追放薬師は人見知り!?

川上とむ

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第四部 また追放されました!?

第18話『薬師、酒に溺れる』

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 わたしの言葉を皮切りに、室内の空気は一気に冷めてしまった。

「そ、そうでしたか。それならば、ロヴェルも一日も早く一人前の薬師くすしとなれるよう、努力するように」

「あ、ああ。わかってるよ」

 村長さんが取り繕うように言うも、周囲を包む空気は変わらず。正直、これはきつい。

「な、なにはともあれ、エリン先生には、娘が本当にお世話になりました」

「その通りです! ありがとうございます!」

「い、いえ、よくなってよかったです」

 その時、状況を察したアンナちゃんとティナさんが話題を変えてくれ、わたしは胸をなでおろす。

「ロヴェルもエリン先生のもとで、薬師の修行を頑張ってよねっ」

「ま、任せとけって。なにせ俺は、先生の一番弟子だからな!」

「あ、あの、実は一番弟子は別にいまして」

 鼻高々といった様子のロヴェル君に悪いと思いつつも、わたしはそう口にする。

「え、そうなのか?」

「は、はい。その、わたしの一番弟子は、スフィアという10歳の女の子で。今、王都の工房は彼女に任せています」

「なんと……10歳で工房を任せられるとは。さすがエリン様の一番弟子。その調子で、ロヴェルの教育もよろしくお願いいたします」

「は、はい……頑張ります……」

 わたしの言葉を聞いた村長さんは感心しきりで、期待に満ちた眼差しを向けてくる。プレッシャーにしかならないから、やめてほしいんだけど。

「10歳とか、俺より年下じゃんか……!」

 そんな中、ロヴェル君はスフィアに謎の対抗心を燃やしていた。

 この子もこれからしっかり勉強すれば、まだまだ伸びると思うし。頑張ってほしい。

 ◇

 その後は食事会が再開され、村長さんやディッツさん、リベラさんはお酒を楽しんでいた。

「せっかくですし、薬師様も一杯どうですかい?」

 本当に美味しそうに飲むなぁ……なんて考えていた時、ディッツさんがさかずきを差し出してきた。

「あ、いえ、わたしはお酒が苦手で……」

「まぁそう言わずに。村のブドウを使った果実酒で、飲みやすいのよ」

 慌てて断ろうとするも、リベラさんはわたしの言葉を遮り、さっさとお酒をついでしまう。どっちもかなり酔っていた。

「そのお酒、母が手伝っている農園のブドウを使っているんです。今年の果実酒は近年稀に見る出来だと訊いていますし、ぜひ飲んでみてください!」

 続いて、アンナちゃんがニコニコ顔で言う。

 ちょっと、そんな笑顔で言われたら断れないんだけど……!

「そ、それでは、一杯だけ」

 わたしは彼らの押しに負けて、杯を受け取る。

 普段お酒なんて飲まないし、自分がどれだけお酒に強いのかもわからない。

 ここは用心して、まずは一口だけ飲んでみる。

「……あれ」

 その口あたりは滑らかで、ほんのり甘い。まるでジュースのようで、予想以上に飲みやすい。

 ……気がつけば、杯はすっかり空になっていた。

「おお、エリン様、いける口ではないですか。ささ、もっとどうぞ」

「あ、ありがとうございます」

 それを見て、村長さんがすかさずお酒をついでくれる。

 またさっきみたいな空気になるのはごめんだし、もう少しだけいただくことにしよう。



 ……それからしばらくすると、体が一気に熱くなってきた。なんだか、頭もぼーっとする。

「はふぅ……ふへへへ。えへへ」

「エリン先生、もう酔ったのか? 二、三杯しか飲んでないぜ?」

「酔ってないれす。酔ってないれすよ。あはは」

 隣の席のロヴェル君が何か言ってますが、先生として、だらしない姿は見せられません。ここはしゃきっとしないと。

「左右に揺れてますよ……大丈夫ですか?」

 ティナさんが心配そうな視線を向けてくる。そんなはずはありません。わたしはしっかりと椅子に座ってます。

「ねぇ、ロヴェル……先生を介抱してあげたほうがいいんじゃない? 顔、真っ赤だし」

「そうだよ。酔い冷ましの薬とかないのかい?」

 アンナちゃんとリベラさんまでもが、心配そうにわたしを見ている。

「酔い冷ましなら持っています。これれす。これこれ」

 言いながら、わたしは鞄から一包の薬を取り出す。

「先生……それ、常備薬の胃腸薬じゃないのか?」

 取り出した薬を見て、ロヴェル君がそう口にする。

「そうれした。ロヴェル君、よくわかりましたね。えらいです」

「ひええっ……!?」

 わたしは手を伸ばし、彼の頭を撫でてあげます。

 半分抱きつくようになってしまいましたが、これくらい師弟のスキンシップですよね。

「ちょ、ちょっと、エリン先生? 間違いなく酔ってますよね?」

「そ、そんなことはないですよ。あはは。あはは」

「ロヴェル君、エリン先生って、お酒飲んだらいつもこうなるの?」

「さ、さあ……? 普段はおどおどしてるんだけど」

「酒は人を変えると言うけど、ここまで変わるとはねぇ」

「こんだけ明るくなるんなら、ずっと酒飲ましといたほうがいいんじゃねぇか」

 皆が皆、好き放題に何か言っている気がする。

 ……あれ? なんか世界が回ってきた。

「わわわ、先生ー!」

 後頭部に響いた衝撃と、ティナさんの叫び声。それがその日、わたしの最後の記憶となった。
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