見えざる脅威

カラスナ

文字の大きさ
1 / 1

気にするほどでもない異変

しおりを挟む
 ここは東京。
日本の中心部たるこの大都会では多くの者が忙しない日々を送っている。
そして、今日もまたそんな不変の一日が始まろうとしていた。


ーーただいま、列車が到着いたします。白線より下がってお待ちくださいーー


軋んだ音を鳴らし、到着した列車へ待っていた者達が我先にと強引になだれ込む。この光景もおなじみだ。

 しかし、あまりに過密すぎて徐々にあぶれる者が増えてきたようだ。
そんな中、恰幅のいい男が一人フラフラと出発時刻が近い列車に近づいた。

「すいません。満員なんで次の便にお乗りください」向ノ上はペコぺコと頭を下げて列車へ近づく男に言った。

 その様子を第一車両にいた先輩の桑野は、腕時計で時間を気にしつつ見守っている。
男は首を上下に振って頷いた。意識ははっきりとしているようだ。
ただ、そんな男の印象は鼻息が荒く、呼吸するのも辛そうで今にも倒れてしまいそうに見えた。
おまけにこちらの言葉には反応してくれたものの、一向にそこから動こうとしない。

 向ノ上は男をやむなく誘導することにした。
男の腕を自らの肩にかけ、一歩ずつ着実にベンチへと向かう。
少しばかり時間はかかったが、なんとかベンチへと辿り着いた向ノ上はすぐさま男を座らせた。

 男は容体が悪くなったのか、座ったとたんに蹲った。
その様子を見守っていた向ノ上はトランシーバーを手に取り、その場から離れて列車へと向かいつつ桑野にかけた。

「すいません。今の人、具合悪そうなんでドクター呼んでもいいですか?」と、
蹲ったままの男へ目を向けながら聞く。
「そうだな。熱中症かもしれん。一応呼んどけ」
「わかりました」

話し終えた向ノ上はPHSの内線を使い、常駐しているドクターを呼んだ。

ここ、新宿駅では過去に違う駅にて起きた熱中症での大衆の卒倒から学び、常駐の医師を手配しておくと同時に周囲の中小病院や医院と連携を組むシステムを整えてきた。それは、東京都の都知事による英断であった。

また、このシステムは新宿駅だけならず都内全域においてカバー出来るように計画が進められている。
 都内全域の実験会場として見立てたこの計画は、成功収めた暁には日本全国へと普及させるプロセスが組まれている。

 常駐の 中城健司なかしろけんじは、一目散に駆けつけ容体の悪そうな男の様子を一瞥した後、瞬時にその男に起きている得たいの知れない脅威を、感じ取り救急車を呼び寄せた。この判断速度は現役時代から鈍っていない。
中城は昨年に定年退職をして、その医者の人生の幕引きをした。
ある日、桑野はどこか張っていた糸が切れたようなそんな状況の中城を惜しく思い、この計画を話した。いや、話してしまった。
しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

借金した女(SМ小説です)

浅野浩二
現代文学
ヤミ金融に借金した女のSМ小説です。

セクスカリバーをヌキました!

ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。 国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。 ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

まなの秘密日記

到冠
大衆娯楽
胸の大きな〇学生の一日を描いた物語です。

M性に目覚めた若かりしころの思い出

kazu106
青春
わたし自身が生涯の性癖として持ち合わせるM性について、それをはじめて自覚した中学時代の体験になります。歳を重ねた者の、人生の回顧録のひとつとして、読んでいただけましたら幸いです。 一部、フィクションも交えながら、述べさせていただいてます。フィクション/ノンフィクションの境界は、読んでくださった方の想像におまかせいたします。

完全なる飼育

浅野浩二
恋愛
完全なる飼育です。

服を脱いで妹に食べられにいく兄

スローン
恋愛
貞操観念ってのが逆転してる世界らしいです。

性別交換ノート

廣瀬純七
ファンタジー
性別を交換できるノートを手に入れた高校生の山本渚の物語

処理中です...