追放薬師は人見知り!?

川上とむ

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第四部 また追放されました!?

第5話『薬師、ようやくの新生活』

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 熱冷ましが完成したのは、すっかり日が暮れた時間だった。

 できあがった熱冷ましをメアリーちゃんに飲ませてあげると、すぐに呼吸が落ち着いた。

 熱も少しずつだけど下がっているし、もう大丈夫だろう。

「あ、朝になったら、残りの薬も飲ませてあげてください。それでは」

 わたしはそそくさと道具を片付けると、最後にそう伝えて工房の出口へと向かう。

 夜遅いけど、まだ宿屋さんはやってるよね。もし部屋がなくても、そこまで寒くないから最悪野宿でも……。

「あ、お姉さん待って!」

「ぶふっ!?」

 そんなことを考えながら扉に手をかけた時、背後から双子ちゃんに引き倒された。

 ……正確には背後から二人同時に抱きつかれて、わたしが耐えきれなかっただけなのだけど。

「せめてものお礼に、晩ごはん食べていってよ!」

「え、いやその、せっかくですが、遠慮しておきます。宿の手配もしないといけませんし」

 わたしは仰向けにひっくり返ったまま、必死にそう口にする。

 子どもとはいえ、出会ったばかりの人たちと食事だなんて。人見知りのわたしにはとても無理だ。

「宿がないなら、うちに泊まっていったらいいよ!」

「うんうん、お部屋は余ってるし!」

 ところが、話はより悪い方向へと進んでいた。

 いや、わたしは本来工房再建のために派遣されたのだから、こうして受け入れてもらえることは喜ぶべきなのだろうけど。まだ心の準備が……。

「おまえら、せっかく帰るって言ってるんだし、引き止めるなよ!」

 その時、ロヴェル君が腰に手を当てながら叫ぶ。

「えー、メアリーの薬を作ってくれたし、いい人だよ!」

「駄目だ! 大人は信用できないんだぞ!」

「でも、人からもらった恩は返せって、おばーちゃんも言ってたよ!」

「そうそう! おばーちゃんとの決め事・その1!」

「うぐっ……」

 双子ちゃんたちが反論すると、ロヴェル君は押し黙る。

「わ、わかったよ! 今日だけだからな!」

 最後に吐き捨てるように言って、ロヴェル君は階段を駆け上がっていった。

 それを見送った双子ちゃんたちは、ほぼ同時にしたり顔を浮かべる。恐ろしいくらいにそっくりだった。

 ◇

 ……その後、わたしはニグラード家の三人と食卓を囲む。

 森に囲まれた村らしく、テーブルにはキノコや木の実を使った料理が並んでいた。全部この姉妹が作ったものらしい。

「そのキノコのパイ、ニーナちゃんが焼いたんだよー。ちなみに、生地を作ったのはあたし」

「そ、そうなんですね。おいしいです。ありがとうございます」

 わたしがお礼を言うと、ニーナと呼ばれた子が恥ずかしそうに俯いた。

「そういえば、お姉さんは……あれ?」

 親しげに話していたミーナちゃんが、不思議そうな顔で口をつぐむ。どうしたのかな。

「……あたしたち、自己紹介してないよね? 今更だけど」

 本当に今更だった。

 というか、名乗る時間すらなくここまで来たというのが正しいのだけど。

「えっと、わたしはエリン・ハーランドと申します。改めて、よろしくお願いします」

 椅子から立ち上がって、深々と頭を下げる。そんなわたしに合わせるように、双子ちゃんたちも立ち上がった。

「あたしはミーナ! こっちが妹のニーナで、見ての通り双子だよ!」

 ミーナちゃんはそう口にして、隣のニーナちゃんを抱き寄せた。

 どちらも肩ほどまでの赤髪で、右側に青色のリボンをつけているのがミーナちゃんで、左側に緑色のリボンをつけているのがニーナちゃんらしい。それ以外は声も顔も全く同じだし、これは覚えるまで大変そうだ。

「メアリーは元気になってから挨拶させるとして……ほら、次はロヴェルの番だよー?」

 続いて、ミーナちゃんがロヴェル君に話を振る。

 彼はわたしたちの会話に一切参加せず、黙々と食事をしていた。

 ミーナちゃんに声をかけられても、全力で無視の構えだ。

「こーらー! 挨拶もできない子はごはん抜きだよ!」

「そうそう! おばーちゃんとの約束その4! 挨拶はきちんとすること!」

 双子たちはそう言いながら、ロヴェル君の前にあった器をひったくる。

「あっ、なにすんだよ!」

「ご飯が食べたかったら、ロヴェルも自己紹介する!」

「……ロヴェル・ニグラード」

 むすっとした表情でそう口にし、器を取り返して食事を再開した。

 うぅ……明らかに警戒されている。

「それにしても、エリンさんってすごいんだねー。あっという間に薬を作っちゃうんだもん」

「ホント、ロヴェルとは大違い」

 横柄な態度をとるロヴェル君への当てつけなのか、ミーナちゃんたちは口々に言う。

 ロヴェル君からの視線が痛いから、やめてほしいんだけど。

「どーせ、俺たちの工房を乗っ取りに来たに決まってるよ」

「そ、そんなことしませんから」

 悪態をつくロヴェル君にそんな言葉を返すも、彼は鼻で笑った。

「エリンさんは王都の貴族街に立派なお屋敷と工房を持ってるって、リベラさんたちが話してたもん。こんな田舎の村の工房になんて、興味ないよ」

 ……工房は持ってますが、立派なお屋敷は持ってません。

 こうやって噂に尾ヒレがついていくのだなぁと、実感した瞬間だった。

「じゃあアンタ、この村に何しに来たんだよ」

「ミ、ミランダ王国の王様から、ニグラード工房の跡取りを一人前の薬師くすしに育てるように頼まれました。つまり、ロヴェル君の先生役として、この村に来たんです」

「いくら俺たちが子どもだからって、そんな作り話信じないぞ。一国の王様が、ただの薬師にそんな命令するわけないだろ」

 ロヴェル君は怪訝そうな顔で言い、わたしを睨みつけてくる。

 えぇ……本当なのに。この子、どこまで大人を信用しないんだろう。

 メアリーちゃんや双子たちと、性格が違いすぎる。複雑な事情があるようだし、仕方ないと言えば仕方ないけど。

「ほ、本当なんです。何でも教えますから、信じてください」

 両手をわたわたと動かしながら、わたしは言う。ロヴェル君の表情は変わらない。

「俺は独学でやってくからいいんだよ!」

 そう言うと、食事を途中で切り上げて部屋へ閉じこもってしまった。

 ……これは、前途多難だ。

 ◇

 ……それから食事を終えると、わたしは二階の部屋へと案内される。

 そこは客室らしく、小さなベッドと机、何も入っていない棚が一つずつ置かれていた。

「ロヴェルはああ言ってたけど、この部屋はエリンさんが使っていいからね。掃除できてなくて、ちょっと汚れてるけど」

 室内を見渡しながら、ミーナちゃんが言う。

「いえ、掃除は自分でしますので……ところで、本当にここに住んでいいんですか?」

「うん! だってエリンさん、ロヴェルの教育係としてこの村に来たんでしょ? ひとつ屋根の下で暮らしたほうが、仲良くなれるよ!」

「そうそう! ロヴェル、ああ見えて強がってるだけだから!」

「きっと、オトナの女性を前にして、恥ずかしいんだよ!」

 ねー、と双子たちは声を揃える。

 その直後、壁越しに「聞こえてるぞ! 恥ずかしくなんかねーし!」という声が聞こえた。

 ……どうやら、ロヴェル君は隣の部屋らしい。

「それじゃ、エリンさん、おやすみなさい!」

「あっ、もしメアリーちゃんの容態に変化があったら、すぐに知らせてください」

「はーい! また明日!」

 最後まで明るい口調で言い、双子たちは部屋から去っていた。

 ようやく一人になったわたしは、大きく息を吐く。とたんに眠気が襲ってきた。

 昨日はほとんど眠れなかったし、これまでの緊張がほぐれたのもあるのだろう。

 わたしはさっさと寝間着に着替えると、ベッドに潜り込む。

 色々なことがあったけど、ひとまず一歩前進……そう考えていいのかな。

 ロヴェル君からは明らかに嫌われているけど、この村での新しい生活がようやく始まるような、そんな気がした。
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