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第四部 また追放されました!?
第19話『薬師、思い悩む』
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「……昨日は大変お見苦しい姿をお見せしました」
その翌日。工房の自室で目を覚ましたわたしは、すぐに村長さんのところに謝りに向かった。
「いえいえ、次々とお酒を勧めた我々も悪いのです」
村長さんは笑って許してくれたけど、わたしは後悔に打ちひしがれていた。
二杯目以降の、お酒がまわり始めてからの記憶がまったくない。わたしはどれだけ飲んだのだろう。
目覚めると同時に強い頭痛に襲われたし、二日酔いする程度には飲んだのかな。
すぐに薬で痛みを抑えたとはいえ、あれはもう体験したくない。これからは、いくら勧められても絶対にお酒は飲まないようにしよう。
それ以上に気になったのが、今朝のロヴェル君の態度だ。
彼とはそれなりに仲良くなったと自負していたけど、今日はやけによそよそしかった。あれはいったいどうしたことだろう。
「ああっ、薬師の先生、ここにいらっしゃったのですね」
そんな疑問を思い浮かべていた時、村長さんの家の扉が開かれて、一人の女性が駆け込んできた。
「あの、どうかしたんですか」
「うちの主人が……畑仕事中に魔女の一撃を受けまして」
「え、魔女の?」
「はい……すごく苦しんでいて。先生、治療をお願いします!」
言うが早いか、女性はわたしの手を掴むと、そのまま外へ飛び出していく。
慌てる気持ちはわかるけど、少し落ち着いてほし……わわわわ……!
半ば引きずられながらやってきたのは、村の南側にある建物だった。
そこは他の家に比べて日当たりもよく、大きな畑が広がっていた。
「先生、こっちです。お願いします」
そのまま室内へと案内されると、奥のベッドに男性がうつ伏せで寝かされていた。
「うぅ……痛い……痛い……」
「だ、大丈夫ですか。わたしは薬師です」
うめき声をあげる男性に声をかけて、おそるおそる診察を開始する。
「……あれ?」
診察の結果、男性はただのぎっくり腰であることがわかった。
『魔女の一撃』なんて仰々しい名前で呼ぶから、風土病のようなものかと不安になったけど、これなら数日で治るだろう。
「これは薬で治療できるのでしょうか。それともやはり、街から祈祷師の方を呼んだほうがいいのでしょうか」
「え? 祈祷師?」
続いた女性の言葉に、わたしは唖然としてしまう。
「い、いえいえ。祈祷なんていりません。おそらく農作業中、腰に負担がかかったんでしょう。安静にしていれば、数日で治ります」
「そ、そうなんですか? 夫は一月ほど前にも魔女の一撃を受けて、動けなくなったんです。その時はお香を炊いたのですが」
そう口にする女性の口調は、真剣そのものだった。
「そ、そのお香というのは、まだ残っていますか?」
「はい。これです」
女性は言いながら、奥の棚から香炉を取り出す。
ほとんど灰になっていてわからないけど、何かの植物を燃やしたようだ。
北の果てには、燃やした煙を吸い込むことで鎮痛効果が得られる植物があるらしいけど、こんな場所で手に入るとも思えない。
田舎の村だし、迷信じみた民間療法が残っているのかな。
「と、とにかく、今回はお香も必要ありません。安静にしていれば、大丈夫です」
「ほ、本当ですか……?」
香炉を返しながらそう説明するも、女性は不安顔をした。
「そ、それでしたら、ぎっくり腰に効く薬を作ってきますので、少しお待ちください」
働き手の旦那さんがあの状況だし、気持ちはわかる。
わたしはそう伝えると、工房へと向かった。
◇
ニグラード工房に戻ると、わたしはすぐに薬の調合を始める。
「エリンさん、何作ってるのー?」
「るのー?」
必要な薬材を用意していると、ニーナちゃんとメアリーちゃんがやってきた。
「ま、魔女の一撃の対抗薬を作ってるんです」
「え、あれってお薬で治るの!?」
正直にそう伝えると、二人は目を丸くした。
「き、基本的には日にち薬ですが、痛み止めの薬で症状を和らげることはできます。スイートリーフとサクナゲの大花を混ぜるだけで簡単に作れますし、筋肉のけいれんや痛みに対して効果があります」
そう口にしながら薬材を粉砕し、同時に調合方法をメモにしたためておく。これはロヴェル君用だ。
「よくわかんないけど、薬で治るんならそれに越したことはないよね! 祈祷師さん呼ぶの、けっこうお金かかるし」
ニーナちゃんは笑顔で言う。祈祷師とか聞き慣れないけど、この村では日常なのかな。
「メアリー、邪魔しちゃ悪いし、外で遊ぼっか」
「うん! エリンお姉ちゃん、がんばってね!」
やがて、ニーナちゃんはそう言ってメアリーちゃんとともに去っていった。
ようやく一人になれて、わたしは考えを巡らせる。
アンナちゃんの喘息を治療したことで、ニグラード工房も村人たちから一目置かれるようになってきた。
だけど今日のように、わたしばかりが頼られている気がする。
ゆくゆく、この工房はロヴェル君が切り盛りしていくのだし。わたしよりも彼が信頼を勝ち取らないといけない。
可能ならば、ロヴェル君には積極的に村の人達と交流してほしいのだけど……彼の生い立ちを考えれば無理も言えない。
村人たちにしても、どこか腫れ物に触るような態度だったし。
……せめて、薬を求めてお店に足を運んでくれれば、そこで交流が生まれるんだけど。
現状、ニグラード工房は注文を受けてから薬を調合、配達するシステムだ。
工房内の店舗スペースが非常に狭いということもあって、基本的に来客は少ない。
村民たちも、工房に薬を買いに行くよりは、常備薬として家に置いておく場合がほとんどだし。
そうなると……病気の治療以外の理由で工房に足を運んでもらう必要がある。できることなら、薬師としての技術を活かす方法で。
「そんな都合のいい方法、あるのかな……?」
いつしか完成した薬を袋に詰めつつ、わたしは調合室の天井を見上げたのだった。
その翌日。工房の自室で目を覚ましたわたしは、すぐに村長さんのところに謝りに向かった。
「いえいえ、次々とお酒を勧めた我々も悪いのです」
村長さんは笑って許してくれたけど、わたしは後悔に打ちひしがれていた。
二杯目以降の、お酒がまわり始めてからの記憶がまったくない。わたしはどれだけ飲んだのだろう。
目覚めると同時に強い頭痛に襲われたし、二日酔いする程度には飲んだのかな。
すぐに薬で痛みを抑えたとはいえ、あれはもう体験したくない。これからは、いくら勧められても絶対にお酒は飲まないようにしよう。
それ以上に気になったのが、今朝のロヴェル君の態度だ。
彼とはそれなりに仲良くなったと自負していたけど、今日はやけによそよそしかった。あれはいったいどうしたことだろう。
「ああっ、薬師の先生、ここにいらっしゃったのですね」
そんな疑問を思い浮かべていた時、村長さんの家の扉が開かれて、一人の女性が駆け込んできた。
「あの、どうかしたんですか」
「うちの主人が……畑仕事中に魔女の一撃を受けまして」
「え、魔女の?」
「はい……すごく苦しんでいて。先生、治療をお願いします!」
言うが早いか、女性はわたしの手を掴むと、そのまま外へ飛び出していく。
慌てる気持ちはわかるけど、少し落ち着いてほし……わわわわ……!
半ば引きずられながらやってきたのは、村の南側にある建物だった。
そこは他の家に比べて日当たりもよく、大きな畑が広がっていた。
「先生、こっちです。お願いします」
そのまま室内へと案内されると、奥のベッドに男性がうつ伏せで寝かされていた。
「うぅ……痛い……痛い……」
「だ、大丈夫ですか。わたしは薬師です」
うめき声をあげる男性に声をかけて、おそるおそる診察を開始する。
「……あれ?」
診察の結果、男性はただのぎっくり腰であることがわかった。
『魔女の一撃』なんて仰々しい名前で呼ぶから、風土病のようなものかと不安になったけど、これなら数日で治るだろう。
「これは薬で治療できるのでしょうか。それともやはり、街から祈祷師の方を呼んだほうがいいのでしょうか」
「え? 祈祷師?」
続いた女性の言葉に、わたしは唖然としてしまう。
「い、いえいえ。祈祷なんていりません。おそらく農作業中、腰に負担がかかったんでしょう。安静にしていれば、数日で治ります」
「そ、そうなんですか? 夫は一月ほど前にも魔女の一撃を受けて、動けなくなったんです。その時はお香を炊いたのですが」
そう口にする女性の口調は、真剣そのものだった。
「そ、そのお香というのは、まだ残っていますか?」
「はい。これです」
女性は言いながら、奥の棚から香炉を取り出す。
ほとんど灰になっていてわからないけど、何かの植物を燃やしたようだ。
北の果てには、燃やした煙を吸い込むことで鎮痛効果が得られる植物があるらしいけど、こんな場所で手に入るとも思えない。
田舎の村だし、迷信じみた民間療法が残っているのかな。
「と、とにかく、今回はお香も必要ありません。安静にしていれば、大丈夫です」
「ほ、本当ですか……?」
香炉を返しながらそう説明するも、女性は不安顔をした。
「そ、それでしたら、ぎっくり腰に効く薬を作ってきますので、少しお待ちください」
働き手の旦那さんがあの状況だし、気持ちはわかる。
わたしはそう伝えると、工房へと向かった。
◇
ニグラード工房に戻ると、わたしはすぐに薬の調合を始める。
「エリンさん、何作ってるのー?」
「るのー?」
必要な薬材を用意していると、ニーナちゃんとメアリーちゃんがやってきた。
「ま、魔女の一撃の対抗薬を作ってるんです」
「え、あれってお薬で治るの!?」
正直にそう伝えると、二人は目を丸くした。
「き、基本的には日にち薬ですが、痛み止めの薬で症状を和らげることはできます。スイートリーフとサクナゲの大花を混ぜるだけで簡単に作れますし、筋肉のけいれんや痛みに対して効果があります」
そう口にしながら薬材を粉砕し、同時に調合方法をメモにしたためておく。これはロヴェル君用だ。
「よくわかんないけど、薬で治るんならそれに越したことはないよね! 祈祷師さん呼ぶの、けっこうお金かかるし」
ニーナちゃんは笑顔で言う。祈祷師とか聞き慣れないけど、この村では日常なのかな。
「メアリー、邪魔しちゃ悪いし、外で遊ぼっか」
「うん! エリンお姉ちゃん、がんばってね!」
やがて、ニーナちゃんはそう言ってメアリーちゃんとともに去っていった。
ようやく一人になれて、わたしは考えを巡らせる。
アンナちゃんの喘息を治療したことで、ニグラード工房も村人たちから一目置かれるようになってきた。
だけど今日のように、わたしばかりが頼られている気がする。
ゆくゆく、この工房はロヴェル君が切り盛りしていくのだし。わたしよりも彼が信頼を勝ち取らないといけない。
可能ならば、ロヴェル君には積極的に村の人達と交流してほしいのだけど……彼の生い立ちを考えれば無理も言えない。
村人たちにしても、どこか腫れ物に触るような態度だったし。
……せめて、薬を求めてお店に足を運んでくれれば、そこで交流が生まれるんだけど。
現状、ニグラード工房は注文を受けてから薬を調合、配達するシステムだ。
工房内の店舗スペースが非常に狭いということもあって、基本的に来客は少ない。
村民たちも、工房に薬を買いに行くよりは、常備薬として家に置いておく場合がほとんどだし。
そうなると……病気の治療以外の理由で工房に足を運んでもらう必要がある。できることなら、薬師としての技術を活かす方法で。
「そんな都合のいい方法、あるのかな……?」
いつしか完成した薬を袋に詰めつつ、わたしは調合室の天井を見上げたのだった。
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