追放薬師は人見知り!?

川上とむ

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第四部 また追放されました!?

第17話『薬師、歓迎会に呼ばれる』

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 それから一週間ほどが経過すると、アンナちゃんも外に出られるようになった。

 ロヴェル君が作る喘息ぜんそくの薬も効能が安定しているようで、一安心だった。

「♪~♪~♪~」

 そしてこの日、アンナちゃんは家の前で歌の練習をしていた。

 ニグラード工房の子どもたちに混ざって、初めて彼女の歌を聴いたわたしは、その歌声に聞き惚れていた。

 上手だとは聞いていたけど、ここまでだなんて。これなら、王都のコンクールに出ても、いいところまで行けるんじゃないかな。

「……ご清聴、ありがとうございました」

 やがてアンナちゃんが歌い終え、わたしたちは自然と拍手をする。

「相変わらず上手いよな。喉の調子、だいぶいいんじゃないか」

「うん。ロヴェルの薬のおかげだよ。いつもありがとう」

「へへ……」

 アンナちゃんが嬉しそうに微笑むと、ロヴェル君も頬を赤らめる。

 おおう……二人から陽キャオーラが。眩しすぎて直視できない。

「おお、ちょうど揃っていたか」

 その時、背後から声をかけられる。振り返ると、村長のウィゼルさんが立っていた。

「話は聞かせてもらいましたぞ。エリン様、アンナの病気を治してくださったそうですね」

「え?」

「本当にありがとうございます。ティナも喜んでおりました」

 村長さんは満面の笑みで言って、アンナちゃんの母親を見る。

 あの人、ティナさんっていうんだ。今になって、ようやく名前を知った気がする。

「そこで明日の夜、アンナの快気祝いを兼ねてエリン様の歓迎会を催したいと考えているのです。参加していただけますか?」

 ……ちょっと待って。歓迎会ですと?

 村長さんの言葉を聞いた瞬間、わたしの背中に冷たいものが流れた。

「えっと、いやその」

 しどろもどろになりながら、必死に断る理由を探す。

 人見知りのわたしは、集まりや会食といったものが大の苦手だ。

「エリン先生、もしかして都合が悪いのですか……?」

 その矢先、アンナちゃんが心底悲しそうな目で見てくる。

 や、やめて。そんな目でわたしを見ないで。

「わ、わかりました。喜んで参加させていただきます」

 脳内で散々葛藤した結果、最終的にわたしの口から出たのは、そんな言葉だった。

 うぅ……歓迎会だけならまだしも、『アンナちゃんの快気祝い』という名目を付けられてしまったら、どうしても断れなかった。

「ありがとうございます。新鮮な猪肉が手に入りましてな。当日、楽しみにしております」

「あ、あの」

 そう言って背を向けた村長さんを、わたしは呼び止める。

「そ、その席に、ロヴェル君も同席してもらうことはできないでしょうか」

「え、俺?」

 自分には関係ないと思っていたのか、ロヴェル君が驚きの声を上げる。

「そ、そうです。アンナちゃんの薬は、ロヴェル君も一緒に作ってくれました。彼も一緒に労われるべきです」

「そういうことでしたら……まぁ、いいでしょう」

 村長さんは一瞬だけ考える仕草をしたあと、わたしの提案を了承してくれた。

 もっともらしい理由をつけたものの、人見知りのわたしにとって、親しい人が誰もいない会食ほど辛いものはない。悪いとは思いつつ、ロヴェル君を巻き込んでしまった。

 ◇

 その翌日。日が暮れるのを待って、わたしとロヴェル君は村長さんの家に向かった。

「お待ちしておりました。どうぞこちらへ」

 村長さんに案内されて席につくと、そこにはすでにアンナちゃんとティナさんの姿があった。

「お、主賓二人の到着だね。ちょうどイノシシ鍋ができあがったところさ」

 その時、元気のいい声がして、食堂のおばさん――リベラさんが厨房から顔を覗かせた。

 奥から漂ってくる香りに、わたしは思わず鼻をひくつかせる。すごくいい匂いだけど、彼女が作ってくれたのかな。

「話は聞いてるぜ。あんた、やっぱりすげぇんだな」

 その時、厨房の奥から一人の男性が姿を見せた。どこかで見たことがある。

「ディッツとは初対面ですかな? あのイノシシは、彼が捕まえたのです」

 言われて思い出した。以前、食堂で会った男の人だ。

 あの時は、熊を捕まえたと言っていたし、イノシシくらい朝飯前なのかもしれない。

「そ、そうなんですね。えっと、今日はごちそうになります」

「いいってことよ。薬師の先生に食べてもらえて、光栄だぜ」

 わたしが一礼すると、ディッツと呼ばれた彼は上機嫌で厨房へと戻っていった。

 やがて食事会の準備が整い、リベラさんとディッツさんも席につく。

「それでは始めましょう。エリン様、ようこそルークリッド村へ」

「ど、どうも……」

 それから乾杯の音頭が取られ、歓迎会が始まった。

 ロヴェル君を連れてきたとはいえ、こういう場はどうしても苦手だ。わたしは萎縮してしまう。

「ささ、どうぞ。たっぷり食ってくだせぇ」

「あっ、ありがとうございます」

 わたしはお礼を言って、猪肉と野菜が山と盛られた器を両手で受け取る。ずっしりとした重みを感じた。

「アンナちゃんも良くなってよかったな。ほれ、たっぷり食って体力つけろよ」

「ディッツさん、ありがとうございますっ」

 続いて、アンナちゃんやロヴェル君にもイノシシ鍋が振る舞われる。

「そ、それでは、いただきます」

 全員に行き渡ったのを確かめて、わたしは料理に口をつける。

 しっかりと下処理がされているのか、猪肉はまったく臭みを感じなかった。

 煮込み具合も絶妙で、少し噛んだだけでほろりと崩れる。

「あ、おいしいです」

 わたしは率直な感想を口にする。

 一緒に煮込まれている野菜は村で採れたものだろう。その旨味とイノシシの油がスープに溶け出していて、いくらでも食べられそうだった。

「いやあ、エリン先生のような国家薬師様が来てくださるとは」

「まったくもってその通り。これでこの村も安泰だ」

 料理に舌鼓を打っていると、村長さんとディッツさんがそんなことを口にする。

 ……あれ? 何か勘違いされてない? わたし、ここに永住することになってる?

 いつの間にか国家薬師になってるし。以前広まった噂に、また尾ひれがついてしまっているようだ。

 人見知りの性格が災いして、あまり村の皆と交流を持たなかったツケがここで回ってきている気がした。

「あの、わたしはあくまで指導役でして……ゆくゆくは王都に戻ります。ニグラード工房の工房主は、あくまでロヴェル君ですよ」

「は……?」

 思わずそう伝えると、二人は顔を見合わせる。

 明らかに、空気が冷めたのがわかった。
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