追放薬師は人見知り!?

川上とむ

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第四部 また追放されました!?

第16話『薬師、膝枕をする 後編』

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「あー……」

 それから足を踏み入れたロヴェル君の部屋を見て、わたしは言葉を失う。

 部屋の広さはわたしの部屋と変わらないはずなのに、服やら薬材やら、色々なものが床に転がっていた。

 特に机の上は酷い有様で、とても落ち着いて勉強できる状態じゃなかった。

「そういや、最近全く掃除してなかったっけ……」

 ロヴェル君はばつが悪そうな顔をしたあと、視線を泳がせる。

 子どもとはいえ男の子だし、わたしの部屋で勉強しますか……とは、とても誘えない。どうしたものか。

 室内を見渡してみると、二人が座れそうな場所はベッドの上しかなかった。

「もう、ここで勉強しましょう。教科書を出してください」

「えーっと、どこに置いたっけ……」

 ベッドに腰掛けながらそう伝えると、彼は本で埋まった机の上を漁る。

 本屋なんてないこの村で、よくこれだけの本を集めたものだと、思わず感心する。

 古い冒険譚がほとんどだし、文字の勉強をさせるため、先代の工房主が買い与えたのかな。

「あったあった。これだ」

 足元に落ちていた本を拾い上げて表紙を見ていた時、ロヴェル君が一冊の本を手にやってきて、ベッドに腰を下ろした。

「ひえっ」

 ベッドは狭いし、必然的に距離も近くなる。わたしは思わず横に逃げた。

「……? 先生、どうしたんだよ。ここなんだけどさ」

「い、いえ。すみません。つい」

 反射的に離れたことを謝りつつ、おずおずと距離を詰める。

「この妖精花って薬材なんだけど、どういった薬に使うんだ? 説明読んでも、よくわからなくてさ」

「これはですね。根っこを粉砕して使うんです。効能は……あ」

 そこまで口にして、わたしは口ごもる。

 妖精花は主に、冷え性や婦人薬といった女性特有の症状に対して使われる薬材なのだけど、その……年頃の男の子にこれを説明するのは、正直かなり難しい。伝えたところで、理解できるとも思えない。

 まだ早いです……なんて言えない雰囲気だし、どう説明したものか。

「えっと、これは、ですね……」

「……先生、顔真っ赤だぜ? 大丈夫か?」

「だ、だだだ大丈夫ですっ。こ、これは、女の子の薬に使います」

「女の子の……?」

「そ、そうです。冷え性とか、せっ……女の子特有の症状に困っているという相談を受けたら、この薬材を使ってください。しょ、詳細は、あとでメモにまとめて渡しますのでっ」

「……よくわかんないけど、先生がそう言うなら」

 ロヴェル君はいぶかしげな顔をしていたけど、なんとか納得してくれたみたいだ。わたしは胸をなでおろす。

「じゃあ、次はこのオルニカの根なんだけどさ」

「これは主に痔の治療薬に使います」

「ぢ?」

「お、おしりの薬です。ミランダ王国の王様も、愛用しています」

「え、王様がおしりの病気なのか!?」

「あわわわ、声が大きいです。というか、今の言葉は忘れてください」

 わたわたと手を動かし、わたしは懇願する。今のは完全に失言だった。



 ……そんなこんなで、ロヴェル君との授業は夜遅くまで続いた。

「地上部の茎を薬材とするビリビリ草は、やや麻痺性があります。比較的強い薬の薬材として使われ、通常の熱冷ましの薬では効果が見られない悪寒や発熱に対して使用し、発汗作用による解熱を促します。グリーンオリーブを加えて、発汗作用を強化する場合もあり……」

 いつしか、わたしは饒舌になっていた。

 薬材の知識は全て頭の中に入っているとはいえ、この日のわたしはまさに深夜テンションで、隣のロヴェル君の様子がおかしいことに気づかなかった。

「後頸部や背中が痛む場合は、さらにパープルアイを……わひゃあ!?」

 ……その時、ロヴェル君が突然わたしの膝の上に倒れ込んできた。

「ちょ、ちょっとロヴェル君、どうしましたか?」

 慌てて声をかけるも、彼はわたしの膝の上で完全に眠ってしまっていた。

 おそらく、わたしが一方的に話しすぎたのもあって、彼の集中力が途切れてしまったのだろう。思えばかなり遅い時間だし、無理もない。

 一瞬、揺り起こそうかと手を出しかけるも、そのあどけない寝顔にわたしは思い留まる。

 おばあさんが亡くなってからというもの、この子は妹たちのために、ずっと気を張り続けていたのかもしれないし。もう少しだけ、寝かせてあげよう。

 少し戸惑ったあと、わたしはそう判断し、その金髪を優しく撫でてあげた。

「うわー、ロヴェルのあまえんぼー!」

 次の瞬間、部屋の扉が開け放たれて、マグカップを手にした双子姉妹が飛び込んできた。

「勉強頑張ってるっていうから、飲み物用意してあげたのにー!」

「ふがっ……こ、これは違……!」

 その騒々しさに目を覚ましたロヴェル君が弁解するも、双子ちゃんたちは聞く耳持たず。

「まさかエリンさんの膝で寝てるなんて! このエロヴェルー!」

「アンナに言ってやろ!」

「だから誤解だっての! やめろって!」

「んー、なーにー?」

 そうこうしているうちに、もう寝ていたはずのメアリーちゃんまで起きてきてしまった。

「ロヴェルがね、エリンさんのお膝で寝てたの!」

「いーなー、わたしも一緒に寝たいー」

 言いながら、メアリーちゃんはトテトテと歩いてきて、わたしの膝に飛び込んできた。

「いい考えかもー。あたしとニーナもここで寝ちゃう?」

「おまえら自分の部屋に帰れよ! ここは俺の部屋だぞ!」

 恥ずかしいのか、ロヴェル君が顔を真っ赤にしながら言う。

 そんな光景を見ていた時、自分もすっかりこの家族の一員になっていることに気づく。

 ……それこそ、最初は薬皿を投げつけられて、来るな帰れの大合唱だったのに。

「あれ、エリンさん、なんで泣いてるの?」

「もしかして、ロヴェルの膝枕が嫌だったとか!?」

「ほらやっぱり! 謝りなよー!」

「い、いえ、そういうわけではないのですが。というか皆さん、もう夜遅いので寝てくださいー!」

 いつの間にか目頭に浮かんでいた嬉し涙を誤魔化すように、わたしは叫んだのだった。

 ……こうして、今日も賑やかな一日が過ぎていく。
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