死に戻り聖女♂は冷酷公爵の執着から逃げられない~今度は死なないために、最強の魔王に身を捧げます~

葵うそ

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流れ込む呪い

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「あ……っ、く…、あぁ……っ!!」
リアンの視界がチカチカと点滅する。
密着した胸板から、アルヴィスの体内に渦巻いていた負の魔力が、津波のような勢いで流れ込んできた。

(勇者たちの比じゃない……!こんなにもドロドロとしたものを、この人はずっと一人で抱えていたの……?)
苦痛にのたうち回りたいのに、アルヴィスの強靭な腕がそれを許さない。
逃げ場を失ったリアンの体は、ただひたすらに毒を飲み込むしかなかった。
「……リアン。耐えろ、私を拒絶するな」
耳元で響くアルヴィスの声が、低く、酷く掠れている。
彼もまた、苦痛とそれ以上の解放感に翻弄されているようだった。数百年もの間、彼を苛み続けてきた呪いのような魔力が、リアンという完璧な器を見つけ、一気にそこへ流れ落ちていく。
「あ……うぁ…っあぁぁっ……!」
リアンの胸に刻まれた契約紋が、血のように赤く激しく発光した。
極限の苦痛はやがて、脳を麻痺させるような痺れに変わる。
負のエネルギーがリアンの聖女の力によって白く浄化される瞬間、脊髄を突き抜けるような、抗いがたい衝撃がリアンを襲った。

それは、今までの人生で知っていたどんな感覚とも違う。
魂の深淵まで暴かれ、塗りつぶされるような、恐ろしくも甘美な、支配の感覚だった。

「……いい子だ。すべて受け止めてみせろ」
アルヴィスの大きな手が、リアンの細い背中を、まるで壊れ物を慈しむようになぞる。
その感触に、リアンの理性が溶けていく。
かつて勇者パーティの連中に力を使っていた時は、ただ消耗し、削り取られるだけだった。けれど、アルヴィスとの儀式は違った。

注ぎ込まれる魔力があまりに膨大すぎて、リアンの内側がアルヴィスという存在で満たされていく。
「はぁっ、はぁ……っ、閣下……アルヴィス、さま……っ」
リアンは混濁する記憶の中で、必死にアルヴィスの名を呼んだ。



どれだけの時間が経っただろうか。
地下聖堂には静寂が戻ってきた。

リアンの体からは、浄化しきれなかった余剰の魔力が白い霧となって立ち上り、汗がその白い肌を濡らしている。
アルヴィスは、力なく自分の肩に頭を預けているリアンをじっと見下ろした。

常にアルヴィスの思考を支配していた暴走の疼きは、嘘のように消え去っている。これほどまでに心身が澄み渡ったのは、生まれて初めてのことだった。
(この男、本当に……すべてを吸い上げたのか。私の呪いちからを浴びて、壊れることも、穢れることもなく……?)

アルヴィスの赤い瞳に、未知の感情が宿る。
最初は、ただの便利な器だと思っていた。
代わりなどいくらでもいるはずの、消費されるだけの道具。
だが今、腕の中でぐったりと力尽き、自分と同じ匂いを纏っているこの青年が、たまらなく稀少で、誰の手にも触れさせたくないものに思えてくる。

「……リアン」
アルヴィスが指先でリアンの唇をなぞると、リアンは夢現のまま、小さな吐息を漏らした。
その無防備な姿に、アルヴィスの奥底で、魔力とは別の何かが、どろりと鎌首をもたげた。
「貴様は、私を救ったのだ。……それが、どれほど重い意味を持つか分かっているか?」
アルヴィスは、リアンの首筋に顔を埋めた。
そこには、彼が刻んだ契約紋が誇らしげに鎮座している。
 
「もはや、誰にも渡さん。光の世界にも、あの低俗な勇者共の元にも……二度と帰してはやらない」

それは、救われたことへの感謝などではなかった。
最強の魔王が、自分だけの安息地を見つけてしまったがゆえの、狂気にも似た、執着の始まりだった。

リアンの意識が完全に途絶える寸前、額に落とされた接吻の感触を、彼は夢の中で感じていた。
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