麗に割れるのだ。
結果、一回り小さい40センチメートル大の板硝子が出来上がった。
手始めとしては十分な出来であろう。
これを数枚合わせれば窓としても十分な大きさになるだろう。
そうして俺が久しぶりに見た硝子に感動していると、誰かがこちらへ向かって歩いてくるのがみえた。
あのキツネ顔は......間違いない。クウネルだ。
「カズトさん、おはようございますぅ」
「クウネルさん、随分と早いですね。どうしましたか?」
「何やらぁ、面白いことをしていると聞きましてぇ」
さすがクウネルだ。どこかから硝子の話を聞いたのであろう、本当に鼻のきく男だ。
「硝子のことですか? 今日、最後の仕上げをするのでみていきますか?」
仕方なく俺はクウネルに提案した。
「もちろんですぅ」
そのために来たのだ。当然の返答であった。
話はそこそこに、俺は最後の仕上げに取り掛かった。
「これが硝子です」
まずはクウネルに硝子をみせた。
「ほほぉ、これはなんとも珍しいぃ」
そう話すクウネルの顔は獲物を見つけたかのようにニヤリと笑っていた。
「それでぇ、これはどのように使うものなんですかぁ?」
「これは家の窓に取り付けるんです」
この世界の住居の窓は、硝子などついているはずもなく、イメージとしては雨戸のような板を脱着することで窓を開放していた。
つまり、板を取り外してしまうと、遮るものが何もなくなり、雨風がそのまま侵入してしまうのだ。
晴れており、風も穏やかな日であれば何の問題もないが、そうでない場合は中々に使いづらい。
雨は入るは、風で室内は荒れるはで大変なことになる。かと言って板を閉じてしまうと真っ暗になり、生活に支障が生じてしまう。
今回の硝子作成の経緯は、そういった生活の不便さを解消しようという試みであった。
「ほほぉ、なるほどぉ」
クウネルには多くを話さずともこちらの意図が伝わったようだ。
「こちら、いくらで売っていただけますかぁ?」
クウネルはすかさず畳みかけてきた。独占販売の権利が欲しいということなのだろう。
俺は考えた末に、こう答えた。
「うーん......。それじゃあ、今後一年間の生活費を補助していただくのはどうでしょうか?」
この世界に来てから、いや、来る前からそうであったが、俺には物欲があまりなかった。
しかも今は念願の我が家も手にしている。
ここでのんびりと生活をしながら、家や庭をいじっていければ、それだけで俺は満足であったのだ。
「それだけでぇ、いいんですかぁ?」
クウネルは怪訝そうな顔をしている。
それもそのはずだ。この世界にとって硝子は、瀝青防水と並んで大発明と言えるものなのだから。
「ただし、販売価格はその分抑えてくださいね」
俺は例のごとく、クウネルに釘をさす。
「もちろんですぅ。前回同様、薄利でやらせていただきますぅ」
クウネルは満面の笑みでこう答えた。
これは俺の推測なのであるが、クウネルが薄利で受けているのは今後の展開を見越してのことなのだと思う。
まずはミズイガハラで実績を残し、ゆくゆくは国内全体への波及を目論んでいるのであろう。もしそれが成功したのであれば、莫大な益を上げることが出来る。目先の利益よりもさらに先を見越したクウネルの商才は称賛に値するほどのものだ。
結果として、誰も不幸にならない取引であるのだから、俺に断る理由などない。しかし、一点だけ気がかりなことがあった。
「ですが、あの領主が何と言うか......」
ミズイガハラの建物の多くは領主の所有物だ。前回同様に勝手に改造する訳にもいかない。
また、瀝青防水の件でこちらに対してはさらに警戒を強めていることだろう。こちらが下手に動いて刺激をすると大事になりかねない。
しかも今回は硝子の生産に時間がかかるため、一夜で終わらせるなんてとも不可能であった。
「そうですねぇ。さすがに前回からそう日も経っていませんからぁ、まだ難しいかもしれないですねぇ。何かボロを出してくれればいいのですがぁ」
さすがのクウネルも妙案は浮かんでこないらしい。
「ですがぁ、とりあえずは硝子の権利はぁ、買わせていただきますぅ。他の方に取られたら大変ですからぁ」
「そうですか。わかりました。ではとりあえずは交渉成立ということですね」
「はいぃ、毎度ありがとうございますぅ」
そう話すクウネルの顔は、多分に漏れず、ねっとりとした笑みを浮かべていた。
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