追放薬師は人見知り!?

川上とむ

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第四部 また追放されました!?

第30話『薬師、再び森へ向かう』

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 調合作業を終え、わたしは完成した薬を配って回る。

 もちろん感染対策は厳重に行い、薬はすべて扉越しに渡した。

 ……それから二日後、恐れていた事態が起こってしまった。

「エリンちゃん、大変だよ!」

 朝早くにリベラさんの声が響き、わたしは二階の窓から顔を出す。

「ど、どうしたんですか」

「子どもたちの次は、大人が熱を出しはじめちゃったのさ! ティナさんや、村長さんもだよ!」

 続いた言葉に、わたしは頭を抱える。

 ティナさんは献身的にアンナちゃんの看病をしていたし、うつってしまうのも無理はない。

 大人は体力があるから大丈夫かと思っていたけれど、その限りではないみたいだ。

 昨日の回診によると、薬を飲み続けている子どもたちは、少しずつ熱が下がっている。

 つまり、わたしの作った薬は、確実に効いているということだ。

 すぐに薬を用意してあげたいところだけど、今は圧倒的に薬材やくざいが足りない。

 昨日も森へ採集に行ったけれど、ビリビリ草もパープルアイも、ほとんど見つけることができなかった。

「……先生、起きてるか!?」

 その時、扉を勢いよく開けて、ロヴェル君が部屋に飛び込んできた。

「メアリーが熱を出したんだ。これって、まさか……」

 彼の言葉に、わたしは息を吐きながら天を見上げる。

 診てみないと断言はできないけれど、状況から言って間違いなくあの熱病だろう。

 しっかりと隔離していたはずなのに、うつってしまったらしい。

 ……こうなると、一刻の猶予もない。

「ロヴェル君、メアリーちゃんの看病をよろしくお願いします」

 言いながら、わたしは身支度を始める。

「先生、どこか行くのか?」

「もう一度、森に薬材を探しに行ってきます。なるべく早く帰ってきますので」

「俺も行く!」

「ダメです。ロヴェル君はメアリーちゃんのそばにいてあげてください。ニーナちゃんたちも不安でしょうし」

「あの二人なら大丈夫だよ。それに、一人より二人のほうが多く見つけられるかもしれないし、その分早く戻れるだろ。先生、頼むよ」

 わたしはぴしゃりと言い放つも、ロヴェル君は食い下がる。

「……わかりました。ただし、皆にきちんと説明して、メアリーちゃんに然るべき処置をしたあとです。ニーナちゃんたちが嫌と言ったら、残ってもらいますよ」

「わかった。話してくる」

 ロヴェル君はそう言うと、部屋を出ていった。

 その背を見送ってから、わたしは準備を再開したのだった。

 ◇

 結局、ロヴェル君はわたしと一緒に森に向かうことになった。

 メアリーちゃんのために、ありあわせの薬材を使って熱冷ましの薬を調合したあと、わたしたちは森へ足を踏み入れる。

 道なき道をかき分けるも、なかなか目当てのものは見つからない。

 元々、ビリビリ草はこの村周辺では手に入りにくい薬材だ。

 王都では比較的簡単に手に入るので、これまでは王都から持ってきたものをやりくりしていた。

 それこそ、次にレリックさんが来た時に、多めに持ってきてくれるよう伝えたばかりだ。

「あっ、先生、あったぜ!」

「よ、ようやく一本目ですね……先は長そうです」

 草藪の中に上半身を埋めるようにしていたロヴェル君がビリビリ草を見つけ、喜びの声を上げるも……まだまだ数が足りない。

 聞いた話をまとめると、朝の時点で村人の半分近くが熱を出していた。

 そうなると、ビリビリ草が最低でもあと二十本は必要だった。

 焦りばかりが募り、わたしたちは森の奥へ奥へと進んでしまっていた。

「……先生、ここどこだ?」

「えっ?」

 そして気がつけば、わたしたちは普段立ち入らないような森の奥までやってきていた。

 明らかに、これまでの場所とは空気が違う。

「えっと、どこでしょうか。村の方角は……」

 周囲を見渡してみるも、目印になりそうなものはない。完全に迷ってしまっていた。

 ――この森はね、熊が出ることもあるよ。

 その時、ニーナちゃんの言葉が思い出された。

 ……しまった。採取を焦るあまり、熊よけの鈴を用意するのを忘れた。

 ものすごく嫌な予感がした直後、近くの茂みがガサガサと音を立てて揺れた。

「ひっ」

 小さな声で叫んで、反射的にロヴェル君に抱きついてしまう。彼も完全に固まっていた。

 そのまま動けずにいると、茂みの奥から現れたのは……銀色の毛並みをたたえた、巨大な狼だった。

 彼もこんなところに人がいることに驚いたようで、一歩後退りしたあと、じっとわたしたちを見てくる。

「せ、先生、襲ってこないぜ。今のうちに逃げよう」

「……いえ、ちょっと待ってください」

 その時、狼の右前足に巻かれた包帯が目に止まった。

 半分解けかけているけど、あれは以前、わたしが巻いてあげたものだ。どうやら温泉で出会った狼と、同じ個体らしい。

「そ、その傷、治ったみたいですね。よかったです」

 包帯の隙間から見えていた傷口を確認しつつ、わたしは言葉を紡ぐ。

 狼のほうもわたしたちだと気づいたようで、明らかに警戒を解いた。

「ほ、包帯も、もう邪魔ですよね。取ってあげましょうか」

 そう言いながら、一歩ずつ近づく。狼は特に威嚇するようなこともなく、前足を差し出してきた。

「……はい。これでもう大丈夫ですよ」

 慎重に包帯を外してあげるも、狼はその場から立ち去ることなく、じっとわたしたちを見る。

 ……まるで、お礼でも言いたげな表情だった。

 そこにきて、わたしはあることを思いついた。そして即座に実行に移す。

「……あの、今、村の皆が病気で苦しんでいるんです。わたしにあなたを助けるように言ってくれた、あの女の子もです」

 わたしは声を震わせながら、必死に言葉を紡ぐ。

「この草がたくさん生えているところを、知りませんか」

 続いて、わたしはそう言ってビリビリ草を見せる。

 彼が人の言葉を理解しているのなら、通じるかもしれない。それはもう、わらにもすがる思いだった。

 ややあって、狼はわたしたちに背中を向けて座り込んできた。

 ……これは、乗れ、という意味だろうか。

 わたしとロヴェル君は顔を見合わせたあと、おずおずとその背に乗る。

 それを確認すると、狼はすぐに立ち上がり、森の中を駆け出した。

「ひえっ、わわわ」

「先生、こいつ、すごく速いぜ!?」

「し、しっかり掴まってください……!」

 わたし自身、振り落とされないように必死で、そう口にするのが精一杯だった。

 彼はわたしたちを、どこに連れて行ってくれるのだろう。


 ……やがてたどり着いたのは、以前温泉があった場所よりさらに森の奥。

 こんな場所、徒歩では絶対に来ることができなかったと思う。

 そして、そこだけ森が開けていて、ビリビリ草が大量に群生していた。

 生育条件が奇跡的に揃った場所なのだろうけど、信じられない光景に、わたしは言葉を失う。

「すげぇ、これ、全部ビリビリ草だよな!? これだけあれば、村の皆も助かるぞ!」

 喜びを爆発させて採集を始めるロヴェル君を見たあと、わたしはここまで案内してくれた狼さんに向き直り、お礼を言う。

「あの、ありがとうございます。こんな場所があったんですね」

 当然返事はないのだけど、彼はその場に腰を落ち着けた。

 まるで作業が終わるのを待ってくれているような姿に安心しつつ、わたしもロヴェル君と一緒にビリビリ草集めに集中したのだった。
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