追放薬師は人見知り!?

川上とむ

文字の大きさ
83 / 91
第五部 薬師学校の先生になります!?

第15話『薬師、相談役になる』

しおりを挟む

「……あら、エリン先生、さっそく生徒と交流ですか」

 フィオナさんと話をしていると、突然声をかけられた。

 わたしとフィオナさんはまったく同じ動きで、声のしたほうへ顔を向ける。

 そこには、ミレイユ学校長先生が立っていた。

「あっ、学校長先生……」

 思わぬ人物の登場に、わたしとフィオナさんは声を重ね、同時に人見知りを発動させてしまう。

「その、学校長先生は、どうしてこんな場所に?」

「食後の散歩です。ルートは毎回違うので、ここはたまたま通りかかっただけですよ」

 おずおずと尋ねると、ミレイユ学校長先生はわたしとフィオナさんを見ながら朗らかな笑みを浮かべる。

 確かにここは緑が多いし、散歩コースとしてはうってつけかもしれないけど……。

「それよりフィオナさん、ゆっくりしていて大丈夫? もうすぐお昼休みは終わりますよ」

 学校長先生が金色の懐中時計を見ながら言う。懐中時計とか珍しい。

「え。きょ、教室、戻らないと。エリン先生、あ、ありがとうございました」

 フィオナさんは慌てて立ち上がると、一礼して温室から飛び出していった。

「そ、それではわたしも午後の授業がありますので、これで失礼します」

 そんなフィオナさんの背を見送ったあと、わたしも頭を下げる。

「エリン先生、お待ちなさい」

 そのまま駆け出そうとした時、学校長先生から呼び止められた。

「午後の授業は出なくてかまいません。少し、学校長室に来てもらえますか。話したいことがあります」

「……へっ?」

 そして続いた言葉に、わたしは目が点になったのだった。

 ◇

 ……それから、わたしは無言で校内を進む。

 前を行くミレイユ学校長先生の背を見つつ、わたしの頭の中には様々な考えがよぎる。

 ……もしかして、今日会ったばかりの生徒と馴れ馴れしく話しすぎたのかな。

 いくら教師と生徒の関係といえど、一定の線引きは必要だと思うし。

 教師の何気ない言葉から、生徒が登校拒否になってしまう……なんて話もあると聞くし。

 そのきっかけを生み出してしまったのなら、厳罰は必至だ。

 まさかわたし、就任初日でクビになっちゃう……?

 王宮からの推薦された臨時教師が一日でクビになったりしたら、それこそ大問題だ。

 ゆくゆく、エリン工房の信用問題にすら発展してしまうかもしれない。

 そうなったら……最悪工房閉鎖? わたしのせいで、皆が路頭に迷うことに……!

 ……一度悪いほうに考え出すと、ひたすら悲観的になってしまう。

 わたしの悪いところだとはわかっているけど、長年染み付いたクセは簡単には抜けなかった。

「どうぞ、おかけになって」

 そうこうしているうちに、わたしは学校長室に到着していた。

 ミレイユ学校長先生は朗らかな笑みを浮かべたまま、ソファーに座るように促す。

「し、失礼します……」

 これから何を言われるのだろう……と、不安でいっぱいになりながら、おっかなびっくり腰を落ち着ける。

「お話したいことというのはほかでもありません。先程のフィオナさんのことです」

 その名前が出てきたことで、わたしの背中に冷たいものが流れる。

 ……やっぱり、馴れ馴れしくしすぎたのかな。これは本当にクビの流れかも。

「先程の温室でのやりとり……ずっと見ていましたが、フィオナさんが教師に対して、あれだけ心を開いているのを初めて見ました」

「え、そうなんですか」

「はい。担任のルシアンにも心を開かず……彼もどう接するべきか悩んでいるようでしたので、私も正直驚いています」

 言われてみれば、ルシアン先生もフィオナさんに対して、まるで腫れ物に触れるような対応をしていたような気がする。

 ……まぁ、あの子も人見知りだし、相手が男性教師だと特に厳しいだろうなぁ。

「フィオナさんは平民の出身ですが、飛び級するほどに成績優秀です。ですがあの性格もあり、実技が得意ではないのです」

 わかる気がする。わたしだって、調合を人に見られたらいまだに手が震えるし。

「もし彼女が人見知りを克服することができれば、必ずや大成します。そうは思いませんか?」

「は、はぁ。そう、ですね……」

 どうやら、学校長先生もわたしと同じように考えていたらしい。

 授業中や温室でのフィオナさんの様子を見た限り、かなりの知識量だと思う。それと同じくらい、熱意もある。確かに問題は、あの人見知りで引っ込み思案な性格だ。

「そこで、エリン先生にはフィオナさんの相談役になってもらいたいのです」

「ええっ。相談役ですか?」

「そうです。授業中にフィオナさんを気にかけてもらえる程度で構わないのです。ルシアンには話を通しておきますので、どうかお願いします」

 そこまで言って、ミレイユ学校長先生は頭を下げる。

「わ、わかりました。お受けします……」

 薬師学校のトップに頭を下げられてしまうと、嫌とは言えず。わたしはその提案を了承するしかなかった。

 わたしもあの子のことは同族として気になっていたし、少しでも力になれたらいいな。

 ……どうすればいいのか、今はまだ、皆目検討もつかないけど。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

「お前は無能だ」と追放した勇者パーティ、俺が抜けた3秒後に全滅したらしい

夏見ナイ
ファンタジー
【荷物持ち】のアッシュは、勇者パーティで「無能」と罵られ、ダンジョン攻略の直前に追放されてしまう。だが彼がいなくなった3秒後、勇者パーティは罠と奇襲で一瞬にして全滅した。 彼らは知らなかったのだ。アッシュのスキル【運命肩代わり】が、パーティに降りかかる全ての不運や即死攻撃を、彼の些細なドジに変換して無効化していたことを。 そんなこととは露知らず、念願の自由を手にしたアッシュは辺境の村で穏やかなスローライフを開始。心優しいエルフやドワーフの仲間にも恵まれ、幸せな日々を送る。 しかし、勇者を失った王国に魔族と内通する宰相の陰謀が迫る。大切な居場所を守るため、無能と蔑まれた男は、その規格外の“幸運”で理不尽な運命に立ち向かう!

弟に裏切られ、王女に婚約破棄され、父に追放され、親友に殺されかけたけど、大賢者スキルと幼馴染のお陰で幸せ。

克全
ファンタジー
「アルファポリス」「カクヨム」「ノベルバ」に同時投稿しています。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

王家も我が家を馬鹿にしてますわよね

章槻雅希
ファンタジー
 よくある婚約者が護衛対象の王女を優先して婚約破棄になるパターンのお話。あの手の話を読んで、『なんで王家は王女の醜聞になりかねない噂を放置してるんだろう』『てか、これ、王家が婚約者の家蔑ろにしてるよね?』と思った結果できた話。ひそかなサブタイは『うちも王家を馬鹿にしてますけど』かもしれません。 『小説家になろう』『アルファポリス』(敬称略)に重複投稿、自サイトにも掲載しています。

私に姉など居ませんが?

山葵
恋愛
「ごめんよ、クリス。僕は君よりお姉さんの方が好きになってしまったんだ。だから婚約を解消して欲しい」 「婚約破棄という事で宜しいですか?では、構いませんよ」 「ありがとう」 私は婚約者スティーブと結婚破棄した。 書類にサインをし、慰謝料も請求した。 「ところでスティーブ様、私には姉はおりませんが、一体誰と婚約をするのですか?」

魔王を倒した手柄を横取りされたけど、俺を処刑するのは無理じゃないかな

七辻ゆゆ
ファンタジー
「では罪人よ。おまえはあくまで自分が勇者であり、魔王を倒したと言うのだな?」 「そうそう」  茶番にも飽きてきた。処刑できるというのなら、ぜひやってみてほしい。  無理だと思うけど。

魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。

カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。 だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、 ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。 国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。 そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。