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第五部 薬師学校の先生になります!?
第18話『薬師、手助けをする』
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「ちょっと、フィオナさん」
そんなことを考えた矢先、すぐ近くからサンドラ様の声がした。
「ひゃいっ!」
唐突に名前を呼ばれ、フィオナさんの背筋が伸びる。明らかに動揺していた。
「そこまで身構えなくても……貴女、人に助言している余裕があるのですか?」
「あっ、いえその、ごめんなさい……」
呆れたような、どこか鋭い口調で言われ、フィオナさんは平謝りする。
それからフィオナさんは調合作業に取り掛かるも……慌てていたのもあって、薬皿を落としてしまった。
薬皿は床に落ちると同時に砕け、周囲に破片が散らばる。
大きな音がしたこともあり、教室中の視線がフィオナさんに集まってしまう。
「あ、あああ、あう……」
皆の視線に気づいたフィオナさんは声にならない声を上げ、その場にうずくまる。
……これは、まずい。
「……フィオナさん、割れた薬皿はわたしが片付けますので、あなたは調合作業を続けてください」
言い聞かせるように言ったあと、わたしはフィオナさんの肩を優しく抱いてあげる。
「あ……は、はいっ……すみません……」
多少涙ぐんではいたものの、フィオナさんは立ち上がってくれた。
そして薬材を手に薬研に向かうも、その手は震えていた。
「あの、フィオナさん、調合、こっちでやりませんか」
それを見たわたしは彼女に声をかけ、教室の奥を指し示す。
そこにはカーテンで仕切られた、薬材や道具を一時的にしまっておく倉庫スペースがあった。
「え、でも……」
「あそこのほうが、落ち着いて調合作業ができるはずです。ルシアン先生、いいですよね?」
「ええ、もちろん」
わたしが尋ねると、ルシアン先生はその意図を察したのか、笑顔で了承してくれた。
「と、というわけですので。わたしはカーテンのすぐ向こうにいますから、調合が終わったら声をかけてください」
「は、はい……」
いまだ困惑顔のフィオナさんに薬研と薬材を渡し、倉庫スペースに入ってもらう。それからカーテンを閉めた。
彼女はカーテンの向こうでしばらく深呼吸をしていたようだけど、やがて薬研で薬材を砕く音が聞こえはじめた。
フィオナさんは人見知りだけど、一人になれば落ち着いて作業できるはずだ。
それこそ、わたしが調合室にカーテンを設置して一人で作業するように。
「あ、あの、できました。エリン先生、見てください……」
「えっ、もうできたんですか?」
そんなことを考えていると、カーテンの隙間からフィオナさんが顔を覗かせた。
「こ、これが配合表です」
「あ、大丈夫です。見なくてもわかりますので」
フィオナさんは使用した薬材の描かれたメモを差し出してくるも、わたしは完成した薬だけを受け取る。
それから深めの器に入ったそれを少量すくい取り、出来栄えを確かめる。
……粒の大きさは問題なし。薬材ごとの硬さを理解していて、均等な大きさになっている。
次に、配合はどうだろう。手にした薬を舐めてみる。
……オルニカの根、薬匙三杯。スイートリーフ、薬匙一杯。月の花、薬匙三杯半。ゴールデンリーフ、薬匙一杯半。デーモンウッド、薬匙半分。レシピ通りの完璧な配合だった。
「だ、大丈夫です。きちんとした薬ができていますよ。お見事です」
わたしを伏し目がちに見ていたフィオナさんに、そう言葉をかけてあげる。
「よ、よかった……ありがとうございます」
彼女は顔を上げると、心底嬉しそうな笑みを浮かべた。
実際の薬師免許試験では、不正防止のために試験官が同席することになるだろうけど……まずはフィオナさん自身に、落ち着けば調合できることを理解してもらうことが大事だ。
「も、もし、どうしても人の視線が怖くなったら、目をつぶってしまうのも作戦です。わたしの場合、それに加えて『頑張れ、負けるな』と心の中で呟いています」
「え、先生でもそんなことを?」
「は、はい。今でも時々……」
「……ぷ」
その場面を想像したのだろうか。フィオナさんは噴き出していた。
「わ、笑わないでください……」
「ご、ごめんなさい。その作戦、わたしも使ってみます」
クスクスと笑いながら、フィオナさんは再び笑顔を向けてくれる。
……この子との距離が若干縮まったような、そんな気がした。
◇
……その後、協力実習の結果が発表され、最優秀賞にはナタリアさんとコルネウス君のペアが選ばれた。
「やったー! フィオナっちのおかげだよ! ありがとう!」
「ひゃ!?」
嬉しさのあまり、ナタリアさんはフィオナさんに抱きついていた。
突然の出来事に、フィオナさんは目を白黒させている。
……なんか、かつてマイラさんやクロエさんに抱きしめられたわたしも、同じような反応をしていた気がする。
「ちょっ、ナタリア、俺には感謝しねーのかよ!」
「えー、コルネウスは特に何もしてないじゃん。むしろ指示の通りにやってたら、大失敗してた可能性が高いし」
フィオナさんを抱きしめたまま、ナタリアさんがジト目で言う。
それと同時に教室は笑い声に包まれ、わたしも釣られるように笑顔になったのだった。
そんなことを考えた矢先、すぐ近くからサンドラ様の声がした。
「ひゃいっ!」
唐突に名前を呼ばれ、フィオナさんの背筋が伸びる。明らかに動揺していた。
「そこまで身構えなくても……貴女、人に助言している余裕があるのですか?」
「あっ、いえその、ごめんなさい……」
呆れたような、どこか鋭い口調で言われ、フィオナさんは平謝りする。
それからフィオナさんは調合作業に取り掛かるも……慌てていたのもあって、薬皿を落としてしまった。
薬皿は床に落ちると同時に砕け、周囲に破片が散らばる。
大きな音がしたこともあり、教室中の視線がフィオナさんに集まってしまう。
「あ、あああ、あう……」
皆の視線に気づいたフィオナさんは声にならない声を上げ、その場にうずくまる。
……これは、まずい。
「……フィオナさん、割れた薬皿はわたしが片付けますので、あなたは調合作業を続けてください」
言い聞かせるように言ったあと、わたしはフィオナさんの肩を優しく抱いてあげる。
「あ……は、はいっ……すみません……」
多少涙ぐんではいたものの、フィオナさんは立ち上がってくれた。
そして薬材を手に薬研に向かうも、その手は震えていた。
「あの、フィオナさん、調合、こっちでやりませんか」
それを見たわたしは彼女に声をかけ、教室の奥を指し示す。
そこにはカーテンで仕切られた、薬材や道具を一時的にしまっておく倉庫スペースがあった。
「え、でも……」
「あそこのほうが、落ち着いて調合作業ができるはずです。ルシアン先生、いいですよね?」
「ええ、もちろん」
わたしが尋ねると、ルシアン先生はその意図を察したのか、笑顔で了承してくれた。
「と、というわけですので。わたしはカーテンのすぐ向こうにいますから、調合が終わったら声をかけてください」
「は、はい……」
いまだ困惑顔のフィオナさんに薬研と薬材を渡し、倉庫スペースに入ってもらう。それからカーテンを閉めた。
彼女はカーテンの向こうでしばらく深呼吸をしていたようだけど、やがて薬研で薬材を砕く音が聞こえはじめた。
フィオナさんは人見知りだけど、一人になれば落ち着いて作業できるはずだ。
それこそ、わたしが調合室にカーテンを設置して一人で作業するように。
「あ、あの、できました。エリン先生、見てください……」
「えっ、もうできたんですか?」
そんなことを考えていると、カーテンの隙間からフィオナさんが顔を覗かせた。
「こ、これが配合表です」
「あ、大丈夫です。見なくてもわかりますので」
フィオナさんは使用した薬材の描かれたメモを差し出してくるも、わたしは完成した薬だけを受け取る。
それから深めの器に入ったそれを少量すくい取り、出来栄えを確かめる。
……粒の大きさは問題なし。薬材ごとの硬さを理解していて、均等な大きさになっている。
次に、配合はどうだろう。手にした薬を舐めてみる。
……オルニカの根、薬匙三杯。スイートリーフ、薬匙一杯。月の花、薬匙三杯半。ゴールデンリーフ、薬匙一杯半。デーモンウッド、薬匙半分。レシピ通りの完璧な配合だった。
「だ、大丈夫です。きちんとした薬ができていますよ。お見事です」
わたしを伏し目がちに見ていたフィオナさんに、そう言葉をかけてあげる。
「よ、よかった……ありがとうございます」
彼女は顔を上げると、心底嬉しそうな笑みを浮かべた。
実際の薬師免許試験では、不正防止のために試験官が同席することになるだろうけど……まずはフィオナさん自身に、落ち着けば調合できることを理解してもらうことが大事だ。
「も、もし、どうしても人の視線が怖くなったら、目をつぶってしまうのも作戦です。わたしの場合、それに加えて『頑張れ、負けるな』と心の中で呟いています」
「え、先生でもそんなことを?」
「は、はい。今でも時々……」
「……ぷ」
その場面を想像したのだろうか。フィオナさんは噴き出していた。
「わ、笑わないでください……」
「ご、ごめんなさい。その作戦、わたしも使ってみます」
クスクスと笑いながら、フィオナさんは再び笑顔を向けてくれる。
……この子との距離が若干縮まったような、そんな気がした。
◇
……その後、協力実習の結果が発表され、最優秀賞にはナタリアさんとコルネウス君のペアが選ばれた。
「やったー! フィオナっちのおかげだよ! ありがとう!」
「ひゃ!?」
嬉しさのあまり、ナタリアさんはフィオナさんに抱きついていた。
突然の出来事に、フィオナさんは目を白黒させている。
……なんか、かつてマイラさんやクロエさんに抱きしめられたわたしも、同じような反応をしていた気がする。
「ちょっ、ナタリア、俺には感謝しねーのかよ!」
「えー、コルネウスは特に何もしてないじゃん。むしろ指示の通りにやってたら、大失敗してた可能性が高いし」
フィオナさんを抱きしめたまま、ナタリアさんがジト目で言う。
それと同時に教室は笑い声に包まれ、わたしも釣られるように笑顔になったのだった。
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