死に戻り聖女♂は冷酷公爵の執着から逃げられない~今度は死なないために、最強の魔王に身を捧げます~

葵うそ

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優しさと執着

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(……体が、重い……)
意識が戻った瞬間、リアンを襲ったのは倦怠感だった。
指先一つ動かすのにも、信じられないほどの体力を要する。熱に浮かされた頭の奥がズキズキと痛み、喉は焼けるように乾いていた。

「……はぁ、……っ、は……」
無理やり目を開けると、そこはやはりアルヴィスの寝室だった。
昨夜、あの凄まじい儀式の途中で意識を失ったことを思い出し、リアンの背中に冷たい汗が流れる。
(……どうしよう……怒っているだろうか。役目を最後まで果たせなかった……)

突如、リアンの前世の記憶がフラッシュバックする。
勇者パーティにいた頃、過労と魔力欠乏で倒れたことが一度だけあった。その時、勇者は看病どころか、寝込んでいるリアンを蹴り飛ばしてこう言い放ったのだ。
『動けないならただの肉塊だな。お前を食わせている飯代がもったいない。さっさと起きて傷を治せ』

あの時の恐怖が蘇り、リアンは震える腕で無理やり上体を起こそうとした。
早く起きなければ。役に立たないと判断されたら、また捨てられてしまう。
「……っ、あ……」
しかし、力が入らず、リアンの体はシーツの上に崩れ落ちそうになる。
その体が床に叩きつけられる直前、冷たくて大きな掌がリアンの肩をしっかりと支えた。
「……無茶をするなと言ったはずだ」
低く、不機嫌そうな声。
顔を上げると、そこには黒いガウンを羽織ったアルヴィスが立っていた。
その赤い瞳は不機嫌そうにリアンを見ているが、肩を支える手には、驚くほどの慎重さが込められている。
「……も、申し訳ありません、閣下……。すぐ、起きますから……。何でも、命じて……」
「黙れ。今の貴様に何ができる。寝ていろ」

アルヴィスは抗う力のないリアンを軽々と抱き上げると、再びベッドの中央へと横たえた。
そして信じられないことに、彼はサイドテーブルに置かれた盆から水差しを取り、コップに水を注いだのだ。
「飲め。……自力で飲めるか?それとも私が口移しで流し込んでやろうか」
「っ、い、いいです! 自分で、飲みます……っ」
顔を真っ赤にしながらコップを受け取り、水を飲み干す。
喉の渇きが癒えていくのと同時に、リアンは困惑していた。
なぜ、この冷酷公爵が自分のそばにいるのか。なぜ、使用人に任せず自らこんなことをしているのか。
「……あの、閣下。……僕は、ただの器なのに。どうしてこんなこと……」
「確かに貴様は器だ。私の魔力を唯一受け入れられる、替えの利かない宝だ」
アルヴィスはベッドの縁に腰を下ろすと、冷たい指先でリアンの汗で濡れた前髪を払った。
「その器にヒビが入るのを、指をくわえて見ていろと言うのか? ……リアン、勘違いするな。貴様の心も、体も、その痛みですら、すべて私の管理下にある」

その言葉は独占欲の塊だった。
けれど、前世で浴びせられた罵倒よりもずっと、今のリアンには温かく感じられた。

アルヴィスの指が、リアンの頬をゆっくりとなぞった。
「誰の許可を得て、そんなに熱を出している。私以外の影響で貴様の体が蝕まれるのは不快だ」
「……す…、すみません……」
「これしきの毒、一日あれば私が中和してやる」
アルヴィスはそう言うと、リアンの胸元に刻まれた契約紋の上に、自らの手を重ねる。
すると、昨夜のような暴力的な奔流ではなく、穏やかで心地よい魔力がリアンの体内を巡り始めた。
それはリアンも驚くほどに優しく、疲弊した細胞を癒やしていった。

(……温かい……。この人、本当は……)
冷酷な死神。人間を憎む魔王。
世間がそう呼び、恐れる彼の真の姿を、自分だけが知っているような気がした。

アルヴィスの魔力に包まれる安心感に、リアンの瞼が次第に重くなっていく。
「眠れ。目が覚めるまで、ここにいてやる」
その言葉にリアンはどこか安心感を覚える。それと同時に、彼を深い眠りへと誘った。

アルヴィスは、寝息を立て始めたリアンの顔をじっと見つめ続けた。
指先に残る、リアンの肌の柔らかさと熱。
ただの道具として手に入れたはずなのに、この華奢な存在が自分の体温で安らぐ姿を見るだけで、胸の奥が不自然なほどに昂るのを感じていた。

「……リアン…。貴様を壊すのも、癒やすのも……愛でるのも、すべて私だ」
執着の炎が、さらに深く、静かに燃え上がっていた。
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