33 / 91
第三部 夏の思い出を作りに行きます!?
第17話『薬師、お嬢様と採取に赴く』
しおりを挟む
無事にオレンジの皮を手に入れたわたしたちは、続いてオバケソウモドキを探すことにした。
一旦別荘に戻り、作戦を考える。
「オバケソウモドキ……花屋さんに売ってますかねぇ」
「さ、さすがに売ってないと思います。薬材の知識がない人からすれば、野に咲く花の一つにしか見えないでしょうから。わざわざ花屋さんに卸す価値がありません」
客室のベッドに寝っ転がりながら、スフィアが期待を込めて言うも……わたしはすぐにそれを否定する。
「じゃあ、どこかに採りに行くんですか?」
「は、はい。この近くの丘の上に生えていると、エドヴィンさんから教えてもらいました」
「そうなんですね! なら、今すぐ行きましょう!」
「あ、スフィア、待ってください」
「ぐえっ」
今にも部屋から飛び出さんとするスフィアの襟首を捕まえる。直後、彼女はカエルのような声を出した。
「近いと言っても、険しい山道を登らないといけません。今から出発しても、到着するころには日が落ちてしまいますので、採取は明日にしましょう」
「そ、そうなんですね。うぅ、早くイアン様を助けたいのに……」
「ス、スフィアの気持ちはわかりますが、あの丘には魔物も出るんです。なので、明日はお留守番です」
「そんなぁ……」
わたしの言葉を聞いて、スフィアはへなへなとその場に座り込んでしまう。
かわいそうだけど、この子を危険な目に遭わせるわけにはいかない。明日はわたしとマイラさんの二人で採取に向かうことにしよう。
◇
……そして翌朝。
昨夜のうちにマイラさんに事情を説明し、日の出とともに出発……するつもりだったのだけど。
玄関扉を開けると、そこには満面の笑みのスフィアとオリヴィア様が立っていた。
その後ろには、浮かない表情のエドヴィンさんの姿も見える。
「あの、どうかしたんですか。お見送りにしては、人数が多いような」
なんとなく状況を察しつつも、わたしはそんな言葉を口にする。
「エリンさん、スフィアちゃんから話は聞かせてもらいました。仲間外れはいけません」
オリヴィア様は笑顔のまま言い、スフィアを連れ立って前に出てくる。
「今回の採取、スフィアちゃんを同行させてあげてください」
そして、そう続けた。
昨夜、やけにお風呂からの帰りが遅いと思っていたけど、スフィアはオリヴィア様に相談しに行っていたようだ。
「あの、オリヴィア様の気持ちはわかりますが、丘の上は危険なんです」
「存じ上げておりますわ。それでしたら、わたくしも同行いたします」
「えぇ!?」
思わず、妙な声が出てしまった。
どうしてそうなるの。わたし、危ないって言ったよね!? 万が一、貴族様に怪我をさせようものなら、薬師としての面目が……!
「あのあの、本当に危ないんですよ。魔物も出るんです。そうですよね?」
わたわたしながら言葉を紡いだあと、二人の背後にいるエドヴィンさんを見る。
「……危険なのでおやめくださいと、私も幾度となくお伝えしたのですが」
そう言うエドヴィンさんは、すでに諦め顔だった。
「危険なことは百も承知ですわ。イアンが苦しんでいるというのに、姉のわたくしが何もしないわけにはいきません」
「私もです!」
凛とした表情でオリヴィア様が言い、スフィアがそれに続く。ああ、そういうことかぁ……。
「スフィアちゃん、イアンのため、力を合わせて頑張りましょうね!」
「はい!」
直後、二人は笑顔で握手を交わす。これは、完全にイアン同盟が結ばれてしまっているようだった。
「マ、マイラさん~……」
わたしはワラにもすがる思いで、隣のマイラさんを見る。
用心棒としての経験から、丘の上は危険なのだと、二人にびしっと言ってほしい。
「んー、エドヴィンさん、あの丘に出る魔物って、グレーウルフだっけ?」
「そうですね。基本的に単独行動を好み、群れを作ることは滅多にありません」
「それなら、あたし一人でもなんとかなるかなぁ。ついてきても良いんじゃない?」
マイラさんが軽い口調でそう告げると、スフィアとオリヴィア様は手を取り合って喜んでいた。わたしの願いは、もろくも崩れ去ってしまったようだった。
……エドヴィンさんに見送られながら、わたしたちは別荘をあとにする。
「そ、それでは、行ってまいります」
「お気をつけて。オリヴィアお嬢様を頼みましたよ」
今から向かうのは、オバケソウモドキの採取場所。そこはノーハット家の別荘から、小高い丘を登った先にある。
小高い……といっても、この街は半島に突き出しているので、四方から吹きつける海風によって岩肌が削り取られ、その道中は悪路を極めていた。
「ほらエリンさん、あたしの手を掴んでー」
「あ、ありがとうございます……」
「スフィアちゃんも、足元気をつけてよー」
「ひー、頑張りますー」
所々に難所と呼べるような場所があり、わたしとスフィアはその都度、先頭を行くマイラさんに助けてもらう。
「薬材というものは、こんな厳しい環境下で育つものなのですね。採取する方の苦労も知らずに使っていた自分が恥ずかしいですわ」
……そんな中、オリヴィア様は平然とした顔でわたしたちの後ろをついてくる。
いやいや、今回はたまたまこんな場所にしか生えてなかっただけで、散歩コースになっている森の中とかにも、普通に生えてるから!
心の中で叫ぶも、実際に口にはできず。
というか、両手に荷物を持った状態でわたしたちについてくるオリヴィア様のほうがすごい。
右手のバスケットはお弁当だとしても、反対の手にあるのは……長い棒? 布に包まれていて、よくわからない。
何にしても、イアン様への愛情が為せる技なのかな。
……それからしばらくして、わたしたちはようやく丘の上にたどり着いた。
一旦別荘に戻り、作戦を考える。
「オバケソウモドキ……花屋さんに売ってますかねぇ」
「さ、さすがに売ってないと思います。薬材の知識がない人からすれば、野に咲く花の一つにしか見えないでしょうから。わざわざ花屋さんに卸す価値がありません」
客室のベッドに寝っ転がりながら、スフィアが期待を込めて言うも……わたしはすぐにそれを否定する。
「じゃあ、どこかに採りに行くんですか?」
「は、はい。この近くの丘の上に生えていると、エドヴィンさんから教えてもらいました」
「そうなんですね! なら、今すぐ行きましょう!」
「あ、スフィア、待ってください」
「ぐえっ」
今にも部屋から飛び出さんとするスフィアの襟首を捕まえる。直後、彼女はカエルのような声を出した。
「近いと言っても、険しい山道を登らないといけません。今から出発しても、到着するころには日が落ちてしまいますので、採取は明日にしましょう」
「そ、そうなんですね。うぅ、早くイアン様を助けたいのに……」
「ス、スフィアの気持ちはわかりますが、あの丘には魔物も出るんです。なので、明日はお留守番です」
「そんなぁ……」
わたしの言葉を聞いて、スフィアはへなへなとその場に座り込んでしまう。
かわいそうだけど、この子を危険な目に遭わせるわけにはいかない。明日はわたしとマイラさんの二人で採取に向かうことにしよう。
◇
……そして翌朝。
昨夜のうちにマイラさんに事情を説明し、日の出とともに出発……するつもりだったのだけど。
玄関扉を開けると、そこには満面の笑みのスフィアとオリヴィア様が立っていた。
その後ろには、浮かない表情のエドヴィンさんの姿も見える。
「あの、どうかしたんですか。お見送りにしては、人数が多いような」
なんとなく状況を察しつつも、わたしはそんな言葉を口にする。
「エリンさん、スフィアちゃんから話は聞かせてもらいました。仲間外れはいけません」
オリヴィア様は笑顔のまま言い、スフィアを連れ立って前に出てくる。
「今回の採取、スフィアちゃんを同行させてあげてください」
そして、そう続けた。
昨夜、やけにお風呂からの帰りが遅いと思っていたけど、スフィアはオリヴィア様に相談しに行っていたようだ。
「あの、オリヴィア様の気持ちはわかりますが、丘の上は危険なんです」
「存じ上げておりますわ。それでしたら、わたくしも同行いたします」
「えぇ!?」
思わず、妙な声が出てしまった。
どうしてそうなるの。わたし、危ないって言ったよね!? 万が一、貴族様に怪我をさせようものなら、薬師としての面目が……!
「あのあの、本当に危ないんですよ。魔物も出るんです。そうですよね?」
わたわたしながら言葉を紡いだあと、二人の背後にいるエドヴィンさんを見る。
「……危険なのでおやめくださいと、私も幾度となくお伝えしたのですが」
そう言うエドヴィンさんは、すでに諦め顔だった。
「危険なことは百も承知ですわ。イアンが苦しんでいるというのに、姉のわたくしが何もしないわけにはいきません」
「私もです!」
凛とした表情でオリヴィア様が言い、スフィアがそれに続く。ああ、そういうことかぁ……。
「スフィアちゃん、イアンのため、力を合わせて頑張りましょうね!」
「はい!」
直後、二人は笑顔で握手を交わす。これは、完全にイアン同盟が結ばれてしまっているようだった。
「マ、マイラさん~……」
わたしはワラにもすがる思いで、隣のマイラさんを見る。
用心棒としての経験から、丘の上は危険なのだと、二人にびしっと言ってほしい。
「んー、エドヴィンさん、あの丘に出る魔物って、グレーウルフだっけ?」
「そうですね。基本的に単独行動を好み、群れを作ることは滅多にありません」
「それなら、あたし一人でもなんとかなるかなぁ。ついてきても良いんじゃない?」
マイラさんが軽い口調でそう告げると、スフィアとオリヴィア様は手を取り合って喜んでいた。わたしの願いは、もろくも崩れ去ってしまったようだった。
……エドヴィンさんに見送られながら、わたしたちは別荘をあとにする。
「そ、それでは、行ってまいります」
「お気をつけて。オリヴィアお嬢様を頼みましたよ」
今から向かうのは、オバケソウモドキの採取場所。そこはノーハット家の別荘から、小高い丘を登った先にある。
小高い……といっても、この街は半島に突き出しているので、四方から吹きつける海風によって岩肌が削り取られ、その道中は悪路を極めていた。
「ほらエリンさん、あたしの手を掴んでー」
「あ、ありがとうございます……」
「スフィアちゃんも、足元気をつけてよー」
「ひー、頑張りますー」
所々に難所と呼べるような場所があり、わたしとスフィアはその都度、先頭を行くマイラさんに助けてもらう。
「薬材というものは、こんな厳しい環境下で育つものなのですね。採取する方の苦労も知らずに使っていた自分が恥ずかしいですわ」
……そんな中、オリヴィア様は平然とした顔でわたしたちの後ろをついてくる。
いやいや、今回はたまたまこんな場所にしか生えてなかっただけで、散歩コースになっている森の中とかにも、普通に生えてるから!
心の中で叫ぶも、実際に口にはできず。
というか、両手に荷物を持った状態でわたしたちについてくるオリヴィア様のほうがすごい。
右手のバスケットはお弁当だとしても、反対の手にあるのは……長い棒? 布に包まれていて、よくわからない。
何にしても、イアン様への愛情が為せる技なのかな。
……それからしばらくして、わたしたちはようやく丘の上にたどり着いた。
201
あなたにおすすめの小説
初夜に暴言を吐いた夫は後悔し続ける──10年後の償い【完結】
星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
王命により、辺境伯ロキアのもとへ嫁いだのは、金髪翠眼の美しき公爵令嬢スフィア。
だが、初夜に彼が告げたのは、愛も権限も与えないという冷酷な宣言だった。噂に踊らされ、彼女を「穢れた花嫁」と罵ったロキア。
しかし、わずか一日でスフィアは姿を消し、教会から届いたのは婚姻無効と慰謝料請求の書状──。
王と公爵の怒りを買ったロキアは、爵位も領地も名誉も奪われ、ただの補佐官として生きることに。
そして十年後、運命のいたずらか、彼は被災地で再びスフィアと出会う。
地位も捨て、娘を抱えて生きる彼女の姿に、ロキアの胸に去来するのは、悔恨と赦しを乞う想い──。
⚠️本作はAIの生成した文章を一部に使用しています。
お前は家から追放する?構いませんが、この家の全権力を持っているのは私ですよ?
水垣するめ
恋愛
「アリス、お前をこのアトキンソン伯爵家から追放する」
「はぁ?」
静かな食堂の間。
主人公アリス・アトキンソンの父アランはアリスに向かって突然追放すると告げた。
同じく席に座っている母や兄、そして妹も父に同意したように頷いている。
いきなり食堂に集められたかと思えば、思いも寄らない追放宣言にアリスは戸惑いよりも心底呆れた。
「はぁ、何を言っているんですか、この領地を経営しているのは私ですよ?」
「ああ、その経営も最近軌道に乗ってきたのでな、お前はもう用済みになったから追放する」
父のあまりに無茶苦茶な言い分にアリスは辟易する。
「いいでしょう。そんなに出ていって欲しいなら出ていってあげます」
アリスは家から一度出る決心をする。
それを聞いて両親や兄弟は大喜びした。
アリスはそれを哀れみの目で見ながら家を出る。
彼らがこれから地獄を見ることを知っていたからだ。
「大方、私が今まで稼いだお金や開発した資源を全て自分のものにしたかったんでしょうね。……でもそんなことがまかり通るわけないじゃないですか」
アリスはため息をつく。
「──だって、この家の全権力を持っているのは私なのに」
後悔したところでもう遅い。
『スキルなし』だからと婚約を破棄されましたので、あなたに差し上げたスキルは返してもらいます
七辻ゆゆ
恋愛
「アナエル! 君との婚約を破棄する。もともと我々の婚約には疑問があった。王太子でありスキル『完全結界』を持つこの私が、スキルを持たない君を妻にするなどあり得ないことだ」
「では、そのスキルはお返し頂きます」
殿下の持つスキル『完全結界』は、もともとわたくしが差し上げたものです。いつも、信じてくださいませんでしたね。
(※別の場所で公開していた話を手直ししています)
「君は有能すぎて可愛げがない」と婚約破棄されたので、一晩で全ての魔法結界を撤去して隣国へ行きます。あ、維持マニュアルは燃やしました。
しょくぱん
恋愛
「君の完璧主義には反吐が出る」――婚約者の第一王子にそう告げられ、国外追放を命じられた聖女エルゼ。彼女は微笑み、一晩で国中の魔法結界を撤去。さらに「素人でも直せる」と嘘を吐かれた維持マニュアルを全て焼却処分した。守護を失いパニックに陥る母国を背に、彼女は隣国の軍事帝国へ。そこでは、彼女の「可愛くない」技術を渇望する皇帝が待っていた。
腹に彼の子が宿っている? そうですか、ではお幸せに。
四季
恋愛
「わたくしの腹には彼の子が宿っていますの! 貴女はさっさと消えてくださる?」
突然やって来た金髪ロングヘアの女性は私にそんなことを告げた。
【完】あの、……どなたでしょうか?
桐生桜月姫
恋愛
「キャサリン・ルーラー
爵位を傘に取る卑しい女め、今この時を以て貴様との婚約を破棄する。」
見た目だけは、麗しの王太子殿下から出た言葉に、婚約破棄を突きつけられた美しい女性は………
「あの、……どなたのことでしょうか?」
まさかの意味不明発言!!
今ここに幕開ける、波瀾万丈の間違い婚約破棄ラブコメ!!
結末やいかに!!
*******************
執筆終了済みです。
お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。
嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。
「居なくていいなら、出ていこう」
この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし
「君は完璧だから、放っておいても大丈夫」と笑った夫。~王宮から私が去ったあと「愛していた」と泣きついても、もう手遅れです~
水上
恋愛
「君は完璧だから、放っておいても大丈夫だ」
夫である王太子はそう笑い、泣き真似が得意な見習い令嬢ばかりを優先した。
王太子妃セシリアは、怒り狂うこともなく、静かに心を閉ざす。
「左様でございますか」
彼女は夫への期待というノイズを遮断し、離縁の準備を始めた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。