死に戻り聖女♂は冷酷公爵の執着から逃げられない~今度は死なないために、最強の魔王に身を捧げます~

葵うそ

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公爵邸での新しい朝

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次に目を覚ました時、リアンの身体は驚くほど軽くなっていた。
カーテンの隙間から差し込む柔らかな朝日が、部屋の中を白く照らしている。昨夜までの焼けるような熱は引き、代わりに心地よい充足感が全身を満たしていた。

「え、……」
身を起こそうとして、リアンは自分の格好に目を見開いた。
着ていたボロボロの手製シャツではなく、最高級シルクの寝巻に着替えさせられていたのだ。さらに、部屋を見渡せば、そこはアルヴィスの寝室の隣にある豪華な賓客用の寝室だった。

「お目覚めですか、リアン様」
ノックと共に、数人のメイドが静かに入室してきた。彼女たちは、昨日まで門番が見せていたような怯えや諦念の色を一切浮かべていない。それどころか、リアンを見る瞳には深い感謝と敬意がこもっていた。
「……リアン、様……?」
「はい。閣下より、貴方様をこの城の最優先事項として扱うよう仰せつかっております。朝食の準備もできております」
運ばれてきた銀のトレイを見て、リアンは言葉を失った。
ふかふかの焼き立てパンに、新鮮な果物のジャム。香ばしく焼かれたベーコンと、湯気を立てる具沢山のスープ。
勇者パーティにいた頃の食事は、いつも彼らの食べ残しだった。
固くなったパンの耳と、味のしない具の無いスープ。それが当たり前だと思っていた。
「……こ、これ……本当に僕が食べていいんですか?」
「もちろんでございます。閣下からは『好きなだけ食べさせろ』と厳命されておりますから」
メイドたちが微笑む。彼女たちの顔色が以前より格段に良いのは、リアンがアルヴィスの魔力を浄化し、城全体を覆っていた負のプレッシャーが和らいだからに他ならない。

リアンはおずおずとスプーンを口に運んだ。
「……おいしい……」
温かな味が喉を通るたび、凍りついていた心がじわりと溶けていく。
それは、自分が“生きていていい”と肯定されているような、不思議な感覚だった。

食事が終わる頃、部屋の扉が力強く開け放たれた。
「顔色は良くなったようだな」
入ってきたのは、黒い正装に身を包んだアルヴィスだった。彼が歩くたびに、城の空気が引き締まるようだった。
「閣下……! あ、あの、昨日はありがとうございました。看病までしていただいたと聞いて……」
「礼などいらん。言ったはずだ、お前の体は私の管理下にあると。勝手に熱を出すことも、これからは許さぬ」
アルヴィスはベッドのそばに立つと、リアンの手を取り、その細い指先に唇を寄せた。
「……今日からは、この城の図書室も庭園も自由に使うがいい。だが、私の許可なく城の外へ出ることは禁ずる。……いいな?」
「はい……」

それは自由という名の軟禁だった。
けれど、リアンはそれを恐ろしいとは思わなかった。誰からも必要とされず、ゴミのように捨てられた自分を、ここまで異常なまでに求めてくれる存在。
その重苦しい執着が、今のリアンには唯一の救いに思えた。


==


一方その頃、王都のギルド【暁の光】の拠点では、不穏な空気が流れていた。

「……くそっ、なんで傷が治らねえんだよ!」
勇者ケリウスが、苛立ちまぎれに机を叩く。
彼の腕にある魔物との戦闘で負った傷は、本来なら数日で治るはずのものだった。
だが、リアンという盾を失った今、ケリウスの体にはこれまで肩代わりさせてきた蓄積ダメージがじわじわと表面化し始めていた。
「ルカ!回復魔法はどうした!」
「やってるわよ!でも、なんでか効きが悪いのよ……!体が魔法を拒絶してるみたいになって……」
魔導士のルカも、顔色が悪い。彼女が乱用してきた強力な魔法の反動を、これまで全てリアンが裏で浄化していたことに、彼らはまだ気づいていなかった。
「……あのバカ聖女、どこへ行きやがった」
ケリウスの瞳に、暗い怒りが宿る。

自分たちの体が蝕まれ始めた理由がリアンの不在にあると直感した彼らは、まだ知らない。
彼らが“ゴミ”として捨てた青年が今、この世で最も怒らせてはいけない魔王の腕の中にいるということを。
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