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第五部 薬師学校の先生になります!?
第12話『薬師、同類と出会う その3』
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薬材学の授業が終わると、続いて調合実習となる。
広い調合教室へと移動し、全員で決められた薬を作る授業だ。
今日の課題薬は『めまいの薬』。
中でも、心臓の弱っている高齢女性向けの薬を作ることになっている。
教科書に熱心に目を通しながら、薬材を選定する生徒たちを、わたしはルシアン先生と一緒に見て回る。
生徒たちから何か質問があれば、この時点で受け付けるらしい。
どんな質問が飛んでくるのかビクビクしていたけど、調合作業の段階では誰からも質問されることはなかった。さすが最高学年の生徒たちだ。
「ちょっとフィオナさん、もっと自信を持って粉砕作業をなさい」
「ひっ、す、すみません……」
その時、例のフィオナさんがサンドラ様に怒られていた。
フィオナさんの反応は間違いなく人見知りのそれだ。
……うん。人に見られてると思うと集中できないんだろうなぁ。わかる。
わたしはペコペコと頭を下げるフィオナさんを見つつ、そんなことを考えたのだった。
……やがて生徒たちの調合作業が終わると、わたしとルシアン先生で薬の品質をチェックする。
教壇にルシアン先生と並んで待っていると、数人の生徒がやってくる。
「ルシアン先生、お願いします!」
彼らは全員、ルシアン先生のほうに列を作っていた。
いくらわたしが特級薬師免許を持っていても、慣れ親しんだ先生のほうがいいよね……。
なんとも微妙な気分になりつつ、整列した生徒たちを見る。
その手には完成した薬に加え、使用した素材と調合比率を記したメモが握られていた。
「……マルト嬢、配合は完璧ですが、ちょっと粉が細かすぎですね」
「う……実はそれ、飲み薬として調合していて」
「湯薬用の生薬を作る課題だったはずですが……次回は気をつけてくださいね」
ルシアン先生は苦笑しながら言って、なにやらメモをしたためていた。
……そういえばナタリアさん、薬研が倒れそうな勢いで薬材をガリガリと砕いていたっけ。気づいた時点で、伝えてあげるべきだったかな。
その後も続々と生徒たちがやってくるも、全員がルシアン先生のほうへ並んでいた。
皆、わたしをちらりと見るのだけど、こちらにはやってこない。
さ、さすがに遠慮してるだけだよね。近寄らないでオーラ……みたいなものは出してないと思う。たぶん。
「エリン先生、お願いします!」
その時、わたしの前に一人の男子生徒がやってきた。例のコルネウス君だ。
「わ、わかりました。それでは確認させてもらいます」
嬉しい気持ちを抑えつつ、わたしは薬を受け取る。
「あっ、配合表忘れた! 取ってきます!」
それと同時に、コルネウス君は自分の席へと戻っていく。
その背を見送ったあと、わたしは彼の作った薬の粉砕具合と香りを確かめる。
粉の細かさはちょうどいい。でも、この香りは……?
思うところがあったわたしは、少量の薬をつまんで、舐めてみる。
「……レシピに比べて、グリーンオリーブが少ないです。薬匙で三杯入れるべきところを、二杯しか入れてませんね」
「えっ? そうっすけど……」
ちょうど配合表を手に戻ってきたコルネウス君が驚愕の表情を見せるも、わたしは気にせず続ける。
「モグラダケとスイートリーフの配合量は問題ありませんが、オバケソウモドキの代わりにパーチュカ草が入っていますね。めまいの薬にパーチュカ草を使わないことはないですが、この薬材は副作用として、心臓に負担をかけます。今回の課題は『心臓の弱っている高齢女性向けの薬』のはずですが」
「あっ……えっと、そのー」
「おそらく、レシピを見ずに記憶だけで作りましたね。少しでも自信がない時は、しっかりと教科書を見てください。この薬を提供されて、困るのは患者さんなので」
ぴしゃりと言い放つも、ここにきて、生徒たちが驚いた表情でわたしを見ていることに気づく。
「……はっ。す、すすすみません。偉そうなことを」
その空気を敏感に感じ取ったわたしは、とっさに謝る。
「いや、全然偉ぶってなんかないっすよ! ありがとうございます!」
すると、コルネウス君はそう言って頭を下げた。
戸惑いながら周囲を見渡すと、その誰もがわたしに羨望の眼差しを向けていた。
「エ、エリン先生、俺の薬も見てください!」
「わ、私の薬もお願いします!」
次の瞬間、それまで敬遠されていたのが嘘のように生徒たちがわたしに集まってきた。
「わ、わわわ、皆さん落ち着いてください。じゅ、順番に見ますから」
思わずそんな言葉を返し、押し寄せる生徒たちを押し留める。
反射的に隣のルシアン先生を見るも、困り顔をしているだけだった。
「……これは、どうしたことですか」
そのタイミングで調合教室の扉が開き、ミレイユ学校長先生が顔を覗かせた。
「調合実習の授業中なのですが……エリン先生の実力を知ったとたん、見ての通りですよ」
ははは……と苦笑いを浮かべながら、ルシアン先生が言う。
「……なるほど。さすがエリン先生。もう生徒たちからの信頼を勝ち取ったのですか」
その言葉を聞いた学校長先生は何度も頷き、満足げな笑みを浮かべていた。
いやその、お願いですから、笑っていないで助けてください……!
広い調合教室へと移動し、全員で決められた薬を作る授業だ。
今日の課題薬は『めまいの薬』。
中でも、心臓の弱っている高齢女性向けの薬を作ることになっている。
教科書に熱心に目を通しながら、薬材を選定する生徒たちを、わたしはルシアン先生と一緒に見て回る。
生徒たちから何か質問があれば、この時点で受け付けるらしい。
どんな質問が飛んでくるのかビクビクしていたけど、調合作業の段階では誰からも質問されることはなかった。さすが最高学年の生徒たちだ。
「ちょっとフィオナさん、もっと自信を持って粉砕作業をなさい」
「ひっ、す、すみません……」
その時、例のフィオナさんがサンドラ様に怒られていた。
フィオナさんの反応は間違いなく人見知りのそれだ。
……うん。人に見られてると思うと集中できないんだろうなぁ。わかる。
わたしはペコペコと頭を下げるフィオナさんを見つつ、そんなことを考えたのだった。
……やがて生徒たちの調合作業が終わると、わたしとルシアン先生で薬の品質をチェックする。
教壇にルシアン先生と並んで待っていると、数人の生徒がやってくる。
「ルシアン先生、お願いします!」
彼らは全員、ルシアン先生のほうに列を作っていた。
いくらわたしが特級薬師免許を持っていても、慣れ親しんだ先生のほうがいいよね……。
なんとも微妙な気分になりつつ、整列した生徒たちを見る。
その手には完成した薬に加え、使用した素材と調合比率を記したメモが握られていた。
「……マルト嬢、配合は完璧ですが、ちょっと粉が細かすぎですね」
「う……実はそれ、飲み薬として調合していて」
「湯薬用の生薬を作る課題だったはずですが……次回は気をつけてくださいね」
ルシアン先生は苦笑しながら言って、なにやらメモをしたためていた。
……そういえばナタリアさん、薬研が倒れそうな勢いで薬材をガリガリと砕いていたっけ。気づいた時点で、伝えてあげるべきだったかな。
その後も続々と生徒たちがやってくるも、全員がルシアン先生のほうへ並んでいた。
皆、わたしをちらりと見るのだけど、こちらにはやってこない。
さ、さすがに遠慮してるだけだよね。近寄らないでオーラ……みたいなものは出してないと思う。たぶん。
「エリン先生、お願いします!」
その時、わたしの前に一人の男子生徒がやってきた。例のコルネウス君だ。
「わ、わかりました。それでは確認させてもらいます」
嬉しい気持ちを抑えつつ、わたしは薬を受け取る。
「あっ、配合表忘れた! 取ってきます!」
それと同時に、コルネウス君は自分の席へと戻っていく。
その背を見送ったあと、わたしは彼の作った薬の粉砕具合と香りを確かめる。
粉の細かさはちょうどいい。でも、この香りは……?
思うところがあったわたしは、少量の薬をつまんで、舐めてみる。
「……レシピに比べて、グリーンオリーブが少ないです。薬匙で三杯入れるべきところを、二杯しか入れてませんね」
「えっ? そうっすけど……」
ちょうど配合表を手に戻ってきたコルネウス君が驚愕の表情を見せるも、わたしは気にせず続ける。
「モグラダケとスイートリーフの配合量は問題ありませんが、オバケソウモドキの代わりにパーチュカ草が入っていますね。めまいの薬にパーチュカ草を使わないことはないですが、この薬材は副作用として、心臓に負担をかけます。今回の課題は『心臓の弱っている高齢女性向けの薬』のはずですが」
「あっ……えっと、そのー」
「おそらく、レシピを見ずに記憶だけで作りましたね。少しでも自信がない時は、しっかりと教科書を見てください。この薬を提供されて、困るのは患者さんなので」
ぴしゃりと言い放つも、ここにきて、生徒たちが驚いた表情でわたしを見ていることに気づく。
「……はっ。す、すすすみません。偉そうなことを」
その空気を敏感に感じ取ったわたしは、とっさに謝る。
「いや、全然偉ぶってなんかないっすよ! ありがとうございます!」
すると、コルネウス君はそう言って頭を下げた。
戸惑いながら周囲を見渡すと、その誰もがわたしに羨望の眼差しを向けていた。
「エ、エリン先生、俺の薬も見てください!」
「わ、私の薬もお願いします!」
次の瞬間、それまで敬遠されていたのが嘘のように生徒たちがわたしに集まってきた。
「わ、わわわ、皆さん落ち着いてください。じゅ、順番に見ますから」
思わずそんな言葉を返し、押し寄せる生徒たちを押し留める。
反射的に隣のルシアン先生を見るも、困り顔をしているだけだった。
「……これは、どうしたことですか」
そのタイミングで調合教室の扉が開き、ミレイユ学校長先生が顔を覗かせた。
「調合実習の授業中なのですが……エリン先生の実力を知ったとたん、見ての通りですよ」
ははは……と苦笑いを浮かべながら、ルシアン先生が言う。
「……なるほど。さすがエリン先生。もう生徒たちからの信頼を勝ち取ったのですか」
その言葉を聞いた学校長先生は何度も頷き、満足げな笑みを浮かべていた。
いやその、お願いですから、笑っていないで助けてください……!
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